「エノラ」2
「エノラ」2
エダに投与されたエノラを作ったのは<BJ>!
その事実を知り驚愕するエリス。
実は超反則級のエノラ。
エダは間違いなく何か覚醒する?
それにしても暴れ放題の神たちに頭を抱えるエリスだが……。
***
「パラリアン用の強化タイプ<トゼック・エノラ>がある。地球人は連枝種族だからパラ用が適応できたんだろう。それにしても順応するまで本当は時間がかかるはずなのだが」
「<BJ>が地球人用に特別に作った試作品と言っていたが?」
それを聞いたエリスの表情が一変した。
「<BJ>が君用に作ったのか!? <BJ>がパラのエノラを君に渡したわけではなくて?」
「そう言っていたが? JOLJUが俺のものは<モセパレレ・エノラ>、今回エダに投与したのは<パーセットグラッテ・エノラ>だと言っていた」
「ちょっと待て! 本当か!?」
「違うのか?」
「そんな名前のエノラはない! それはパラ語だ。君のものは<学習覚醒>という意味でエダ君のものは<才能覚醒>という意味だ。それだけならそんなに問題じゃない。問題なのは人類の科学で作ったのではなく<神>が作ったものということだ! 道理で順応時間がないわけだ!」
「まずいのか?」
「君はJOLJUや<BJ>がどれだけ特別か、そこは本当に理解していないんだな! 神が作ったエノラなんて反則もいいところだ。しかもLV3だぞ!? 簡単に言えば……天井がない! 認められている上限無視だぞ。それが<BJ>だ。JOLJUに至ってはその上限無視すら超越して天井どころか空を飛び越えて銀河まで広がっている宇宙のようなものなんだぞ!?」
聞けば聞くほど、本来のJOLJUは完全に次元が違うらしい。
もっとも……ここまで次元が違うから、逆に「大人げないからなにもしない、できない」が成立するのだろう。
「しかし別にアメコミ・ヒーローになったわけじゃないぞ。腕力が数倍になったとか高速移動できるとか空が飛べるとか知らない知識や力が湧いて出てきたわけじゃない。ただ自分の知識通り思ったように体が動く、その程度だ。勉強も自分でしないと身につかない」
「君のものは<学習覚醒>だ。元々高い才能と能力があったのも効果に現れているのだろう。そうか、そこはJOLJUが調整したのか……だがその効力はまだ続いているはずだ。今回君はゲ・エイルと戦った。恐らく対ゲ・エイル戦用に能力は上がっているはずだ。君の場合経験が即能力に上書きされるタイプだ。先日の戦いを見る限り、君の戦闘力は通常の人間より20%ほどリミッターが上がっている。人間は基本普段脳の全能力は10%、補助として60%ほど使うが、君の場合そのリミッターが外れて全能力30%から40%まで拡張されている。いや、強化型エノラというのは元々そういうものだが、かなり高度な科学力が必要で我々の科学でも安定させて持続させられない。だから調整と順応期間が必要だし必ず才能が開花するわけでもないし投与された本人が才能の増幅についていけず精神的に潰れることもある。だが造ったのが<神>であればその問題がない」
「火事場のクソ力が常に出せるようなものか」
そういえばイタリアで<BJ>からエノラをもらってそれを飲んだとJOLJUに話した後、JOLJUは医学書をかき集めて祐次にすぐに読むよう勧めた。あれは<学習覚醒>だと知って医術の技術を上げさせるためだったのだろう。
その直後中国系の生存者と接したとき最初は筆談でやりとりしていたが、その後簡単に中国語を教わっただけで完璧にマスターした。英語も今では日本語より分かる。これは全部エノラの力だ。ドイツのAL大侵攻やタイプ4討伐を成し遂げられたのもその影響で強化された成果だったのだろう。
「問題なのは<神>はそんなものを人類に与えてはいけないという大原則が無視されたことだ。しかし……もう投与されてしまった後だ。文句もいえん。JOLJUだけじゃなく<BJ>もなんてことをするんだ」
エリス的には、エノラの性能より<神>の関与の度が過ぎていることが問題のようだ。
この<神>たちは宗教上の神ではなく、生物として超越した別次元の超生命体たちで、本来人類に関与することはない。
便宜上他に適切な言葉がないので<神>と呼び、その中で区分をわけている。
「しかし超人になったというより才能が開花したという感じで特別感はなかったぞ」
「それこそ<神>が作った完璧なエノラの力だ。普通は急成長した自分の能力に順応するのに時間がかかるし、場合によっては拒絶反応も出るし、不安定でマイナスに働くこともある。リーですら今の強化に馴染むまで半年以上かかった。突如力に目覚めると人間の人格のほうに影響が出る。それが強化エノラの問題点であり限定でしか許可されていない理由だが、<神>が造ったのならばそれがない。反則といっているのはその点だけだ。ようはオーバーテクノロジーすぎてルール違反なんだ。やりすぎると強化ではなく人間そのものを違法改造することになりそれは禁止されている。しかも本来はその文明の科学が上限だ。神の介入は許可されていない。受けた君に罪はないが施した<BJ>……どうなっているんだ」
エリスは祐次に投与されたエノラの性能より、<神>が出しゃばり過ぎている現状に憂慮を覚えている。
これは<神>と呼ばれる超生命体が、本当はどれほどの存在なのか理解できてない祐次には今一つ分からない。
「まぁ……地球の神話や伝承じゃあ、神が人間に何か与えるって話はよくあるから、俺もそんなに気にしていないのかもしれん」
「そこが一つ、大きな錯誤だ。いいか、クロベ。君がいう神話や伝承の神はせいぜいLV6かLV5だ。このレベルの神なら驚かない。テラサッテも高くて5000ほどで所詮その程度の存在だし文明関与権もある。だが<BJ>は遥かに上のLV3はテラサッテが50憶はある! JOLJUに到っては本来LV2だ! 本来のテラサッテは以前3000億といったが銀河連合の科学で測定できる数値の上限がそうなっているだけで実際は推定3000垓以上の測定不能! 桁も立場も違いすぎる!」
「問題か?」
「こう言えば分かるか? JOLJUも<BJ>も、出身母星であるパラ星系消滅の時ですら自重して何もしなかった! しかし本気になれば銀河でも全宇宙でも自由に作れる存在だ! 故郷の消滅ですら自重したのにこのテラ星系の事件ではALや<ハビリス>という侵略行為に関与しただけでなく、直々にテラリアンの君にエノラまで与えている! なんであの二人がそこまでする!? 何がある!? しかもやっていることは真逆だ。侵略したいのか滅ぼしたいのか助けたいのか、どっちだ!?」
「知らん」
「不明点といえばロザミア様もだ。君には報告するが、君たちが脱出した後ゲ・エイル船はロザミア様が撃墜して完全に消滅させた」
「ああ、本人と会って、本人から聞いた」
「この大陸にはまだ二隻ゲ・エイルの船があり、攻撃射程圏内だ。ロザミア様の<ヴィスカバル>ならば10プセトでALを使わずとも完全消滅させられる。敵対するならなぜそこまでしないのか? 逆も言える。もしゲ・エイルが本当に全面降伏して投降すれば<ヴィスカバル>に収容して、このテラ星系から追い放つ事も出来る。こっちならば我々<パーツパル>も協力出来るはずだが、それもしない。邪魔ならロザミア様は私にそう要請すれば済むだけの話なんだ」
エリスはトントンと額を叩く。
このエダ誘拐事件はエリスにとって頭が痛い出来事の連続であり、神の暴走は目に余る。宇宙の常識からかけ離れすぎている。
JOLJUも<BJ>も、そこまで大人げないとは思えない。
そしてロザミアの真意が何か分からない。
間違いなく、そこまでする理由がある。
しかし、これが皆目見当がつかない。これがずっと引っかかっていることだ。
多少ヒントはある。
JOLJUは言った。
それぞれ、特別な試練がある。テラリアンにもパラにもエリスたちにも、ク・プリやゲ・エイルにも。試練をクリアーすることによって自分たちで生存の運命を掴め、という意味なのだと思う。それを平等に用意している点はさすがに<BJ>は<銀河の神>だ。
だが、それぞれの科学文明レベルに合わせた試練であれば難易度は相当高い。
そして推測だが、すべての試練は今回のテラ星系事件の全貌と繋がっている。
「これから慎重に解き明かすしかない。私だけでなく君の課題でもある」
「それより今聞きたいのはエダのエノラについてだ。昨日投与したばかりで効果が分からん。<才能覚醒>ということは、俺みたいに才能が一気に開花するのか?」
どういう経緯でエダに投与することになったかは、すでに簡単に伝えてある。
「恐らくそうだろう。話を聞く限り、元々君用に造られたものではなく、JOLJUが回復用の非常手段として使ったようだから、エダ君を覚醒させることが第一目的ではなかった。<才能覚醒>はいわば副作用だが、どんな才能が開花するかはわからない。私は彼女と長く接していないが、戦闘タイプには見えないしまだ成長期に入ったばかりの子供で超人化するには肉体が順応しない。君と違って元々戦闘スキルが高いわけではないのならば何が覚醒するか。料理や芸術面が覚醒する場合だってある。それも才能だ」
「そりゃあそうだな。運動神経はいいし賢いし銃の才能はそこそこあるが……女の子としての才能のほうが豊富で戦士向きではないと思う。芸術系ではないと思うが、まだ12歳でどんな才能が秘められているかわからない」
「凡人からいきなり天才になったりはしないが知力は上がる。程度の差はあるが。私にも分からん」
「…………」
「しかしこれだけは覚えておいてくれ。作ったのは<BJ>だ。何かの才能は確実に開花する。その幅は本人が持つ才能の限界値が上限で、大した才能がなければそれほど大きな成長はしない。ただ普通のエノラと違って副作用が起きないことだけは保証する」
「…………」
勇気や運動神経は平均以上だが、ずば抜けた戦闘スキルはないと思う。
だが祐次もそれ以上は読めない。
まだエダは自分の才能が自覚するには幼く経験が足りない。
運動神経もいいが、祐次のように元々ずば抜けているわけではない。エダの運動神経は常識の範囲だ。
JOLJUも、祐次がエノラを飲んだ時「エノラの順応には自分の才能への理解が必要」と言っていた。
才能がないことに関しては何も影響が出ないことも確認している。現に祐次は挑戦してみたが、今でも料理などの家事は一切出来ないし、才能はあったが自身が望まなかった音楽の才能はほとんど伸びなかった。
だが、エダは普通の少女とは違う。
聡明なだけではなく、何か特別な力を秘めているような気がする。今でも祐次だけではなく多くの大人たちがエダの特別な存在感や才能の片鱗を感じている。
こういう点が、アメコミによくあるような超人薬との違いか。
すべてが都合よくすべて全自動で成長するわけではない。
「エノラ」2でした。
まぁ薄々わかっていたことですが、エダに使われたエノラは本来作ってはいけない神が作った代物。祐次も使っていますが。
実はこの二人のエノラの場合、才能成長上限がない!
しかも自動上書きタイプなので、「戦えば戦うほど強くなる」ワケです。祐次の強さの秘密がこれで一つ解明しました。まぁ漫画と違って強い相手と戦ったら次は上回るわけではなく、あくまで上限値が上がってそれに合わせて成長していくわけで。
前回ユージのLVは現在LV90といいましたが、普通の人間はLV50が天井でそれ以上上がらないけど、ユージは天井がないということでLV200とかもあり得るわけです。
これと同じく、なにかは分からないけどLVが一気に60くらい跳ね上がったのがエダ!
エダの場合は才能覚醒なので学習がなくてもいきなり上がります。
そしてこの章でさんざん言われてきたのが「実はすごい神様JOLJU」で、実は存在自体がそもそも反則(笑 そして1ランクしか違わない<BJ>でも十分反則。なのにこの二人の神……というか超生命体は好き勝手に動いている問題がエリスを驚かせてます。
これでも二人とも、かなり自制はしているんですけどね。
JOLJUなんか、これまで色々すごいことをしてきましたが、本人の感覚的には「ただのJOLJUだもん」といって神の力は使っていないつもりです。あまりに微調整すぎて本人には自覚がないくらい使っていないレベルなのですが、これで普通の神よりも上です。
さて、次回は帰宅した祐次。エダとの対面編とエダの覚醒確認編。
エダはこんなすごいエノラが投与されたことは知りません。
エダの才能は何か!? 本当に料理です、とかいうオチもあり得ますがw(というか「黒い天使」で部分的に書いてますが、実は「黒い天使」の能力も半分くらいJOLJUが封印しているレベルですw)
ということで山場は越えましたがもうしばらくお付き合いください。
実はこのエダの覚醒が物語の鍵になります。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




