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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
七章拓編
353/394

「仲間」5

「仲間」5



落ち込む時宗。

知った英雄の正体。

その事実が時宗を奮い立たせる。


そして次は優美。

彼女の心の傷も深刻だった。

***



 時宗は呟くように言った。


「<新世界>でよ。俺たちがレンちゃんを連れて行かなかったら……レンちゃんは死ななかった」


「あそこでは生きていけなかっただろ?」


「わかんねぇだろ、そんな事。だけど異国でテロリストに銃で撃たれて死ぬことはなかったンじゃねぇーのか? 俺たちが強くレンちゃんには危害を加えるなって言いくるめておけば……日本に連れてこなきゃ……少なくとも撃ち殺されるなんてサイテーの死はなかったんだ。あの娘にとっちゃあ外国だ」


「でも俺たちを選んだのはレンちゃんだ。死なせてしまった責任はレンちゃんでもお前でもなく俺だ。恨むなら俺を恨むべきだ」



「…………」



「でも……二ヶ月の間の仲間だけど、レンちゃんは活き活きとしていたと思う。笑顔がすごく明るくなって可愛かった。<新世界>の時、あんな顔はしていなかった。そして俺たちのこと、家族のように……本当の仲間だった。俺だってつらいし悔しい。だけど、ここで俺たちがレンちゃんの死で落ち込んで俺たちらしさを失ってしまったら、一番哀しむのはあの世のレンちゃんだと思う。……俺の勝手な自己満足だけど、俺はそう思う」


「そんなこたぁー……俺だってわかっているんだよ。……理屈ではな」


「なら酒に逃げて閉じこもるのはやめて、いつものお前に戻れよ。それがレンちゃんの望みだよ。そうでも考えないと、この世界では生きていけない」


「わかってンよ」


 時宗は一口ブランデーを飲んだ。

 そして、瓶を置いた。



「俺さ……レンちゃん、好きだった」

「俺も好きだよ」



 だが拓も分かる。

 拓の好きと時宗の好きは違う。そのくらい拓も分かっている。



「……言えなかった……」

「…………」



 <好き>……若者にとって、これほど重たいものはない。



「言えるわけねぇーよ。……あの娘、<香港>や<新世界>でどんな目にあっていたか。生きるためとはいえ……愛とか恋とか皆無で、生きるために体を売って……そんな娘に言い寄ったら俺もその下衆共と同類かもって……あの娘の心を傷つけるかもしれねぇ。だから、あの娘が明るい普通の女の子になるまで……普通の女の子の人生取り戻すまで見守って……それからの話で……」


「…………」


「でも死ぬほうが不幸じゃねぇーかよ? 死んだら何もかも終わりなんだぜ」


「俺には、お前に正しい答えは言えない。それはお前とレンちゃんの問題で、俺が何を言っても綺麗事にしかならないから」


「…………」


「ただ、さ。お前がレンちゃんを想ってくれて……その死で苦しんでくれる、その事はきっと感謝していると思う。そしてレンちゃんが今一番喜ぶことはお前が立ち直ることだと思う。これも身勝手な綺麗事かもしれないけど、俺はそう思うよ」



「ならほっておいてくれよ」



「お前がそう望むなら、好きなだけほっておくよ。だけど、これだけは伝えに来た。俺は半月後に日本を出発することが決まった。同行しないなら、それでもいい。だけど一つ、お前には伝えておかなきゃいけないことがある。それを言いに来た」


「……何をよ……?」


「<英雄>の正体が分かった。そして篤志と姜は同行を希望して伊崎さんも了承した。お前が来ないのなら三人だけでもいく。参加をどうするかはお前が決めたらいい」


「決める?」



 その時ようやく時宗は顔を上げた。



「<英雄>がナンだよ。一人の人間の力でこの世界が救えるわけねぇーよ」

「<英雄>……<ラマル・トエルム>は俺が来るのを待っている」

「俺たちが行って何の役に―」

「<英雄>は祐次だ」

「!?」


 それを聞いた時宗は目を見開いた。


 やはり時宗は気づいていなかった。




「は?」



 時宗にとって思ってもいなかった名前だ。意味が分からない。


 拓は伊崎にした証明を時宗にも話した。


 時宗も聡明な人間で、今は酒に溺れていても頭脳まで思考停止したわけではない。



 拓の完璧な推理を聞いて、時宗も完全に理解した。



「マジかよ」

「もう勘じゃなくて、俺は確信している。今思えば、祐次もJOLJUもヒントはくれていた。祐次自身も今は自覚している」


「…………」


「このことを知っているのは俺と伊崎さんと村上さん、そしてお前だけだ。お前にだけは言っておくべきだと思った。無理に同行しろとは言わない。だけど俺は行く。これが理由だから」


「分からねぇな……俺たちが行って、何するってんだ?」


「分からない。祐次は米軍や米国の有力者やク・プリの偉いさんと共同している。俺たちより優秀な人間はいると思うけど、俺たちでなきゃ駄目な理由もあるのかもしれない」


 一つだけ心当たりはある。


 想像だが、祐次は宇宙世界側に行ったが、他の米国人たちには宇宙のことは知らせていないのかもしれない。JOLJUやレ・ギレタルは「宇宙世界にいくには資格がいる」ようなことも言っていた。拓たちは<BJ>と接触して直接試練を与えられているから、他の人間たちよりは宇宙世界側なのかもしれない。


 そこは気心が知れた仲間が欲しいという理由ではない気がする。そういうことに関しては群れたがらない男だし、ああ見えて仲間想いだ。


 その祐次が「来い」と言った。


 拓と時宗、二人を名指しで。他の人間は呼ばなかったし、日本政府から精鋭を募って、とも言わなかった。何か秘密はあるのだ。



 おそらくそれが人類の希望だ。



 時宗は沈黙した。



 時宗も拓の意図が分かった。



 そして……さすがに時宗だ。



 30秒ほど沈黙していたが、顔を上げたときにはいつもの時宗に戻っていた。



「しゃーねぇーな。そんなら行くしかねぇーじゃねぇーか」


「分かった。お前は確定で頭数に入れておくよ。でも急がないから、気持ちの整理だけはつけておいてくれ。他の人間にも挨拶にいくけど、それは俺が行くから」


「祐次が<英雄>だって皆に言うのか?」


「言わない。ただ別れの挨拶と船の様子と……篤志と姜の意志を確認するだけだ」


「わりぃーな。……じゃあ今日一日は気持ちの整理をするわ。で、明日からいつもの俺に戻る。考えたらいつまでもクヨクヨしているのも俺らしくねぇーし……レンちゃんも喜ばねぇーよな……」


「無理はしなくていいからな。まだ二週間ある」


「そこまでヘタレじゃねぇよ」



 言いながら時宗は懐から煙草を取り出し吸い始めた。


 酒ではなかったのは、切り替えができたのだろう。


 あとは時宗個人の問題だ。時宗ならば時間があれば自分の乗り越えるはずだ。





***




 すっかり生温くなったコーヒーを、ゆっくりと口に運ぶ。


 優美も、ほとんど自宅に籠っていた。時宗と違う点は、食事の時と入浴の時は学校の集会所には出かけるが、これまでの彼女と違い生気はなく、食事と入浴を済ませると黙って自宅に帰っていく。仲間や友人と会話を交わすこともあるが、必要最低限のコミュニケーションしかせず、皆彼女の異変には気づいていた。


 以前と変わらないように見えるが、一つ変わった。


 あの事件後<笑う事>ができなくなった。


 時宗のように酒に溺れなかったのか、ただ純粋に酒が飲めない体質で好きでもないからだ。その代わりコーヒーばかり飲んでいる。少し痩せた。



 拓が訪問してきた。



 時宗ほど茫然自失ではなく、ちゃんと玄関まで出てきたが、明らかに生気は乏しかった。




 ……やっぱりショックを引きずっている……と一目で気づいたが、拓はあえて笑顔を浮かべ「元気そうだな」と笑った。



「そう? うん……健康よ? 仕事もないからのんびりしている。どうかした? 拓?」

「大した用はないんだ。ただ……知らせに来た。俺、半月後に出発することが決まったよ」

「そっか。上がる? インスタントだけどコーヒーくらいは出せるから」

「ああ」


 そう答え、拓は優美の家のリビングに案内された。部屋は優美らしくこんな世界でも奇麗に整頓されていて清潔感があり女の子らしい。


 優美は台所にいって、拓と自分の分のコーヒーの用意を始めた。


 ふと拓はリビングのソファーに置かれた優美が愛用していた銃とホルスターを見た。優美は日本に戻ってからは、コルト・ローマンはショルダーホルスターに入れ、グロック17はパドルタイプのヒップホルスターに入れて常に携帯していた。今、どちらも付けていない。


 東京は安全だ。銃がなくても生活は出来るし、代わりに戦う人間もいる。


 コーヒーが出来るまでの間……拓は何げないといった口調で会話を始めた。



「米国行きは、俺と時宗と姜と篤志だ」


 数秒だけ、優美の動きが止まった。


「篤志君もいくの? ちょっと意外だね」

「優美は……どうする?」


 聞いたが、答えは分かっている。


 数秒沈黙の後、優美はボソリと言った。



「行かない」

「そう。うん、危険だし……もともと優美は日本に戻ることが目的だったしな」



 優美はもともと明確に<帰国組>だった。しかし拓とは仲がよくずっと同じ班だったし、彼女も迷いはしたと思う。


 優美は即答せず、インスタントコーヒーを淹れて拓の前に置き、自分も拓の前に座った。



「行っても……私は役に立たないもの」


「銃が怖い?」


「拓は何でもお見通しかぁ……。うん……怖い。拓の力にはなりたいなって思うんだ。でもね……怖いよ。銃も……拓たちが傷つくのを見るのも。私にはそれが耐えられそうにない」



 銃……殺人だけではない。レンの死も優美に大きな心の傷を残していた。



 仲間の死……そんなに簡単に乗り切れるものではない。



 優美は同じ女の子同士として、仲も良かったし、レンもよく懐いていた。



 ALと戦って死ぬのは仕方がない。この世界では、それは身近な死で全員その危険に晒されている。だが人を殺す、殺されるは特別だ。今回はそれが起きてしまった。



 それは拓もわかる。



 そして……これから行く先は無法地帯だ。そんな嫌な事件は起きるだろう。



「仲間」5



ということで時宗編後半と、優美編前半でした。


この二人は傷心組ですね。

仲間たちに大きな傷となったレンの死と、<人殺し>の十字架です。

まぁ……ALは人間ではないですし、あれと戦うのと人を殺すのは違いますね。

深刻なのは時宗より優美です。

元々銃好きでも祐次との縁も薄いし、時宗より普通の人間ですから。

時宗は明確にレンちゃんの死が心の傷ですが優美の場合は人殺し。

ある意味時宗の場合は失恋と後悔ですが、優美のほうが本能的な問題なので深刻かも。


そう考えると、あえて説明していませんが、皆と同じ条件で傷心して、それで自力で立ち直っている拓は結構すごい!


トビィ君の死を実は引きずっている祐次より、この部分は強いかも。もっとも祐次は反動力がすごいので、それで逆に医者としての使命に覚醒しましたが。


ということで次回も傷心優美の後半です。


優美の答えは見つかるのか?


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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