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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第二章・拓編
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拓ルートepilogue「旅」

「旅」



<新世界>を飛び出し旅に出る拓たち。

見知った仲間たちと、新しい仲間たちとで。

まだ、拓たちの長い度は始まったばかりだ。

彼らは遥か遠い北米を目指すのだ。

<救世主>を求めて……。

***





 中国の田舎道を一台の車が走っている。



 大きな白のハイエースで、ルーフラックが取り付けられ、車一台分ほどもある荷物が屋根に括りつけられていた。車内も、人が座っている場所以外は荷物で一杯だ。まさに積める限り目一杯積み込んだ状態だ。



 車は優美が運転し、助手席に啓吾がいる。他の人間は後部座席だ。


 窓は全て開いていた。こうでもしないと荷物の多さで息苦しい。

 そしてもう一つ理由がある。後部座席は喫煙席で、拓、時宗、姜の三人が煙草を燻らす。

 「煙い!」と優美が煩いので、窓は全開である。



 今、拓たちは<新世界>を出て、のんびり東に向かって車を進ませている。



 やることはないので、皆特別食料ハウルを開け、遅い昼食を採りながら車の旅を満喫していた。



「悪くない味だ。大豆バーのような味か? これで一日分ならばコストがいい。軍用として申し分ない」

 初めて食べる姜は、珍しく大人しい様子でハウルのクッキーバーを興味津々に齧っている。

「不味くはないけど、三日続くと味の濃いものが食べたくなるんだよな。肉とか果物とか食べたくなる。非常食だから文句はいえねぇーけど」

 姜の隣で、同じくハウルを齧りながらサイダーを飲んでいると時宗。

「あの食いしん坊のJOLJUですら『ハウルよりさんまの缶詰がいい』って言ってぼやくしな。ま、鯖はともかく秋刀魚は今じゃあ超貴重だけど」

 時宗の後ろの席で、拓もハウルを齧りながら苦笑する。


「今回、珍しくJOLJUが活躍したよ。日本に着いたらご馳走用意してやらないとな」

「あのエイリアン……いいエイリアンなの?」

 そう言ったのは、拓の横に座っているレンだ。彼女もハウルを齧っている。


「いい奴だよ。よくワカラン奴だけど、敵じゃない。人間大好きな奴だ」

「あいつ、祐次や時宗や拓とは仲良かったよね」

 啓吾はそこまでJOLJUを知らない。むろん啓吾もハウルを食べている。

「よくわかんねぇーけど、祐次と馬が合うンだよな。あの無愛想な奴のどこがいいのか」


「私も今いる男子の中だったら祐次選ぶけどね」

 優美は運転しながら笑う。むろん優美もハウルを齧りながら運転している。


「なんであいつそんなにモテんの? 俺が知る限り同じことほざく女子、何人もいるんだけど?」

「そりゃあイケメンだし、医者だし、誠実だし、フェミニストだし、背が高いし」

「女ってみんなソコな。このご時勢、医者になったって金持ちにはなれねーのによ」

「いや、医者ってだけでVIP確約だもん。それに祐次、腕もいいし」


「そういえば、今回の件でも拓はその『祐次』とやらを利用したな。そんな重要人物なのか?」


「まず医者。医者はポイント高いよ。しかもあいつは優秀だしね」

「医学生の分際で、平然と手術にビビらない鋼鉄の心臓の持ち主なのはすげぇーし、戦闘力は日本人の中でも屈指だけど、あいつにも弱点あんだぜ?」


「あんの?」


「俺、幼馴染よ? 高校時代、あいつの部屋やPC色々探ったら、何が出てきたと思う?」

「何が出てきたの?」

「何も出てこなかった。あいつ、エロ本もエロ動画も何一つ持ってねぇーんだぜ? あいつ本当に男か? そのくせあいつ、高校時代いつも彼女はいたんだぜ? 年上ばかりだったけど。先輩に女教師、大学生……何故かモテるんだよな、あいつ」


「何それ。ただのアンタのやっかみじゃん」


「チャラけたところはねぇーからな。そこが受けるのかね? 俺もハードボイルドに転向しようかしら?」

「そんな無駄話を聞きたいんじゃない。どうしてその男が重要なのかと聞いているのだが?」

「今のところ<ラマル・トエルム>の一番近くまでいっているのが祐次ぽい。そして今日活躍した、あのちっこいエイリアンのJOLJUと仲がいい事。そして強い。今のところはそのくらいだけどな」


「お前たちの会話は全然意味が分からん」


 姜はため息をつくと、ハウルの残りを口の中に押し込んだ。


 食料は沢山積んだ。そのうち半分以上がハウルで、後は米や干し魚、インスタントラーメン、燻製肉、缶詰、菓子、ジュースだ。他に水、ガソリン、最低限の衣服と毛布、鍋とフライパン、酒。そして自動小銃4丁、ライフル1丁、ショットガン1丁、弾が各200発。拳銃は4丁ほど貰い、各自100発。オートマチックは拓のベレッタと姜のSIGP226、他はリボルバーだ。思っていた以上に貰うことができたのは、JOLJUが転送で2000食分という膨大な量のハウルを用意したからだ。


 本人曰く「急いでいたから量の調整まで手が回らなかった」という事だ。この食料のおかげで拓たちは程度のいいハイエースを貰うことができたし、欲しい物資は大体分けてもらうことが出来た。



 とりあえずは広州市を目指すことで一致した。一番近い大都市圏だし、香港やマカオも近い。<香港>と呼ばれる共同体組織のことは気になるが、東シナ海を渡海することを考えれば、できれば大都市のほうがいい。いい船を手に入れなければならないからだ。6人いるから、漁船ではなく出来れば生活設備の整ったクルーザーが望ましい。そう考えると、大都市のほうが手に入れやすいだろう。


 ルートは台湾を経由し、沖縄、九州、そして東京を目指す。このコースであれば、方向さえ間違えなければ海流に乗り短期間で海を渡れる。



 もう一つ。


 姜とレンも同行することになった。

 二人とも同行を希望した。


 レンはもう<新世界>では住めない。矢崎の傍にずっといて、そして矢崎を殺した。誰も彼女を受け入れない。

 拓たちには異論はない。こうなった責任は拓たちにあるし、中国を移動するのに中国語が喋れる通訳は必要だ。


 姜の場合、同行というより同盟だ。


「私は母国に帰る」

「で、一緒に来る?」

「お前たちは日本に向かうのだろう? 計算してみたが、この調子で中国を超えるのは大変そうだ。だがお前たちについていき、九州から対馬を経て朝鮮半島に戻るほうが早い」


 AL、ガソリン、食料、武器、そして生存者たちの争い。一筋縄では進めそうにない。

 それに、一人旅は危険だ。仲間がいたほうがいい。


「確かにそれはあるかも。車より船のほうが移動速度速ぇしな」と時宗。


 それに今回姜は功労者の一人だが、車やガソリン、食料を二台くれというのはさすがに無理だった。


「それにお前たちはこの世界に詳しいようだからな。私の情報収集に都合もいい。その代わり、私もお前たちの力になろう」


 これで通訳は二人になった。


 姜の存在はありがたい。

 個人戦闘力は一番高く、知識も豊富で中国語も喋れる。なんと彼女は操船技術も持っていた。これで最低限船に乗ることはできるし渡海計画も夢ではなくなった。



「このまま女友達100人計画だな! 歓迎歓迎」

「私に手を出したら殺すから、気をつけろ? 死にたいのならいいぞ時宗?」

 と、姜は魅力的な笑みを浮かべ、間違いなく本気の警告を告げる。これには全員苦笑する。



「後、お前たちのリーダーは拓でいいのだな? 私はリーダーの者と同盟する。リーダーをはっきりさせてくれ」

「拓でいいぜ」


 時宗が答えた。


 実は時宗は拓より一歳年上の21歳。班も違い派閥でいえば拓派ではなく祐次派だ。時宗にもリーダーの素質があり、年齢を考えれば時宗がリーダーでもおかしくない。


「俺は自由人よ? リーダーなんてポジション、パス! 拓に任せるわ」

「じゃあ俺がとりあえずリーダーだ」

「では同盟だ。よろしく頼む、拓」

 そう言って姜は手を差し伸べた。拓はそれに応じ、彼女の手を握った。思ったより柔らかく小さい手だった。



 こうして6人のパーティーが出来上がった。



「今日は後二時間くらい進んだら寝床探しだな。どこか落ち着けるところ探さないと」

 拓はスマホの地図アプリを見ながら今日の方針を伝える。


 野宿は慣れているし、そのための装備も持ってきたが、この一週間柔らかいベッドで寝てきたから野宿は堪える。特にレンはそうだろう。急ぐ旅ではない。


「一週間は物資集め。食料とガソリンだ。ガソリンがないと船は動かないし」


 車と違い、船を動かすのであれば数百キロのガソリンが必要だ。海の真ん中でエンストしたら即、死だ。


「どこか拠点を作って、トラックを調達して、ガソリン。一週間は調達と偵察だ」

「何で一週間なんだ? すぐ行きゃいいじゃねーか」

「確か海上でもALが沸いてくる……って日本政府の漁猟班が言っていた。エンジン音で寄ってくるらしい。けど手はある」

「それと一週間は何が関係してるの?」

「JOLJUの召還が出来るインターバルが一週間なんだ。次、JOLJUを召還できるのは最短で一週間後。JOLJUと祐次はどうやら船でイタリアから大西洋を渡ったみたいだから、秘訣があるんだろう」

「お前、そういう大事な事、何でさっき聞かなかったんだよ?」

「そんな余裕あったか? それに前ストレートに聞いたら警告食らった。だけど時間があるなら遠まわしに聞けばいい」


「どこか郊外で大きなガソリンスタンドとショッピングモールがあれば一発で解決するんだけどな、色々」


「そんな都合のいい話はないぞ? 私が見てまわった限り、半径40キロ県内のガソリンスタンドは空。大きな商店も空だ」

 姜が面白くなさそうに言う。そうでなければ姜は同行するなんて言わない。そしてそんなことは全員よく分かっている。

「また地道な民家漁りと車漁りかぁ~」

「だねぇ……」


 啓吾と優美はため息をついた。



 その時だ。姜が「おい!」と声を上げ自動小銃を掴むと前方3時方向を指差した。



「なんだ!? あの化け物は!!」

 全員指差す方向を見た。

 そこには巨大な全長5.5mのタイプ3が2体いた。タイプ1はいないようだ。



「あ、タイプ3だ」

 間違いない、タイプ3だ。

「あれもALだぜ、姜の姐御」と時宗は暢気に煙草を咥えながら言う。

「あいつは強ぇーよ。自動小銃くらいじゃあ歯が立たない。あいつを見たら逃げろってな」

「遠いから大丈夫だろ? 300mくらい距離がある」

 拓も煙草を咥えながら言った。

 姜は初めて見るようで、そのサイズに驚いている。

「タイプ3は最高時速50キロ。こっちがそれ以上なら捕まらない」

「そうか。あんなのと戦うのは勇気ではなく無謀だな」

「戦う馬鹿を一人知っているけどな。一人でアレ、倒しちまうのは祐次だけだと思うぜ」


「あいつ、一人で!?」

と驚く拓と啓吾と優美。時宗は得意げに頷く。


「マジで一人で。しかもハンドガンだけだぜ? デザートイーグル様々!」



 暢気に喋っていた一同。

 だが道がくねり、タイプ3のほうに向かっていると分かると騒然となった。


「走り抜けろ!! 逃げ切れ優美!!」

「分かってるけど! 荷物重すぎ! 時速60キロ出ないんだけど!?」

「戦うのか!?」

「弾の無駄! 逃げる!! 頑張れ優美!!」



 幸いタイプ3の手前で左に曲がる道があり、そっちに逃げたので難を逃れた。


 全員、息をつく。


 しかし進む先は山のほうだ。


「マジか。町から離れるの?」

「タイプ3と戦うよりいいでしょ?」

「今夜、ベッドで寝れるのかな?」


「俺たち、逆西遊記状態だよな」


「は?」


「東に向かう楽しい旅! 仏の変わりに英雄を探す旅だが、世界を救えるってトコは同じかも、だぜ?」

「お前はいつでも楽天家だな」

「優美が猿、啓吾が河童、拓が豚。俺が玄奘様ってコトで」


「なんで私が猿なのよ!!」

「僕もなんで河童なんだ?」

「というか俺、豚?」


 三人はそれぞれ時宗に文句を言う。

 その馬鹿騒ぎを見て姜は「くだらん」と呟き、座席に座りなおすと煙草を吸い始めた。とりあえず一々反応していては疲れるだけだという事はこの一時間ばかりでよく理解した。レンも苦笑し、外の景色を見て過ごす。



 拓たち4人の馬鹿騒ぎはしばらく続いた。



 拓の旅は、随分賑やかになった。

 そして彼らの旅は、まだ始まったばかりだ。




 困難と苦難、そして試練は、まだこれからだ。



「旅」でした。



ということで、第二章拓ちんルート終了です。とはいえ第二章もう一度短いですが最後はまた拓ちんルートです。

次は北米ルートのエダ&祐次ルートがあって、大体同じくらいの本編の後、外伝的な米軍編があって、また最後に拓ちん編に、という感じです。


なんだかんだいって、今回のイベントで拓のパーティーの面子が決まったような感じですね。これまでは拓だけの目標が、全員の目標になりリーダーに拓がなった、という事が重要な出来事でした。その点、第一章が丸々実はエダと祐次の出会いのためのエピソード・ゼロだったのと似ています。

これで拓たちの旅も本番です。

今回はほとんど出てきませんでしたが、これからは頻繁にALは登場します。そのバトルとサバイバル世界、そして巨大な謎を楽しみください。


次回からはエダルートです。

あの第一章の二週間後の話です。

世界に慣れてきたエダ。そしてNYの共同体を目指す祐次の旅は?


ということで第二章は後半です。

これからも「AL」をよろしくお願いします。

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