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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
七章拓編
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「仲間」7

「仲間」7



大井ふ頭

着々と進む船の準備。

その整備をしていたのは地球人ではなかった。

レ・ギレタルと久しぶりの再会。

***



 5月17日 大井埠頭


 拓の仲間訪問二日目。


 この日は旅にとって一番重要な彼らの足であり基地でもある<アビゲイル号>の状態を確認しにいくことにした。


 船は大井埠頭の一角に抑留され、旅の準備が進んでいた。


 政府が手配した護衛班が1チーム、周囲で警備を担当し、ある重要人物たちが秘密裏の船の改造を行っていた。


 作業者は質素な厚手のフード付きコートを着ていた。


 地球人ではない。作業しているのは全員ク・プリアン四人だ。護衛班はク・プリたちの身辺を守るために伊崎が手配したもので、船の改造にはタッチしていない。もっともこのあたりALは少なくあまり危険はない。



 拓と時宗は愛用のSUVに乗ってやってきて、船のすぐ傍で停車する。


 拓たちが来たのを知り、一人のク・プリアンがやってきた。


 すっかり仲が良くなったク・プリの女性、レ・ギレタルだ。



「来ましたね、拓、時宗。改造は順調ですよ」

「ク・プリは全員来ているのか?」と拓。

「ああ。地球にはない我々の科学を用いて改造している。地球人に知られるのは拙いからね。私たちも専門というわけではないが、この程度の改良作業をするくらいの知識と技術は持っています。元々全員宇宙船の乗員ですからね」


 そういうとレ・ギレタルは拓と時宗を船内に案内した。


 船内は清掃が終わり、篤志や杏奈の私物はなくなっているが、見た感じでは以前と変わりなく、相変わらずちょっとしたホテルの一室のように立派な家具が整っている。



「あんま変わらねぇーじゃん」と時宗。


「内装は変わらない。寝具や生活品は新品に交換しているが、荷物は積んでいない。ここに隠していた銃は埠頭の倉庫のほうに移したし、食料と水は新鮮なものを積み直すほうがいい。家電や娯楽は君たちが好きに持ち込んでください」


「今、何をしているんだ?」


「発電機の調整です。JOLJUが作ったものだけあって発電機の出来は素晴らしい。よくテラの部品だけでこれほど高性能なものが作れると感心する。今屋根に発電パネルを設置して蓄電器を設置しているところです。成程、確かにテラの機材を利用していますが、ほとんど宇宙船仕様です。JOLJUが作ったのだから当然ですが。一時間の充電で三日は不自由なく電気は使えますし、エンジンと連動させた発電機も付けます。メインエンジンはタンクを別に設置して軽油だけでなくガソリンでも動くように改造しましたし、電力でアシストするようにもしてあります。燃費は10倍以上向上しています」


「そりゃあ凄い」


「多少船の重量バランスを操作して、悪天候にも対応できるようにしています。これは私たちの技術ですが、使っても良いでしょう」



 成程、完全に地球の科学以上だ。



 本当はレ・ギレタルも来てくれれば頼もしい。彼女は宇宙船の航海士でも元々の地位も高い技師だ。篤志との旅で地球の天体位置も覚えて、原始的な方法での位置確認も出来る。


 しかし貴重なク・プリアンだ。JOLJUも「一人でもク・プリが死ぬと困る」と言っていたし、肝心の戦闘力はない。



「燃料と電力だけでもありがたいよ」


 この旅の一番の懸念は燃料だ。船の最大の欠点は燃費で、リッター10kmくらいしかない。移動距離は約8500kmもあり、普通はこの大型クルーザーでも太平洋横断はできない。だから臨機応変に補給が可能な北回りの航路を選んだ。


 それでも天候次第で燃費は大きく変わる。天候が荒れれば太陽発電機はフルに稼働しないし、港に避難したり悪路を避けたりするからこれでも万全とは言えず、過酷な旅は変わらない。


 ガソリンでも動くというのはありがたい。軽油よりガソリンのほうが入手しやすいし、車を使うときは流用できる。ガソリンは放置車から地道に集めることができる。



「後は燃料庫や浄水システムの改良です。日本にはク・プリの墜落船がありますから、そこから部品を取ってきて加工すれば倍くらいの容量が入るでしょう。我々にはそれが限界ですね。JOLJUがいれば10倍も20倍も増やせるのでしょうが、アレは特別なのです。ですがさすがに一時間では終わらないと思います。アレがその気になれば宇宙船だって作れるはずです。もっとも今テラには<ハビリス>があって宇宙にいくことは困難ですけどね」


「十分だよ」


 拓は素直に感謝した。地球の科学では到底無理だ。


 地球人からみれば驚異的な科学だが、彼らにとっては手製でヨットを作る程度の労力だ。



「もう一つだけ……これは日本政府には秘密ですが、通信装置の設置を試みています。これは成功するかどうか分からないので期待はしないでください」


「通信装置?」


「短時間で条件も限定されますが、JOLJUと通信できるよう改造しているのです」


「できるの?」


「JOLJUの持っている携帯端末に宇宙回線受信装置が搭載していることが分かりました。今テラリアンが使っている短波無線は精々20km……JOLJUが持っている高性能無線機でも惑星上では500kmですが、宇宙回線ならば50万kmくらいは届くはずです。ただ私たちの科学でも中継基地がないと無理です。せめて我が母艦の完全修理が終わって起動すれば問題なく届くのですが」



 地球は丸い。無線信号は直進だから、上空で中継がなければ長距離は届かない。



「そういえば、前回通信できたのはク・プリの宇宙船からだったな」


 前回とは多摩事件の時だ。祐次と通信が可能だったのは、祐次たちが宇宙船にいたからだ。ただ祐次もエネルギー不足といっていたし完全に直ったとは言っていなかった。祐次やJOLJUが常に宇宙船にいるとは限らない。JOLJUも「この一ヶ月は」と限定していたし、祐次も「活動は基本全米で拠点はNY」と言っていた。



 そのことはレ・ギレタルも聞いている。



「実は月にク・プリがテラリアンには補足されない基地というか監視衛星があるのです。そこは<ハビリス>の影響圏外ですし記録では破壊は免れているのでそこを中継基地にすれば短時間の通信は理論上可能なのですが、丁度月の基地がテラの北米に向いていないと駄目ですし惑星も月も自転していますから時間も短いし、エネルギーも限られる。つまり貴方たちから見て月が東側の空にある時限定になるでしょう。我々が月の基地に行って調整することは出来ませんし、曇りや雨天では成功率も落ち、こちらが発信してもJOLJUが気付かなければ通じません。保険程度に考えていてください」


「海上でもつながる?」


「北米近海でJOLJUが北米中部にいたら通じる可能性が高いです」


「助かるよ」


 JOLJUは色々便利な存在だし、JOLJUと通信できれば当然祐次ともコンタクトが取れる。もうJOLJUの召喚は後4回しかないから、呼べなくても通信できればそれだけでも拓たちにとっては有難い。



「設置は10日あればできます。出発には間に合う計算です」

「しかし」


 拓はレ・ギレタルを見た。


「こんなにク・プリの科学を使ってもいいのか? 違法じゃないのか?」


 確かそういう話だ。これまで日本政府で保護したク・プリも科学技術の提供はルールがあって出来ないといって協力はしてくれなかった。


 レ・ギレタルは苦笑する。


「そこは情勢が変わったからです。クロベと我が<デダブ>は同盟を結び、相互協力の関係になったことを確認しました。そのクロベに会いに行くのであれば、貴方たちに限れば私たちも協力できます」



 その言葉を聞き、拓ははっとした。



「もしかして君は祐次が<ラマル・トエルム>だと知っている?」


「貴方も気づきましたか? ええ、私だけは知っています。先日JOLJUから教えてもらっていましたから。他のテラリアンには教えていませんから安心してください」



 予想通りJOLJUは祐次が<ラマル・トエルム>だと、もう知っていた。


 聞いたのが拓ではなくレ・ギレタルだけだったから、警告ブザーは反応しなかったのだろう。



「マジか。本当にあいつが<ラマル・トエルム>なのかよ」


 時宗が驚き半分呆れ半分でため息をつく。これで完全に拓の推理ではなく事実であるという裏が取れた。


 レ・ギレタルはちょっと周りを見回し、少し考えてから拓たちのほうを向いた。



「今の私に教えられるのは、クロベと<デダブ>は我らク・プリの地球脱出計画のため動いている事。そしてすべての計画が成功して我らの船の修理が完了した時、私たちも米国の貴方達に合流することになるでしょう。転送機が使えるようになり、登録しているク・プリはそれで簡単に移動できるようになります。ですが母艦の修理はクロベと<デダブ>だけでは手に負えない。部品集めには人手が必要ですしJOLJUも我々ク・プリに合わせた科学しか使わない。だから貴方たちが北米に行く、そういうことだと思います」


「…………」



 やはりそういう事か。拓の予想した通りだ。



「俺たちも転送機で瞬間移動にしてくれりゃーいいのに」と時宗。

「それが可能だったら、米国に来いと言わず日本で待機していろっていうよ。先日の祐次……周りに米国人がいるような感じはなかった。あくまで宇宙世界側に行ったのは祐次とエダちゃんだけなんだ。なんか日本語と宇宙語ぽいの喋っていたし」


 米国人の仲間がいれば会話は英語だ。だが異星人は皆自動学習で日本語も喋れる。


 そしてレ・ギレタルの話から想像するに、その宇宙船修復の人員として拓たちの存在が必要だということだと思う。


 当然ALも邪魔だ。ク・プリは科学力では地球以上だが、個人の戦闘力では高度な戦闘力を身につけた地球人よりやや劣る。



「出発前にJOLJUを召喚する予定はありますか?」

「一応出発前にパーティーを計画しているんだ。その時JOLJUは呼んでやるつもり。ああ、レ・ギレタルも良かったら参加してくれ。魚がメインだけど、ちゃんと調理のプロを手配するし、他にもフルーツとか野菜も用意するから」

「楽しみにしています。ちょっとJOLJUに用があるので都合がいい。私も貴方たちと別れるのは寂しい。特に篤志とは長く一緒でしたからね」


「篤志が行く事も知っているのか?」


「ええ、先日、本人から聞きました。彼はまだ若い少年ですが、とても聡明で優秀です。きっと貴方たちの力となってくれます」


「篤志は本気なんだな」



 と……。



「これは貴方たちだけに伝えます。拓、貴方の携帯端末を貸してください」

「携帯端末……ああ、スマホか。どうするんだ?」

「あるシステムを入れます。10分で済みますから。ただ、重要な事です」


 そういうとレ・ギレタルは少し真剣な表情を浮かべた。


「実は船倉に小型の宇宙戦争用の爆弾を設置しました。もし他の野蛮なテラリアンに<アビゲイル号>が奪われることがあれば、自爆して完全消滅させて下さい。その起動装置を携帯端末内に入れます。起動後5分で大爆発して跡形もなく消滅します。理由は……分かりますね?」

「ああ」


 この船は地球人にとっては反則だ。使用を許されたのは拓たちだけで、他の地球人の手に渡るはルール違反だ。その時は破壊しろ、という事だ。それ以上は確認しなかったが、それが宇宙世界のルールなのだろう。


 こんなに快適で優秀な船があると生存者が知れば、欲しがる事は間違いない。こんな世の中だ。日本以外の国には銃があり、米国は勿論だがカナダも銃は簡単に手に入るし猟銃であればロシアも入手可能だ。生存者たちは間違いなく武装している。無法地帯だから当然力づくで奪いに来る。命が一番大事だから、状況によっては船を明け渡し自分たちだけ逃げる状況は十分考えられる。そうなったら秘密維持のため船を消滅させる……これはこの船を使用する上で絶対守らないといけないルールだ。



「分かった。気を付けるよ」

「そんなことにならないことを祈ります。大丈夫です。特殊な爆発物で装置からの信号以外、絶対誘爆はしません」


 そういうとレ・ギレタルは女性らしい優しい笑みを浮かべ頷き、拓のスマホを受け取った。


 今更だが、もうスマホではなく拓専用のスーパー携帯用便利道具だ。


 レ・ギレタルのスマホの改造が終わり、その後いくつか使用上の注意を聞き、拓たちが大井埠頭を離れたのは一時間後だった。



 もう次の訪問先は決まっていた。



 拓と時宗は、練馬に戻っていった。


「仲間」7でした。



なんと今度はレ・ギレタル編!

地球人ではなくク・プリの女性です。

これまで拓のパーティーの中ではあまり影が濃くはなく、ただのお客さんでしたが、実は一番の重要人物!

彼女は現在ク・プリ星人生き残りのナンバー2です。

もっともギレタルの場合元々偉かったわけではなく繰り上げで、生き残りの中では二番目に偉い、という事です。一番はリーでリーの場合は元々艦隊司令官兼母船艦長です。

リーの階級が中将か大将で、レ・ギレタルは中佐くらい……と考えると丁度いいかも。

なのでJOLJUもレ・ギレタルにはリーと変わらない情報を共有していたわけです。だから祐次が英雄だと知っていたわけですが、何で拓に教えなかったのかは……こっちはえだぴー編の話になりますね。なのでギレタル絡みは半分えだぴー編だったりします。


相変わらずこっそり色々魔改造が好きなJOLJU(笑


こいつの機械いじりは趣味ですからね。しかもちゃんと地球と墜落した船の部品だけ使うので、ぎりぎりルール違反ではないのですが、色々やってます。何が凄いって、地球におちているそこらへんのもので宇宙船くらいは作ってしまう事ですね。単に宇宙船仕様にはしていないだけで技術的にはそのくらいできる奴です。


ということで今回はレ・ギレタル編でした。


さて、次回は誰になるのか。


残っているのは肝心の篤志ですが、今回他にも回ります。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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