「再会」2
「再会」2
一気に脱出を図る拓と時宗と姜。
水で虚をつき突き進みトラックまで辿り着く。
そして無事発進させたが、眼前にタイプ2が立ちはだかった。
***
三人が酒場のシャッターを上げ、飛び出した。
昨日と変わらず周囲を徘徊しているAL。
だが、飛び出した三人が手にしていたのは銃ではなく、酒瓶だった。
飛び出すと同時に、三人は手当たり次第周囲にいるALに向け酒瓶を投げつけた。
それらは破裂し、中に詰められたたっぷりの水が撒き散らされる。
ALはその飛沫を受け悲鳴を上げた。
次々と店内から水の入った酒瓶を持ち出しては、辺り構わず投げつけていく。
真水であれば、僅か200ミリリットルほどでALは破裂する。他の何に対しても恐れないが、水に対してだけは僅かに怯む。
10本ほど三人で投げると、ようやく前方に駆け出すだけの空間が空いた。
その僅かな隙を見て、三本の水入りの酒瓶を持った拓が駆け出す。姜は4本持ち、最後尾の時宗はショットガンを身構えた。
トラックまでは40mくらいだ。幸い最初に集中的に投げたからALの数は少ない。それでも拓が走ってくるのを見つけ襲い掛かってくる。
拓は一番近くに迫ったALを酒瓶で殴りつけると、残り2本を抱いたままズボンに突っ込んでいたベレッタを抜き、的確に狙って迎撃する。後ろから迫るALは、時宗と姜が狙撃する。
14秒で、拓はトラックに辿り着いた。
一度振り返り、左手に持っていた2本の酒瓶を追ってくるALに頭上に投げると、ベレッタでそれを撃ち抜く。投げつけるより広範囲に水の飛沫が飛び散り、連中の足が止まった。その隙に運転席に飛び込み、ボンネットを跳ね上げると土埃の被ったバッテリーにスマホを当て、アプリのボタンを押した。
ボォン、と音がして車体が僅かに揺れる。成功だ。これでバッテリーは甦った。
拓はボンネットを閉じ、すぐに運転席に飛び乗るとエンジンをかけた。
小型トラックは最初大きく揺れたが、すぐに安定した。
トラックは発進し、ALを轢き飛ばすと、酒場の前に横付けする。と同時に時宗と姜が最後の水の酒瓶を前方に投げつけると荷台に飛び乗った。
拓はすぐにトラックを発進させた。
荷台の二人は飛び掛ってくるALを撃ち倒すと、すぐに荷台に伏せ空になったシリンダーから薬莢を抜き、新しい弾を装填する。
トラックは村の通りを抜け、外に向かって突き進んだ。
ALは凡そ時速40キロ。それ以上であれば振り切れる。通りにいたALタイプ1は数が減った。まだそこまで獰猛ではなく、すぐに追うのをやめた。
だが……拓は目の前に現れたALタイプ2を見てブレーキを踏む。
タイプ2は全長2.5m。
こいつらは車も破壊するし速度もタイプ1より速い。装甲もタイプ3ほどではないがタイプ1より分厚い。それが2体いて、こっちに向かってくる。
「くそ!」
「なんだ!? あの化物は!?」と姜が身を乗り出し叫ぶ。
「ALタイプ2。ちょっと強ぇーALだぜ姐御。タイプ3でないだけマシ」
時宗はパイソンをズボンに突っ込み、ショットガンを取った。
横道には逃げられない。側溝があり、その向こうは田圃と民家だ。
後戻りはできない。まだALタイプ1がざっと30は残っている。
「引き寄せてから撃て!」
「分かってるよ! ビビんじゃねーぞ、拓!!」
時宗はショットガンを構えた。
タイプ2は突進し、トラックの目前に迫る。
5mまで接近したとき、時宗はショットガンの引き金を引いた。
問答無用で3発ずつだ。その威力にタイプ2は体を仰け反らせ吹っ飛ぶ。
だが、破裂しなかった。死んでいない。装填してあるのは散弾だ。同じ場所に撃ち込まなければ装甲は破れない。
「くそっ!!」
拓は思いっきりアクセルを踏み込んだ。そしてトラックでタイプ2を弾き飛ばす。
だがそれでも死なない。
タイプ2は轢かれたダメージなどもろともせず、すぐに起き上がるとトラック目掛け飛び掛った。
「頭だ!! 眼を狙え!!」
散弾を受けて顔面は傷だらけだ。もうそこまで厚くはない。
拓は振り向き、時宗と姜も銃口を向け、三人は引き金を引いた。
三人の弾、9発がタイプ2の右目に集中した。その集中砲火で、ついにタイプ2の頭皮は抉れ破裂した。
だがもう1体残っている。
そして三人の銃には弾がもうない。リロードしているような余裕はない。
その時だった。
銃声が鳴った。
「!?」
拓たちではない。
ライフルだ。
誰かが狙撃している。
2発、3発とタイプ2の頭に当たり、タイプ2は体を揺らした。
この隙に、時宗はパイソンの弾をリロードする。
「357マグナム!!」
そう叫ぶと、時宗は初めて両手でしっかり構え、一気に357マグナム6発をタイプ2の眼に目掛け放った。そして最後の一発がついに頭部を貫き、タイプ2は一度激しく地面にのたうち、消滅した。
「これぞヒーロー!!」
「行け! ナカムラ!!」
姜がトラックの屋根を叩く。言われるまでもなく拓はアクセルを踏み込んだ。
こうして三人はなんとかALの群れた村を脱出した。
***
トラックはそのまま道を500mほど進んだ。
やや広い道に合流したところで止まった。
一台の古く汚れた乗用車が山のほうから向かってくるのが見えたからだ。
現れた二人を見たとき、思わず拓と時宗はトラックから飛び降りた。
「優美!? 啓吾!?」
そう……車に乗っていたのは日本人の仲間、大田 優美と関 啓吾だった。
二人も生存者が拓と時宗だと知り、声を上げ手を振った。
「なるほど。あの狙撃は優美か」
近くにいるとは思っていたが……まさか助けに来るとは思ってもいなかった。
優美は射撃が得意だ。日本生存者たちの若者の中でも五指に入る。一番は祐次である。
思わぬ再会に驚いたのは優美たちも同じだった。
「うそ!? 12日ぶり!? よく生きていたわね。すごい」
「本当、広い中国でバッタリ偶然だね」
二人も笑みを浮かべ、お互いの無事と再会を喜び合った。
「12日ぶり?」
拓と時宗は顔を見合わせる。どうやら二人との時間のズレは10日のようだ。
それより不思議なのは二人が古い中国製のAK自動小銃を持っていることだ。他にも腰にはそれぞれ中型サイズのリボルバーがある。あの指令室にいた時、二人は日本警察仕様の38口径のスナブノーズ・リボルバーしか持っていなかったはずだ。服装も地味だが活動しやすい私服に変わっている。
「お前たち、怪我はどうした?」
「変な神様が治してくれた。俺も優美もね」
どうやらそこは<BJ>がサービスしてくれたらしい。
「そのAKもプレゼント?」
「なわけないじゃん。矢崎さんのよ」
「矢崎!?」
矢崎と聞いてさらに拓は驚く。矢崎とは第八班の班長だった矢崎浩一か!?
……あの人も生きていたのか……。
ク・プリアン星人の宇宙船の中……大乱戦になった時、身を挺して下の階に残った。生存は絶望的だった。矢崎が生きていたということは一番の驚きだ。ここで日本人の生存者がほぼ揃ったことになる。
「後は祐次、か」と時宗は笑う。そう、残る生存者で行方不明は祐次だけだ。
だが拓は首を横に振った。
「あいつは生きている。だけど近くにはいないよ」
「居場所知っているのか?」
「多分イタリア。そして俺たちと同じクエストを受けて北米に向かったと思う」
JOLJUがイタリアに飛ばされていた。JOLJUは祐次と仲が良かったし、JOLJUはイタリアに飛ばされ、そこから北米に行ったと言っていた。そのちんちくりん異星人が一人でそんな大移動をするはずがない。祐次とJOLJUが一緒に行動していたとすれば説明はつく。そして二人とは8フロアーほど離れていた。すぐ傍にいた時宗、同じ部屋にいた優美たちとの距離を考えれば、確かにイタリアくらいまで飛ばされているかもしれない。どっちにしても近くにはいないだろう。
そして祐次も同じ使命を受けて動いている。だからJOLJUが説明しようとしたら警告アラームが鳴った。それで説明はつく。
その時だ。
拓たちの乗っていたトラックがいきなりエンジンを吹かせると、猛スピードで走り去っていった。いつの間にか荷台にいた姜が運転席に移り、奪い去っていったのだ。声をかける間もなかった。
「いいの、拓!? トラック!」と優美はAKを構えたが、それを拓は止めた。
「いい。一緒にいる約束はしていないし、そんな権利もない。元々別れる予定だったから、いいさ」
「俺のショットガン、積んだままなんだけど?」
「手放したお前が悪い」
銃や食料はどうせ分けるつもりだった。危機を脱した以上どうするかは彼女の勝手だ。
「せっかくの美人がいなくなった」
「それ、私に対する嫌味?」と優美は舌打ちする。
「とりあえず、色々話でもするか」
そう。まだしていなかった話がある。
<BJ>と、<ラマル・トエルム>の話。それから矢崎の事を聞く。
そういう流れになった。
「再会」2でした。
ということで優美、啓吾の二人と合流です。
これで横浜の事件の時、生存していた仲間の居場所が全員判明したことになります。ここにいない祐次は読者には説明いりませんが推理通りイタリアでJOLJUと一緒に行動しているので一応全員分かったことになります。
こういう推理力や知識が拓の武器です。拓の場合最強キャラというわけではないですし、スキルがすごいわけではないですし知力自慢キャラではないですが、あまり先入観もなく柔軟で機転が利くところが特徴だと思います。……といってますが、実は地の力としては十分優秀で強いんですけどね。
ということで次回から<新世界>編となります。ちにみに<新世界>というのは名称で世界観ではありません。
拓たちの上官だった矢崎氏がこれからの鍵になっていきます。
ということで拓編も面白くなってきます。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




