「離脱と乱入」
「離脱と乱入」
消えた<グビドン>!
直後、二人を襲う!
負傷したリーの離脱。
そして……ここにきて最大の敵の乱入が!
***
と……。
「有機体は消滅して、バリアは最大出力でなければ防御もできない?」
祐次は顔を上げた。
だとすれば、<グビドン>はどうなる?
周りに何か金属のチューブはあったが、包まれていた殻は有機体ではないのか?
祐次は天井を見た。そこに<グビドン>はおらず、チューブと生命維持装置のようなものだけがぶら下がっている。
……<グビドン>も死んだのか……?
……いや。そこまで馬鹿か? ゲ・エイルは……!
反射的にDEを抜く祐次。その様子を見て表情を引き締めるリー。
その時だ。リーの後ろで何か動いた。
「リー!!」
祐次は叫び、リーが振り向いた時だ。
何かがリーに激突した。
そこにいたのは、半分溶解し、胴体と2本の足だけになった<グビドン>だ。
そして半分溶解した<グビドン>は他に3体!
こいつらは死ななかった。
分子消滅光線で殻と防御力の弱い触手は消滅したが、ゲ・エイルの生物兵器は完全には死ななかった。そしてその戦闘意欲は全く衰えていなかった。
一体の<グビドン>はリーにトドメを刺そうと爪を振り上げ、残りは祐次のほうに殺到する。
「JOLJU! ショットガン!! リロード」
叫びながら祐次はまずリーを襲った<グビドン>をDE44で狙撃する。さすがにダメージがあって装甲も薄くなったのか、3発で横向けに倒れた。
JOLJUが投げたショットガンを受け取ったときは、もう3体は至近距離だ。
まず祐次はストックを逆手に持って渾身の力で殴り倒し、倒れたところにすかさずショットガンを2発ずつ撃ちこむ。そして最後にDE44で44マグナムを3発ずつ撃ちこんでトドメを刺した。
もう対<グビドン>戦には完全に慣れた祐次にとってこの程度何ともない。
だが……。
「リー! 無事か!?」
「ああ……生きている。だが……やられた……」
リーは起き上がるが、腹を押さえている。そこからク・プリ特有の赤黒い血が流れ出ていた。
祐次はショットガンをJOLJUのほうに投げると、すぐにリーに駆け寄る。
傷は腹で爪が貫通したようだ。
「大丈夫だ。致命傷じゃない」と苦痛で顔を歪めつつ答えるリー。
致命傷ではないか深手だ。地球人ならば大腸破裂といったところか。
祐次は医者だが、ク・プリの医者ではない。それでも傷の状態くらいはわかる。
「俺は地球人の医者だ。ク・プリの体は専門じゃないが、レ・ギレタルから多少は聞いている。内臓は俺たち地球人とそう変わらないし、地球人の薬も一部効果がある」
そういうと祐次はナイフでリーの服を割き、傷口を触診で確認する。
確かに臓器の損傷は軽微で出血も多くはない。
しかし、もう戦うことは不可能だ。
「リー。ド・ドルトオの所に細胞再生装置がある。元々ク・プリ用だ。そこで治療すればアンタは助かる。だがとりあえず痛み止めと簡単に傷を縫合する。地球のモルヒネはお前たちにも効果はあるらしいが少し吐き気がするぞ。金属アレルギーはないはずだから、外科用ホッチキスで傷を止めて包帯で縛る。針は治療後引き抜いて除去してくれ」
そういうと祐次は背負ったバックからモルヒネを取り出し、半分ほど打って注射器を捨て、手早く保護シートと包帯を巻ききつく締めあげる。これで痛みと出血は少し抑えられるはずだ。
「エリスが渡した緊急転送装置があるだろ? お前の転送先はド・ドルトオたちのところになっている。戻ればすぐに治る」
「お前、なんて手際だ」
祐次が医者だと知っていたが、その手際にもリーは驚嘆した。地球人の治療は何度も見てきたが、こんなに手際よく、しかも未知の異星人なのに平然と処置してみせる祐次の度胸と腕には言葉が出ない。
「お前、本当の本当に……地球人か?」
今日一日で何度聞いたかわからない台詞だ。
「ああ地球人だ。そして生粋の日本人だ。何度も言わせるな。JOLJU! エリスに通信してド・ドルトオたちに連絡してくれ。リーが負傷してそっちに戻る。死なないが重傷だ。最悪治療だけはエリスに頼んでくれ」
「分かったJO!」
すぐにJOLJUはスマホを取り出し通信を始める。
「すまん。最後まで手伝えなかった」
「気にするな。色々助かった。元々俺の問題だからな。それにク・プリのリーダーに死なれても困るし、ク・プリ脱出のためには最低10人必要だと聞いた。アンタ一人でも死ぬと残りのク・プリが脱出できなくなる」
「すまん」
「こっちこそこれまで助かった。いつかこの借りは返す」
「俺たちがお前から得た借りのほうが遥かに多いから気にすることはない」
祐次はリーを抱き起した。
そして彼が使っていたレミントンM870から弾を抜き、杖代わりにさせる。
「俺を信じろ。絶対エダを無事取り戻して、NYに戻る」
「分かった。無理をするなとは言わない。だが、死ぬなよ」
「話、ついたJO~! エリスが<パーツパル>でフォローするから緊急転送装置を使って脱出しろーだって。もし治療できなかったら連絡くれたら<パーツパル>に収容するって~」
祐次はリーの肩を叩いた。
「戻れ」
「成功を祈る、クロベ」
そういうとリーは懐から煙草箱大の黒い箱を取り出し、その真ん中を強く押した。
10秒後……リーの体は細かい粒子の光に包まれ、やがて姿を消した。
無事リーは脱出した。後はエリスとリーで上手くやるだろう。
まだJOLJUとエリスは通信で何か喋っていた。祐次に聞かれたくないのか、会話はパラ語のようだ。
JOLJUは相変わらずいつものJOLJUだが、エリスは何か不機嫌そうだ。
祐次がやってくるのを見て、「さーらばーだJO」と通信を強引に切ってしまった。
「お前、何を話していたんだ? 何を言い合っていた?」
「んー、ちょっと怒られていたJO。でも、今回はユージとエダだし、オイラも激おこぷんぷん丸だし」
「話が見えん」
「保険が到着したみたいだJO」
「保険?」
そういうとJOLJUはゲ・エイル船のコントロールパネルに取りつき、色々操作をしはじめた。
すぐに部屋の右側にあったモニターのうち、二つに電源が入り、外の風景と、何かレーダーのような画面が表示された。
「やりすぎなきゃいいけど、エダのことはさすがにみんな激おこぷんぷんだし!」
「お前だけじゃないのか」
「皆怒ってるJO」
祐次も何か見つけた。
それは外の風景を映すモニターだ。夜空に白い飛行物を見つけた。
サイズは分からない。だが地球の物ではない。
「あれが<パーツパル>か?」
「うんにゃ。同型姉妹艦だけど<パーツパル>はあの半分のサイズ」
モニターでは大きさが分からない。
「あれがパラの誇る最後の機動戦艦<ヴィスカバル>だJO」
「何?」
「ロザミィが乗っている宇宙戦艦だJO。この太陽系だけじゃなくて銀河連合の中でも間違いなく最強の最新鋭科学戦艦。ロザミィとエダは友達同士になったの。今回はロザミィにオイラたちの殴り込み作戦を教えたから、ロザミィは加勢してくれると思う」
「…………」
「銀河連合のエリスは立場があって自由に動けないけど、パラはゲ・エイルと交戦しているし、ゲ・エイルに対して牽制と警告にはなるJO」
「敵の敵は味方、か」
そう呟く祐次。
だがそんな簡単な相手ではない。
そもそもこの地球を侵略しにきたのはパラ人で、ALを使役しているのもパラ人だ。
そして名前は聞いていても、祐次はロザミアと面識はない。
そのあたりはJOLJUが上手くやると思いたいが、JOLJUも露骨に感情的に激怒している。エリスが危惧していた通り、関わっている面子が特別なこともあって、今のJOLJUはどうやら暴走し始めている。
「大丈夫なんだろうな?」
「ロザミィは賢い子だし、科学知識も戦闘力もゲ・エイルより上だし。暴走しないとは思うけど」
「お前の暴走を心配しているんだ」
「怒ってるけど理性は失っていないJO! 多分」
いや、どうも怪しい。エリスの苦い顔が目に浮かぶようだ。
だが暴走してもいい。
「エダを取り戻すまでだ。他の事は、今はどうでもいい」
しかし想定以上の大事件になっている。
これでは宇宙戦争ではないか。
地球とク・プリの連合。協力関係にあるが原則中立な銀河連合のエリスたち。敵対行動がはっきりとしたゲ・エイル。
そしてすべての種族を敵としている、最も科学の進み最大の脅威であるALとパラ人。
その全てが、この事件に関わることになった。
そして……地球を代表して戦う人間は祐次一人しかいない。
「離脱と乱入」でした。
離脱はリーです。
乱入はロザミアです。
ロザミアもついに参戦!??
祐次は知りませんが、こうなるとパワーバランスは逆転です。科学力も戦力もロザミアが圧倒的上です。全員にとっての敵でありラスボスですし。
ファンタジーで例えると
小さな村にオークが現れて村の勇者のパーティーの女の子を攫ったら、勇者と、エルフ族のリーダーがオークに立ち向かっていったと思ったら、援軍になぜか魔王が来た、みたいな。こうなるとオークより魔王のほうが問題になるわけで。
ということで近々ロザミアも登場します。
皆……エダ一人のため動いていると思うと、エダの影響力と存在がいかに大きいかわかります。しかも祐次みたいな特別な人間というわけではなく、その魅力が愛らしさや人間としての魅力で利害や政治には一切関係ないあたり……今回の連中は全員エダの毒にやられてしまったのかも。ほかの地球人が知ったら「なんで皆そこまでになる?」と思うでしょうね。
ある意味、エダは魔性というか傾国の美女というか……。
ということでどうなる、エダ奪還事件!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




