「仲間」11
「仲間」11
拓たちの送別会!
普段お目にかかれないご馳走に目を輝かせ盛上る一同。
そして、もう一つの影の主賓!
JOLJU、登場!
***
5月25日 練馬区役所 午後6時
この日は特別な日だ。
練馬区役所内にある大会議室。ここに30人以上の若者が集まっていた。
だけではない。
部屋の真ん中、そして壁際にテーブルが並び、そこには滅多に食べられない豪華な料理が立食形式でたっぷり用意されていた。
握り寿司、天ぷら、鶏と魚介のから揚げ、フライドポテトといったオードブル、崩壊世界では貴重な生野菜のサラダやフルーツ盛り合わせ、さらにピザ、サンドイッチ、焼きそばなども並んでいる。ざっと100人前以上はあるだろう。
部屋の真ん中の座には、学校給食用の大鍋にたっぷりの海鮮味噌ちゃんこ鍋が二つ、刺身盛りの大皿が2つ、さらに猪の丸焼きまで揃っている。米も政府の炊き出しで使われる時期不明の古米ではなく西日本の早採りの新米を収穫したものでこれも普通は提供されない。他にジュースやビール、日本酒などもたっぷり用意されている。
大宴会だ。
宴会は時々息抜きで企画されるが、ここまで豪華な料理が並ぶことはない。
しかも今回は、半分は公的だが半分は私的な宴会だ。
崩壊前の世界であれば30万円ほどで整うだろうが、今回は円に換算すればその二十倍以上の経費がかかっている。今の日本の経済を考えればさらにその倍ほどの価値がある。
座の中央には、この大宴会の主役である拓と時宗。そしてメインホストである伊崎が座り、友人や仲間たちが取り囲んでいた。
拓たちの送別会だ。
「すごいですねぇ。こんな盛大なパーティーになるなんて」
「だね! こんな贅沢、できるんだねー!」
拓の横で篤志と杏奈が感嘆の声を上げる。篤志も北米組で、この宴会の主役の一人だが、新参者なので東京の知り合いは少ない。だから今回ここにきているのはほとんど拓の知人たちだ。
ホストの伊崎。時宗。優美や啓吾の元第八班、篤志の双子の姉の杏奈、ユイナや大庭や麗美。そしてク・プリ代表としてレ・ギレタル。これが座の中心メンバーで、立食組には政府関係者の村上と前島。他は防衛班や調達班、<アビゲイル号>を修理した整備班、そしてこの宴会準備をした漁業班がいる。さらに拓と仲の良かった若者たちのメンバー、他に同世代の政府役員や近所に住む知人も顔を出している。なんだかんだ拓は顔が広い。
総勢50人ほど。料理は持ち帰り用もいれて120人前ほど用意されていた。
「俺もここまで大ごとになるとは思わなかった」
元々の企画では元第八班と事情を知る一部の人間で……ということだったが、「それじゃあ寂しいだろう」と伊崎が言い出した。幸い手配した漁業班が予想以上の大漁を得たので、規模を大きくしたのだ。結局経費は政府が全額負担した。全住人集めて……はさすがに無理だが、このくらいの規模ならば政府主催ならば造作もない。
拓の渡米は完全秘密というわけではないが、政府上層部案件として制限はかけられている。
「俺が村上さんから予算を分捕っておいたから楽しめ」
早々と好物の日本酒を舐めている伊崎が楽しそうに拓の肩を叩いた。村上も若者たちの輪の中に入って談笑している。
「たまには息抜きしたいんだよ、皆も。お前たちは今日の主賓なんだから、最後まで飲みすぎて潰れるなよ?」
「酒はほどほどにしますよ」
拓は主賓だし、ちょっとした仕事もあるから潰れるわけにはいかない。
「そろそろ食っていいか、伊崎さん? 俺、もうハラペコだぜ」
時宗はビールを飲みながら笑う。今はまだ飲み物とオードブルだけで宴会は始まっていない。
「じゃあボチボチ村上さんに一言頼むか? お前も一言言えよ? 拓」
「柄じゃないんですけどね」
しかし物事には儀式と形式は必要だ。
「俺はいいよな? 挨拶」と時宗。
「僕もいらないですよね?」と篤志。
「いらないいらない。こんなご馳走を目の前にしてお預けなんてもう我慢できない」
優美が嫌味たっぷりに笑う。彼女も大分元気を取り戻していた。
「同感。余計な事は言わないでいいって」
啓吾も笑う。
元第八班と伊崎、ユイナ、大庭、杏奈、麗美、レ・ギレタルは立食組ではなく中央の座にいて最後まで参加組だ。立食組は満足したら帰っていい。
どうせ半分以上の参加者は、拓の本当の旅の目的は知らない。ただ政府の任務で外国に調査にいくと思っている。
「ところで……これは何です?」
と、篤志は除けてある食糧をみていった。
真ん中の一角に、10人前の寿司と刺身とオードブルと特製のうな重の重箱、そして米や味噌、醤油、日本酒の他、乾燥うどんや蕎麦、干物や漬物などの日本食が用意されていて、これは開封されておらず、別に分けられている。
「特別ゲスト用。今回のもう一人の主賓用だよ」
「誰よ?」と時宗。
「先日世話になっただろ? というか、ここ三ヵ月ずっと世話になっているけど。いつも日本の宴会に出たいって言っていたからな」
「あ、あいつか。いいのかよ、重要な召喚をこんなことで使ってよ」
「宴会したいっていうのはあいつの最初からの要望だしな」
JOLJU用だ。中央に座しているメンバー以外はこの裏ゲストが来ることは知らない。
JOLJUの召喚時間は一時間だし、その存在を知っているのも中央にいるメンバーだけだ。そしてJOLJUは慰労とお礼以外にやらなければいけない打ち合わせもあるので、時間はズラす。なのでJOLJU用は別に除けたのだ。
ということで、ついに大宴会は始まった。
まず村上が日本政府の総理として、拓が日本政府の外交任務を帯びて米国に向かう事を簡潔に宣言し、その後伊崎が今回の宴会が拓の送迎会であることを告げた。
そして拓が別れの挨拶と特別任務に対する抱負を簡潔に述べ、ようやく待ちに待った無礼講の大宴会が始まった。
とはいえほとんどの人間たちにとって拓の任務はよく理解されていないので、軽く拍手が起きた程度だ。
「じゃあ宴会だ! 皆今日は楽しんでくれ」
この一言でこの日一番大きな歓声が上がった。
皆、まずは滅多に食べられないご馳走に群がる。
いつもの政府提供の食事はほぼ江戸時代のメニューだから、こんな豪華料理を食べる機会などめったになく、皆大喜びで料理に舌鼓を打ち盛り上がった。
完全にお祭りだ。
参加者たちは、メインディッシュである海鮮寄せ鍋を取りに来たついでに、一言二言拓に激励と別れ告げていった。
班や部署は違うが、全員拓の知人で、拓との別れを惜しんだ。
拓はそれぞれに別れの挨拶をしていく。
親しい仲間たちはそれを少し寂しそうに見ながら、料理を楽しんでいた。仲間たちはもう拓の決意も知っているし、個別に別れの儀式は終えている。今は拓との楽しい時間を共有することが目的だ。
普段から晩酌をしている拓、時宗、伊崎は勿論旨そうに酒を飲んでいる。いつもは酒を好まない優美や啓吾も、今日ばかりは酒を飲み、篤志やユイナたちですら度数の低いカクテルやシャンパンを飲んで、皆で雑談の花を咲かせていた。
他の客たちも存分に楽しんでいる。
さすがに村上と護衛である横島は二杯ほどで飲むのをやめて、全員に声をかけた後、職務に戻ると言って出て行った。他に便乗で参加したメンバーたちも、腹を満たすと拓たちに一言別れの挨拶を言って帰っていった。彼らも「宴会の最後の本当に親しい人間たちだけで」と気を使ってくけたようだ
一時間ほどすると、料理は1/3ほどに減り、30人ほどが残るだけになった。
中央の座にいない連中は、ただパーティーを楽しみ、それぞれ集まって雑談の花を咲かせている。
酒が得意ではない優美たちやユイナたちは、今はソフトドリンクだ。
中央組は最後までいるし、拓も時宗も伊崎も今日はトコトン飲む予定だが、酔いつぶれる前にやることがあった。
もう腹は満ちたし、全部なくなる前に呼ばないとJOLJUは文句を言いそうだ。
「じゃあ、そろそろもう一人の主賓を呼ぶか。とりあえず30分くらいは無我夢中で食べているだけだろうから、質問や仕事の話はそのあとで」
そういうと拓はスマホを取り出し、アプリのボタンを押した。
そう、もう一人の主賓はJOLJUだ。
こうしてJOLJUも登場した。
「仲間」11でした。
ということで拓の仲間訪問編、最後はJOLJU!
こいつの場合は召喚ですが。
とはいえ今回は呼び寄せたところで終わり。具体的に本人と会話するのは次回からです。
エダ編を読むともう分かりますが、実は宇宙一の神様で超VIPのJOLJU!
ちなみに何度か言っていますが、ここに登場するJOLJUはエダ編で言えば第九章の後のJOLJUで、エダ編の未来です。これからエダ編はすごい大事件に突入しますが、JOLJUたちが生きているということはそれら大事件を乗り越えているということですが、これはネタバレというより物語のための伏線です。そんなこというと続編の「黒い天使」で主役キャラはそのままスライドしてレギュラーにいるので「AL」はハッピーエンドが確定しているわけですし。
今回は政府主催パーティーとはいえ出てくる料理は居酒屋コースみたいですが、これでも崩壊世界ではすごいご馳走です。普段は古米とみそ汁とおかずが少し……ですしね。とはいえ、これだけの生存者がいてこれだけの料理が出せる日本はすごいんですけど。
ということで、JOLJUが来ました!
今回は宴会を楽しんでもらうためですが、ちゃんと情報交換はします。
そして色々重要な話も。
今更ですがJOLJUは全部知っているわけです。
次回、JOLJU雀躍り!
拓編はここから佳境です。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




