「まさかの出現」
「まさかの出現」
また平和な日常生活が始まる。
そう思った矢先に起きた衝撃事件!
どうすることもできなかった祐次!
そして、奪われた!
だがその理由が全く分からない。
物語は新しい局面へ!
***
空港建物まで500mほど。生存者たちは用意されていた大型バスで移動したが、祐次たちは徒歩だ。
途中200mほどのところに、二人の人影が見えた。
リーとエリスだ。二人は祐次たちを出迎えに、こちらに向かって歩いて来ていた。
リーの頭や衣服には雪が少し乗っているが、エリスは何か特別な装置を使っているのか、雪はなく、また寒そうな様子もない。そこは現役の宇宙冒険家だから、服も特別なのだろう。
リーは祐次に近づき、作戦の成功を祝い、嬉しそうに祐次の肩を叩いた。
そしてエリスだが……。
「後日でいい。このメンバーで一度会議を開きたいがいいだろうか?」
「何かあるのか?」
「一応私の今回の上陸は調査が目的だと説明していただろう? その情報の共有だ。ク・プリとテラリアンの意見も聞いておきたい」
「構わない」
「エダ君。もし良ければ<オルパル>を貸してもらえるかな? こちらで簡単に分析をしてみたい。大丈夫、20分で返すよ」
「いいですよ」
「ありがとう」
エダはネックレスにしてある<オルパル>をエリスに渡した。ロザミアは「他の異星人にも知られないで」と言っていたが、エリスはロザミアと同じパラリアンで、彼ならば渡しても問題はないだろう。
「ところでJOLJU」
「JO? オイラ今絶賛疲労中だけど?」
そう、疲れたJOLJUは自力では移動せず、祐次の肩に乗っかってヘバっている。
しかしエリスは容赦なかった。
「今すぐあの飛行機に取り付けた重力制御装置を回収して下さい! 貴方以外の者の手に渡ったり見つかると拙いではないですか!」
「どーしてー? 地球人にはアレが何か分からないし使えんじゃん。後日でいいじゃん。もうまったりしたいJO」
サボりたい時はすぐに怠けたがるのがJOLJUだ。
ク・プリではあの重力制御装置は扱えず、リーたちが利用することは出来ない。
「ゲ・エイルは使えます。故障して使えないならいいですが、使えると分かれば回収に来る可能性があります。余計な紛争の種は作りたくありません」
物凄く面白くなさそうな顔でムスッとなるJOLJU。
しかしエリスのほうが正しい。こればかりは設置したJOLJUしか回収ができないので、仕方なくJOLJUは祐次の肩から降りると、トボトボと輸送機のほうに向かって歩いて行った。
「空港内で待っていてやるからな」
「10分か15分で戻るJO~。待っててね~?」
「おう」
JOLJUはALに襲われることはないし別に寒くはないから、一人でほっておいてもいいだろう。しかし祐次たちはこんな何もないところで待っていては凍えるので、先に空港施設に向かうことにした。
この……僅かなタイミング。
JOLJUが離れ、エリスやリーの関心が余所に移った。祐次ですら作戦の成功と古巣の帰還で気が緩んだ……この数分……いや、数秒の間隙を狙っていた者がいた。
「祐次」
エダは微笑んだ。
「好きだよ」
少し先を歩いていた祐次は振り向く。
「…………」
エダは、眩しい笑顔を浮かべ、言った。
「…………」
「あたし、NY大好き! ここのみんなも大好き!」
「ああ。俺もだ」
祐次も破顔した。
「ここには俺たちの家があるからな」
エダは無邪気に笑った。
その時だった。
それは突然だった。
エダの後ろに、大きな黒い影が二つ現れた。
「!?」
あまりに突然のことに……祐次は固まった。
そこからの出来事は、まるでスローモーションのように。
エダが全身黒い人影に捕まれた。
と、同時に、後ろの空間が歪み、異次元が出現した。
祐次が反応した!
「エダ!!」
叫ぶと同時にレッグホルスターからグロックG18Cを抜いた。ショルダーホルスターのDEは分厚いダウンの下で素早くは抜けない。
祐次は的確に黒い影の頭部を撃ちぬいた。
だが、弾丸は弾かれた。バリアではなく、何か金属のもので。
この銃声で、エリスとリーも気づいた。
この二人は、この大柄の黒い影の正体を知っていた。
「ゲ・エイル!?」
二人も歴戦の軍人だ。
リーもレッグホルスターから銃を抜き狙撃する。だがこの弾丸も弾かれた。
「祐次っ!!」
エダは叫ぶ。
その時には、エダは大きな黒い影……ゲ・エイル星人に羽交い絞めにされ、そして頭から黒い布を被せられた。
「祐っ!!」
エダの声が、途中で途絶えた。
祐次はすぐにグロックG18Cを捨て、腰につけていたヴァトスを掴むと、一瞬で剣を出現させ、それを投げつけた。
同時にエリスが小型のビーム光線銃でゲ・エイル星人を撃つ。
しかしビームも、今度はバリアで弾かれた。
祐次の投げたヴァトスだけはバリアを突破し、一人のゲ・エイルの肩に突き刺さり、蛍光緑色の体液が噴出したが、ゲ・エイルは構わずヴァトスを振り落とすと、そのままエダを掴んで後ろに下がった。
そして異次元の空間に飛び込んだと思った瞬間、エダ諸共姿を消した。
「…………」
立ち尽くす祐次。
ほんの数秒……5秒ほどの出来事だ。
祐次の頭が真っ白になった。
エダが、誘拐された!?
「ゲ・エイル……だと!?」
何故ゲ・エイル星人がエダを浚う!?
理由が分からない。
そしてそれ以上に衝撃的な現実……何も抵抗することが出来なかった。
手も足も出なかった。
あっさりと……奪われた。もっとも大事なものを。
「クロベ! 無事か!?」
リーが駆けつける。だがもう、終わった後だ。
エダが浚われた。
「何故だ……何故エダが……!?」
リーやエリスが浚われるのならば分かる。どうしてエダなのだ!?
後ろでエリスが通信機で何か命じていた。母艦である<パーツパル>も今回の作戦とエリスをフォローしている。その対応をしているのだろう。だが結果は変わらない。
現実は変わらない。
エダが、浚われた。
「何故だ!? どうしてゲ・エイルがエダを浚う!?」
祐次はやってきたリーの胸倉を掴み叫んだ。しかしこればかりはリーも分からない。
ただこれだけはリーも分かっている。
「恐らく連中はずっと見張っていた。空間転送で現れて、転送で去っていった。初めからエダ君を狙っていた」
「なんでだ!?」
「わからん! ただ人間目当てに待ち構えていたわけじゃない! ずっと監視していたんだ。JOLJUが離れる瞬間を狙った。しかし俺やお前ではなく、どうしてエダ君なんだ!?」
リーもわからない。こんなことは想定していなかった。
どうして今、それもこのタイミングでゲ・エイルが現れたのか、その意図が全く分からない。
この場に視覚遮蔽装置を使って潜むこともできる。だがそれだとJOLJUとエリスには気づかれる。だが高度な科学力である転送であればエネルギーは使うが気づかれる危険はぐっと減る。今は<パーツパル>は戦時体制を執っていないからそこまで高度な警戒はしていなかった。ゲ・エイルは計算してその隙をついた。
しかし遭難した連中にとってもエネルギーは貴重で、エリスたち銀河連合の監視を掻い潜って連続転送でただの少女を拉致する理由が分からない。当然こんな事がエリスに知られれば銀河連合を敵に回すことになる。
エリスに見つからないタイミングで誘拐したのならばまだわかる。しかし今はエリスの監視下でバレないはずがない。それでも強行したのだ。
訳が分からない。
祐次は、残されたヴァトスの傍に、エダが肩にかけるように持っていたリュックが残されているのを見つけた。それが、「エダ誘拐」という衝撃的な現実を祐次に植え付けた。
エダは奪われた。もうここにはいない。
どうしたらいいのか……。
さすがの祐次も、この先の思考は何もなかった。
取り戻したくても、その術が祐次にはない……。
「まさかの出現」でした。
本当に突然の急展開!
エダ、誘拐!
しかも相手はゲ・エイル!!
これまであまり出てきていない異星人ゲ・エイルが、ここでようやく本格参戦です。
宇宙戦争編では出てきています。この種族は宇宙海賊種族です。高い戦闘力と科学力をもっています。ク・プリよりは上で、ロザミアのパラより下です。
ちなみにゲ・エイルはほとんど<プレデター>みたいな感じです。戦闘種族も同じで体格も似ています。
ただの誘拐事件では終わりません。
そう、今の祐次は半分宇宙世界人。
周りにはリーやエリスといった宇宙文明人が味方にいます。それはゲ・エイルも知っているはず。
この全員を敵に回してまでエダを浚う理由がわかりません。当たり前ですが<プレデター>たちが美少女だからエダを浚ったわけでもありません。連中にとってはエダはただの原住民の子供です。それを何故? 喧嘩がしたいなら祐次を浚えばいいだけです。
ということで次回から完全宇宙SF編です。
そして本編のメインテーマにもかかわる宇宙世界の政治編です。
しかし一番の問題は……この事件を知って激おこぷんぷん丸になる奴がいることです!
ついにJOLJUがブチ切れます!
こいつは怒らせたらまずいんですよ。
本当に滅多に激怒しないJOLJUが、ついに激怒します!
振り回されるのは誰か?
ということで突然始まったエダ誘拐事件!
これからが七章本番です!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




