「汚された天使」
「汚された天使」
生体実験場!
ついにエダを見つけた祐次とJOLJU!
なんと、エダも実験体に!
激怒するJOLJU!
そこに現れたゲ・エイルは、特別な<王>だった!
***
「この場にゲ・エイルがいなくて良かった。いたらミンチにしている」
そう答えた祐次は、すぐに当然のことに気づいた。
人間の価値や人格など微塵も認めていない傲慢なゲ・エイルだ。エダがどんな目に遭っているか……!
「エダ!」
思わず祐次は駆け出す。
見える限りエダの無事な姿はなく、ここにはカプセルしかない。
つまり……この中のどこかだ。
そして……祐次は見つけた。
無残に引き裂かれるように剥がされて捨てられたエダの衣服を!
「エダ!!」
その傍の大きなカプセルの中に、エダはいた。
「…………」
エダはカプセル内に浮かんでいた。
何か分からないが、カプセルの中は液体で満ち、その中にエダはいる。窒息はしていない。
服は剥ぎ取られ、申し訳程度の病理解剖用のような大きな単衣を着せられている。いくつものチューブが体に取り付けられ、血管が青く光っていた。
ただ、他の検体と違い、酸素マスクのようなものが取り付けられていた。
生きている。いや、生かしている。
だが、こんな変わり果てた姿になるなど、祐次の想像にもなかった。
「…………」
祐次にはどうしていいか分からない。
一方、激怒するJOLJU。
こいつだけは、ゲ・エイルが何をしたか全部分かっている。
「なんてことをしやがるんだJO!! もー!! オイラやエリスの警告、無視しやがって!! 生命維持装置をつければいいってモンじゃないJO!」
ついさっき祐次に「冷静に」といった自分の言葉は忘れたらしい。
いや……祐次には分かった。
これでも連中は気を配ったのだ。
JOLJUとエリスの猛抗議があったから、ゲ・エイルはエダに生命維持装置をつける気になった。あれがなければ連中はエダの命など考慮もしていなかった。殺す気はないが死んでも構わない……そんな扱いだが、さすがに抗議を受けて拙いと判断し、死なないようには手を打った。
すぐにJOLJUがカプセルに取り付き、何か操作をし始めた。
何をされたのか分析している。
「エダは何をされた!?」
「……生体反応の分析と……何か装置を埋め込もうとして……あー!! 人格を乗っ取ろうとしてたな!! 馬鹿ゲ・エイル!! バドンド・エノラが地球人に適合するはずないじゃん! 自分たちの科学のレベルくらい弁えろだJO!!」
これは保護でも人身目的の誘拐ではなく人体実験だ。
「助けられるか!?」
「今から解毒と除去してみるけど、一部はエダの細胞に侵食を始めている! 時間が足りないしここの機材とエネルギーじゃあむつかしい! けどやる!」
叫びながらもJOLJUはすぐに機械の操作を始める。
カプセルの中の液体がオレンジ色に光り始めた。
祐次は忌々し気に他のカプセルを見た。
同じような処理をされて苦悶の表情を浮かべ死んでいる地球人がいる。
ゲ・エイルにとって人類は人ではない。人の扱いはされていない。動物扱いだ。
JOLJUとエリスの介入で「殺さない」処置はしただけで、エダの安全など連中は考えていない。
「エリスの船なら治せるか!?」
「多分できるけど保障ない。……ロザミィ……<ヴィスカバル>ならなんとかなる、オイスラが作った反則レベルの救命装置があるから。けど、多分ロザミィはエダを返してくれない! てか時間ないJO」
<ヴィスカバル>のほうが科学力は高い。何より元々JOLJUの船で、特別な装置も積んでいて銀河連合のルールにも縛られず何でもありだ。
祐次は思い出した。
ロザミアは30分でエダを連れていき、この船を消滅させると言っていた。「何が起きても関係はない」と言っていたから、ロザミアはエダの身に何が起きたか知った上で来たのだろう。それでもなんとかできる技術があったのだ。
……エダのことを考えれば……最悪はあの女に託すしかないのか……!
その時だ。
奥の壁が開き、一人のゲ・エイルが姿を現した。
銃を構える祐次。
現れたゲ・エイルは、これまでのゲ・エイルよりやや小柄で、手に杖のようなものを持ち、科学者のような服を着ていた。
「ゲ・エイルの<クグ・ドベンバ>! 戦闘タイプじゃなく研究者タイプのゲ・エイル! マッドサイエンティストだJO!!」
JOLJUは一瞥し説明する。作業は止めない。
もう15分もない。
戦闘タイプでないのは、体格と雰囲気で分かる。
だが今の祐次にとって、こいつこそ諸悪の根源だ。
<ゲ・エイル・クグ・ドベンバ>は、JOLJUと祐次を見るなり何か早口で喋り始めた。相変わらず連中はゲ・エイル語でむろん祐次には何を言っているか分からない。
JOLJUの作業を制止しないのは、JOLJUの本来の存在を知っているからだろう。
「悪意はない、この程度は優性種族である自分たちの権利、ええっと……あとは通訳したくない事ぺっちゃくってるJO」
「こいつらが俺たちを見下しているのはわかる。今更説明はいらん」
構わず<ゲ・エイル・クグ・ドベンバ>はゲ・エイル語でJOLJUに何か喋っている。言い訳しているようであり文句を言っているようだ。途中まで聞いていたが、あまりに傍若無人でついにJOLJUは無視して作業に集中しはじめた。これだけでも酷い事を言っていることは分かる。
「日本語か英語で喋れ。でないと今すぐ殺す。JOLJU、訳せ」
祐次の言葉をJOLJUはゲ・エイル語で訳した。
すると<ゲ・エイル・クグ・ドベンバ>は大声で不快な高笑いを上げる。
と……。
「地球人、会わせる」
<ゲ・エイル・クグ・ドベンバ>は日本語で言った。
祐次は<ゲ・エイル・クグ・ドベンバ>を睨んだ。
<ゲ・エイル・クグ・ドベンバ>は腕のデバイスを操作すると、左手を右側の壁に向けた。
すると、壁は光り、モニターになった。
そして仰々しい、これまで見たことのない派手な装飾をつけた、大柄で威厳ある風貌のゲ・エイルが映し出された。
「<ミドレクト・エアラ>」
「<ミドレクト・エアラ>?」
「ゲ・エイルの指導者で最強の勇者だJO」
派手な風貌と装飾、そしてこれまでのゲ・エイルより大柄の体格……成程、これが生き残ったゲ・エイルのリーダーか。その姿は正に王だ。
「王自ら地球に来ているのか?」
「うんにゃ。こいつら、船団の単位で活動しててその船団の中の王。ちゃんと母星に政府も皇帝もいる。<ミドレクト・エアラ>は船団における王様。立場的にはエリスやリーと変わらないけど、儀礼上は一応王扱いされてる。そんなこと今どうでもいいJO」
が……意外にも<ミドレクト・エアラ>は、まず頭に手を置き、会釈するかのように腰を屈めた。
『バゼ・クドリアダ、JOLJU、ダゼ<ミドレクト・エアラ>プトス』
「あっそ、だJO」
通訳がなくてもわかる。<ミドレクト・エアラ>はまず神であるJOLJUに対しては敬意を払い名乗りを伝えたのだろう。さすがに宇宙文明のリーダーともなればJOLJUが本来どういう存在か知っていて敬意を払う。
挨拶が済むと<ミドレクト・エアラ>は威風を正し、威厳に満ちた態度で何か喋りだした。むろん地球語で喋るようなことはなくゲ・エイル語だ。
……どうせろくな話はしていない……。
JOLJUが一々通訳しないから、それくらいは分かる。
話は途中だったが、祐次は背を向けた。
「もういい。俺に聞かせるつもりがないなら通信を切れ。そしてここに呼べ、殺してやる」
『いいか、地球人』
これは日本語だった。
その時だ。船内に轟音が起きたかと思うと大きく揺れた。
まだロザミアの撃墜宣告まで10分ある。増えたALが船の動力に気づき破壊を始めたようだ。
『ケースミ・ドン・テラリアン、セバニ』
「何?」
「お前の名前を、告げろ」
と、後ろで傅いていた<ゲ・エイル・クグ・ドベンバ>。
「黒部祐次だ」
『クロベ=ユージ、<クアンデデス>、ヨウニ・クセバ<ラマル・トエルム>ニシタ』
「何?」
その直後、船体がさらに大きく、激しく揺れた。船体が少し斜めになり、重力の向きが変わった。
すぐに船の重力制御装置が働き、通常重力に戻る。そこはさすがに宇宙船なだけある。
そして通信も終わり、モニターは消えた。
「汚された天使」でした。
エダ発見!
ここまで前振りがあれば当然ですが、やっぱり実験体にされていました!
しかも失敗している様子。これはJOLJUだけしか分かりません。そこは科学のレベルが違います。
さりげに今回の話でそれぞれの科学力の差の垣間見れることができます。
JOLJUは別ですが、ロザミアはこの結果をスキャンで知っていました。エリスですらそこまで分かっていませんが、ただ誘拐したのではないことは分かっています。ク・プリ、地球人には全く分かりません。
なので
JOLJU>(とんでもない壁)>>>ロザミア>>エリス(銀河連合)>>ゲ・エイル>>>ク・プリ>>>>>地球人
です。
エダを殺さないようにしたことだけでも連中からしたらかなり気を使っています。
そして今回、祐次を認めました。
しかしエダは助かるのか!?
いくら祐次が医者でもこれは手が出ません。
勿論JOLJUが神の力を使えば治せますが、それはポリシーに反します。JOLJUの科学力を使うにはここは機材がない。
問題はエダは一体何をされたのか。
これがこの物語でも大きなカギになります!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




