「一つの仮説」
「一つの仮説」
戦争目前!
ロザミアの万能薬! それだけ戦争は危険!
と……祐次はある自問を抱く。
パラ人はロザミアしかいない?
***
レーザーで焼き払われて作られた臨時の森の中の回廊は一直線で、そのまま船の昇降機の前まで続いている。視界もまっすぐだか。
昇降機の近くにリーがいた。
顔はこれまで通り地球人のリーだが、服装は黒いつなぎの服で、プロテクターや機械装置のようなパーツを身に着けている。そしてその後ろには大きな箱があった。リーはエリスたちの転送でここにやってきている。
どうやら、あれがク・プリの戦闘服のようだ。
「全員揃ったな」と祐次
「ロザミアさんはその服でいいんですか?」とエダ。
ロザミアは相変わらず質素な無地のチェニックとハイネックの姿で武装は腰につけているラファだけだ。銃もない。
「ええ。これでいいの」
「こう見えてオイラ特製のロザミィ用万能服だJO。対刃も対熱も対放射能もあるし自動フォース・バリアも発生するし、対毒機能もあるし、推進力もあるし、短時間なら宇宙遊泳できるし」
「よし、俺にも作れJOLJU」
「素材が地球にないJO。ついでにこれでもALは完全に防げないJO。<ヴィスカバル>に行けば作れると思うけど」
「お前……どうして未来でフォース・バリアの腕輪を作った時一緒に作ってこなかったんだ?」
「それを言われるとその通りだった。今から用意しようかしらん?」
「駄目よ。そこまではやりすぎ」
「ロザミィのいけず……」
「お前らは地球が消滅するかどうかって時に呑気だな」
パラにとっては別に存亡もかかっていないし、科学力も戦闘力も上で、脅威のレベルが違う。
「そこまで私だって軽くは考えていないわよ。そりゃあ私とエダが死ぬことはないけど、貴方に死なれるのは困るし」
「俺が死んで困るというのもそっちの都合で、だろ?」
「ええ。でも今回はもうちょっとだけ反則で手助けしてあげる」
そういうとロザミアは懐から小さなバッグのようなものを取り出した。とても懐に入る大きさではない。四次元ポケットか何かあるのだろう。
中から赤いボールを取り出す。
祐次はそれが何か知っている。
「前回の万能治療液だな?」
「パラ人用だけど地球人にも適応する。それは前回貴方で立証できたから。今回は特別、私に一つ、エダに二つ、貴方に4つ。残り8つあるから、他の人間に渡していいわ。どうせ全部使い切るだろうし」
「ロザミィ気前いいね」
「特別よ! この<グレンサ>、元々そんなに数はないんだから。そこの馬鹿しか作れないんだから」
「神の領域なんですか?」
「いいえ。最新だけどパラが発明したものよ。最新だから銀河連合にもあまり知られていないしフォーファードで量産も出来ない。製造法を知っているのは今ではJOLJUしかいないから、JOLJUしか作れないわけ。傷だけじゃなくて体力も回復するわ」
「<仙豆>か」
<仙豆>は漫画『ドラゴンボール』に出てくる神が作った万能豆だ。
「何それ」
「JOLJUに聞いてくれ」
これで地球人側の準備も整った。色々超科学のサポートがあり、当初の計算よりは勝算は高まった。
だが、気楽にはならない。
ロザミアは祐次に細胞再生球<グレンサ>を4つ渡した。
つまり、ロザミアの計算では祐次ですら4度は死にかける……と暗にいっているようなものだ。
ロザミアですらそう数はないと言っていたから、ロザミアなりに計算して持ち出せる精いっぱいを持ってきたのだろう。それが15個だ。
「…………」
疑問を覚えた。
……何故それだけしかない……?
他のパラ人用に必要ではないのか? 万能機動戦艦にはきっと万能の治療室があり、こういう現場で使うアイテムは必要ないだけか?
……いや、待て……。
そもそもJOLJUもロザミアも、「二人だけ」と言っていた。あの巨大戦艦に乗っているパラ人はJOLJUをカウントしなければロザミア一人なのだ。
惑星パラが消滅したということは聞いた。
……生存者はロザミア一人なのか……?
なのに彼女は今でも<フィルニスト帝国女王>を名乗っている。滅亡しても皇族は事実だから間違ってはいないが、国民が一人もいないのに女王を名乗る意味はあるのか?
JOLJUがいないのならばまだ分からなくもない。滅んだとはいえ皇族であるというのは一つの権威だし身分だ。
だが宇宙世界では<女王>という肩書より<JOLJUの家族>というほうが特別だ。神を超える超生命体の家族となると、どの宇宙文明にとっても特別扱いを受けるし、粗略に扱われることもない。
それともパラ人の生き残りは他にいるのか?
どっちか難しい。
エリスたちは除外するとして、全種族が完全に消滅するようなことが起きるか? 常識的に考えてあり得るか?
だが逆の推理……証拠もある。
JOLJUはロザミアしか保護していない。
生き残りがいるのであれば、JOLJUだったら全生存者を保護するだろうし、20歳前後のロザミアの補佐もさせるはずだ。地球の時間と時間の流れが違うだろうが、世界が崩壊して9年。ロザミアの体感時間がその半分として16歳。そんな少女に大人はつけないのか? その役をやるのがJOLJUだけ?
普通に考えて……もしパラ人……フィルニストと決闘がゲ・エイルの挑戦なのだから、ロザミアではなく他の大人のパラ人が立ち向かえばいいはずだ。
ロザミアは女王でたった一人しかおらず、かつJOLJUの家族で、万が一の時、JOLJUは恐らく立場や自制なんか無視してロザミアを助ける。ロザミアを相手にするということは間接的にJOLJUを相手にすることになるから、ロザミアを殺害することは不可能だ。
……このあたりに<ロザミアの試練>とやらが関係している……?
これ以上は祐次にも分からない。
だが。
先日唐突に気づいたある事実については、この事実もヒントになっているかもしれない。
まだ推測の域を出ないが。
祐次は軽く頭を振った。
そのことを考えるのは、今回の事件を乗り越えてからだ。
今は、戦争が目前に迫っている。
「一つの仮説」でした。
話はほとんど進んでいませんが重要回です。伏線の回といえるかも。
まず万能薬。
全部で15個しかありません。
しかも4つは祐次用。つまりロザミアの計算では祐次ですら4回は大怪我する計算です。JOLJUも否定していないからそれくらいヤバい戦闘が待っています。
そして祐次が抱いた疑問。
そういえばパラ人を見ていない!
エリスたちとは合っていますが彼らは銀河連合出向組でロザミアとは別行動ですから純粋にパラの生き残りで現在姿を見せているのはロザミアだけです。
このあたり多少ヒントは「宇宙戦争編」で語っていますが明確には謎のままです。
そう、この謎が本作「AL」の三大謎の一つでありロザミアの地球侵略の根幹理由だったりします。
むろんJOLJUは答えを知っていますがさすがに答えません。事情が重大すぎて祐次もおいそれと聞けない案件ですね。
もう一つのナニカは祐次だけが気づいた謎ときで今は秘密です。
さて、ぼちぼち準備編も終わり。そろそろ本番です。
世界滅亡まで数時間!
これからも「AL」を宜しくお願いします。




