「それはありふれた日常」
プロローグ4
少女は学校主催のキャンプに参加するため家を出た。
平和そのものの光景だ。
それを見送る両親も、少女も知らない。
これが最後の別れになることを……。
***
「お父さん、お母さん、行ってきます!」
少女は眩しいくらい楽しそうな笑顔を浮かべていた。そして玄関で見送る両親に手を振った。両親も負けないくらい笑顔でそれに応える。
少女は学校主催の三泊四日のスプリング・キャンプに行く。
アウトドアの好きな子で、家族ではよくキャンプに行ったが、家族を伴わないキャンプは初めてだ。目に入れても痛くないほど激愛している娘だ。心配でないはずがないが11歳にもなればそろそろ親の下から離れ始める歳だ。
今回のキャンプは学校主催だし、場所も隣町のキャンプ場で、ペンシルベニア州の中でも施設が整った評判のいいキャンプ場だし、引率の教師が二人ついているから心配することはないだろう。田舎の自然豊かな湖畔で治安も悪くない。
それに少女には友達も多い。今回のキャンプには近所に住んでいる賢い年長の少年も、実の妹のように可愛がってくれている年上の少女もついている。
少女はちょっと大きなリュックを背負い、スクールバスに乗っていった。すぐに友達たちが彼女を歓迎しはしゃぐ。
「あの子は人気者だな」
父親は苦笑した。
「日本からここに移ってきて正解だった。あの子はどこでも人気者だ」
「あら。私は日本も好きよ」
「僕も好きだよ。しかしあのまま日本にいたら、あの娘は<大和撫子>になってしまう。まぁやんちゃな米国ティーンエイジャになるよるはるかにマシだけどね」
日本育ちの長かった少女は、どうも米国人というより日本人のようなところがある。むろんいい意味で、だ。真面目で明るく優しいが芯は強い。親からみても驚くほど聡明で純粋で、最近は子供っぽさは抜け、<少女>という表現が一番しっくりくる娘だ。
それはそれでいいことだが……と父親は苦笑する。
父親としては、いつまでも自分の周りで子供っぽくじゃれついていて欲しかったが、その時期は終わった。その点は寂しいが、あの娘がこれからどれだけ眩しく少女として成長していくかは、また別の楽しみでもある。
少女を乗せたスクールバスは、次の子供を乗せるため動き出した。
そのバスが見えなくなるまで両親は手を振った。少女も窓際で手を振っていた。その笑顔は親の目から見ても他の子より美しく楽しそうだと思った。
「三日か。長いな。帰ってくるまでの辛抱だな」
「あら、たまには夫婦水入らずを楽しむんじゃなくて?」
「そうだな。それもいいが……やっぱりちょっと恋しいよ」
そういうと父親は名残惜しそうにバスの消えた道の向こうを見た。
「エダがいない我が家なんて考えられない」
我ながら子離れできないな、と父親は笑うと家の中に戻っていった。
だが、これが娘との長い別れになる。
この後、世界は崩壊するのだから。
そして少女……エダ=ファーロングの長い旅は、この時から始まった。
プロローグ4でした。
本編主人公、エダの旅立ちのシーンです。
これまでのプロローグと違い、エダの場合崩壊前の世界からです。
この後本編はエダの世界崩壊直後の話になります。
このエダ編で、ALの怖さや詳細な描写を描いていく予定です。なのでこのプロローグ4が直接本編第一章に繋がるプロローグになります。なので拓ルートはしばらくお待ち下さい。
さてこれからが本編です。
更新はかなりゆっくりですが、頑張って生きたいと思います。
これからも「AL」を宜しくお願いします。