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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第二章・拓編
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「滞在」1

「滞在」1


新しい生活を始めた拓たち。

五日が経過し大分馴染んだが、どこか気が抜けない。

そして拓たちは物資さえあ溜まればここを出て行く決意を告げていたが……?

***



 拓たちが矢崎の共同体に来て五日が経過した。


 その間、一度だけ200前後のALの小規模侵攻があり、兵士2人住民3人が死んだが、拓たち4人の働きもあり、なんとか撃退した。

 どうやら放浪していた群れのようで、襲撃が続くことはなかった。



 その後は平和だ。




「今日は何するよ? 拓」


 ベッドから起きた時宗は、朝一のタバコを蒸かしながら隣のベッドにいる拓に声をかけた。

 拓はすでに起きていて、濡れたタオルで顔を拭っている。


「10時の飯を食ったら物資を探しに行く。ポイントをもう少し貯めないとな」

「私も手伝おうか?」


 衝立の向こうで優美の声が上がる。この部屋は八畳ほどの広さがあり、ベッドが四つ。若い女性である優美のベッドの周囲には衝立があって彼女のプライバシーを守られている。


「僕も行くよ」と啓吾も手を上げる。

「じゃあ皆で物資調達だ。食料やガソリンなら手に入るだろう」

「ガソリンはポイント稼ぎにはなるけど重たいし場所取るんだよな」

「僕、川に放置して。魚釣って稼ぐ」


 啓吾は竿を確認しながら言った。釣りも稼ぎになる。鮒や鯉、鯰は食用になる。餌は川辺や田畑の土を穿ればミミズが得られる。多くのポイントにはならないが外れがなく確実に稼げる。


「じゃあ物資探しは三人だな。今日は半径30キロまで広げないと駄目だな」


 拓はスマホで地図を確認しながら言った。ポイントで充電器を手に入れたのでバッテリーは満タンだ。この地図アプリは既存のものではなくJOLJUオリジナルだが、どういう仕組みか全世界を網羅していて便利だ。


「四人が日本に帰る分は稼がねーとな」

「次、どこで補給できるか分からないしな」


 拓は部屋の隅を見た。そこには保存食や着替え、水の入ったリュックが二つ。AKライフルが一丁、M4カービンが一丁、弾が全部で諸々約100発。そして10Lのガソリンタンクが三つだ。

これが拓たち四人で五日間かけて貯めた物資だ。全て労働してポイントを稼ぎ、矢崎が支配する交換所で集めたものだ。

 拓たちは元々調達班は調達のコツはよく知っているし、他の住民よりはALを恐れず広く行動するから、短期間でこれだけ集められた。他の住民はこんなに集められない。


 だが、少なくとも、この倍は集めないと出発は難しそうだ。


「できれば燃費のいい新しい日本車を見つけよう。ガソリンの消費の差が大きいからな」

 

 大きな町にいけば日本車もある。ただしALも多い。危険だし貴重な弾も消費する。そのあたりの加減が難しいところだ。




***



 矢崎がボスをしているこの町を、矢崎たちは<新世界>と呼んでいる。町の外側の住民は163人。矢崎の住む屋敷内に21人が住んでいる。この21人は矢崎の手足の兵士や交換所の管理人、後は屋敷の使用人が数人住んでいる。


 矢崎がボスとして君臨できているのは膨大な物資を保有しているからだ。特にこの世界で生きるのに必要不可欠なガソリン、銃器、食料などを大量に持っている。主に働くのは外側に住む住人たちで、彼らは何でも物資を集め、屋敷の交換所で必要なものと交換する。使えればどんなものでもポイントで買い取ってもらえる。


 住民は皆木製のカードを持っている。物資を持ってきたり<新世界>内でALを倒したりすれば、そのカードに数字が書き込まれる。これが云わば通貨だ。このポイント分の交換が屋敷でできる。むろんレートは矢崎の言い分だから、自然と矢崎の財力は肥え太る仕組みだ。それでも他の住人たちが文句を言わないのは、一日一回の食料の無料配布と有事の際率先してALと戦い住人を守るからだ。食料配布は矢崎が来てからのことだから、矢崎の評判は悪くはない。矢崎にしても働き手たちに餓死されたら困るからだが。


 もっとも……日本人である拓たちは、矢崎の強引な政治にあまり感心はしなかった。日本人生存者の社会はもっと公平で、こんな暴君は存在しない。しかし部外者だし客分だ。口出しはしなかった。


 カードは拓たちも渡された。最初から50ポイントあったのは矢崎の好意だろう。ついでに拓たちは屋敷内に住まわせてもらっているし、他の中国人たちも敬意をもって対応してくれている。屋敷に住んでいるのは矢崎とレン、そして他使用人数人で、兵士たちは基本屋外のテントで起居しているから、やはり特別なのだろう。


 物資が集まり次第この<新世界>を出て行くことは矢崎に伝えている。矢崎は少し寂しそうに了承した。

 出て行くのは拓と時宗だけではない。優美と啓吾も出て行く。


 その事は、再会の宴会後二人から打ち明けられた。



「米国には行かないけど、日本には帰りたい」

「だから連れて行ってくれるかい?」


 むろん拓はその申し出を受け入れた。

 が……拓は、一応確認した。


 帰国したい心理は分かる。当然だ。だが危険で過酷な旅になる。

 飛行機便なんてないから船で帰らなければならないが、香港あたりから台湾・沖縄経由で本州を目指すか、朝鮮半島まで行って対馬経由で日本に帰るかだ。どうやら今は初夏に近い季節のようだから凍えることはないし最悪漁船でもいける距離だが、旅が過酷であることに変わりはない。何せ無線もGPSもなく、灯台もなく、方法は中世と変わらない。そして航海術など誰も知らない。


「一応矢崎さんは特別扱いしてくれるだろ? ここのほうが命の危険は少ないんじゃないのか? 旅は危険で死ぬ危険も大きいけど?」


「あの人、変わっちゃったもの」


 優美は吐き捨てるように呟いた。

 優美と啓吾が今ひとつ矢崎に心を許していないのは、拓も宴会中両者を見ていて分かった。

 矢崎は気にしていないようだが、優美は明らかに嫌悪している。日本の頃はここまで仲は悪くなかったはずだ。


「何かあった?」


「矢崎さん……私と啓吾の時は今日みたいに上機嫌じゃなかったの。もっと厳しかったわ。まるで厄介者を見るような目でね。口振りは部下扱いで特別だっていってくれたけど。そりゃあ元々私たちは矢崎さんと仲が良いわけじゃなかったけど」


 矢崎は班長だったが、ほとんど危険な調達に来ることは少なかった。事実上の班長は拓だ。拓は矢崎を班長として礼を持って接していたから矢崎は拓には一目置いている。


「それだけじゃない……よな?」

「あいつ……最初私に何て言ったと思う? 『何か持っていなきゃ出て行くか、もしくは体で払え』って言ったのよ。冗談だって笑っていたけど、目は笑ってなかったわ」

「幸い僕たちは、食料はなかったけどガソリンを集めていてね。調達班の癖で集めていて良かった。それからは愛想よく世話してくれたけどね。今日はやけに上機嫌でむしろ驚いたよ。すごい好待遇」


 二人が宴会の時今ひとつはしゃがなかった理由はそこにあった。矢崎に対する不信感だ。

 その空気は拓も感じ取っていた。そしてその理由も分かっていた。



「理由は三つ」



 拓は一応周囲を確認して、少し声を潜ませた。


「一つは純粋に日本人恋しさだよ。部下がこれだけ集まれば自分にとって都合がいいし色々周りへの威圧にもなる。それはいいんだ。問題は残る二つだけど……どっちも要点は祐次だよ」

「祐次? どうしてあいつが出てくるんだ?」と時宗。

「俺たちの待遇の良さも、矢崎さんの警戒心も全部祐次が原因だからだよ」

「祐次が医者だから? この<新世界>に必要な人材……って事?」

「それ理由の一つ。世界が崩壊した今、医者は政治家よりVIPだからな。ALと戦う限り負傷は絶えないしちょっとした風邪でも命取りになる。医者がいればその危険は減る。矢崎さんは喉から手が出るほど医者が欲しい」


 宴会の時、矢崎は言っていた。インフルエンザで死人が出たと。医者がいればそれは防げる。そして医者を抱えれば矢崎に歯向かう者は現れず、その地位は安泰だ。


 矢崎と祐次はちょっとしか面識がない。祐次は尊敬しない大人には敬意を払わない男だし、班も違う。だから、間に入る人間が必要だ。それが祐次と仲の良かった拓と時宗だ。


 拓と時宗の扱いを間違えれば、祐次は味方にならない。


「そして同時に矢崎さんにとって地位を脅かすジョーカーもまた祐次なんだよ」

「どういう意味だ? そりゃあ」

「祐次は正義感の強い戦う医者だぜ? 多分暴君をすんなり受け入れたりしない。そして祐次は矢崎さんより強い。銃も沢山持っているし武装もいい」

「祐次の奴なら……矢崎に革命が起こせる……って事か?」


 祐次の愛用はDE44とグロックの9ミリ、そして38口径リボルバー。これだけを常に身につけ、自動小銃とSMGも持ち歩いている。ほとんど歩く武器庫のような男だ。祐次は元々日本生存者の中でも屈指の戦闘力を持っていた。矢崎でも祐次には敵わない。


 それに祐次は第六班で班が違うし、数少ない有能な医者ということもあって、どちらかといえば伊崎派で政府の中枢に近かった。


 そこまで聞いて、時宗も矢崎の考えが分かった。


「俺たちを急に優遇することにしたのは、祐次が現れた時のためか?」

「祐次が現れた時、俺たちを虐待していたら矢崎の身が危ないからな。優遇しておけば一先ず衝突は防げるし、その後味方にしやすいからな」


 優美と啓吾は班が違うからそれほどでもないが、相棒である時宗と若者グループの中心人物だった拓は祐次と仲が良く、三人はしょっちゅう一緒に行動していた。それを矢崎は知っていたから、態度を軟化させたのだ。拓と時宗もいるということは祐次もいるかもしれない。


 それを聞き、優美と啓吾は黙った。



「納得したわ」

「でも祐次は中国にはいないんだろ?」

「多分な。確証はないけど今はもう一足先に米国にいったはずだ」

「え?」

「どうして知っているんだい?」

「今は秘密」


 多分JOLJUと行動している。

 JOLJUは確かにどこが故郷もない風来坊だが、イタリアから米国に無理に旅をする理由がない。ただし同行者の旅の目的が米国なら別だ。

 どういう組み合わせか、なんか馬が合ったのか、JOLJUは祐次によく懐いていた。


「じゃあ……その情報は極秘って事だな」


 時宗は確認した。

 拓は頷く。

 全員頷いた。


 そうだろう。今の優遇は全て『祐次が現れた時』の布石だ。拓と時宗の二人が来たことで祐次も近くにいるだろう、と矢崎は考えている。


「そこまで気を遣う必要ないさ。ようは俺たちが出て行くまでの話だからな」

 

 どうせ矢崎もこの事を深く追求してくることはないだろう。

 だから、今はこれでいい。




 そして滞在一週間目……事件が起きた。



 町の入り口を守る兵士3人が殺されたのだ。

「滞在」1 でした。



ということでなんか不穏な<新世界>での生活。

本当に矢崎は変貌してしまったのか?

そして殺人事件の発生!

ALではなく犯人は別にいる?

ますます不穏になる雰囲気ですね。


思わぬ事件が起き戸惑う拓たちだが、はたして!?


今回の拓編のシリーズは、対ALのパニックというよりサバイバルがメインで人間相手がメインで世紀末世界ドラマです。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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