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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
七章拓編
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「仲間」4

「仲間」4


拓の仲間の訪問。

最初は啓吾。そして時宗。

残留組の啓吾の意思は。

時宗の心境は?

***




 5月16日 練馬


 この日から、拓は仲間たちに挨拶をして回ることを決めた。


 順番をどうするか考えながら朝食兼昼食を採るため学校の食堂に行ったとき、偶然啓吾と出会った。



 ということで、最初に話をしたのは啓吾になった。



 拓は啓吾を誘い、食堂の一角の席を確保すると、食事をしながら6月1日に出発することを伝えた。



 そろそろ拓が出発することは予想していたのだろう、そのことは驚かなかったし、啓吾も止めなかった。



「本当はさ。僕も半分くらいは迷っていたんだ。拓と一緒に行くことも考えた。でも、先日の事件で自分の力の限界が分かったし……僕じゃあ足手まといになるだけだから」


「啓吾は優秀だよ」


「ありがとう。でも、足手まといになるよね。いや、拓の気持ちは嬉しいけど……現実は現実さ。いいんだ、僕は人を撃つことはできそうにないから。射撃も皆の中じゃあ一番下手だし、好きでもないし英語も喋れないから。でも日本でなら、僕にできることが他にあるから」


「……そうだな……」



 ここで嘘をいうのはよくない。その事は拓も分かっている。


 今度の旅は根性論や意志の強さで乗り越えられるものではない。力不足は本人だけではなく周りの命も危険に晒す。拓はリーダーとして冷静に決断しなくてはならない。



 情に流されて、死んでしまっては意味がない。この点、拓は甘く考えていない。



「僕、何か政府の運営の手伝いをすることにするよ。元々政治学専攻でそっちのほうが自分の知識を生かせると思うんだ」

「うん。応援するよ。啓吾ならきっと日本を率いる人材になるさ」

「ありがとう」



 啓吾は苦笑すると皿に残っていた漬物を一つ口に運んだ。

 そして小さなため息をつき、拓を見た。



「一つ拓に頼んでいいかな?」

「何?」

「優美と時宗の様子、見に行ってくれないかな?」


「…………」


「あの二人、えらく落ち込んでいるんだ。優美はたまに学校で見かけるけど時宗はあれから一度も会っていないし。レンちゃんの件もだけど……多分……原因は<人を殺したショック>じゃないかと思う」


「…………」


「あの時<人を殺した>のは、拓と時宗と優美……だから」



 拓もそれは気になっていた。



 あの事件で拓たちは全員対人戦闘を行った。



 ALとの戦闘は違う。ALはいくら倒しても<殺人>ではないし、いくら倒しても良心は痛まない。だが<人殺し>は別だ。相手は人間なのだ。いくら世界が荒廃し崩壊したとしても、日本で<人殺し>をした人間は少ない。



 あの時、全員が戦闘に参加した。全員人と戦った。啓吾も篤志もレンも応戦したし、啓吾は中央大学爆破に参加した。もしかしたら誰か殺したかもしれない。だが、相手の顔を見て、殺意を持って確実に自分の手で殺したわけではない。



 拓、時宗、伊崎、姜、そして優美は狙って、はっきりと殺意を持って人を殺した。



 拓と伊崎はリーダーで責任がある。


 この二人が人殺しを命じた。二人は人の死に苦しむわけにはいかないし、それを乗り越えるだけの強靭な覚悟と精神力も持っている。


 だが時宗と優美は、戦闘力はあっても普通の人間で、兵士ではない。


 本人たちは理解した上で選んだ行動だが、命じたのは拓だ。


 皆自分の意志で戦うことを選んだが、人殺しの事実は消えない。


 時宗は……大丈夫だと思う。今は落ち込んでいるかもしれないが、元々強い男だし、そういうことに対しては割り切れる理性も意志の強さもある。それに元の相棒である祐次と再会するという目的もある。ガンマニアで銃を扱うことが本来人殺しであるという真理も知っている。



 だが優美は違う。



 男勝りでそこそこ高い戦闘力はあっても、中身はただの19歳の女の子だ。銃も世界が崩壊してから触った。射撃は得意でALは倒せても、<人を殺す>ことは考えていなかったに違いない。


「わかった。二人とも話してくる。それで二人が立ち直れるかどうかは分からないけど、俺に出来る限りのことはするよ」


「やっぱり拓は僕たちのリーダーだよ。頼むよ」

「うん」



 啓吾は啓吾なりに自分の道を選んだ。もう大丈夫だ。



 こうしてまず、最初の一人は終わった。





***





 もう何本目か。


 空になった酒瓶がそこらじゅうに広がっている。


 時宗は左手に握ったウイスキーの酒瓶を口に傾け、最後の二口を飲み干すと、空になった酒瓶を適当に投げた。


 どれだけ飲んだか、もうわからない。数える気にもならない。


 強い酒を飲んでも……全く酔いは来ない。


 時宗は黙って新しい……今度はブランデーの瓶を掴むと、一口飲んだ。


 ビールやワインのような弱い酒は、飲みたい気分ではない。


 玄関のチャイムが鳴りドアが開く音が聞こえたのはその直後だ。


 だが時宗は顔も上げなかった。


 現れたのが拓だったが、時宗は一瞥しただけで、また目線を酒瓶に戻した。


 部屋中籠もる酒気の匂いで、あれから時宗が酒浸りであることは聞くまでもなく分かった。


 入浴も碌にしていない。不精髭がそれを物語っている。元々髭が嫌いな男だ。



「お前、ちゃんと食っているのか? 時宗」

「一応な」


 食事は同居している篤志が毎食運んで持ってきてくれていた。だから食事だけは採っていた。

 最初は篤志も心配して色々時宗と話をしようとしていたが、時宗が「ガキにはわかんねぇーよ。飲ませてくれ」と多く語らないので、篤志もそっと見守ることにしていた。


 拓との再会も久しぶりだ。



「そのブランデー、祐次のだろ? 勝手に飲んでいいのか?」

「今更あいつが文句いうかよ。どうせ戻ってこねぇーんだ」


 拓は時宗の横に置いて借るガンベルトを見た。コルト・パイソンがそこにはある。あれから使った形跡はない。



 と……。



「俺ぁな。別に人を殺したことなんかどーも思ってねぇーよ。こんな世界だし、殺されるだけのことをした奴らだ」



 時宗はまた一口ブランデーを呷った。



「だけど、レンちゃんを死なせちまった」

「…………」

「死ぬなんて思っていなかった」



 時宗の心を傷つけていたのは<人殺し>ではなかった。レンの死だ。



 レンのことは、拓も大きな衝撃だった。レンは拓を助けるため身を挺し致命傷を負った。そもそも連れていくべきではなかったし、防弾ベストをユイナに渡す許可を出したのも拓だ。拓も気持ちはわかる。


 拓だって気持ちの整理に数日かかったし、今も後悔がないわけではない。



 だが時宗の葛藤と後悔はもっと大きく、そして別の次元にあった。




「仲間」4でした。



ということで……最初は意外にも啓吾です。

まぁたまたま学校で最初に出会ったからですけど。

やっぱり皆拓の事も気にしていきたい気分はあるけど、現実には自分の力量もあるし恐怖もあります。


そして時宗。

やっぱり落ち込んでいました。

レンちゃんと時宗の、実らなかった関係と後悔。

結構時宗も口で色々いいますが真面目な青年です。

このあたり考えると、祐次はやはり特殊ですね。キッパリしてますし。


この後は時宗編後半です。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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