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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第二章・拓編
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「処刑」1

「処刑」1



ついに矢崎の秘密を知り処刑されることになった拓と時宗と姜。

屋敷の庭で死刑を待つ三人。

もうどうすることもできない?

いや、拓は一つだけまだ策を残していた。

***



 太陽は高く上がり、もうじき昼になるだろう。



 <新世界>の矢崎の屋敷の敷地の真ん中には、三本の丸太が立てられ、三人の人間が縛り付けられていた。


 拓、時宗、姜の三人だ。


 三人を取り巻く12人の兵士たちは皆武装している。さらに門のところに4人。


 それだけではない。


 この日、矢崎邸の門は開かれ、町に住む住人たちが遠巻きにそれを見ていた。

 住人たちは集められたのだ。これから行われる公開処刑をみるために。


 裏切り者であり、兵士を殺し、矢崎に歯向かった者がどうなるか……それを見せつけるための公開処刑だ。

 皆、いつ三人が殺されるのか、不安と緊張と好奇心の目で傍観している。


 衆目に晒されて一時間が経とうとしていた。

 拓が意識を取り戻したのは、つい10分ほど前だ。

 その時には両脇に時宗と姜がいた。


「腹減ったな。せめて飯食ってからがよかった」


 時宗の最初の言葉はそれだった。

 時宗の顔には殴られた跡がくっきりとあった。


「お前、何でそんな目に遭ってるの?」

 絶縁を切り出した拓と兵士を殺した姜がこうなるのは分かる。時宗も連座したのか? 


「色々事情があんだよ」


 時宗が屋敷に戻ったのは拓と姜が逮捕された直後だった。


 最初、矢崎は時宗を逮捕しなかった。それどころか、拓たちを追放した後ナンバー2の地位をやる、と提案してきた。

 もちろん時宗はそれを笑い飛ばして拒否し、それどころか慰安所について糾弾した。そこで拓たちの逮捕と処刑を知り、ついに時宗は愛用のパイソンを抜き、はっきりと敵対行動を取った。一時は時宗が有利に運んだが、そこにレンが姿を現した。


 時宗は咄嗟の策でレンを人質にし、拓たちの解放を要求した。

 


 だが矢崎は言った。


「そんな小娘、好きに殺せ。代わりはいくらでもいる」

「正気……じゃあねぇーだろ?」

「お前も見ただろ? 女が抱きたくなれば他に確保している。撃てよ?」


 時宗に女の子を撃てるはずがない。ブラフだ。


 だがそれにしても矢崎の言葉は残酷だ。

 それどころか矢崎はレンに銃口を向け、投降しなければ撃ち殺す、と言い出した。



 時宗は降伏した。

 そして矢崎の片腕である劉にパイソンを奪われた挙句袋叩きにあい、今こうして処刑場に引き出された。


 こうして今に至る。


「いつまで晒されるんだ? 俺たち」

「知らん」

「今兵士たちが中国語で我らがどんな悪党で、死ぬに値する罪人である事を吹聴している。住人が全員集まれば始めるだろう」


 唯一中国語が分かる姜がつまらなそうに言う。


「いつの世も、恐怖政治には公開処刑がつきものだからな」

「なんでこうなったやら」


 時宗は愚痴るが、拓たちを責める気は全くない。


 正直なところ一番矢崎に腹を立てているのは時宗だ。姜はこの馬鹿げた顛末に呆れ返っていたが、拓たちを責める気はなさそうだ。



「何か策はあるのだろうな? 拓」と姜は睨む。拓は苦笑した。

「一応ね。ただかなりか細い生存確率だけど」

「まだ希望があるっていうお前はすげぇーよ」


 そしてさらに30分が経った。


 ついに矢崎が屋敷の中から姿を現した。

 3人の兵士たちがライフルを構えた。どうやら銃殺にすることにしたらしい。



「こんなことになって残念だぜ。同じ日本人として辛いが、これも秩序を守るためだからな」


 英語でも中国語でもなく、日本語なのは矢崎なりに多少感傷があるのだろう。


「悪いが俺のため死んでくれ。一発で殺すよう命じてある」

「前途有望な俺の命が、アンタみたいな下衆のために利用されるなんて泣きたくなるぜ」

「泣いて命乞いするなら、お前だけは助けてもいいんだぜ? 時宗」

「嬉しい申し出だけど、女を玩具にする外道に媚びるなんて俺のプライドが許さねぇーし」

「じゃあ仕方ないな」


 これ以上は無駄だ、と矢崎が会話を終え周囲に合図したときだ。

 拓が矢崎の名を呼んだ。


 矢崎はゆっくり振り返った。


「最後のチャンスだ。俺たちを解放しないと、大変なことになる。アンタたちは死ぬよ」

「強がるなよ、拓。いまさら交渉の余地はねぇーだろ? 意外に往生際悪いな」

「俺が連絡しなければ、12時には祐次と伊崎さんがここを襲撃する」


「……は……?」


「祐次はここに来ている。日本にいる防衛部隊を一小隊連れて」

「何をいいやがる」

「俺が連絡を出さなければ、ここは日本軍が襲撃してお前たちを殺す。俺が考えなしにアンタのところに行ったと思う? そこまで無鉄砲じゃない」


 そういうと拓は姜を見た。姜は頷き中国語で、大声で拓の言葉を周囲に伝えた。

 その言葉に、兵士たちはもちろん、住人たちも動揺した。


 拓は今朝の聞き込みで知った。


 矢崎が拓たちを<日本軍からの連絡員で自分には日米両軍の支援がある>と言って誇っていたという事を。拓たちの存在をそういう形で自分の権力地盤強固のため住人たちにそんなことを言っていたのだ。


 これには矢崎も黙った。


 否定するのは簡単だが、そうすれば住人たちは矢崎に不信感を抱く。


「面白い嘘だが、連絡なんてできねぇーだろうが」

「俺にはスマホがある。特別無線がそこに入っている。日本政府の緊急無線チャンネルと接触していたんだ。元々俺たちを救助するためだったけど、アンタの様子がおかしいんで念のため伊崎さんに頼んだ。俺が12時までに信号を送らなければ、ここはおしまいだ。日本がここを占領してここを解放する。小型飛行機で片4時間だ。朝出発して、もうこの付近に来ている」


 すぐに姜が中国語に訳す。それを聞いた住人たちは動揺し、敵意が微妙に矢崎に向けられ始めた。

 矢崎は黙った。


 日本から遥か遠い中国の田舎だが、日本生存者政府の武装と訓練度は高い。

 もし何かしら飛行機を使う手段があるのであれば来ることは可能だ。

 拓たちが中国にいることが分かれば何かしらの方法で伊崎が救出を考えることは有り得る。

 伊崎は正義感が強く仲間想いの好漢で行動力がある。その程度くらいの価値が祐次にはある。拓たちもいるなら尚更だ。日本軍の武力があれば、こんな小さい町の兵力など一瞬で粉砕する。



「そりゃあ嘘だ。いくらなんでも伊崎は来ねぇーよ。日本を放置してここに来るはずがない」

「アンタたち踏ん反り返った班長といるより、俺たち若造と一緒に現場に出るような人だよ? 伊崎さんは」

「黙れ!」


 伊崎はない。遠すぎる。


 だが……祐次一人なら有り得る。そして今優美と啓吾は外回りにいる。それで3人だ。祐次一人で兵士10人より強いし、3人分のフル装備ということなら現実的に武力制圧案も有り得る。


 祐次は悪党に容赦のない男であることは矢崎も知っている。以前、女性を暴行し、食料を略奪した若者グループを、一人で壊滅させて半殺しにした男だ。

 そして、あの男は仲間思いだ。


「よし。じゃあこうするか、拓。祐次に信号を送れ。そしてここに来させろ。そしたらお前たちを解放する。一時間待って、誰もこなきゃブラフだ。改めてお前たちを処刑する」

「じゃあ信号出させろ。スマホにある無線機能で信号を送るだけだ」


 矢崎は兵士を呼び、拓のスマホを持ってこさせた。しかし操作しようとしたが、ロックがかかっていて操作できない。


「指紋照合と暗証番号でロックを外さないと駄目だ。俺しか使えない」

「……よし。拓だけ拘束を解いてここに連れて来い」


 矢崎は兵士たちにそう命じる。これだけ監視がある中、拓だけ解いたところで状況に影響はしない。

 拓は解かれ、両脇に武装した兵士に連れられながら矢崎の前までいった。


「余計なことしたら撃ち殺す。日本語以外で喋っても殺す」

「来させたらいいんだな? 来るまで殺すなよ?」


 そういうと拓はスマホを受け取り、ロックを解除するとアプリのボタンを押した。



「こっちに来い。そして手伝え」


 そう言って、拓はスマホを地面に投げた。

 ただそれだけだ。


 だが、この瞬間、拓が狙ったか細い作戦が実った。


 投げ出されたスマホを兵士が拾おうとしたとき、「ゴォーッ」という重い音が響いたかと思うと、突然何もなかった空間に、「ポン!」という音と共に奴が出現した。



「処刑」1でした。


覚えている人は分かります。ナニが来たか!

どうにかなるかなんて何の保証はないけど、次回奴が登場し大暴れです!


今回の話は、拓ちんが作戦家であることがよく分かるエピソードですね。色々観察しているし、よく考えています。ただあんまり知恵者というほど頭脳派でなく「冷静で抜け目ない」という感じです。

そしてなんだかんだといないくせに存在感ある祐次!

あと、「伊崎さん」は日本にいる防衛の責任者で、一応拓や祐次、他みんなの上司みたいな存在です。拓ちんルートは中国から東を目指すので日本に寄ったとき登場すると思います。


ということでついに第二章の拓ちんルート、クライマックス!

次回奴が登場!


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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