「最初の戦闘」
「最初の戦闘」
突然現れたゲ・エイル。
意図も簡単に殺される米兵。
圧倒的な力の差に恐怖する米兵たち。
そこに祐次が立ちはだかる!
***
エダの叫びに一番早く反応したのは祐次だった。
そしてリー、ロザミアも表情が変わった。
米軍たちはどう反応したらいいか分からず戸惑っている。
周りを見渡すが、特に何もなく静寂そのものだ。
だが、それは間違いだった。
祐次、エダ、ロザミア、リーの四人は気づいた。
背後……後方に二か所……空気の流れがほんの僅かだが不自然な場所があった。
しかもそれは移動としている。
ロザミアとリーはそれぞれ腕輪の携帯デバイスを操作し、すぐに判明した。
「ゲ・エイルだ!」
リーが叫んだ瞬間、何もない空間から二発、光弾が放たれた。
一発は祐次とリー、一発はロザミアだ。JOLJU製のバリアはこの程度の攻撃はなんともなく、あっさり消滅させた。
そして、何もない場所から二人のゲ・エイルが出現した。
「視覚遮蔽装置か」
身構える祐次。同時にロザミアも腰からラファを抜いた。
殺気はあるが、連中はまだ本気ではない。今の攻撃はただの挨拶と確認だ。これでビームや火砲の類は効果がないことが分かった。
軍使か?
だが前回と違い、一般兵タイプのようだ。
祐次たちはもうゲ・エイルに慣れたが、まさに映画『プレデター』のように姿を消して現れた、見た目もプレデターそっくりの異形の怪物の出現に米兵たちは騒然となり、銃や槍を構えた。
だがゲ・エイルたちの目には、米軍など全く入っていない。真っすぐ祐次たちのほうに向かって歩く。
それが、緊張と恐怖と興奮で混乱する米兵たちに思わぬ行動を取らせた。
丁度一人のゲ・エイルが米兵たちの横を素通りしようとした時、一人の兵士が槍を持って立ちはだかり、槍を突き付けた。
ゲ・エイルは威嚇を全く気にせず突き進み、一瞬フォース・バリアが反応したが、槍からも波動のようなものが出て中和してその刃先がゲ・エイルのプロテクターに当たった。
惨劇……不幸な悲劇は、その時起きた。
ゲ・エイルが足を止めたと思った瞬間、あっという間に兵士の頭を鷲掴みにして持ち上げたかと思うと、まるで紙でも引き裂くかのように、簡単に首を引き千切り、頭部を握りつぶし、胴体を10m後ろに放り投げた。まるで虫でも潰すかのように。
余りに一方的で無造作な出来事に、祐次たち以外、呼吸すら忘れた。
「全員動くな!! 撃つな!!」
祐次が単独で進み出る。それを見てロザミアもエダをその場に残るよう手で仕草をして進み出た。
米軍兵士たちは全員身構えたが、祐次が三度怒鳴り、行動を止めた。
いや……構えはしたが、攻撃にでるような気力はない。
なんだ、あの一方的でありえない戦闘力は。
勝てるはずがないではないか。屈強な米軍兵士を虫でも払うかのように素手で引き裂く化物に、どうしろうというのか。
二人のゲ・エイルは祐次とロザミアの前に来ると、僅かに腰を屈め、右手を胸に当てて何か喋り始めた。発音からしてゲ・エイル語だろう。ロザミアとリーは理解できる。
連中の言葉を聞いた後、ロザミアが何か喋った。
こちらは銀河連合共通語で、祐次とエダも理解できた。
それで大体の内容が分かった。
これは決闘を受け入れたロザミアに対する敬意と挨拶。そして改めて宣戦布告だ。
ロザミアは高度科学文明の女王で、宇宙世界での社会的地位は彼らの王より上だ。ゲ・エイルは誰に対しても高圧的で無礼なわけではなく、ちゃんとした社会性も持っている。
これは戦争前の儀式だ。
そしてそれはすぐに終わった。
もう戦争は始まった。社会的地位は関係ない。
終わると同時に、二人のゲ・エイルは身構えた。
「まずは手始めに、一対一で腕試しよ。この場合、こいつらも死ににきたわけだけど」
「一対一ということは、一人は俺か?」
「他にいるかしら?」
一人はロザミアが相手をする。名指しで決闘対象になっているのは祐次とロザミアだ。
「お前にとっては雑魚戦でも、俺にとっては中ボス戦だ」
「<フェスト・フェラセクタ>。ヴァトスの刀身設定はそれにして。最新の対フォース・バリア用よ。私も貴方の戦闘を見ておきたいわ」
「簡単にいう」
「簡単よ」
そういうとロザミアは無造作にラファを振った。
と同時に、無数の鞭の乱撃が一人のゲ・エイルに集中して、着ていたプロテクターを全て破壊し、20m近く吹っ飛ばした。
圧倒的な戦闘力の差だ。いや、ロザミア個人というより武器の……科学の差だ。
か細い女の戦闘力ではない。
すでに一度目にしている祐次以外、その圧倒的な強さに言葉を失う。
吹っ飛ばされたゲ・エイルは、ゆっくりと立ち上がった。
「この連中も大分ラファの分析はしてきたようね。プロテクターとバリアで威力が半減した。そうね、もう何度も戦った相手だし、元々私と戦争をしたいのだからパラの武器の研究はするわね」
ロザミアに危機はない。
面倒くさそうに自分の相手に決めたゲ・エイルのほうに向かっていく。
「20秒くらいで私のほうは終わるから、そっちも手早くね」
「簡単にいうな」
そういうと祐次はベネリM3を置いて、ヴァトスだけを持ってもう一人のほうに向かった。
と……。
「おい! 誰か手槍を貸してくれ。切れるかどうか試す」
祐次は兵士たちに声をかける。米兵たちは戸惑いつつ、一人の兵士が駆け寄って祐次にク・プリ製の手槍を手渡した。
「あんなのに勝てるのか?」
兵士の声には恐怖が滲んでいる。ロザミアはともかく、祐次は地球人なのだ。
祐次は受け取った手槍の重さを確かめている。
「知るか」
不愛想に答え、祐次は残ったもう一人のゲ・エイルに向かっていった。
こういう時は気の利いた、皆を鼓舞するような言葉を吐き、士気を高め煽動するのが本当の英雄の才能なのだろうが、この点祐次はそういうリーダー的資質は欠落しているし愛想もない。だが悲観もしないから頼もしさと勇気は感じる。
もっとも、祐次だって内心では余裕があるわけではない。
前回のエダ奪還作戦の時、ゲ・エイルを三人倒した。技術タイプ以外のゲ・エイルはフィジカルでは圧倒的に上回っていてまともに戦ってはまず勝ち目はない。
だから奇襲作戦を取った。そして前回は連中も祐次を侮り油断していた。
今度は対等の相手として油断はしない。
いくら祐次でも、正面から戦うとなれば容易には勝てない。それどころか一歩間違えば祐次も無傷では済まない。一撃軽くもらうだけで致命傷になる。
銃を使わず白兵で戦う事にしたのは、完全に戦意を失った米軍兵士の士気を取り戻させるためだ。そのくらいは祐次も計算している。
それに、こっちが火力を使えばゲ・エイルも火力を使う。ビーム光弾なんか乱射されては、周りの被害が大きい。
こっちが白兵で挑めば奴らも白兵で対応する。
「最初の戦闘」でした。
ということでゲ・エイルとの戦争スタートです。
ロザミアは圧勝。本編でもいいましたがこれは科学の差です。ラファがかなりチートなだけです。
とはいえゲ・エイルもその研究はしています。完全ではないですが。
一方立場が変わるのは地球人側。
ゲ・エイルにとってのロザミアは全戦ボス戦で挑む側ですが、地球人にとってはゲ・エイル一人でも全戦ボス戦です。
祐次だけがボス戦ではなく中ボスになります。
フィジカルではどうやっても勝てない相手です。数では圧倒できないので作戦勝ちするしかありません。後祐次だけが連中と同等の科学武器ヴァトスを持っています。が、元々ヴァトスはゲ・エイルの武器なのでロザミアのように上回る事はありませんし、ラファと違って剣なので力量の差が大きく現れます。
ということで祐次VSゲ・エイルの一騎打ち!
今までは勝ってますが、これまでは全部ゲ・エイル側が油断はしていました。今度は油断していません。
ついに戦争の始まりです。
これからも「AL」を宜しくお願いします。




