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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第二章・拓編
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「衝突」2

「衝突」3



姜を逮捕し矢崎に突き出した拓。

両者英語で対話する。

が、矢崎はもとより姜を許す気はなかった。

そして拓は決意する。


が……?

***




 拓が容疑者を捕らえた。


 その報告を側近の劉晋(ラウチン)と共に朝食兼昼食を採っていた時受け取った。



「本当かよ!? さすがだぜ、拓!」


 矢崎は我が事のように喝采を上げると、気分よくビールを飲み干す。


「じゃあそいつを連れてくるよう拓に伝えろ! <香港>の手下か、それともただの馬鹿か見極めてから処刑だ」

「処刑ですか? 今すぐ殺さない?」


 劉が指についた肉の脂を舐めながら矢崎を見た。二人の会話は英語だ。

 矢崎は笑う。


「公開処刑だ。住人たちに触れを出せ。たまには刺激が必要だ。それが秩序を維持する……必要な政治だ」

「いいですね。中々刺激的で楽しそうだ」


 劉は頷くと、テーブルの皿の上にあった豚肉のローストを掴み、それを豪快に齧りつきながら退室していく。英語が喋れる才能はあるが、元ラグビー選手で図体はこの<新世界>で一番大きい、矢崎の用心棒であり側近だ。この男も例外的に屋敷内に自室を持っている。




 三分後……拓は姜を連れて矢崎のいるリビングに現れた。



 姜の両手は前で縛られ、武装は全て外されている。

 現れたのが若い美人だと知り、矢崎は驚いた。


「<Hong Kong> seems to have hired a very unique assassin. (<香港>は随分気が利いた刺客を送り込んでくれたな)」

「I am not an assassin of <Hong Kong>. (私は<香港>とやらの殺し屋ではない」


 二人は英語で会話する。


「Why did the young lady attack us?(お嬢さん、じゃあ何で俺らを攻撃した?)」

「You took my army weapons. I just came to recapture it.(貴様らは我が軍の武器を強奪していったからだ)You first harmed us.(最初に手を出したのは貴様らだ)」

「Who are you? Where do you belong? (アンタ何者だ? どこの所属だ?)」

「I am a soldier of the D.P.R Korea.(私は北朝鮮人民共和国の軍人だ)」


「マジかよ! こりゃ驚いた。北朝鮮ときたか」


「If the weapon is returned, no hostile action is taken. Pay the price of killing the soldier.(武器さえ返してくれればいい。殺した兵の損害は別の形で償おう)」

「Do you die or have sex ? Choose one of them.(死ぬか、女として奉仕して返すか? 好きなほうを選ばせてやるぜ)」



「…………」



 拓は小さくため息をついた。


 人は母国語を操る時には神経を使う。だが外国語だとつい本音が出る。そしてつい重要な事を忘れる。自分たちだけの会話だと誤認する。重要な事実を忘れる。拓が英語を喋れるという事実を。


 今矢崎の目に拓は映っていなかった。いるのは分かっているが、会話が分かるとは思っていない。

 ここには拓もいて、拓は英語が喋れるのだ。


 矢崎は笑うと、残ったビールを喉に流し込む。


「どうやら……この姉ちゃん、相当厄介者だ。処刑するしかなさそうだ」

「矢崎さん、それが貴方の答えですか?」

「話が通じる相手じゃねぇーぜ」

「なら決まりですね」


 そういうと、拓はポケットから小型ナイフを取り出し、姜の拘束を解いた。


「どういうことだ!? 拓!」


「I don't agree with her execution. (俺は処刑に反対する)。俺たちもここを出て行く」

 拓の英語で、矢崎は我に返った。拓は全部聞いていた。


「分かったか拓? 野蛮の地だろう? 話し合いのできる相手ではない」

 姜が流暢な日本語でそういった。

 その瞬間、矢崎はこれが拓の仕組んだ茶番であり、最後の弁明時間であったことを知った。


 空気が一気に緊張した。この部屋には劉のほか矢崎の手下が2人いる。

 しかし銃を身につけているのは矢崎、そして拓だけだ。



「このまま行かせると思うのか?」

「罪人を追放する、それで貴方の立場は守られる。彼女も殺したのはやりすぎだ。武器の件は忘れてもいいといっている。それでいいでしょう?」

「よかねーよ。俺の面子がそれじゃあ保てねぇ!」


 矢崎はそう叫ぶと飲んでいたビール瓶を壁に叩きつけ、腰のホルスターに手を伸ばす。

 だがそれより早く、拓は自分の懐のベレッタに手をかけた。


「どうします? 俺は酒が入っていないし、容赦しないですよ」


 純粋な個人戦闘力では拓のほうが上だ。拓は完全に臨戦態勢、矢崎は虚をつかれ、劉も周りの兵もいるが言葉が分からず現状は把握できていない。連中は英語は分かるが日本語は分からない。

撃ち合っても矢崎たちに勝ち目は低い。


 何より矢崎のガバメントの薬室は空だ。拓は常に戦闘を想定したコンバットモードだ。初動の差が大きい。周囲の兵士が拓を撃ち殺す前に矢崎だけは殺せる。

 矢崎はホルスターから手を離し、面白くなさそうに座り直した。


「分かった。行け。自由にしろ」

「本当に自由に?」

「ああ。好きにしろ」

「その言葉、録音しましたよ」


 そういうと拓はポケットからスマホを取り出した。今の会話は全て録音した。姜を連れて来たときから全てだ。

 矢崎も、まさかスマホだなんて前世界の遺物が出てくるとは思っても見なかった。もちろんスマホに録音や再生機能があることは知っている。拓は完全に矢崎の言質を取った。


「行こう」


 拓は姜の背中を叩くと、そのまま部屋を出て行った。

 矢崎が苦々しい顔で睨んでいたが、その顔を拓が見ることはなかった。





***




 拓と姜は、拓たちの部屋に行き、二人で荷物をまとめた。


 これまで集めた物資だけを持っていく。

 優美や啓吾には悪いと思ったが、着替えまで運ぶ余裕はなかった。

 今はまだ矢崎も混乱している。今のうちに<新世界>を出なければ危険だ。


「屋敷前に車が停めてある。今なら乗って出られるはずだ」

「お前の相棒の軽薄男はどうする?」

「この騒ぎを知れば理解してくれる」


 元々何かトラブルが起きたら出て行く、という話は四人で話し合っていた。全て円満にいくとは思っていない。こんな事も想定して必要な荷物はリュックに詰めて用意はしている。


 二人が荷物を集め、それを背負ったときだ。

 突然ドアが開くと、何かが投げ込まれた。


「何だ!?」


 それは一抱えほどもある麻袋だ。火が篭り大量の煙を吐き出している。


 焼き殺すのか!? と思ったが、火力はそんなに強くない。それより煙があっという間に部屋中に広がる。


 姜はすぐに駆け出しドアを蹴る。だがドアは外から何か抑えられていてビクともしない。そして廊下には無数の人の気配がある。


「燻る気か!? こんなもの、窓を……」


 窓を開けようとした拓だったが、急に眩暈がしてその場に足をつく。

 酷い酩酊感と吐き気が襲ってきた。


「阿片だ! 阿片を炊いたものだ! 拓、吸うな!!」

「阿片……だと……」


 しかし遅かった。阿片に免疫のない拓は、一気に気化した阿片を吸い込み、体に取り込まれた。阿片の毒がすぐに全身に回り、体の自由を奪う。


 即席の催涙……いや、毒ガスだ。



 そうか! 矢崎の手下は阿片中毒だが俺たちはそうじゃない!



 すでに阿片に馴染んだ人間にはここまで効果は出ない。しかし無縁だった拓も姜もこれには無力だ。


 拓は抵抗することが出来ず、その場に倒れた。

 そして燃える阿片を踏み消した姜も、大量の阿片を吸い込み、その場に座り込んだ。必死に意識だけは失わぬよう抵抗するが、どれだけ根性があっても薬物の前には無力だ。


 姜も、ついに倒れた。


 しばらくするとドアが開き、口に布を当てた兵士たちが飛び込んでくる。


 しかし、二人にはもうどうする事も出来なかった。

「衝突」3でした。


拓、離反!

しかし矢崎のほうが一枚上手でした。

ということで囚われてしまった拓と姜。

矢崎はもう日本人ではなく<新世界>の王になってしまったわけですね。

この崩壊した世界で母国人も殺人もへったくれはないわけですが、このあたりが侵略者より人間同士のほうが怖い、という点でしょうか。「AL」はリアルドラマなのでむしろサバイバルする人間のほうが時に残酷に描かれていたりします。このあたり拓ちんルートもえだぴールートも同じです。


捕らえられた拓と姜はどうなるのか!?

ここがこの第二章の拓ちんルートの山場になります。


拓たちはどうこのピンチを切り抜けるか!


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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