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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第六章拓編後編
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「医者」1

「医者」1



祐次の診察。

予想以上に姜とレンの傷は深い。

下された残酷なトリアージ……。

奇跡だけが彼女を救う。

そして現実を乗り越えるため、全員協力で立ち向かうが!

***




 午後11時45分 調布 甲州街道


 ……俺は生きているのか……。



 (キム)は地面に倒れた状態で意識を取り戻した。


 周りには日本人たちがいる。


 弾は腕と肩と右足を貫通した。出血量は多くなく急所は外れている。仲間の(ピョン)も生きていて重傷ではない。だが二人ともダメージで動けなかった。


 すでに日本人たちに取り囲まれ、武装が解かれ手錠が掛けられる。その程度の傷なのか、日本人たちにとってテロリストである自分たちの命などどうでもいいのか、扱いは手荒く怪我人としての扱いではなかった。



 そんなことは今更どうでもいい。自分たちは負けたのだ。


 それに目的は果たせなかったが、どうやら自分たちは日本人たちに一泡吹かす事はできた。それで満足だ。



 だが目の前で起きている、あの不思議な光景は何だ?


 小さい奇妙なエイリアンと、立体映像で現れた日本人。


 こんなものは見たことが無い。





***




 

 何が起きているのか、伊崎たちも正確にはわからない。


 祐次が現れた。

 それは分かった。米国にいるはずの祐次が特別な通信で今ここに現れた。


 ただし立体映像だ。だがリアルタイムで間違いなく本人だ。


 そして今から祐次が指示をする。


 自分たちはそれに従うしかない。




『余計な人間は退け。影を作るな! よく見えない』


 祐次は挨拶も懐かしがる会話もなく、いきなり命令を始めた。ちゃんと把握している証拠だ。


 拓のスマホのカメラが祐次の<眼>だ。拓が祐次の代わりにスマホを持って動く。


 今、時宗がレンを抱きしめ、姜は優美が抱くように支えている。そして二人の前で、篤志がJOLJUの持ってきた医療バッグの中身を広げていた。


 伊崎は戦闘班を車の後ろに下がらせた。周りはどうすることもできず、見ているだけだ。


 医学に心得のある者などいないし、祐次が指示を出すから、彼にとってよく知る仲間たちだけのほうがやりやすい、と判断した。



『拓! 今いる場所は?』


「調布、甲州街道だ。練馬まで30分かかる」


『篤志。優美のほうにいる女の脈を計れ。数えなくていい、早いか遅いかだけ確認しろ。後血液型や負傷の具合を正確に確認してくれ。拓、カメラを時宗の少女のほうに向けて見せてくれ』


 重傷なのはレンのほうだ。拓はレンのほうにカメラを向けた。


「銃創が三発。出血は多いが意識はある。まだ5分も経ってない」


 拓が素早く説明する。

 ホログラムの祐次の表情が険しくなった。



『分かった』


「どうすりゃいい! 祐次!」


『時宗』


「おうよ!」


『<黒>だ』


「…………」


『腹部動脈欠損と大腿動脈貫通、トリアージ<黒>だ』



 それを聞いた時宗……そしてその意味を知っている拓と伊崎は目を見開いた。



 トリアージ<黒>……不処置群……直ちに処置を行っても救命不可能な者の判定。つまり手遅れだ。


 まだレンの意識はある。もし祐次本人が現場にいればギリギリ<赤>だったかもしれない。だが祐次はここにはいない。



 動脈損傷。

 これが二箇所で、一箇所は腹部だ。前島がここにいても内科専門でこの処置は不可能だ。


 血液だけは鮮度がある。いつ使うか分からない非常用医療バッグには入れていない。


 いや、あったとしても、動脈欠損はすぐに手術して血管結合しない限り出血は止められない。太腿はともかく腹部は開腹しないとできず本物の医者でなければ無理だ。


 ここにそれが出来る人間はいない。今から車を飛ばして練馬に戻ったとしても30分はかかり間に合わない。


 そして患者は一人だけではない。二人だ。祐次が指示して処置できる人間も一人だけだ。



「ふざけんなお前!! 手はあるだろうがよ!!」



 時宗は叫ぶ。だが祐次は現場にいない分落ち着いていた。



『JOLJU! お前でいい、少女にモルヒネを2本打て。傷の近くにだ』


 これは治療ではない。ただ苦痛を和らげるだけだ。


「なんとかなんないかだJO?」


『時宗。声をかけ続けろ! 意識を失ったときが終わりだ。どうにかできないかこっちで手配する』


「手があるのか?」と拓。


『期待はするな、反則だからな! 間に合う保障もない。とにかく傷を圧迫して少しでも時間を稼いでくれ』



 そういうと祐次は振り返って画面外に向かって英語で何か怒鳴った。そして何か激しく言い合いをしていたが、最後は強引に押し切ったようだ。



「どういうことだ?」と拓は小声でJOLJUに尋ねた。

「ク・プリの細胞再生装置があるの。祐次はそれをここに転送するよう命令したJO。それがあればどんなに重傷でも瀕死でも死なない限り傷は治るンだけど……あれは祐次用にDNAセッティングした一つしかない特別製で……地球人汎用に作り直すって言ってたけど時間がちょっとかかるし、コレ完全に反則なんだけど、リーは祐次にいくつも借りがあるから……間に合えばいいけど」



 異星人の万能治療器がある、ということのようだ。ただし時間がかかる。


 レンはもうこれに賭けるしかない。



『時宗。こっちもやるだけのことはする! 声をかけ続けろ、いいな!』


「……おうよ」



 そう答えた時宗は強くレンを抱きしめた。その目にはうっすら涙が浮かんだ。



『もう一人の女のほうはトリアージ<赤>だ。今ここで処置しないとこっちも練馬まで持たない。いいか皆! 彼女の治療に専念してくれ! 緊急手術を行う!』


 <トリアージ・赤>は緊急処置を急ぐ重篤患者で、トリアージでは最優先対象だ。


 正規の医者がいないこの場では、助かるかどうかは分からない。だが手がないわけではない。処置は可能だ。


 すぐに拓とJOLJUは姜のところに移動した。すでに姜のセーターは切り取られ、傷口がはっきりと見えている。


 傷を見た祐次の表情が、レンの時より険しくなった。



『場所が最悪だな。いいか篤志。場所的に左鎖骨動脈を損傷しているはずだが出血量が少ない。呼吸困難がある。つまり軽度の心タンポナーデを起こしている。だから麻酔で安定させてから、まず心嚢に小さな穴を開けて血液を抜く。そのショックレベルだと深刻じゃないがやらないと死ぬ。破片が刺さっているから血管の破裂が起きていないが、少しでも動かして破片がズレて裂ければ10分で失血死、刺さったままだと炎症が広がって部位が壊死する。心臓近くの動脈壊疽は致命傷だ。だから血管を縛って速やかに破片を除去しないといけない。他にも破片はあるかもしれないがその部位だけは処置しないと練馬まで持たない』


「ゆっくり運べば?」


『夜道に30分もストレッチャーもなしに運ぶのは不可能だ。速度が遅すぎると傷の影響が他に広がる。呼吸困難で練馬まで持たないし揺れで血管が裂ける。絶対に駄目だ』


「……そうだな」


『車の振動で破片が血管を突き破れば致命傷だ。そこで処置しなければ死ぬ。篤志がやれ』



「……僕がやるんですか……?」



 篤志が蒼白になって答えた。

 こんな大手術、できるはずがない。

 だが少しとはいえ医学を学んだのは篤志だけで、何より師匠である祐次が直に指示する。息が合う人間が執刀するしかない。



 聞いた仲間たちも言葉を失う。



 いかに危険で無茶な状態かは医学を知らなくてもわかる。



『助けたかったらやるしかない! 俺が全部指示する! お前は俺が言うとおり動けばいい。篤志、お前なら出来る。道具も薬もそこに揃っている』


「……はい……」


『篤志、手術用の手袋と拡大ルーペをかけろ。優美、その間に消毒液で傷の周りを消毒。血液型は?』


「意識が朦朧して聞けていません」


『アジア人だな? 啓吾!』


「俺?」


『お前はO型で万能だ。アジア人でRH-の可能性は低い。もう賭けだ! JOLJUから採血器を受け取って血を分けてくれ。管の先に輸血パックをセットすればいい。1回刺せば50ccくらいまで取れる。術中輸血が必要で100ccでも150ccでもしないよりはマシだ。周りにO型が他にもいたら協力してもらって血を集めろ。未使用の大型注射器もあるからそれを使え! 間違ってもO型以外は入れるな! 抜いた血液を輸血パックにいれるのはJOLJUが経験あるからあいつに聞け! 注射器は使いまわさず一人に使ったら捨てろ。両腕の静脈で二度採れる。同一人物なら使いまわしていい』



 それを聞いた伊崎がすぐに周りで見守っていた戦闘班たちに血液型を尋ねて回る。4人が前に進み出た。その間にJOLJUが各バッグから採血用セットを探して取り出す。採血と輸血準備はJOLJUから説明を受けた伊崎がやることになった。そのくらいは伊崎でもできる。JOLJUは篤志の助手をしなくてはならない。


 静脈採血のやり方は伊崎も知っている。腕を縛り静脈に針を刺す。血が吸われれば、輸血パックを差し込めば採血できる。やったことはなくても見たことはあるし受けたこともある。見様見真似だがまだ分かる。


 誰かもう一人篤志の補佐を、と祐次。この中で一番医療現場を経験しているのはJOLJUだ。JOLJUには器具や薬の手配に集中させたい。人手が足りない。


 戦闘班の人間はこの非現実的な事態に飲まれてしまって、とても動けそうに無い。


 立候補したのは、なんとユイナだった。



「大丈夫です。血は怖くありませんし、怪我もしていません。元気ですし目もいいです」



 ユイナも真剣だ。周りも止めなかった。誰だってこんなことは自信がない。



『麻酔、感染症薬、増血剤、血液凝固剤を順に傷口周辺に打て。注射は一回分ずつになっている。番号かNoが打ってあるからそれを見ればいい。拓は腕で脈をとれ! 優美は彼女が動かないようしっかり押さえつつ声をかけ続けて意識を失わせるな。ちょっとでも容態が急変したらすぐに言え。呼吸が遅くなって悪化したら携帯酸素ボンベをつけろ』



「……分かった……」



『誰か記録をつけろ! 俺の発言と手術の経過、すべてメモしろ! それがないと前島さんが引き継げない!』



 時間がない。JOLJUが召還していられる時間は一時間、つまり祐次の力が借りられるのもそれまでだ。それまでに終えなければ、拓たちだけではどうすることもできない。


「医者」1でした。



衝撃展開連続!


レンちゃんはトリアージ黒で姜は赤。


黒は本編で説明したとおりです。他の人間を救うためには救命処置はしません。しても手遅れ状態です。祐次本人がここにいれば別ですが、さすがに本人はここにきていません。

レンが助かるかどうかは、反則の万能治療器を転送すること。

これはエダ編で祐次が自分とエダに使用していますが、元々全地球人用ではなくJOLJUが改造してDNA登録した祐次とエダだけが使えるもの。逆に言うとJOLJUもゲ・エイルのリーも「祐次とエダは使うことを許可する」と認めたもので、ほかの人類に使うことを許していません。しかしそれを強引に命じた祐次は、完全にレンを見捨てたわけではありません。


姜のほうが問題です。

こっちは重大緊急処置が必要です。運べば破裂して死ぬし、破裂しなくても練馬まで持ちません。

ということで祐次監修と指示で、なんと篤志執刀!!


一応弟子ですが、直接習ったのは二週間で後は本で独学。もちろん初めての患者。しかも外科処置!

しかし拓たちでは指示の内容も器具も分からないので、篤志しかいない!


緊張と緊迫の超展開!


二人の命運は!?


完全クロスオーバー! そしてクライマックス!


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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