「世界の基本」
「世界の基本」
エダ編スタート。
祐次たちと一緒にアレンタウンまで移動したエダたち。
NYに生存者がいることは分かっていたが、すぐには向かわない。
物資を集める事。そして世界に慣れていないエダが、この世界に馴染むための時間が必要だった。
***
ペンシルバニア州アレンタウン。
アレンタウンはフィラデルフィアの北西にある大都市で、フィラデルフィア、ピッツバーグに次ぐ大都市である。フィラデルフィアとNYの中間距離にあり、フィラデルフィアから90km、NYまで145kmという距離だ。
祐次とエダとJOLJUが、このアレンタウンの郊外の小さなモーテルを拠点として生活を始めて一週間が経過しようとしていた。
目的のNYまでは約150km。祐次たちの行動力なら一日で行ける距離だったが、行かない。いきなり行って何が起こるか分からないこともあるし、色々用意や調査する必要もあったからだ。
ただし、一番の……本当の理由は、エダをこの世界を慣れさせるのが理由だった。
エダはこの世界で覚醒してまだ10日ばかり。ほとんどこの世界を知らない。だからまず祐次はこの世界がどんな状況か、どんな生活をしなければならないのか、エダに覚えさせる必要があった。
「いいの? そんなにのんびりして」
「いいよ。別に急がない」
「だJO」
「それに……生活に慣れるのは必要だ。電気がない生活も、野宿も、食料の探し方やガソリンの調達の仕方、あとはALとの戦い方も」
「うん。それは分かる」
「気にするな。日本でもやるんだ、世界に慣れる訓練を。俺も一週間くらいかけてこの世界に慣れた。だから気にしなくていい」
幸いアレンタウンには他に生存者はおらずALの数も多いわけではない。この世界に慣れるには打ってつけだった。
拠点を郊外のモーテルにしたのは、便利だったからだ。発電機があり、寝床もあり、ガスはプロパンガスだからお湯が使えたし、街道にも面していて移動もしやすい。ALも郊外のほうが少なく出てきても見つけやすい。これもこの世界での生活の知恵だ。
昼は三人で町に物資探しに行き、夜はこのモーテルの一室で過ごす。
すでに部屋一つ分くらいの物資は集めた。
祐次もJOLJUも、物資集めは手馴れたもので、店でも家からでも、どこからでも手に入れてくる。
夜三人は同じ部屋で過ごす。
祐次とJOLJUは地図をチェックし、エダはビデオを見て勉強する時間だ。
エダが観るのは<ザ・ウォーキング・デッド>だ。
娯楽のためではなく勉強だ。
崩壊した今の世界は、ゾンビに支配された世界と共通面が多い。サバイバル方法も、必要な物資の重要度も、この作品を見れば分かる。そして法のなくなった世界で、人類がいかに凶暴でいかに人の命がいかに軽いものかも教えてくれる。一本のチョコバーでも取り合って殺し合いが起きる世界だ。怖いのはALよりも人であり、どんな苦境や人の残酷な面を見ても自分自身をいかに失わないかを学ばなければならない。
ゾンビ映画から学べ、というのも日本生存者たちが見つけた方法で、祐次もその洗礼を受けた。
「R15だから過激だね」
と、何度かエダは苦笑した。
そういいながら勉強ということで真面目に観ていた。
夜は長い。
調達は日が暮れればやめるから、モーテルには6時には帰ってくる。
晩御飯を食べ終わると、祐次とJOLJUは地図を広げ、スナック菓子を食べソーダを飲みながら、調達したところを塗りつぶしたり数字を書き込んでいく。
「どうやらNYに人がいて活動しているのは本当らしい」
「そうなの?」
「大きな商店とかモールは物資が盗られた跡があったからな。大きなガソリンスタンドも空だ。多分NYの生存者がこのあたりまでは遠征してきたんだろう」
生存者の活動圏は大体100から150kmといったところだ。それ以上は余程世界に慣れていて戦闘にも自信がなければ帰ってこられない。
「フィラデルフィアはそこそこ残ってたJO?」
NYからフィラデルフィアまで約90マイル……150kmで、実はアレンタウンと距離は変わらない。ギリギリ行動範囲内なのだがあまり漁られていないのはALが多いからだ。大都市ほどALは多い。
祐次やJOLJUも少しだけフィラデルフィアを見てきたが、確かにALは多く、ロンドベルに急いでいたので触る程度の偵察しかしていない。物資が残っているという情報だけでも重要だ。
祐次はボールペンを置いた。そして、ずっと<ザ・ウォーキング・デッド>を見ているエダのほうを見た。
「今、何シーズンまで観た?」
「シーズン7の途中だよ。バットを持ったすごく嫌な悪役の人が出てきた」
「ああ、ニーガンな。そこまで観れば大体OKだな」
大物ディランのニーガン。ああいう人間も、こ今の世界にはいる、ということが分かれば目的は達する。この後はドラマがダラダラ続くだけだ。
「あたしはターミナスにいたギャレスのほうが怖い」
「食い物がなければ人は人を襲うし、人を食う。そして人は人を支配したがる。今の世界でも有り得る話だ。教訓だ」
「本当に……あんなことが起きるの?」
「起き得るさ。特にこの米国は、な。日本は平和だけど生活が辛いのはどこも変わらない」
そういうと、祐次は椅子に座り直した。
「明日はJOLJUがトラックを調達しにいく。もうシボレーには乗りきらないしな。大型トラックがいるだろう。だから俺たちは、次のステップだ」
「次のステップ?」
「射撃訓練だ」
「射撃訓練……?」
「郊外に小さなアウトドアショップを見つけた。銃があるはずだ。そこで明日は一日射撃の練習だ。今チェックしたが、多分ここまでは調達に行っていないと思う」
そういうと祐次は不安がるエダの頭をワシャワシャと撫ぜた。
「明日は一日お前の日だ。早く寝ろよ?」
「あたしは子供じゃないよ! 祐次!」
エダは文句を言う。それを聞いて祐次は苦笑するとそのままベッドに行き寝転がると、ブランデーを取り出しグラスを注いだ。寝酒にブランデーを舐めるのが祐次のささやかな贅沢だ。それでも酒に掃討強いらしく、酔っ払ったり溺れるほどは飲まない。
「じゃあ、明日はお弁当用意しなきゃ、だね」
炊飯器のセットをしておかないと……と、エダは早速用意を始めた。お昼ご飯はおにぎりがいいだろう。JOLJUも別行動だからJOLJUの分も!
こうしてこの日は何事もなく終えた。
エダの世界の順応生活は、始まったばかりだ。
「世界の基本」1でした。
今回はほとんどエダ編のプロローグのようなものです。
第一章のラストからまだ一週間くらいです。
まだ数日はエダのため、のんびり進む事にした祐次たち。
ということで、一緒になんとなく世界観をまずは知っていってもらえればと思います。拓ルートの面々は姜姐さん以外は半年以上この世界で生きていますし、祐次ももう世界には慣れていますが、いきなり崩壊世界に順応するのは大変なのでその訓練期間です。本編で言っていたとおり祐次や拓たちも最初の一ヶ月くらいはこういう期間がありました。この訓練期間がないとこの世界では生きていけないのです。
次回はエダの銃選びです。
ついにエダも銃を手にします。
日本と違い米国なので拳銃自体はどこでも手に入ります。そしてこの世界で生き抜く限りは女の子でも拳銃は使えないと生きていけません。
ということで、ちょっと射撃ウンチクも入った話になります。
さて、第二章後半、エダ編が始まりました。
エダたちの旅を、お楽しみください。
これからも「AL」を宜しくお願いします。




