「緊張状態」
「緊張状態」
JOLJUの作戦を見守るエリス。
ただの避難作戦ではなかった。
JOLJUたちの知らないところで、実は異星人勢力も動いていた。
ロザミアとゲ・エイルの意図は?
***
2月2日 米国ニューヨーク州上空 午後2時58分
重く分厚い乱雲の中……目には見えないナニかが飛行していた。
雲が大きく掻き分かれ、風が大きく弾けていく。
この空の異常で、ようやくナニかが飛んでいる事が分かるが、そこに何があるかは全く見えない。
完全視覚遮蔽した惑星用小型宇宙船<カフェアワル>が飛行していた。
搭乗しているのはパラリアン、エリス=ルーシェただ一人だ。
「後30プセト(30分)ほどだな」
エリスは後方モニターに映る地球の飛行機……C130輸送機を見た。
今、C130輸送機は両翼二基のエンジンを稼動させて、気流に揉まれフラフラとしながらも、なんとか低速でついてきている。
「さすがJOLJUか」
<ハビリス>やALに反応されない低速……飛行速度320km。この悪天候の中、エリスの船がサポートをしているとはいえ、よく操縦できるものだ、と感心する。コンピューターも管制サポートも何もなく、しかも全速は出せない状況でだ。
しかも途中までは片翼一基のエンジンで飛ぶという無茶な事をしていたが、さすがにこの悪天候では無理だと判断し、今両翼二基で動かしている。<ハビリス>とALの用心のためだ。それでもこの雷雲の中だ。もし雷が一発でも落ちれば墜落する。リーも言っていたが、エリスだってあんな原始的な飛行機で何の科学力のサポートもなく、エンジンを使わず失速させず飛ばす自信はない。
<神の力>は使っていない。これはJOLJUが元々持っていた操縦の腕だ。いや、エリスはJOLJUが実は超一流のパイロットであることを知っている。それは惑星パラの歴史の中で証明されている。
JOLJUは<神>に覚醒する前、英雄天才たちが跋扈する大戦国時代でトップクラスのエースパイロットで撃墜王だった経歴を持っている。むろんエリスが生まれる遙か大昔で、エリスも歴史書で知っている知識で、こうして目にするのは初めてだ。
エリスは別モニターにあるALレーダーを確認する。
地上にはALが点在しているが、大雪もあってC130輸送機に気づく様子はない。
もっとも……これは天候だけでなく、多少エリスもサポートをしている。
<カフェアワル>を飛行させながらエルマ粒子を散布している。これは<ハビリス>対策とそのテストだが、ALにも効果があるかもしれないと思い反応を見ている。
他にごく弱い出力でフォース・バリアーもC130は発動させている。これは雷雲内に
水蒸気状態で存在しているALを張り付かせないための工夫で、こっちは地球科学以上のオーバーテクノロジーだが、JOLJUとリーがゲ・エイルの船から取ってきた部品で工作したから、見て見ぬ振りをした。エリスは厳格な監視者として地球に来ているわけではないし、極論だがJOLJUの行動には苦言は言えても制止する権限はない。
この様子だと、なんとかNYのJFK空港まで辿り着けるだろう。
それはいい。
エリスの関心は、他にもある。
というより、<他の事>のほうがエリスの主題だ。
エリスは通信を開いた。
「<パーツパル>。そちらの観測はどうなっている?」
『こちら副長ユマリン=パテッセス。<レリシア>(艦長)エリス、近距離で<ヴィスカバル>らしき存在を確認しました。約200シスン(180km)、東の海上にあるようです』
「随分近いな。こちらの動きを監視しているのか?」
『恐らくそうでしょう。我々は識別信号を出しておりますし、科学力は<ヴィスカバル>のほうが上ですし、こちらの宇宙船登録コードは知っているはずです』
元々どちらもパラ船籍だ。秘密などない。
宇宙船の感覚だとごく至近距離で、手を伸ばせば届くような位置だ。近距離なのに接触してこないのは、やはり何かしら思惑があると見ていい。
「この至近距離で我々が活動しているのに、ロザミア様からの応答は相変わらずなしか?」
『ありません。それに<高次元時空遮蔽装置>を起動させています』
「惑星内でか? 確かか?」
『間違いありません。ですから捕捉と確認に時間が掛かりました。注意深く検索していなければ我々でも見つけられていません』
エリスは唸る。
理由は二つある。
<高次元時空遮蔽装置>は現在銀河連合にある遮蔽機能の中でももっとも高度な技術で、大気圏内で時空嵐や時空の歪みを生じさせず起動させるのはかなりの超科学だ。<パーツパル>でも<ハビリス>のある地球上で、これほど完璧に姿を消す事は出来ない。むろんク・プリやゲ・エイルでは不可能なだけでなく探知すら無理だ。<パーツパル>も宇宙空間でなければ出来ない。当然見つけることすら難しい。
そしてもう一つ。
この遮蔽技術は銀河連合では戦時特例の高度技術で、戦争時のみ使用が許可された技術なのだ。幸い<パーツパル>にも同じ機能があるため、なんとか捕捉できた。ゲ・エイルの科学では気づいていないだろう。
「…………」
ルール違反である上に、大袈裟過ぎる。
「他に問題は?」
『ゲ・エイル船の反応が一つ。ほとんどエネルギーを出していません。こちらは飛行というより浮遊していて僅かに動いています。<重力遮断>で<ハビリス>が反応しないよう上手くやっていると思います。こちらも約400シスン(360km)南西です。恐らく<プル・サゼト>と思われます。この大陸で三隻確認できます。他二隻は大陸中央です』
「<プル・サゼト>……惑星制圧用の上陸拠点艦か。母艦は沈んだらしいから、テラでの活動拠点用だろう」
ゲ・エイルは元々艦隊で宇宙海賊を行う種族だ。巨大なキュープ型母艦<ドブル・ダンゾ>にはさまざまなタイプの船を装備している。<プル・サゼト>は惑星内を制圧するときの拠点として使われる基地のような役割をする上陸船で多少の武装と近距離宇宙航行、大気圏突破能力はあるがワープ機能や長距離宇宙移動能力はない。
……<ヴィスカバル>は<プル・サゼト>を警戒しているのか……?
と思ったが、すぐに間違いだと気づいた。
戦闘力が違いすぎる。
地球の戦艦で例えるなら、戦艦大和と18世紀の30mほどの木造帆船ほどの差があって、戦えばすぐに消し飛ばせる。
……ロザミア様はゲ・エイルを全滅させる気はない。何を考えておられる……?
ク・プリはともかくゲ・エイルはパラリアンにとっては敵といっていい。過去何度も宇宙戦争をしてきた。もっとも惑星国家同士で対決しているというより、やりすぎた海賊行為を銀河連合が制裁を加えたり仲裁をしたりするとき、科学戦闘力がゲ・エイルを上回るパラが出向く案件が多かったというだけだが、友好関係にはない。
……ゲ・エイルにも<BJ>が何か試練を与えているのか……?
他のLV4の神は純然たる惑星パラだけの守護神でゲ・エイルを守る責任はないし、その意思もないだろう。だが<BJ>は<銀河レベルの神>で一応ゲ・エイルにとっても<神>である。<BJ>には人格もあり多少好き嫌いはいうが一方的な責任放棄はしない。
どうやら今回の作戦は、ただの避難作戦では終わりそうにない。
祐次やリーたちにとっては避難作戦だが、自分たちはロザミアとゲ・エイルの監視がある。自分たちの関心はALと<ハビリス>の反応の調査(建前だが)だが、ロザミアとゲ・エイルが何を考えているかは読めない。
この二勢力が本気でこの避難作戦を目障りだと思っているのであれば、地球の輸送機など簡単に撃墜させられるはずだ。エリスはそれから守るために同行しているという理由もある。<パーツパル>を近くで待機させているのはそのためだ。しかしその点は心配なさそうだ。
今のところは、だが。
『<レリシア>(艦長)エリス。目的地の都市から無線通信が飛び、人の動きが始まりました。ALの反応は少なく、テラリアンが周辺を駆除したと思われます』
上空で監視している<パーツパル>からの通信。
もうじき輸送機はNY都市圏に入る。後15分もすれば着陸態勢に入り、この作戦の終盤となる。
「<オルパル>の発動が始まるな。私のほうでも準備に入ろう。<オルパル>の分析は<パーツパル>のほうで頼む」
『了解です』
エダの持っている<オルパル>も分析の対象だ。
元になった魔晶極石は惑星パラ独自の特殊な水晶だが、エリスたちの知識では魔晶極石に<AL避け>の効力などない。これはエリスたちが知らないところでロザミア(もしくは<BJ>かJOLJU)が何か改造したのだろう。
JOLJUが語ってくれなかった以上自分たちで調べるしかない。
「緊張状態」でした。
今回、エダや祐次やJOLJUたちは出ず、フォローしているエリスがメインの話。
ちょっと俯瞰的に状況分析していますが、なんだかどうも偶然とは思えない、ロザミアとゲ・エイルの動きがありますね。
しかし、何をしにきているかが全く分かりません。
確かに避難計画で輸送機を使うなんてJOLJUにしかできませんが、やっていることは別にそれほどすごい科学は使っていないですし、JOLJUが神業をみせているわけでもありません。
何かか起きそうな予感……これこそ事件の前触れですね。
さて、ついに着陸に入る輸送機!
七章はこれから!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




