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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第二章エダ編
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「出発……」

ニューヨークの生存者とのコンタクトは終わった。


祐次とJOLJUは念のため秘密の倉庫作りをしていた。

エダは手伝いながらこれからの事を聞く。

本当に<ラマル・トエルム>はNYにいるのか。

それはいってみなければ分からない。

***



 交渉役……という大役を終え、エダは大きく息を吐いた。



「緊張した~! もう……まだドキドキだよ」


 エダは会話を日本語に切り替えると、祐次が用意していた原稿を折りたたんで膝の上に置いた。

 そして振り返った。

 祐次とJOLJUは、荷物の搬入をしていた。


 ここはジャージーシティーの湾岸倉庫の一つで、二人は集めた物資を空の倉庫に移していた。


 これは秘密基地であり秘密倉庫であり、緊急避難所だ。


 また旅に出るとき必要になるし、万が一装備が奪われたときのための隠し倉庫で、銃、食料、医薬品、生活品、飲み水、ガソリンなどを隠しておく。この場所は三人だけの秘密で他人には教えない。運び終わったらシャッターを閉め、ダイヤル式の鍵を掛け封印する。


 実はこういう秘密基地は他にも用意した。ニューヨーク州中部の小さなキャンプ場にも作ったし、アレンタウンにも作った。これを作るために祐次たちは三日以上費やしたし、これだけの物資を運ぶためJOLJUは大型トラック一台調達した。物資を集めることにかけては、JOLJUはかなり優秀だ。薬なんかの知識も詳しく無駄がない。



「またシボレーで三人旅だ」

「ゴールは目と鼻の先だけどね」


 NY市はハドソン川を渡った対岸の中洲だ。しかし橋や地下トンネルを通らなければいけない。その道を封鎖すれば孤島が出来上がる。防衛するには賢い選択だ。


「もー、オイラ一人のトラック運転はヤだJO。寂しいJO」


 ここ五日間くらいは物資を満載した大型トラックがあった。エダは運転が出来ないし、JOLJUとエダの二人にさせるのは心配なので、必然的にJOLJUが一人で運転する羽目になった。このちっこいエイリアンは手足は届かないがあらゆる乗り物の操縦が得意なのだ。テレキネシスで操作しているらしい。


 エダも物資運びを手伝いながら、祐次の横にいく。


「でも、祐次? NYのコロニーに<ラマル・トエルム>はいる?」

「分からん」


 <BJ>は<ラマル・トエルム>と呼び、<黒衣のサムライ>とも呼んだ。他に手掛かりは何一つない。


 ただしNYには生存者が多い。ヴァルタンの話によれば北米の中部から北部の生存者もここに集まっているらしい。<ラマル・トエルム>が北米にいるという話だから何か分かるかも……という事くらいだ。元々探すことが課題で簡単な道程ではない。


 ただし一つ、有力かもしれない情報が一つある。


「ク・プリアンの生存者が紛れ込んでいる」

「ク・プリアン……?」


 そういえば、以前祐次とJOLJUが教えてくれた。

 今の地球には存在の確認が取れている異星人がALとJOLJU以外に二種族いる。


 ク・プリ星人と、ゲ・エイル星人だ。そしてク・プリ星人は大きな母船を持ち、世界中に生存者が人間に紛れている。彼らは地球人と生活様式も近く、人間に化けることも出来るし、話の通じる相手だ。


 NYにいる確証はある。一つは見たら分かる。マンハッタン島の南に異星人の救助艇が突っ込んでいるのが見える。あの中型救助艇には10人から20人は乗っていたはずだ。


 そしてク・プリ星人の非常用食料である<ハウル>の転送先がマンハッタン島西岸の倉庫群の一画に設定されてある。これはJOLJUが自分のスマホ・アプリで確認した。JOLJUはク・プリの母船コンピューターを操作したことがあり、地球人にとっても重要な<ハウル>の転送先を知っているし、現地のク・プリ星人が許せば食料要請を出すことも出来る。


 ただし、JOLJUの遠隔操作では細かい事までは分からないし、船によってセッティングも違うから、直接向かう必要がある。



「ク・プリ星人は話せる相手だ。言葉も通じるし地球の言葉も喋れる。日本じゃあ政府が保護して一緒に政府運営を協力しあっている」

「そうなんだ」

「でもゲ・エイル星人は俺も3人しか知らない。あの連中がどこにいるかも分からん」

「どんな種族なの?」

「地球人より少し体が大きい。マスクというか仮面みたいなものを被っていて素顔は知らん。好戦的で地球人類を見下している。だけならいいが、ク・プリ星人と交戦している。日本の施設を襲撃してきた。どこにいるかは分かっていない。ま、俺たち以上にALと敵対しているから、会ったら即戦闘になるわけでもない」

「……複雑なんだね……」

「一応、オイラはゲ・エイル星人には顔が利くから、出会っても敵にはならんはずだJO」

「こいつだけな」


 ク・プリ星人の保護施設にゲ・エイル星人が攻め込んだとき、仲裁させ引かせたのはJOLJUだ。宇宙の言葉で喋っていたので祐次たち地球人側は何を会話していたか分からなかったが、ゲ・エイル星人がJOLJUにだけは敬意を払っていたことは確かだった。今思えば、こいつは宇宙旅行者で顔が広く、一応これでも<神>にカウントされる生命体だからだろう。


 そのあたりの詳しい話は祐次も知らない。そこまで込み入った話をJOLJUもしていなかった。本当に顔が利いただけだ。


「ただク・プリ星人の話だと、ゲ・エイル星人は宇宙戦艦一隻分が地球に来ているらしいからな。20人から30人くらいはいるだろう。ま、今はいいさ。とりあえず町に入れたら、まずは馴染む。人探しはそれからでいい」

「うん」

「大丈夫だ。きっと受け入れてくれる」


 そういうと祐次は苦笑した。


「医者は貴重だからな」

「やっぱり貴重なんだね」

「俺が知る限り……これまで五人しか医者に出会っていない。幸か不幸か、今のところ俺が一番の腕利きだ」

「すごい!」

「そりゃあ医者って言っても……ALがこれだけいれば外科が出来なきゃ使えない。冬になればインフルエンザが襲ってくるし、風邪が悪化して肺炎を起こせば危険で内科も出番は多い。だけど外科なら外科専門、内科なら内科専門だからな。歳を取れば余計専門外の事は分からなくなる。ぶっちゃけ眼科のベテラン医者より看護師のほうが使える」


「祐次の専門は外科だよね?」


「脳神経外科。選科はな。希望はERで外科系は何でも勉強した。でも専攻に進むまでは内科も眼科もなんでも習う。一年前まで全部を学んでいた医学生だ。だから良かった。幸い全部の学科の知識があって……世界がこうなったらいきなり何でもやる軍医か救命医師だ。内科どころか産科までいきなり一発本番だ」

「さ……産科……?」


 最初その意味が分からずキョトンとなるエダ。だがすぐに出産だと気づき、耳まで真っ赤になった。


「祐次のエッチ!」


「そうはいうが、産科が一番重要なんだ。失敗すれば二人死ぬ。医者なしに素人が無事産める確率は1割以下だしアクシデントが起きれば産科は勿論外科に内科に薬学、いろんな知識がいる。血液内科と麻酔医も看護師もいない。失敗すれば……旦那や家族、仲間、その全員から恨まれる。割に合わないが医者が逃げるわけにもいかない。他は設備のせいにもできるし不運のせいにも出来るが、出産だけは素人には分からない。皆無事産まれるのが普通だと思っているからな。何かあれば医者のせいだ」


 それを聞いたエダは顔を落とした。軽はずみな発言を恥じた。


「ごめんなさい」

「いいよ。女の子なら普通の反応だ。それに、お前にそう言ってもらって少し気が楽になった。少しはエッチな気持ちになれば診察も楽しくなる」

「……ユージ……」

「俺も、もっとゆとりを持たないとな。お前やJOLJUを見習うよ」


 そういうと祐次は再び荷運びに戻った。


 エダもそれを手伝う。


 すでに朝から始めていたから、もうそれほど残っていない。



「終わったら市内をもう少し探そう。このあたりは大都市圏だ。弾薬はないだろうが、保存食や非常食、薬は残っているだろう。手土産は少しでも多いほうがいいしな」

「昨夜みたいにALに襲われないと良いけど」


 昨夜、二人は約400のALに襲われた。

 祐次にとってはどうということのない数だが、大都市は一直線だけでなく空からも舞い、降って襲ってくるし四方から襲ってくる。多少苦戦した。


「昼だから連中の姿は見える。危険はないさ。手土産は多いほうが今後のためだ。それに……多分昼くらいまでだ。きっと昼には解決して移動できる」

「うん」

「ならオイラはコーラとジンジャエールをたっぷり仕入れたいJO! だってNYに行ってなかったらヤだJO」


 炭酸飲料大好きなJOLJUはそう自説を述べた。


「じゃあ、自販機でも壊すか。それでいくらでもコーラは手に入る」

 コーラ好きは祐次も同じだ。

「じゃあ行こう」


 そうして三人は出かける支度を始めた。




***




 アリシアから話を聞いたベンジャミン=アレックは、腕を組み仲間たちを見回した。


 ここには6人の<リーダーズ>の主要メンバーが集まっている。


Bandit(バンデッド)のスパイじゃないのか? 子供と若い医者だなんて出来すぎていないか?」


 食糧管理担当マギー=セドリーンは懐疑的だ。

 今の世界がそんな甘いものでないことをよく知っている。


「医者が来るのは賛成だ。正直僕の手に余る。ヴァルタンが保証するなら腕も人格的にも問題ないと思うがね」


 医療部門担当のリチャード=バーナーは賛成する。

 彼はこの共同体の医者ということになっているが、彼は元々美容皮膚科で、歳も52歳と食っている。正直専門ではない外科処置や内科の診断、薬学にそこまで自信はない。このNY共同体は生存者が多い分患者も多いし、月に一度は封鎖しているマンハッタン内にALが現れ被害を出す。妻のミショーンは看護師だが彼女も歳でハードワークは出来ない。正直なところ飢える赤子がミルクを欲するほど医者は欲しい。医者で医療も請け負うということは、医薬品も十分に持っているのだろう。


 放浪の荒くれ者であるBandit(バンデッド)たちが、貴重な医者と医薬品を捨ててスパイに使うとは思えない。


「武器はどれくらい持っているんだ?」


 元メイン州州兵で警備と保管庫の主任であるガブス=デインの関心はそこだ。この共同体にも武器はあり弾も備蓄してあるが多くはない。旅人は未開拓のペンシルバニアより南部からやってきた。話を聞く限りこの世界にも精通していて慣れているのであれば当然武器は持っているだろう。手持ちのうち半分は渡してもいいという事ならそれなりに持っているかもしれない。武器はかなり溜め込んでいるが消耗品で襲撃があれば1000発単位でなくなる。


「皆の意見は大体変わらないか?」


 ベンは6人を見渡す。

 皆、概ね受け入れに賛成だ。


「この共同体の中では武器は我らが管理する。その代わり、我々自警団が安全を守っている。だが完璧とはいえない。大規模なエイリアンの侵攻のときは義勇兵を募り迎撃する。それに……こっそり隠し持っている家族もいて完璧には管理できない。銃を絶対持つなとはいえない。こんな世界だ」

「憲法で保障されているしね」

 アリシアはジョークで紛らわせる。ベンも笑った後、顔を引き締めた。

「ただの旅人を武装させるわけにはいかんが、医者なら話は別だ。Bandit(バンデッド)の連中が掻っ攫う可能性はある。しかも11歳の可愛い女の子連れなら尚更だ。そういう事情なら、拳銃の一丁や二丁持たせていたとしても他の住人に説明はつく……と俺は思うが、皆はどうだ?」

「そうね。少々強引だけど。ま、拳銃は結構作業者たちにも持たせているし」

「どうしてもというなら一時的に自警団に所属してもらえばいい。それなら武装はルール違反にならない」とガブス。

「アリシア。君は迎え入れるのに賛成だな?」

「私も元警官よ? 悪党や悪ガキを沢山知っている。だけど……悪者には思えなかった」


 準リーダーであるアリシアがここまで言い切るのだ。

 ベンはアリシアの能力と見識を信じている。


「こうしよう」


 ベンは6人を見回した。


「俺とアリシアとで当分その医者を見張る。俺は刑事、アリシアは警官だ。目は信じてくれ。危険があるようなら追放する。責任は俺たちが取る」

「私はOKよ」


 リーダーであるベンの決断だ。彼が責任を持つというのであれば皆異論はない。


「じゃあ、皆……新しい客人を出迎える用意をしよう。温かい飯と寝床、後リチャード、病院の設備と患者のリストアップだ。すぐに処置が必要な人間を集めていてくれ」

「それでその日本人の力量も分かるな」

「言うだけの腕があれば、願ってもない。ああ、そうだ。聡明な可愛い通訳は一先ず俺たちは口出ししない。医者が保護者だ。良識はあるだろう。だがもしちょっとでも虐待を感じたら彼女だけは我々が保護する。それは大人としての責任だ」

「そうね。異論ないわ」

「11歳の女の子を歓迎するんだ。ケーキでも用意してあげられたら最高なんだが?」

「とっておきのミックスベリー・パイを焼くわ」とマギー。

 その言葉に大人たちも笑みを零す。甘い手作りのケーキなど滅多に食べられないものだ。

 皆が喜ぶのをみてマギーは顔を顰めた。


「缶詰のベリーだけど我慢してね。後、基本はお客さん用。余りが出たらだけど、そんなに期待しないで」


「決まりだ」

 ベンは手を叩く。

「晩飯はパークで歓迎会だ。告知と用意を頼む。アリシア、無線連絡を任せる」

「いつ連絡する?」

「一時間後だ。念のため自警団に召集をかけろ。ただし警戒はポーズで敵対行為じゃない。それを徹底させておいてくれ」


 こうしてNY共同体<リーダーズ>の臨時会議はまとまり話は決まった。



 エダたちの新しい生活の幕が上がろうとしている。

双方、準備完了です。

ようやく次回、ついにエダや祐次たちはNYに上陸します。


今回の話でエダ編では初めての大勢の勢力の登場です。そしてエダ編ではこれがはじめてのちゃんとした大人が統治している町です。祐次は旅をして長いし色々ありましたがねエダは世界崩壊後初めてのことになります。

エダにとって崩壊世界での本格的な生活のステップ2ですね。

とはいえ、もはや法などなくなった世界です。

果たして町はどうなっているか。元々祐次はこのNYを目指していますが何が起こるか。


次回、対面です。


エダと祐次とJOLJUの冒険は始まったばかりです。

これからも「AL」をよろしくお願いします。

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