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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第二章・拓編
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「滞在」2

「滞在」2



殺人事件。

矢崎に報告に行った拓は、そこで思わぬ人物を目撃する。


そして事件の捜査を頼まれる拓たちだが、何か不審な気配を感じていた。

***



兵士たちの惨殺事件に最初に気づいたのは住人たちだった。


 たまたま今日は朝一で外に出ようとした拓たちもその騒動を知った。


 兵士たちの何人かは日常会話程度の英語が喋れる者がいて、英語で状況を知った。


「矢崎さんにはまだ報せていないらしい。俺たちに頼みたい、だってよ」

 今ではすっかりバイリンガルとなった時宗が三人に言う。

「なんで報せないんだ?」

「朝は恐いみたいよ?」


 それを聞いた優美と啓吾は無言で顔を背けた。「自分は行きたくない」とはっきり顔に書いている。

 拓は頷いた。


「俺が行ってくる。皆は状況を調べておいてくれ」

「中国語わかんねぇーけどな」

「車、借りる」


 そういうと拓は運転席に移る。三人は車を降りた。

 拓は車をUターンさせ、屋敷に戻った。




***



 矢崎の寝室は屋敷の二階の南側にある。場所は知っているが行くのは初めてだ。

 拓はドアをノックする。


「矢崎さん! 事件です。いますか?」


 中から人の気配がした。


「拓か? どうした?」

「人が死にました。入っていいですか?」

「ああ、いい」


 その後何か物音がした。それが収まるのを待って、拓は入った。


 矢崎の部屋は広く綺麗で、まるでホテルのような豪華な一室だ。部屋の真ん中に大きなベッドがある。唯一ホテルらしくないのは部屋の片隅に銃器が積んである事だろう。


 矢崎はローブ姿でベッドに腰掛けていた。

 中に入った拓は、軽く頭を下げ、事件の状況を説明した。


「ALの仕業じゃねーのか?」

「はっきりと聞いていませんが、一人は首が折られています」


 ALは切り刻むだけだ。首は折らない。


「銃も奪われているようです。ただ……俺も中国語は分からないからそこまでよく分かっていませんけど」

「<香港>の連中か……? 分かった、行く。着替える」


 矢崎はローブを脱ぎ捨てた。驚いたことにローブの下は全裸だった。

 矢崎はクローゼットから服を取り、ズボンを履く。

 拓は黙って待っていたが、ふとベッドのほうを見たとき……一つの目と目が合った。


 シーツに包まった、眼帯を付けた裸体の少女がそこにいた。

 レンだった。

 レンは何も言わず、静かにシーツを頭から被った。



 ……ああ、朝呼びに行きたくないってこういう事か……。



 拓はレンを見ないよう、目線を外し窓のほうを見た。他人の情事に首を突っ込む野暮な性格ではない。


 それにしても香木でも炊いているのか……何か独特の匂いが部屋中に充満していることに気づいた。香を焚く文化は中国にあるからそれだろうか? 


「案内してくれ、拓」

「下に車を用意しています。すぐに案内します」


 まず拓が部屋を出た。すぐその後に矢崎が続いた。矢崎の腰にはガバメントが吊るされている。





***



 死体は町の外門の控え所に転がっていた。


 矢崎と拓が来るまで、遺体は時宗たちが検分していた。


 専門ではないが、死体には見慣れている。

 一人は首を折られ、二人は鋭利な刃物で首を切られ、一人は胸を一撃で刺し貫かれている。明らかに他殺だ。


「殺されたのは夜中。深夜の闇の中突然襲われて……あっという間の出来事、か」

「そして銃を奪われた」


 見張り兵たちは手動式ライフルと拳銃で武装していた。それが全て奪われている。

 死体の死後硬直は始まっていて、襲われたのは夜中だろう。

 この門番は3人。昼夜12時間で交代する。

 内側の町のほうには住人が住んでいるが、夜は皆隠れるように眠る。だからこの殺人を目撃した住人はいなかった。

 ALではない。殺害方法もそうだが、ALは門番だけを殺して終わりということにはならない。自分が消滅するまで動くものがある限り暴れまわる。この犯人は人間だ。


「不審者が入り込んだか……それとも攻撃か」


 矢崎は兵士の遺体にシーツを被せた。そして近くにいた兵士に「連れて行って埋葬しろ」と中国語で命じた。そして拓たちのところに来た。


「手を借してくれ拓」

「何をするんです?」

「犯人を見つけてぇ。人殺しを放置するわけにはいかねーからな」

「それは同感ですが……俺たちが刑事役ですか?」

「俺は忙しいし、兵士たちには交換所や倉庫の警戒仕事がある。住人たちにそんな度胸も根性もねぇーだろ。手が空いてて使える人間は、どうやらお前たちしかいない。銃も持っているだろ?」

「ちゃんと報酬は出るのかよ? 矢崎のオッサン」と時宗。

「犯人を見つけたらな。できれば生かして捕らえてくれ」

「それは構いませんけど……」

 拓は仲間たちを見る。皆異論はないようだ。


「町中と町の外、二手に分けます。外はいいんですが、町の中の捜索は難しい。俺たち、言葉が分かりませんからね」

「お前、英語が喋れるだろう?」

「ほとんどの住人は英語は分かりませんよ? 情報を得るのは無理です」

「後でレンを寄越す。通訳だ。あいつは英語も分かる」


 拓たちは顔を見合わせる。どうやらやるしかないようだ。

 二人一組。単独行動はしない。


 拓と時宗が町の中、優美と啓吾が町の外の巡回……ということになった。その事を矢崎に報告すると、矢崎も了承した。



「ところで矢崎さん」

「ん?」

「さっき言っていた<香港>って……どういう意味です? 香港にも共同体が?」

「ああ、いる。ここより多くの人間が集まっている。詳しくはレンに聞け」

「彼女に?」

「あいつは元香港人だ。俺も一時いたが……あそこは完全無政府だ。ロクデナシはいくらでもいる」


 矢崎は面白くなさそうに吐き捨て、背を向けて歩き出した。


「中国の山奥で警察ゴッコか。堪らないね」


 啓吾はやれやれとため息をつく。確かに殺人事件は重大だが、ここは自分たちの町じゃないし、それで貴重な時間と物資を消耗するのは面白くない。

「同感」と優美。

「優美と啓吾は物資調達がてら警戒していたらいいよ。その上で人の形跡があれば報告してくれ。心配いらない。多分犯人は町の中のほうだから」

「そうなのかい?」

「矢崎に敵がいるのは確かだ。だから矢崎は祐次が欲しがった。そして敵対者がいるから生きて捕まえろって事だ。吐かせるんだろう。嫌がらせの攻撃なら侵入してひっそり殺害なんかしたりしないし、昼間襲撃したほうがいい。それが示威行動になる。そうせず夜襲したということは、何か意図があると思う」

「お前、いい刑事になれるぜ」


 時宗は笑うと煙草を咥えた。これが最後の煙草箱だ。


「優美ちゃん、煙草あったらよろしく!」

「はいはい」

「優美、啓吾」


 拓は周囲を見渡し、小さい声で言った。


「一部の荷物を持って、郊外のどこかに隠してきてくれ」

「…………」

「もし敵がいてここが襲われても、最悪無一文にならないように」


 勿論矢崎には知られないように。それが出来るのは今が一番いい。矢崎たちは事件で忙しいし、優美たちが警戒のため外に出て行くことは伝えてある。捜索するフリをして物資を隠すには今が一番いい。


 優美は頷いた。そして二人は車のほうに向かって歩いていった。


 残されたのは拓と時宗だ。


「囲いがある小さな町とはいえ……東西400m、南北300m……戸数は800戸はある。半分以上無人だぜ?」

「住民のほとんどは屋敷周辺。匿っている可能性もあるし、脅されている可能性もある。まずは聞き込みして、その後は空き家めぐりだな」

「一円の得にもならねーけど、やるしかないのね」


 拓と時宗、二人は歩き出した。

 まずは徒歩で屋敷まで戻る。その途中異変があれば見極める。



 こうして、拓たちの運命を分ける事件が、こうして幕を開けた。




「滞在」2でした。



拓たちが捜査役になりましたが、はたして……?

どうやら「いい人」ではなさそうな矢崎……それは拓たちも感じ取っています。

そして拓の行動の意味は?


エイリアンがウジャウジャいる世界での殺人事件……もはや警察も人殺しの倫理観も崩壊していますからね。

食料のためでも、水のためでも今の世界は人を殺す! まさに文明崩壊世界!


さて、拓ちんと時宗は犯人を見つけられるのか?

まだ惨劇は続くのか?


次回、拓は犯人と遭遇する!?


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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