「南下」2
「南下」2
北米南下に備える拓たち。
ALの多い北米では銃声が絶えない。
そんな時時宗にちょっとしたトラブルが。
***
拓はトラックを見つめた。
「俺たちでやるか。20t分の荷物か……一日で終わるかなぁ」
「やるしかない。俺は食料の交渉をしてくるよ。時宗は武器弾薬、姜はトラックの整備と燃料、篤志は<アビゲイル号>の整理を頼む。確か<アビゲイル号>の無線は取り外しができるってレ・ギレタルが言っていたから無線は持っていきたいな。JOLJUと連絡は取りたいし」
と……その時、市街地のほうで銃声がした。不規則に20発ほど鳴って止んだ。
「やっぱALも多いみたいだな」
ALタイプ1の群れが一塊いたのだろう。
大規模ではない遭遇はしょっちゅうだ。拓たちのいる駐車場だって、よく見渡せば視界のどこかの単独で徘徊するALを見つけられる。
距離があって向こうは気づいていないから無視しているだけだ。
こんなことは世界中どこも変わらないが、やはり心なしか米国はその数が多い気がする。
人間が支配している都市内といっても安心はできない。ALは突然湧いてくる。
「もう陸だ。ALには気を付けよう。ただ街中で俺たちは他所者だから長物は振り回せない。拳銃で対応することになるけど、無線は持っていくこと。ALの集団に見つけたら連絡しあう。無理せずシアトル側にも報せる」
「OKOK。心配しなくてもそんくらいは慣れてる」
「あ、そうだ。篤志はともかく、時宗、お前も多弾数オートを入手しとけよ? 日本と違って拳銃はいくらでもあるんだ。もうリボルバーにこだわる必要ないんだし」
これまでは弾とマガジンの都合で全員リボルバーを持っていた。だが銃社会の米国に来たから拳銃問題はかなり改善される。
「ベレッタかSIGP226を。それなら補給も楽だし」
拓がベレッタM9で姜がSIGP226だ。日本では貴重で数は少ないが米国なら腐るくらいあるはずだ。
どっちも100万丁は製造されているし米軍も警察も正式採用していて手に入りやすい銃だ。
「銃に関しては浮気しねぇーのが俺たちの主義なんだぜ? 祐次だってDEメインだしよ。多分今でもDEだぜ?」
「あいつのは半分性癖だよ、アレ。デカい反動ないと撃っている気にならないんじゃないのか? 後、確かあいつのDEは魔改造されているらしいぞ? 装弾数8発じゃなくて百発超えるってJOLJUが言っていた。それなら多弾数オートはいらない」
「俺のパイソンも100連発くらい改造してくれねぇーかな? JOLJU」
「どうやってリロードするんだ、それ」
「ま、シアトルの連中に聞いとくよ」
「なんだか軍事活動みたいだ」
珍しく冗談を言って苦笑する姜。
それは正しい。
銃に関しては選り好みできなかった日本とは違う。効率を考えたほうがいい。
「じゃあ行こう」
拓は手を叩いた。これで雑談も終わりだ。
やるべきことは沢山ある。
***
午後5時9分
それぞれ役目を終えて<アビゲイル号>に戻ってきたのは午後5時だ。
と……。
リビングでは時宗が憂鬱な顔でソファーに座っていた。テーブルの上にはパイソンが置かれている。
「何してんだ、お前」と拓。
「不運だぁあああ~」
「どうしたんだよ?」
「見ろよコレ!」
そういうと時宗はパイソンを拓に見せた。
なんとグリップがなかった。
「どうしたんだ、それ」
「ALに襲われてグリップ壊された! 殴り飛ばしたら酸がついてコレよ! どーすんだよ、俺のパイソン!」
「グリップくらいガンショップにあるんじゃないの? 米国だ」
「市内にはねぇーんだよ、ガンショップ! 雑貨店とかにもあるっていうんで見に行ったけどコルト純正のグリップなんかなかった! なんかゴツゴツした木グリはあったけど、あんなもん付けるくらいなら純正探すわ!」
「パイソンだしなぁ」
パイソンは高価だが生産数は多いのでそこまで珍しいわけではない。ただし射撃趣味用かコレクター用が多く店で手に入るのはカスタムグリップばかりでコルト純正のノーマルグリップは珍しい。時宗は拘りがありそこは譲れないらしい。
「でもグリップのない銃は使えないぞ?」
「サンフランシスコいくまでにガンショップ寄って探す。カリフォルニアやネバダならあるって聞いた」
「それまでは?」
「これ貰って来た」
そういうと時宗はガンベルトからS&WM586・6インチを抜いてみせた。ノーマルではなくバレルの先にマグポートが開けられたカスタムだ。M586ならホルスターもスピードローダーもパイソンと共通だ。
拓はそれを見て顔を顰めた。
「お前、多弾数オートはどうしたんだよ?」
「あるぜ」
そういうと時宗はベルトの後ろから一丁のオートを取り出した。SIGP226R・ライトとCTCグリップ付きだ。
「ベレッタもあったけど、ベレッタは拓の愛用だしSIGなら香港で使ったしな。コピーだけど。パイソンのグリップが見つかるまではこれでやっていくぜ」
「見つかるといいな」
時宗の銃の問題はそんなに深刻ではない。どうせ多少の物資調達はしていく。
と……丁度そこに姜と篤志も戻ってきた。
二人は今日も両手いっぱいに料理を持ち帰ってきた。
「サッチャーさんからの差し入れです」
「助かる。朝と昼は保存食だったし」
「ちと早ぇけど飯にすっか」
「いい判断だ。パンもスープもまた温かい。今食べると美味しいだろう」
珍しく姜が笑顔で同意する。拓も異論はない。
姜と篤志が和気藹々と持ってきた料理を並べ始めた。
それを見て拓と時宗もやっていた作業を切り上げ、立ち上がる。
と……。
「なんかよ」
「ん?」
「姐御……美人になったよな? 明るくなったし」
「……そうかな?」
「篤志と笑いながらはしゃぐ姐御なんて、三ヵ月前に想像できたか?」
さすがにはしゃいではいないが、篤志と楽しそうに料理を並べている様子は歳相当の若い女性そのものだ。北朝鮮軍のエリート軍人には見えない。
「こうやってみると、美人だよな姐御」
「元々美人だよ」
「だな。まぁ俺の美女アンテナも狂ったぜ。祐次くらい分かりやすい面食いじゃねぇーんだがよ」
「エダちゃんは凄い美人だもんなぁ、とんでもなく。あの娘は平和な時代でもトップアイドルになるよ」
「俺ロリコンじゃねぇーけど、ロリコンになってもいって思ったもん」
「魔性の美少女か傾国の美少女だな。でも手を出すなよ? さすがに犯罪だ。それにあの子は俺たち人類の英雄で勝利の天使だ。JOLJUの話だとファン倶楽部もあるらしいから。ま、周りに殺される前に祐次とJOLJUに殺される」
「そう考えるとえげつない子だな」
「アホな事いってないで飯食おうぜ。折角サッチャーさんがくれた温かい飯だ」
こういう馬鹿話も何度もしてきた。
そのエダ本人ともついに会うことになるかと思うと、それはそれで楽しい気分になる。
「南下」2でした。
ということで今回も準備編です。
ALは祐次も言っていましたが日本や欧州より多いんです。祐次は慣れてしまったしエダは他を知らないので特別気にしていませんが。
時宗、パイソン壊す(笑
グリップだけですけどね。これがオートならもう使えなくなって交換です。
日本と違って米国なので拳銃はそこらじゅうにゴロゴロしているんですけど、パイソンはコレクターアイテムなので貴重です。しかも時宗は純正にこだわっているのでなかなかありません。ラバーとか社外品はあるし実用ならそっちのほうがいいんですが、このあたりは拘りです。
後は姜が変わった話?
これも……拓との関係ですね。
決まったヒロインがいない拓編でヒロインぽくなってきた?
ということでまだまだ続きます。
これからも「AL」を宜しくお願いします。




