「戦闘民族!」
「戦闘民族!」
ゲ・エイルのメインブリッジに侵入!
そこで待ち受けていた二人のゲ・エイル!
連中の狙いは祐次との戦闘。
明らかに人類を見下すゲ・エイル。
それに対して祐次の勝算は!?
***
約30分後……三人は<プル・サゼト・デパトレバ>の心臓部であるメインブリッジの前まで到達した。
ここに来るまでさらに二度<グビドン>の群れの襲撃を受けたが、祐次とリーは連携してそれを撃退し、無傷だ。
<グビドン>は確かに高い戦闘力を持っている。
最後の襲撃は20体と多かったが、それでも100単位が最小で、それが群れで襲い掛かってくるALに比べたら対処できない数ではない。それに今回二人は携帯フォース・バリアがあり、<グビドン>の鋭い爪が当たっても衝撃がくるだけでダメージは負わないから、攻撃に専念することができた。これもバリアが完全に無効なALとの違いだ。成程、JOLJUやエリスやリーがALの特性に感心する理由も分かった。
すぐに中に入らず、まずJOLJUがブリッジ内の生命反応をスキャンしている。
スキャン機はいつものスマホ……ここまでくるともうスマホではなく万能端末機だ。
その間に祐次とリーはショットガンの弾を装填し、残りの予備弾を数える。
「さすがに減ったな。残り18発だ」と祐次。
「こっちは23発ある。必要なら10発ほど渡すぞ」とリー。
リーはショットガン、M4カスタムの他、ク・プリ用の小型レーザーソード兼レーザー銃を持っている。対AL戦ではないからレーザービームは有効で当たれば一番威力がある。ただしレーザー銃は連射するほどエネルギーに余裕がなく、何度か撃つと<グビドン>もフォース・バリアを順応させて張り防ぐから万能ではない。銃や白兵戦は物理攻撃(今回はバリア対応済み)だから制限はない。
すぐに入らないのは、JOLJUがまず中をスキャンすると言ったからだ。
スキャン自体は、それほど時間は掛からなかった。
ただ結果はJOLJUの予想と違っていた。
「スキャン妨害されてはいるんだけど、ここまで近づけばオイラならスキャンできるけど……なんか生命反応が少ないJO。さっき<パーツパル>のスキャンしたときは少なくてもゲ・エイル星人の反応が8つあったのに、今2つしかない。<グビドン>らしい反応は5つかしら?」
「メインブリッジで集まっていたのに減ったのか?」とリー。
「避難したのか?」と祐次。
「そんなはずがない。強い戦士がいると分かれば好んで喧嘩を仕掛けるような戦闘種族だ。むしろ全ゲ・エイルが集結しているほうが自然だ」
「じゃあ罠だな。残った奴が囮なんだろう。もしくは俺たちに関心を持って、とりあえず様子見で当たってみることにして残したかだな」
「…………」
さらっと答える祐次。
リーは言葉が出ない。
この日本人はどれだけ戦闘のプロなのか。
ベンジャミンたちも優秀だったが、祐次は明らかに次元が違う。戦闘力はもちろん、異星人の戦闘法もそれに対する作戦も完璧だ。何より強化されたとはいえ能力的には地球人が対応できる上限を超えた相手と戦っているのに、焦りも恐怖もない。初めての敵なのに即座に最適の対処法を見出している。
喋っている間にJOLJUもスキャンを終えた。
「大気濃度は問題なし。可燃性粒子や爆発物の反応もないから、入ったらトラップでドカン! ってことはなさそうだJO」
「なら無駄話も終わりだ。開けろ」
「言うまでもないが、中のゲ・エイルは俺たちの侵入を察知しているぞ」
「それはわかっている」
「用心してだJO~」
JOLJUはスマホを四次元ポケットに仕舞い、ドアの横にある黒い板を何度かタッチした。
ドアが開いた。
祐次、JOLJU、リーの順番でゆっくりと中に入った。
中……メインブリッジは広く、50平米ほどある。右手の壁はいくつかの巨大モニターがあり、部屋の中央に操縦システムと思われるコンソールデッキが四つほどある。それ以外の物は隠れているのかない。壁はゲ・エイルの文化を示す装飾やデザインが施され、古代遺跡のような空間……これはこれまで見てきたゲ・エイル船と同じ造りで、宇宙船ぽくない。
一見すると無人で、船のシステムも稼働していない。連中にとって基本色なのか、赤系のライトでほんのりと明るい。
三人は黙って中に進む。
「中にゲ・エイルと<グビドン>がいるんじゃなかったか?」
「<グビドン>、あそこで待機中~」
JOLJUが天井を指さす。
そこには1.5mほどの球体が何本ものチューブに繋がれた状態で5つぶら下がっている。卵のようだ。目を凝らせば、球体の膜の中に先ほどまで戦っていた<グビドン>が丸まっているのが見える。これが<グビドン>の艦内待機状態なのか。
……肝心のゲ・エイルはどこに行った……?
その時だ。奥の壁が開いた。
そして、巨躯の完全武装した異星人……ゲ・エイル星人が二人現れた。
「…………」
祐次は黙ってベネリM3を構える。
ゲ・エイルと遭遇したのは、これが三度目だ。最初は東京、二度目はJFK空港、そしてこれが三度目だが、最初と二度目は惑星活動用の武装をしていて、大きな仮面と全身を包むマントのようなもので体を隠していて正体は分からなかったが、今回はそのどちらもない。
初めてゲ・エイルの本来の姿を見た。
形は人間と同じだ。ちゃんと五体があり二足歩行して腕に武器がある。身長は2m前後、見るからに筋肉質で薄い金属のような光沢を持つボディースーツの上にゴテゴテと金属の鎧のようなものを身に着けている。いつもの仮面はなく、刺のように強張った髪と髭のようなもの、小さく赤い眼、鼻は低く豚鼻で、口は大きく鋭く大きい牙があり、顔の凹凸も深い。比較的地球人類と造形が近いク・プリと違い、見るからに悍ましく、素顔は初めて見るがいかにも狂暴そうだ。
祐次は黙ってゲ・エイルに近づく。
……成程、ク・プリのリーたちや地球人では勝てないな……。
体格が違う。現れたゲ・エイルは二人ともプロレスラーのような体格だ。そして腕がやや長く、手も大きく、白兵戦は強そうだ。これで科学力もク・プリより上なのだから、頭が悪いわけでもない。
友好的にもてなす気などないことは一目瞭然だ。二人とも両腕に着けたブローブには剣のようなものがついていて、他にもビーム砲らしきものが左腕に装着されている。
登場したゲ・エイルの一人が、祐次を指さすと何か喋り始めた。
低音でやや耳障りな雑音が入るのは発声器官がやや違うからだろう。しかし聞き取れない発音ではない。
ゲ・エイル語だろう。祐次にはさっぱりわからないが、むろんJOLJUとリーは分かっている。
「ええっとね。『地球人の戦士よ、よく来た。価値などない原始的生命体が我々に抵抗し反撃するなどおこがましいが、興味深い。戦いを我々は楽しみにして待っていた。我々は貴様との闘いを望んでいる』……だJO」
JOLJUが通訳する。
「ふざけるな。さっさとエダを返せ」
祐次の言葉を、JOLJUが今度はゲ・エイル語に翻訳する。しかしゲ・エイルは構わず何か喋っている。
「『我々にとって家畜以下の原始人が同等の要求を求めるなど身の程を知らないにも程がある。しかし貴様はこの……』ええっと、別の奴が今言っているのが『問答無用。我々に何か聞きたければ勇気と力をもって我々を屈服……』」と、早口で通訳していたJOLJUは渋面を浮かべ、通訳をやめ、怒り出した。
「ちょっと!! ゲ・エイル!! お前らも地球語自動体得してるだろーが!! 日本語で話せだJO! 通訳大変だJO、馬鹿ちん!!」
「ゲス・ベリドラ、テラリアン、ボド・ゲ・エイル、グバゼドベラン」
JOLJUの抗議は完全に無視された。
「『低能な原始人に我らゲ・エイルが合わせる価値はない』だ、そうだ」とリー。
分からないのは祐次だけだが、今回の主役は祐次だ。
しかしこの場にはJOLJUがいる。
「ベ・ストバレ! ボドガJOLJUオガベルベJO! <グーゼルメーニ>!」
JOLJUが怒鳴った。
<グーゼルメーニ>は「全員共通の言語で会話」という意味である、と以前JOLJUが言った。そしてJOLJUはゲ・エイルにとっても<神>の扱いを受ける資格を持っていて、ゲ・エイルにも命令権がある。
いくらゲ・エイルが傲慢で地球人やク・プリを見下してはいても、JOLJUの存在は軽くない。
「地球人。まず、自分と、戦え。お前が、勝てば、次に進んでいい」
ようやくゲ・エイルが少したどたどしい日本語で喋った。さすがにJOLJUの命令は逆らえないらしい。
その直後だ。
一人のゲ・エイルの左腕の銃が光り、祐次目掛けてエネルギー粒子弾を放った。祐次もそれに気づいたが、そのまま直撃を受ける。
ドンっ! という強い衝撃が祐次を襲い、思わず体勢が崩れたが、フォース・バリアがあり無傷だ。バリアがあるから祐次も避けなかった。
殺す気ではなく、バリアの有無を確認したかっただけだろう。ゲ・エイル二人は驚く様子もなく、黙って効果はない左腕の装甲兼粒子銃を外した。
「バリア、外せ。公平な戦いだ」
「あの左腕のデバイスが奴らの携帯フォース・バリア発生装置だ。これでこっちの攻撃は届く。マントのようなものには視覚遮蔽機能がある。それを着ていないということは真っ向勝負をする気だろう」とリー。
ゲ・エイルは格闘白兵戦を好む種族だ。ビームが使えないのならば白兵に切り替える。フォース・バリアはちょっと科学で細工をすれば物理攻撃はバリアを無視できる、と以前JOLJUが言っていた。物理攻撃まで無効にすると、自分自身も他のもの宇宙船の操作や自分の携帯武器に触れられなくなるからだ。だがフォース・バリアがあるとお互いの技量は分からず科学力の差になる。バリアがあるとどうしても油断が生まれる。祐次のヴァトスはバリアを無視する以上、却ってないほうが戦闘の組み立てはし易い。
連中は祐次を殺したいのではない。戦いたいのだ。
それに地球人のデータを分析する限り、ゲ・エイルのほうが優れている
成程、戦闘種族らしい。
「飛び道具はなしってことだな」
祐次は後ろにいるJOLJUにベネリM3と、JOLJU製のフォース・バリア発生装置である腕輪を返した。
「JOLJU」
「なんだJO?」
「これは<試合>か? <殺し合い>か?」
「殺し合い、だ」
と……答えたのはJOLJUではなくゲ・エイルの一人。話す気が薄いだけでゲ・エイルも地球の言葉が分かる。
「そうか」
そう答えた祐次は、腰のベルトからヴァトスを外し、握った。
ゲ・エイルとの距離は、一人は8m、もう一人……どうやら身に着けている左側にいるゲ・エイルの鎧が派手だからこっちが身分は上で強そうな一人が12m……ゆっくりと近づいてくる。武器は右腕に装着された剣だけ。
「祐次! 握力は150kg以上あるから、捕まったら素手でも地球人は引き裂かれるJO!」
プロレスラーの二倍だ。素手でも人間は引き裂かれるだろう。
「俺が一人相手にする」とリーも銃を置いて進み出る。
だが、祐次はそれを手で制した。
「任せろ」
祐次に<武人のプライド>なんて馬鹿々々しいものはないが、これが地球人類全体に対する挑戦であることは分かる。連中に地球人の存在を重かしめるには、祐次の力で倒すしかない。
「JOLJU! ヴァトスで一番強い刃設定は?」
「<フェスト・クセレタテル>だJO! それでどんな装甲もフォース・バリアもぶった斬れるJO!」
「了解だ。まぁ見ていろ」
祐次は身構えた。
これが、地球人類とゲ・エイル星人、史上初めての直接対決だ。
純粋なフィジカルは到底地球人では及ばない。
だが、祐次には技術と、天才的は戦闘センスがある。何より戦いに対する気迫が違う。
地球人最強の男が、今その本領を発揮する。
「戦闘民族!」でした!
ついにゲ・エイル登場!
科学が進むと武器が無力化して、白兵戦に戻ってしまうというわけですね。
フィジカルは祐次の倍以上です。平均的な男性の倍……ではなく、祐次の倍です。
こいつらは素手で人体を裂けます。
まさにプレデター、もしくは怪人!
しかも戦闘種族だから経験も豊富。
さらに負けるのが嫌いなので2対1……と、どう考えても祐次が不利ですが、祐次には万能剣ヴァトスがある点と祐次自身元々体重差のない格闘技である合気道の有段者+戦闘経験豊富という利点もあります! 後ゲ・エイルは今のところ舐めているので油断はありますね。
一方、冷静に見えてほとんどブチ切れている祐次!
次回、戦闘スタート!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




