「再会」1
「再会」1
時宗と再会した拓。
だが根本的な解決に至らない。
一先ず夜をやり過ごそうと食事を始めるが、まだ姜は打ち解けてはくれない。
そして夜が明けたが……。
***
酒場はごく小さな店で、カウンターの他テーブルが6つしかない。村の仲間たちだけが集う身内の店だ。
正面のシャッターを閉じれば店内は真っ暗になった。
時宗は慣れた手つきでカウンター奥とテーブル席の奥の壁にあるオイルランプを点けた。
「無事だったとは思わなかったぜ。しかも目と鼻の先だ」
そういうと時宗はカウンターの中から肉や魚の缶詰を三つ取り出し、スプーンを三つ置いた。
「まずは再会を祝して飯でも食おうぜ」
拓は周囲を見渡す。食事の跡がいくつもあった。
「優美や啓吾たちは?」
「あいつらはまだ見つかってねぇー。お前をようやく見つけたとこだよ」
「いつからここにいる?」
「三日前だ。一日山を彷徨って昨日ここに来た。腹が減ったから飯食って酒飲んでダラダラしてたら騒がしくなって……知らん連中が暴れていたから大人しく寝てた」
「俺は今日気がついたところ。多分ここから10キロほどいった山の中の小さな村の近くだ。ボロボロのバイクがあったから、それ拝借してここまで来た」
予想していた通り覚醒に時差があった。すぐ後ろにいた時宗との差が三日なら、少し離れたところに座っていた優美と啓吾はもう少しズレているだろう。
「美人のカノジョ連れとはビックリだぜ。どこで知り合った?」
「彼女はどうやらここ最近目覚めたらしい。ALのことは何も知らない」
「……知る限り、一番最近か。覚醒者はもういないと思ったけど」
時宗はポケットとか煙草を取り出し、それを咥えて火をつけた。
手の中にある煙草は、以前時宗が愛用していたマルボロではなく見たこともない中国の煙草だった。
「煙草もここで手に入れたのか?」
「酒場だからバッチリ。いっぱいあるぜ。全部中国産、不味いけど」
「一つくれ」
「お前煙草吸った?」
そういいながら時宗はポケットから未開封の煙草を取り出す。拓はそれを受け取ると、黙って姜に手渡した。
それを姜は受け取ると、笑み一つ見せずそれをポケットに入れる。
「感動のご対面は終わったか? ではそろそろ、あのALとやらの抹殺方法を教えてくれるかな? 日本人」
「明日の朝までやることねぇーよ」
「…………」
「俺たち三人の弾と外のALがトントンだぜ? 無駄撃ちできねぇー。この辺りは電気も通ってねーから夜は真っ暗だ。そんなんじゃあ逃げ出すこともできねぇーさ。朝になってから考えようぜ? 少なくともあっちのあばら家よりこっちの店のほうが頑丈みてーだし、こっちには酒と飯と水はあるからよ」
姜は何か打開策を期待していたのだろう。時宗の説明を聞くと露骨に不快な表情になった。だが現状はどうすることも出来ない。もうじき陽が暮れる。
姜は舌打ちすると、時宗が出してきた缶詰を掴み、一人離れた席に座わった。拓が缶切りを持ってきたときには、彼女は器用にスプーンで缶を開け、無言で味付け魚を食べていた。拓は彼女の前に水だけ置いてカウンターに戻った。
カウンターでは時宗が二人分の缶詰を開け、ビールを出していた。
「姐さん、ビール飲むかい? ぬるいけど」
「<姐さん>じゃなくて、姜 英姫。北朝鮮の軍人さんだ」
「近くて遠い隣人さんか。俺、福田 時宗。恋人は外国人も歓迎よ?」
「ベッドで殺せば満足か? 絞殺でも圧殺でも好きなのを選べ」
ニコリともしない。時宗は面白くなさそうにため息をついた。
「拓よ。怪しい肉と怪しい魚、どっち食う?」
「肉」
肉の缶詰を受け取り、それを頬張る拓。すぐにそのしょっぱさに顔を顰めた。ラベルをよく見ると<SPAM>と書いてあった。<SPAM>……スパムは米国が誇る缶詰肉の代表だが、塩分濃度が高いのが特徴だ。
怪しい肉ではないが、単品だとかなりしょっぱい。
しかし贅沢はいえない。
「米が欲しい」
「我慢しろ。酒で誤魔化せ」
探せば米くらいはあるだろう。だが火が使えない。
「時宗」
そっと拓は時宗に顔を寄せ、小声で言った。
「一応彼女には警戒しろ。寝首をかかれたら笑い話だぞ?」
分かっている、と答える代わりに時宗は拓の肩を叩いた。そのあたりは暢気で自分勝手なようでいて、この世界に長い時宗だ。スケベだがそのあたりはしっかりしている。
その後三人は黙って過ごした。
***
そして、夜が明けた。
三人とも、一階で過ごした。
……さすがだな……と拓が感心したのは姜だ。
結局彼女は一睡もせず、時々水を飲み、煙草を吸っただけだ。余計な会話は一切しない。
拓と時宗は交代で四時間ずつ眠った。一晩くらい寝なくても大丈夫だが、どうせやることもない。
夜が明けてから、拓と時宗は店内にある食料をかき集めた。食料はいつ手に入るか分からない。銃も貴重だが食料も貴重だ。
缶詰は8つ。後は米と乾麺、スナック菓子が5袋あった。それを店内で見つけた布袋に入れる。布袋は二つあったので、1/3は姜に渡した。酒はあるがこっちは持つと重くて行動に支障が出るので諦めた。
「このまま長居していても仕方がないし、行くか」
「時宗。お前、ショットガンの弾は何発?」
「17発」
「お前、20発って言ってなかったか?」
「パイソン20発、ショットガン20発。昨日3発撃ったから17発!」
……なんだ、数持っているじゃないか……と拓は睨む。
確か、指令室に飛び込んだときショットガンは弾が切れていたはずだ。時宗も<BJ>から弾の補充をしてもらったのだろう。
「それだけあるなら二階から狙撃すればどうだ? 三人で60発は超えている」と姜。
「それ、最後のケース。出来れば逃げたい。銃の弾は今後補給できないし、ここで使い切った後、またALと遭遇したらアウトだよ」
「姜姐さんの仲間が自動小銃持っていたろ? あっちは弾切れ?」
「弾が切れてなければ、ナカムラを殴り倒したりはしていない」
もっともだ。となれば銃は泣いても笑ってもここにあるだけだ。
「車があれば逃げられるのか? お前たちはあのエイリアンを殲滅する任務にあるのではないのか?」
「ないよ。世界中ALだらけ。全部殺していたら限がない。今はまだ第一段階だから車があれば逃げ切れる」
「我々があのエイリアンと戦ったあたりで一台古い小型トラックがあった。同志がそれを乗ろうとしたがバッテリーが上がっていて動かん。ナカムラがバイクで来たというのなら、バイクを持ってきてエンジンがかかるのではないか?」
「鍵は?」
「エンジンのスターター音がしたから鍵はあった」
「充電ケーブルが運よくトラックにあれば可能かもしんねぇーけど、作業に二人いるぜ? その間二人は動けねーし、一人じゃ無理だぜ姐さん」
「バッテリーか」
拓は上着のポケットからスマホを取り出した。このスマホのアプリにはJOLJUが入れた充電チャージ機機能がある。ケーブルを繋げる必要はなく、バッテリーに当ててスイッチを入れるだけの簡単機能だ。これなら最小限の動きで動かせる。ただ、すでにバイクを動かすのに一度使い、スマホのバッテリーは残り55%。JOLJUは一回で半分使うと言っていたから、これに使えばスマホは当分使えなくなる。
しかし、もうこれしか方法がない。
「そのトラックを動かそう。俺が取りに行く。バッテリーはなんとかする。問題は、動かして戻ってくるまで2分くらいの間ALを引き付けてくれる事だが……この店、水道は出る?」
「ああ、水は出たぜ。中国の水だから飲んで腹壊しても俺はしらねーけど」
「水は水だ」
そういうと拓はカウンターの後ろに並んでいる酒瓶を見た。
姜は意味が分からなかったが、時宗には分かった。
「おいおい。マジかよ。酒は貴重だぜ?」
「この世界じゃあ、水のほうが重要さ」
そういうと拓は近くにあった未開封の白酒を開けると、無造作に中身を床に捨て始めた。
「再会」1でした。
ということで今回は時宗と合流して情報をやりとりしただけ、状況は変わりません。
しかし夜が明け、ようやく打開策が出てきましたが、どうなるか……。
さて、次回はつついに突破編です。
そして新たな展開が待っています!
もう「AL」も第二章、襲われるだけの話ではありません。
ということで次回は「再会2」です。
まぁタイトルで半分ネタバレしてますが。
挿絵は拓のベレッタ、時宗のパイソン、姜のM942です。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




