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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第六章拓編後編
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「英雄」1

「英雄」1



拓が姿を消した?

探しに出た伊崎は、意外な場所で拓を見つけた。

チームを解散させた拓は、のんびりと過ごしていた。

伊崎は、先日の事件の顛末を語る。


だが本当の目的は別にあった。


***




 5月10日 北区 赤羽岩淵 午後3時17分



 荒川。



 拓は暢気に竿を振る。


 ぶっこみ釣りだ。錘に一本針をつけて、ドバミミズをつけて投げる。そして竿先に鈴を付けて魚が食いつくまでじっと待つ。



 釣りは昼過ぎからやっていた。釣果もまずまずだ。



 待ちの釣りだから、最初は読書をして暇を潰していた。しかし潮が上がってきて浅瀬にハゼの群れが見えたので、暇つぶしをハゼ釣りに変えた。



「成程。釣りはいいもんだな。JOLJUが好きなわけだ」


 素人の拓でもハゼ釣りやぶっこみ釣りは楽しめる。ハゼはまだ小さいが丸ごと炊いて佃煮にすれば美味しく日持ちもする。慣れると簡単で、あっという間に100匹を超えた。もっともハゼは江戸前釣りの代表で、100匹1束で数えるくらい釣れる時は大量に釣れる。



 ポイントの労働のために釣りをしているのではない。当分の夕食と晩酌用だ。



 ぶっこみ釣りの竿は6本。



 拓は延べ竿で足元のハゼを釣って遊んでいる。




 と……。



 河川敷の歩道に一台のバイクが現れた。


 伊崎だった。ノーヘルだからすぐに分かった。ヘルメットはしていないが、スーツとネクタイでしっかり身だしなみは整えている。



 伊崎はバイクを停めると、ゆっくりと拓のいる桟橋のほうに向かって歩いてきた。



 拓は苦笑しながら懐から煙草を取り出し、噛んだ。



「仕事もしないで、こんなところで釣り休暇か? 拓」


 伊崎が笑う。拓は煙草に火を点けて笑った。



「無職になりましたからね」


 拓は笑った。



 あの事件……ユイナ救出事件後……拓は勝手に第八班の解散を伊崎に宣言して、以後活動を辞めた。




 レンが死んだ。



 時宗は、哀しみの底にあり元気を失い、家に閉じこもっている。



 そして優美も……銃が怖くて持てなくなった。



 銃撃戦のショックか、人を殺したショックか、レンを失ったショックか……PTSDかもしれない。あの日から銃が持っていない。



 姜は療養中だ。あの後もう一度前島が再手術をして回復に向かっている。意識はあり、日本政府の職員が時折事件について事情聴取に訪れる。彼女も<朝鮮勇士同盟>参加者だったが、犯罪者としての待遇は受けず日本人と同様の扱いを受けている。



 篤志は医学勉強生として、前島から医学を学びながら姜の世話をしていた。やはり一度現場を経験すると人は一皮剥けるものらしい、前島も影で称賛するほど成長と進歩があるらしい。



 啓吾は変わらないが、元々戦闘向きではないし、拓が班を解散すると聞いて素直に従った。当分は政府の手伝いをして過ごすという。ただ学校で会うことはあっても時宗の家には行かなくなった。やはりレンの事が辛いらしい。




 拓の仲間は解散した。



 それを拓は辛いとは思わなかった。



 これでいい。



 東京に戻るまでが第一目標だった。優美や篤志たちの目的は帰国だ。戻った以上、拓たちが無理に戦わなくても代わりはいるし、戦う以外の仕事もある。



 これからの旅は拓だけのもので、皆とは別の道だ。



 やることがなくなった拓は、気分転換とちょっとした理由のため、釣りを始めた。ただそれだけだ。



 誰にも言わなかったので、皆は拓が傷心のあまり失踪したと勘違いしたらしい。



 皆の心配は当たらず、拓はいつも通りだ。



「いいんですか? 俺はともかく伊崎さんは忙しいでしょう?」

「お前を探すっていうのが俺のサボりの口実だよ。休ませてくれよ、俺も。ずっと忙しかったんだから」

「成程」


「前島さんや麗美君やユイナ君が心配していたぞ。お前が姿を消したって」


「消してないですよ。こうして一日釣りして過ごしています」

「何で川なんだ? 釣りなら海だろう?」

「うなぎを狙っているんですよ、本命は。今度JOLJUに会ったとき、うな重を食わせたいと思いまして」



 先日JOLJUには世話になった。いや、それはいつもか。



 このご時勢、漁業班が海には出ているが河川にはいかないから、うなぎの調達は自前でするしかない。


 たまに暇な住民が釣ってくることがある。


 海と違って近いし、餌もミミズなら簡単に手に入る。戦闘のできない釣り好きの老人なんかはよく川のほうに釣りに行く。練馬からそう距離もなく海にいくより手軽で危険も少ないし、自転車でも来られる。拓も原付で来ていた。



 昔JOLJUが食べたうなぎは、こういうルートで奴の口に入り、夢中にさせた。



「ここでうなぎが釣れるのか?」

「釣れますよ。近所の釣り好きの人に聞いた情報です。二ヶ月前、JOLJUはここでうなぎ釣りをしていたんです」



 あの横浜事件の日も、作戦を知らされていなかったJOLJUはこの赤羽岩淵に釣りに来ていた。余程うなぎが気に入ったのだろう。あの頃はまだJOLJUがそんなすごい奴だと知らなかったし、祐次もJOLJUを警戒するサ・ジリニの言葉もあり、かつあんな大事件になるとは思わなかったので別行動をしていた。



 しかしどうやって知ったか、JOLJUは釣りをやめて祐次を助けに行った。



 この赤羽から横浜まで距離があるが、JOLJUがちょっと本気になれば関係ないだろう。JOLJUのほうは本気になるほど祐次に懐いていた。いや、友情を持っていた。



 そして、その後は二人だけの旅が始まった。



 思えばこの時、あの二人の堅く強い友情は確立したのかもしれない。



 今では一心同体、お互い特別扱いする、家族だ。




 拓は桟橋の欄干に凭れ、ハゼ用の竿を置いて煙草を噴かした。


 伊崎もその横に並び、同じように煙草に火を点けた。



「うなぎ狙いですが、鯉とか鮒とかナマズとかスズキもかかりますよ。沼から釣ったんじゃなくて川は綺麗だから煮付けにすれば泥臭くないですし、じっくりから揚げにしても旨いし、かかればデカいから楽しいですよ」


「釣れたか?」


「うなぎが2匹。鮒が3匹。40cmくらいのスズキが一匹。後はハゼがたっぷり」



 そういうと拓は足元にある魚篭を指差した。うなぎとハゼ以外の魚はそこに入っている。うなぎは魚篭では逃げてしまうので椅子代わりにしているクーラーボックスに入っている。ハゼはバケツに貯まっている。



「俺は元京都人ですからね。淡水魚を食べるのも慣れていますし、東京人は好んで食べないけどこれはこれで旨いですよ」

「そういえば<京都>では鯉を養殖していたな」



 ふと……伊崎はクーラーボックスの横に小さな瓶を見つけた。そこには河川敷で咲いていたコスモスとタンポポの花が摘まれていた。



「あの花は、レンちゃんの?」

「花屋があれば良かったんですけど。作法は違いますけど、初七日までは花を上げたくて」

「俺も宮本さんの分を摘んで帰ろうかな」

「喜びますよ」

「供えるなら花よりケーキがいい、と彼女は言っただろうけどな」



 伊崎も大事な秘書で友人の宮本純子を失った。



 あの事件で、日本政府はユイナの護衛班や偵察班など入れると合計8人の人間を失った。全員政府が用意した墓地に入っている。



 葬式は誰もしていない。



 こんな世界だ。いつ死んでもおかしくはない。一々葬式を挙げていたら限がない。



 レンは今、他の日本人と同じく日本人墓地で眠っている。



「この二ヶ月で、大勢死んだな」

「ええ」



 サ・ジリニの提案で行われた横浜事件で、拓たち生存者以外全員死んだ。そして今回の被害だ。ALの侵攻があったわけでもないのに、20人以上が無為に命を落とした。大規模侵攻以来の被害だ。



「お前まで落ちこんで、世捨て人になったんじゃないかって心配していたんだぜ?」

「俺は大丈夫ですよ」


「姜君だが……彼女の罪は問わない事になった。功労者の一人だし俺と時宗の命を救ってくれたしな」



 手榴弾が転がったとき……咄嗟に伊崎と時宗を塹壕の中に突き飛ばし、手榴弾を投げた。空中で爆発し、弾避け用の車を破壊した。姜の負傷はその車の破片だ。伊崎と時宗は姜の機転で無傷ですんだ。



 伊崎はその事を語った。



「それは良かった」

「元々参加したのも、暴走を止めたかったかららしい」



 姜は事情聴取にも素直に応じている。<朝鮮勇士同盟>の話を難民街で聞いたとき、どこまで本気なのか調べようと思い接触した。朝鮮人の総意で動いているのではなく極右の暴走であることは分かった。元々姜は自分の保身のために動く人間ではないから嘘ではないだろう。止められないと分かり、自分が罪を被るつもりで参加することを決めたらしい。拓たちが睨んだとおりだった。



 後は政治家の仕事だ。拓の問題ではない。




「そうだ」


 そういうと拓は懐のホルスターからベレッタM9を抜いて、伊崎に差し出した。



「職員を辞めたんで返します」



 伊崎は受け取る。そしてじっくりとベレッタを眺める。


 使い込まれて、ブラックコーティングが剥げて半分銀色になったベレッタM9。これは元々伊崎の愛用銃だった。それを拓が政府職員になった時、伊崎から贈られたものだ。



「随分使い込んだな。俺が持っていたときよりくたびれてる」


「いい銃ですよ。素直だしよく当たるしジャムもないですし。何度も命を救われました。手入れはしっかりしていますからまだまだ使えます」


「そうか」



 伊崎は苦笑すると、ベレッタを拓に返した。



「やるよ」

「政府のでしょ?」

「別に銃には困っていないし、お前たちは沢山持って帰ってきたしな。それに、俺のコイツをくれたのはお前たちだからな」



 そういうと伊崎はショルダーホルスターに入っているリボルバーを抜いた。



 コルト・ピースキーパー357マグナム6インチ。



 この銃は伊崎にとって特別だ。崩壊前の俳優時代、映画で殺し屋の役をやった事がある。その時の殺し屋の愛用銃がこれと同じ銃だった。時宗と祐次がどこかから見つけてきて「伊崎さんといえばこれだろ?」とプレゼントしてくれたものだ。今では映画の時のホルスターとセットで愛用している。



「交換したって事でいい。それに……お前は旅に出るんだろ? 銃は使い慣れたもののほうがいい。当たり外れもあるし相性のいいものを使えよ」


「じゃあ遠慮なく」



 拓はベレッタを受け取りホルスターに戻した。




 そして……。




 伊崎は本当の用件に入った。



「英雄」1でした。



第六章エピローグ!!


拓ちん、第八班解散。

こうして拓は一人になりました。

ですが傷心のためではありません。

拓は何か変わりました。


一方、仲間たちの心の傷は大きく、誰も立ち直れていません。

それだけ大きかったレンちゃんの死。

それもALとの戦闘ではなく、馬鹿らしい人間同士の争いで、です。

拓も傷ついていないわけではありません。ただ仲間たちと違って前進することを決めました。だから仲間を解散して、誰も巻き込まず一人で旅立とうと決めたわけです。仲間を連れていかない、というのが、逆にそれだけ拓にとってもレンちゃんの死はつらくて、もう仲間は失いたくないと思ったからではないでしょうか。


しかしどうして拓はそんなに北米を目指すのか?

仲間と故郷を捨ててまで行く理由は?


そう、拓は知ったのです。

<BJ>の真意を。その試練の意味を。


次回、ついに拓は<英雄>について語ります。


「AL」前半部最大の衝撃展開!


これまでの旅が終わり、新しい旅が始まる!



次回第六章最終話!!


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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