「新居」
「新居」
コロンビア大学で生活のルールを聞くエダたち。
ここにはまだ文明が残っていた。
そしてエダたちは、用意された新居に落ち着く。
NYでの生活はこれから。最初の一日はまだ始まったばかりだ。
***
JOLJUが乗ってきたトラックもここに到着していて、数人が荷台から荷物をチェックしながら下ろしていた。
銃や医薬品、ガソリン、食料など結構積んできた。もっとも3000人に配れるほどあるわけではない。これくらい自分たちは確保できる、というポーズのようなものだ。
アリシアは車を大学前に停め、一先ず三人を降ろすと時計で時間を確認した。
「今、私の時計だと午前11時26分。これがNY時間よ。ここで生活するなら時計は合わせたほうがいいわ」
エダたちの時計では正午を少し過ぎたところ。
多分こっちの時間のほうがJOLJU調整の時間だから、地球時間としては正しい時間なのだろうが、時間はそもそも生活者たちが都合よく使うためのもので今の世界では正確なことなどどうでもいい。
エダも祐次も黙って時計の時間を合わせた。
「とりあえず食堂に案内するわ。大学構内にあるの。今回はベンの奢りだから安心して。食べたら貴方たちの家に案内する。晩御飯は歓迎会だから心配しなくていいわ」
「奢り?」
「ええ。一応、ここでは通貨……ドルを使っているの。労働をすべて管理して平等に運営するなんて出来ないもの。働けばその労働に対しドルで支払う。食事や備品、贅沢品はそれで交換するの。物資は自治体がなんでも買い取るしなんでも揃えているわ。一応銃関係以外は自分で調達して自分で持っていてもいい。そこは自由よ。大丈夫、働けない人も飢えないよう計算してドルは定期的に配っているし無料の炊き出しもやっている」
「さすが資本主義の国。<経済>は作っているんだな」
「初歩の、ね。それに安心していいわドクター。生存者が来たらまず500ドル渡すことにしているし、貴方が提供してくれた物資を換金中よ。あれだけあれば2000ドルは手に入るわ。食事は一回大人が5ドル、子供と老人は2ドルだから」
そういうとアリシアはポケットから1ドル札を取り出し、二人に見せた。
一見普通の米ドル札だが、表と裏に油性ペイントで<NYleaderS>と書かれてある。これでオリジナル通貨にしているようだ。
「経済学者が<リーダーズ>にいて管理しているから偽造は無駄よ。しないと思うけど、紙幣偽造が発覚したら追放することになっているから」
「はい」
「日本は通貨とポイントカードだ。システムは似ている。ある程度社会を管理するのなら通貨システムは必要だしな。物々交換には限度がある」
元の<円>は紙幣としては使えない。探せばそこいら中にあるし、元となっている経済基盤が違い管理できない。
結局は独自通貨システムになる。
「うん。なんだかちょっと安心した。元の世界みたい」
「午後は財布を探しにいかないとな。財布なんてもうとっくに捨てて持ってない」
それを聞いてエダも苦笑しながら頷く。
確かに財布なんてもう持っていない。この世界に長い祐次はもっとそうだろう。
「ところでひとつ質問なんだけど、いいかだJO?」
とJOLJUが挙手する。
「何? エイリアン君」
「<JOLJU>と呼んでだJO。で……オイラの分もお金ある?」
「そうねぇ……外国人が来るなんて想定してなかった。異星人なら尚更だけど、ここで生活するんだし<人間>としてカウントしてあげるわ」
「ありがとーだJO! ……で、オイラの場合ご飯って5ドル? 2ドル?」
JOLJUは小さい異星人だ。どうやら男らしいが、年齢はどうなのだろう? こいつは大人なのか子供なのか……これは祐次も知らない。子供っぽい奴だがどうなのだろう。
「エイリアン君は何歳?」
「約600歳! 正確な歳は年齢の計算が地球と違うからなんともいえんけど地球年齢だと多分600歳くらいだJO」
「じょ……JOLJUってそんなに生きてるの!?」
とエダは驚く。初めて聞いた。
「JOLJUって何歳まで生きられるの?」
「あーオイラ多分寿命ない。死なないから。だから! 人の寿命80年で計算して、それを当てはめたら…………まだ1歳くらいかもしんないJO。もしくは老人かしらん?」
「そんな哲学的な話はしてない。600歳なら大人料金だ馬鹿。お前、大人並に食うだろ? 子供面するな」
ピシャリと祐次に言われJOLJUは頭を掻く。時々こういうお茶目なズルは口にする奴だ。
「じゃあエイリアン君……JOLJUは大人扱いね。どっちでもいいけど」
アリシアは笑った。
そして三人を大学構内へと案内に移った。
***
エダと祐次、そしてJOLJUの三人が住むことになった住居は、コロンビア大学にも近いハーレム地区の一角の小さな二階建ての小さな家で、4つの寝室にリビング、キッチンルーム、バスルームとトイレが付いている。屋根には太陽発電機があり、シャワーは電化式。非常用のガソリン式発電機もある。ガスはプロパンガス式になっていて使うことが出来た。水道も使えるが飲み水はペットボトルを使うよう言われている。
「ちゃんとした家があってよかったね、祐次」
エダは自分用に充てがわられた寝室に荷物を運びリュックを置く。そしてレッグホルスターを外し、USPコンパクトをベッドサイトに置いた。腰にはちゃんともう一丁のUSPコンパクトを挿している。
祐次の寝室は隣だ。祐次も荷物を置くとレザージャケットを羽織った。これからは寒くなるし、銃を持っていることを隠すには丈夫な上着が必要なので、昨日ニュージャージーで調達したものだ。
「俺は病院のほうに顔を出してくる。ベンジャミンが呼んでいるそうだ。医者だと名乗ったからそっちの用だろう」
3000人もいれば医者を必要としている患者はいるだろう。
これも、人の村や共同体に行くと、まず起きることで慣れている。
それくらい医者は貴重だ。
「あたしも通訳でいく?」
「いや。聞いたら他にも医者はいるらしい。医者同士なら医療用語は世界共通だから少しは話は通じる。筆記なら少しは分かる」
「オイラが行こうか?」
「お前はエダと一緒だ。買い物にでも行ってきてくれ」
そういうと祐次はポケットからゴムで止めた札の束を取り出した。
三人の生活費は合計4129ドルだ。
拳銃やショットガンを多めに渡したし、医薬品も多かった。それで高値をつけてもらえた。
もっとも若い有望な二人ということでサービスもあるだろう。
祐次は2000ドルを抜き、エダに手渡した。
「こんなに!? 大金だよ?」
世界が健全だったときだって、こんな大金を持たされたことがない。
祐次は1000ドルをポケットに入れ、残りをベットサイドの引き出しの中に入れた。
「貯金も出来ないし、俺が稼ぐから気にするな。引越ししたばかりだから色々いるだろ? 贅沢品は買わないといけないみたいだからな。菓子やジュースや調味料、色々買っておいてくれ。JOLJUは荷物持ちだ。カートくらい押せる」
「祐次は何か欲しいもの、ある?」
「財布。後は……そうだな。夜用のランプや蝋燭。小さい音楽プレーヤーがコンパクトのDVDプレーヤーと音楽のCDを適当に。夜は長いから、暇が潰せるものがあればいい」
「うん。分かった」
「もし高くなければブランデーを一本頼む。シボレーに置いてきた。なければウイスキーでもいい。後コーラ」
「オイラもコーラ~♪ 炭酸飲料大好物だJO!」
このあたりの好みは、この二人はよく似ている。仲がいいわけだ。
「分かった」
ブランデーと音楽は祐次のささやかな楽しみだ。
エダは苦笑すると、札を上着のポケットに入れ、JOLJUを連れ出かけていった。
このNYでの生活は、これからだ。
どうなっていくのか……それは分からない。
だが、悪い予感はしなかった。
「新居」でした。
とういうことでエダとユージとJOLJUの新居ができました。
小さい我が家ですね。
太陽発電機やガソリン発電機があるのである一定までは電気が使えます。とはいえそんなに使えるわけではないので基本陽が暮れたら家で寝るしかやることはないのが実際のところですが。
それでも電気が使えるだけ文明的ですね。
ちなみに済んでいるエリアは、セントラルパークの北側で、セントラルパークはすぐそぱです。そしてコロンビア大学もセントラルパーク北側にあるので主にNYの生存者たちはセントラルパークを中心に生活しています。これより南になるとマンハッタンの大都会のど真ん中になるので住むには不便になります。
ということでエダたちのNYでの生活が始まります。
しばらくはこの共同体の話です。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




