「神の思惑」
「神の思惑」
エダが発動させた<オルパル>!
ALの反応が消えていく!
それを見守るエリス。
そこに秘められた神の意志は?
***
着陸まで4分となった。
リーはもう一つの無線機を取り出す。
「始めるぞ、<レリシア>(艦長)エリス! エダ君!」
今度は日本語で、相手は並行して飛ぶ惑星用小型宇宙船<カフェアワル>に乗るエリスだ。エリスの船は視覚遮蔽装置を使っているが、雪は避けていくので地上からよく見ると違和感は出る。エリスは地球人に船は見せたくないので、今は先導せず並走になっている。後100mも降下すればエリスは離脱することになっている。
『私のほうの準備は終わっている。エダ君、始めてくれ』
「はい!」
ついにエダの出番だ。
エダは首から下げた<オルパル>の首飾りを取り出すと、それを強く握りしめた。
「<トルザ・テカ・ドラ>!」
エダが唱えた瞬間、<オルパル>が発光した。
エダを中心に淡い光が広がり、C130輸送機を包み込んだ。
『今だ』
それと同時にエリスは動き出した。
予め設定していた<オルパル>増幅装置を稼働させた。
<オルパル>の効果範囲は半径50mで輸送機を覆うのが精いっぱいだが、エリスの<カフェアワル>で、その効果を半径500mまで拡大させる。高度が低いため地上のALの効果範囲に入る。
エダから発せられた淡い光の波紋はC130輸送機を包み込み、さらに大きく強い光のバリアになる。
地上でC130輸送機に気づいたALたちも、この<オルパル>の光を浴びた瞬間、興味を失っていった。タイプ5には変化しなかった。
『すごいな』
感嘆したのはエリスだ。エリスだけが外の状況が見えている。機内にいるエダや祐次たちには外の様子はわからない。
エリスの<カフェアワル>は、今NYマンハッタン上空2000mで<視覚遮蔽装置>を使い滞空している。
予めC130輸送機にはゲ・エイル船で加工した思念拡張装置を取り付けて<カフェアワル>で遠隔で操作している。それと同時に地上のALの動きもスキャンで確認していた。
二ヵ月前の大侵攻でALに埋め尽くされたNYマンハッタンだが、ALの狂暴期は48時間で、その後津波が引くように、まるで何事もなかったかのように消え去り、第一期に戻った。とはいえ完全に去ったわけではなく、数が減っただけで、周囲には千単位の群れは残って徘徊している。ALは人を見つけたり攻撃を受ければ動き出す。
しかしタイプ5だけは別だ。
タイプ1が科学的な飛行物を発見すると、タイプ5に変貌し、その対象に合わせて増殖し、問答無用で襲い掛かる。その狂暴性は第五期の狂暴期と変わらない。
だが……ALはエダの<オルパル>の光で、見事に活動を停止させている。
エリスはその様子をスキャンと拡大モニターで確認していた。
「反応は……我らパラリアンと遭遇した時と似ているが」
ALを封じているわけではない。また命令を下しているわけでもない。
興味を失わせている。まるで見えていないようでもあり、分かっているが攻撃対象ではない、と本能で理解しているような、そんな反応にも見える。
エリスたちパラ人もALに関心は持たれないが、ALに命令を下すことはできない。ただ、エダの話ではロザミアは命令を下し、自由に使役できるという。
「エルマ粒子の反応とも違う」
パラのエンジンはエルマ粒子式核融合を使っていて、ALと<ハビリス>はエルマ粒子を纏った物質には反応しない……という仮説をエリスは立てている。当初エリスは科学的に考えて、<オルパル>はエルマ粒子発生装置かとも考えた。それが一番簡単な方法だ。
だがどうやら違う。
<オルパル>からエルマ粒子は放出されていない。
「JOLJUも言っていたな。<第六感>と<第七感>の精神波長だと」
<シャーマルニ>……つまり、地球の言葉で簡単にいえば魔法の才能。
300年前、パラリアンには魔法という力があった。地球人は同じ人類、連枝種族で、JOLJUの見解によれば2000年以上前は地球人もその才能を持つ人間が少数だがいたという。
科学が発展すれば、多くの種族が第六感等の精神能力を失うことが多い。もっとも、宇宙は広く、科学とそういう能力を両立させている種族もあるが、まったく同一の能力を持つ種族が遭遇する事は少ない。
……この精神波長が、ALを制御している集合意識体と関係しているかもしれない……。
だとすれば……。
やはり<AL>は、パラの神がパラ人のために造り、そして地球人も……地球人もどこかに導こうとしているのか……?
それが、パラの地球侵略の目的なのか?
だが、それでもまだわからないことばかりだ。
「我々パラ人が<FUJ>や<WBJ>から試練を受けるのは分かる。だがどうして<BJ>が地球人に試練を与える? どうしてJOLJUは地球人側につく?」
当然の疑問がエリスの口から零れた。
パラは宇宙文明の中でも珍しく<神>が実際に社会の中に存在し、政治に関与している文明だった。しかし神と接触できるのは皇族だけで、一般人はほとんど接触する機会はない。JOLJUだけは例外だが、JOLJUは基本的に社会に出てくるときは神の力を封じた状態のただの個人か、せいぜいLV5程度に制御した状態で、LV2本来の力を使ったことは一度もない。
なぜこのテラの事件ではこんなに神の干渉があるのか。
だけではない。
どうやら<BJ>はゲ・エイルやク・プリにも、それぞれ異なる試練を課しているような気がする。
それがあるから、ロザミアは圧倒的な戦闘力があるにも関わらずゲ・エイルやク・プリを全滅させないのではないだろうか?
「そして我々もか」
試練はエリスたちにも。
その試練が一体どういうものなのか……エリスですら、それがどういうものか今は何も分からない。
知っているのは二人。
すべての元凶である<BJ>と、すべてをなんとかして救いたいと思っているJOLJUだけだ。だがこの二人の神は、人類のためと判断したことは何があっても絶対に教えてはくれない。
自分たちで、辿り着くしかないのだ。
「神の思惑」でした。
エダの<AL避け>発動!
しかし、実はこの科学現象はエリスたちの科学ですら解明不明!
今の地球を15世紀と仮定して、エリスたちは24世紀の科学です。ずっと発展していく前提で900年の科学差だから、かなり超科学力なのですが、わかりません。
これはJOLJUがかかわっているからですね。
JOLJUはこの基準で30世紀の科学力です。
30世紀……というのはJOLJUの科学の限界ではなく、実は現在の知的生命体の科学文明の最先端に自分を合わせているだけで、ここが事実上人と神の領域の壁だったりしますが、JOLJUは本来は推定150世紀くらいになります。もうこうなると次元が違いすぎて全く理解できません。150世紀の知力のJOLJUにとって30世紀は1/5……地球レベルだと1/10なので遊んでいるのに等しいわけですが。
後半は今回の事件の本題の伏線ですね。
この事件の本質は調査するのがエリスの仕事です。
JOLJUは特別ですが、他の神の科学レベルはせいぜい28世紀なので、エリスたちだとなんとか理解できるはずなんです。
ここまでいろいろやるのなら、侵略なんて非効率的で野蛮なことをどうして始めたか。
これがエリスの最大の疑問です。
そしてこれが「AL」という作品の最大のテーマだったりします。
「AL」には<神>というファンタジー的要素が色濃く出てますが、完全SFです。この<神>たちは地球とは無縁の神なので、存在としては人類以上の存在の超生命体ですが、それが関わる事件というのは宇宙でも稀。
何かあるんです。
ということでついに着陸!
今度はエダやユージやJOLJUの話です。
当たり前ですが飛行機は着陸が一番危険です。
とはいえ今回はJOLJUが主導です。
考えなしに生きているように見えますが、そのあたりはちゃんと対策しているはず!
そして第七章の本当の事件はこれからです。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




