「1911カスタム」
「1911カスタム」
射撃場で盛り上がるエダたち。
アリシアが持っている銃を見て、驚く祐次。
なんと『ナッシュ・ブリッジス』のカスタム銃。
そして、祐次だけでなくエダも射撃を拾うすることになるが……
***
そして、44マグナムであれば一発でタイプ2を倒せる。
これはメリットだ。
「ああ、タイプ2な。確かにあれを相手にするなら44マグナムはいい。拳銃で倒せる。9ミリじゃあかなり撃ちこまないと効果がないし、357でも6発で足りるかどうかだ。俺がDE使うのも同じ理由だ」
「ワンホール・ショットでないと効果がない。なら一発のパンチが強い44マグナムが最適か」
しかし、普通はワンホールショットなどできるものではない。
特に実戦では。相手は動くのだ。
「私のならできるかもよ? ワンホール・ショット」
アリシアは楽しそうにショルダーホルスターから銃を抜いた。ハーフシルバーのM1911系のカスタムでコンペンセンサーがついている。
それを見た祐次は、ちょっと驚きその銃を覗き込んだ。
「それ……ツインポート・カスタム? 『ナッシュ・ブリッジス』の銃?」
「ナッシュ?」
と、通訳のエダが首を傾げる。
「お! ドクター、『ナッシュ・ブリッジス』知っているの!? 嬉しい! 正しくはモドキだけど」
アリシアは嬉しそうに手の中の銃を祐次とエダに見せる。
『ナッシュ・ブリッジス』は1996年から始まった米国の刑事ドラマで、主人公のナッシュはマグポート付コンペンセンサーを搭載したカスタム1911を使っている。アリシアの銃はその銃とよく似ていた。
「私、ファンでさ。自分の趣味用にカスタムしてもらったんだけど、同じじゃないの。ガンスミスに発注したけど権利の関係で同じ銃は作れなくて。だからフレームはコルトでトリガーは3ホール、口径は9ミリパラベラム。でも拘りのコンプは同じもの。精度は抜群よ?」
そういえば彼女は他の人間と違いガルコのマイアミ・クラシック・レザーショルダーホルスターで銃を携帯している。このセットも『ナッシュ・ブリッジス』のセットだ。
「まさかナッシュ・ブリッジスの銃が撃てるとは思わなかった」
「市販品じゃないの?」とエダ。
「ええ。特別カスタム! ガンスミス発注したの。高かったんだから。スライドのガタはないしトリガーはフェザー・チューンナップだし最高よ?」
「いい趣味だ」
祐次は笑いながら受け取ると、おもむろに50ヤード先のメタルターゲットに向け引き金を引いた。試しに1発撃った後、今度は続けて9発撃ちこんだ。見事にワンホールショットとなった。
祐次もちょっと感心した。
「気持ちいいな、これ。コンプがあるし9パラだから反動がすごく軽いしトリガーが抜群だ。店にあったら即買っているよ」
「射撃場に遊びに行った帰りに世界の崩壊に遭ったの。だからこの子が手元にあったわけ。良かったわ。この子作るのに3600ドルかかったんだから」
アリシアは祐次から受け取り新しいマガジンを交換すると、今度は銃をエダの前に差し出した。
「え?」
「お嬢ちゃんも撃ってみる? 銃、撃った事あるんでしょ?」
「え……はい。ありますけど」
「射撃は女の子も楽しめるスポーツよ? 私も12歳の時からやっているわ」
「は……はい」
恐る恐る受け取るエダ。
「ちょっと重たいけど……うん、握りやすいかも」
エダも構えてみた。USPコンパクトより重たいが、バランスがよく構えやすい。
慎重に狙って、引き金を引く。弾はメタルプレートに当たった。
祐次と違い、エダは慎重に……9発撃つ。弾は全弾プレートの真ん中に当たった。
「うん! すごく撃ちやすいです」
USPコンパクトより重たいが、こっちのほうが断然撃ちやすいように感じる。9ミリパラベラムだから弾も手に入りやすい。マガジンはシングルだが9+1で弾数は問題ない。
「…………」
「どうしたんですか? ベンさん、アリシアさん?」
エダは首を傾げながら銃をアリシアに返した。
ベンとアリシアが唖然とするのも無理はない。
エダが何気なく撃ったプレートは25ヤード先のものだ。祐次の化け物のような腕を見た後だから普通に思えるが、11歳の少女の腕だとしたらかなりのものだ。
この共同体にいる十代の少年たちも拳銃を撃てる者はいるが、ここまでちゃんと射撃できる子はいない。
さらに聞いて驚いたのは、エダが拳銃を触ったのは10日前が最初だという。
祐次のような桁違いの怪物的な天才ではないが、これだけ扱えれば戦う事は出来る。こんな可愛い少女なのに。
「お嬢ちゃんは暇なとき時々練習しにきたらいいわ。私たち<リーダーズ>の誰かか同伴していたらここは使っていいことになっているから、私にでも声をかけて。レクチャーしてあげるわ」
「はい」
「ドクターは必要なさそうだけど」
「いらないわね。虎やグリズリーは稽古しなくても狩りの腕は落ちないしね」
こんな化け物男に練習など必要ない。
「44マグナム弾が惜しいからな」
「山ほど持っているよ? 祐次」
「そりゃあ、なくなったら困るからな。それに嫌でも実戦はいつでもある」
44マグナム弾だけと自分しか使わないと思い、ごっそり持っているので、当分無くならない。
……この二人は、やはり特別か……。
エダはともかく、祐次の戦闘力は間違いなくここに住む誰よりもずば抜けて高い。ここに訪れたとき持っていた銃火器の種類は豊富だった。そしてこの腕前だ。自動小銃やショットガンも同レベルに扱えるとすれば相当な戦力だ。
この若者が言った「自分が一番強く、自分の傍が一番安全だ」という言葉は嘘ではない。
医者として守るより、防衛の仕事を頼むほうがいいかもしれない。銃の扱いに長けている事は今日のやりとりで確信した。
最近ALの数が増えている。
橋は封鎖し、警戒は続けているが完全に安全ではない。北部は陸続きだ。大通りは橋と同じようにドラックやバスにフェンスをつけて壁を作っているが、大量に押し寄せてくれば突破される危険はある。たまに川からやってくるのもあり、油断は出来ない。
できるだけ秋の収穫の間、危険は避けたい。秋の収穫が十分でなければ冬を越す事ができない。
やはり収穫だけでなく、今のうちに物資調達のチームを組んで大掛かりな調達に行く必要もあるかもしれない。冬になれば雪が降り、調達に行くのも苦労するし燃費も悪くなるし危険が増す。
だが、調達に行くには一つ問題がある。
調達に行けば、Banditたちも遭遇するかもしれない。
連中は調達だけが唯一の生活方法だ。連中も冬を越すためには大規模な調達活動を行うだろう。
問題が起きないでほしい……それが願いだが、こればかりは分からない。
相手は人間なのだから。
「1911カスタム」でした。
今回はほとんど銃の説明みたいな話でした。
というのも、このアリシアの銃はいずれ重要になるからです。
ちなみに作中でいっていたとおり、実は映画やドラマなどの銃にも著作権があり、全く同じものをメーカーやガンスミスは作る事ができません。最低三箇所は違うところが必要です。ということでちょこっとアリシアの銃は違っています。
ご覧の通り見た目が派手なカスタムですが、コンプと9みりということでかなり撃ちやすい銃です。
そして意外に射撃が得意なエダ。
運動神経はいい子なのと、祐次があまりに上手いので気付けば上手くなってしまったカンジです。まだ実戦では戦ってはいませんが。
ということで今回までが射撃話でした。
次回はちょっとハードになります。エダ編の第二章のクライマックス編突入です。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




