「目的」2
「目的」2
そこは山奥にある町。多くの中国人生存者たちがいた。
そしてこの町に君臨していたのが自分たちの班長、矢崎。
拓たちは熱烈な歓迎を受ける。
が……?
***
場所は広東省の山間にある田舎の小さな町だった。
多分、元は人口4000人くらいのどこにでもある小さな町だっただろう。小さな川が町の真ん中に流れている。
そして、町の周囲は木材の壁で囲まれ、出入り口は町の南の大通りに面した一箇所だけ。まるで中世の山城のようだ。年季が入っていて、壁を作ったのはもう何年も前だろう。
入り口のところには櫓があり、そこにはライフルで武装する見張りの男が二人いた。
彼らは優美の姿を見つけると、黙って門を開いた。
「すげぇーな。顔パスか」
「取り仕切っているのが矢崎さんだしね」
「この集落のボスさ」
「10日でこれを作ったのか?」
「ここが出来たのはもっと前らしいよ?」
中に入ると、町は荒廃し、所々にテントや小屋があった。そして疲れ切った中国人たちが生活しているようだ。いたる所に長さ3mほどの竹を削った槍が置いてある。
あれは<AL対策>だ。突然現れたとき槍で突く。刺したら槍の先端は溶けてしまうがタイプ1が数体であれば対処できる。どんなに塀で囲っても奴らはいつのまにか侵入する。だから塀の中でも対策は必要で、この竹槍は日本でよく使った手だ。
やがて大きな壁に囲まれた場所に出た。町の囲いとは別で、こっちは町の壁より頑丈で中の様子は見えない。手作りの鉄の門が
車はその入り口で止まった。
すぐにライフルを持つ見張りが顔を出し中国語で何か喋っていたが、相手が優美と啓吾だと分かると、すぐに引っ込みゲートが開いた。
「VIP扱いだな」と時宗。
「日本人特権だよ」と啓吾。
「入れば分かるわ。すごい基地だから」
ゲートが開き、車は中に入った。
中は外で見たよりも広く、東京ドームくらいの広さはありそうだ。
中央に豪奢な屋敷があり、そして無数の倉庫やタンクローリーがある。車も何台も並んでいた。そして恐らく中国人だろう、武装した男たちの姿が何人も見える。
拓は注意深く周囲を見回す。
……どうも喜ばれている様子はないな。恐れられているようだ……。
優美は車を止めた。
すると、屋敷から二人の人影が飛び出してきた。
一人は見知った中年の男……矢崎浩一だ。そしてその傍には顔の半分を紺の布で覆った16、17歳くらいの少女がいた。
矢崎は私服で、高い絹の服のシャツと上着姿だった。だが腰には日本時代から愛用していたコルト・ガバメントM1911A1が吊らされていた。
「驚いたな! 生きていたのか、拓! それに福田か!?」
四人は車を降りた。矢崎は両手を広げ歓迎の意を表した。
「矢崎さんも無事だったんだな」
拓も笑みを浮かべ、やってくる矢崎と握手を交わした。
「一年ぶりの再会だ。生きているとはな!」
「一年?」
「なんだ。拓。お前も最近なのか?」
どうやら矢崎は相当前に飛ばされたらしい。
「福田も生きているということは……黒部もいるのか?」
「いや、第六班は俺だけだぜ。祐次のことだ、どこかで生きているだろうけどよ」
「最後に通信で生存は確認した。祐次が生きていることは間違いないよ。ただ、ここにはいない」
それを聞くと矢崎は溜息をついた。
「黒部がいてくれたら最高だったんだが、うまくはいかんな。この時代、医者は何より貴重だからな。だがいい、よく生きていた。歓迎するぜ」
矢崎は両手を広げ屋敷を指差すと、ニヤリと笑った。
「まずは旨い飯でも食わせてやる。日本でも中々食えないご馳走だ。楽しめ」
そういうとし矢崎は踵を返した。
そして拓たちも、戸惑いつつもその後に続いた。
***
用意された昼食会は、ちょっとした宴会だった。
炊き立ての米の飯、新鮮な野菜と魚の中華スープ、鶏と豚肉のロースト。魚のから揚げ、大根と白菜の煮物、サラダ、点心、そして酒や冷えた茶などがテーブルの上に並んでいた。
世界が滅ぶ前は3000円ほど払えば作れる料理だが、今は肉屋もなければ八百屋もない。10倍以上の価値があるだろう。もっとも……この世界にはすでに<金>はないが。
「凄いご馳走ですね、矢崎さん」
拓は嬉しそうに笑う。席は5人分用意されている。
まずは矢崎が上座に座り、拓たちも座るよう促す。
拓と時宗が並び、優美と啓吾が並んで座った。
「ホント、すごい。私たちの時はこんなご馳走なかったのに」
「そういうな、優美。第八班の生存者が集まった記念だ。酒も飲め! ビールは冷えていて旨いぞ」
「俺、第六班だけど参加してOK?」
「異星人の戯言に付き合った同志だ。まぁくつろげ、福田」
「時宗でOKよ」
「そういや、お前ら若造はみんな下の名前で呼び合うんだったな」
苗字で呼び合うより名前で呼ぶほうが絆が生まれるから……と、いうのが日本生存者の防衛責任者である伊崎 透の提案だ。
伊崎と同世代の矢崎はそんな青春ドラマのような提案に賛同はしなかったが、若者たちには親近感も沸くし仲間意識も高まることもあって広く浸透していた。だから拓たちはみんな苗字ではなく名前で呼び合う。
「ここは日本じゃない。まぁ気張らず飯を楽しんでくれ」
矢崎はそういうと笑顔で自分の皿にサラダを装った。世界が崩壊した今では、肉より野菜のほうが価値は高い。
矢崎が食べる用意を始めたので、優美と啓吾も無言で自分の皿に料理を取る。
と……拓は、二つのことに気がついた。
一つは今のところ無視することにして、もう一つの事をさりげなく口に出した。
「矢崎さん、席は五つのようだけど……」
そういうと拓は矢崎の後ろに控えている眼帯の少女を指差す。
「彼女の席は?」
「…………」
「彼女は一緒に食べない?」
少女は拓の言葉が分かるようで、僅かに頭を拓に向けた。
矢崎は小さく笑うと、中国語で彼女に向かって何か囁く。少女は頷くと、黙って部屋を出て行った。
「今日は日本人の宴だ。梓 怜。あいつは日本留学経験があってな。日本語が分かる。通訳としていつも一緒だった。その習慣でな。しかし今日は日本人の宴だ。通訳はいらんだろう」
そういうと矢崎は豪快に笑い、自分のグラスにビールを注いだ。
「どうせならレンちゃんも一緒のほうが盛り上がったのに」
「あの子、未成年だからお酒は拙いだろ?」
拓と時宗はお互いのグラスにビールを注ぎあいながら囁きあう。
「この期に及んで未成年の飲酒もへったくれもねぇーだろ?」
「女の子酔わせるのはいい趣味じゃないよ。そんなことより今は食おうぜ」
「ま、そうだな」
全員のグラスに飲み物が揃ったところで、矢崎は全員を見回しグラスを高く上げた。
「じゃあ! 第八班再集結に、乾杯!」
その掛け声にあわせて全員「乾杯」とグラスを鳴らした。
こうして宴会は始まった。
「目的」2でした。
ということで生存者の村というか町登場!
実はこれまで他に生存者が沢山いることは書いてましたが、実際に生存者の町というか村が出てきたのはこれが初めてです。第一章はエダたちだけの話でしたし。しかし第二章の冒頭を思い出してもらえるといいですが、人類は12万人生き残っています。当然集まっていて、それぞれのルールでサバイバル生活しています。
今回重要なのは矢崎とレンですね。まぁ明らかに意味ありげですし。
ちなみにレンは16、17歳設定! 一般的なラノベが10代メインなんですが、本作は20代が多いので10代は貴重です。そのあたり20代でも若造扱いで本作はそこはリアルに描いています。
ということでこれからこの町での生活編になりますが、どうなるのか!?
ちゃんと事件が待っています。
とはいえ次回は宴会の続きになりそうですが……。
拓ちんの活躍をこれからも応援してください。
感想や疑問などお気軽に。答えられるものには答えます。
これからも「AL」をよろしくお願いします。