表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第六章拓編後編
296/394

「混乱」2

「混乱」2



ALの大乱入で混乱する大学構内。

その隙に脱出を図る拓たち。

作戦の要は<AL避け>の能力があるユイナ!

そしてその結果は!?

***





 午後10時38分 


 拓たちは、ついに移動を決意した。



 <朝鮮勇士同盟>は全滅したのか、それともALに見つからない場所に隠れたのか、銃声が止んで10分ほど経つ。今ならば拓たちが出て行っても連中は襲ってこない。



 ALはざっと見て4000ほど。大学周辺には2000ほどいると判断した。あの香港ディズニーランドにいた密集度と同じくらいだろう。溢れかえるほどではないが、10単位の群れがそこらじゅうに徘徊している。裏門まで行くとすればALの中を突き進む事になる。



 さすがに道のど真ん中を進む事はせず、このキャンバスエリアは建物の中や物陰を移動することにした。ただしその先の体育施設エリアになれば隠れる場所は森の中しかない。


 幸いこの2号校舎は隣の法学部、経済学部まで繋がっていて、中を移動できる。

 だがそこから裏門までは外だ。森も薄くなる。


 AL相手に森の中は無意味で、こちらの視界も悪く闇も濃く歩きづらい。ALには闇は関係ないから、そこから北門までは正面を堂々と行く事になる。



 北門を出て車に乗り、事前に教えてもらった伊崎たちの潜伏場所までいき合流して三台で逃げる。そこまではユイナのAL避けの能力が前提だ。



「300mは歩くな」

「前方だと周囲だけでもざっと3000はいる」

「一発でも撃てばその倍は襲い掛かってくる。ユイナちゃんに頼るしかない」


「私一人なら襲われないと思います。これだけの数のALは初めてですが」


「問題は誰かが俺たちを見つけて発砲してきたときだ。応戦しても反応される」



 <朝鮮勇士同盟>が何人生き残っているか分からないが、連中にとっては拓たちも敵だ。ユイナを連れているのを見れば奪還に来るだろう。



 そのための対策は一つだけある。



「でもアレは見つかった時の対策だ。せめて100mは見つからず進みたい」

「なら一つだけいい手がある」


 姜は握っていたショットガンを時宗に返すと、拓に耳打ちした。

 拓は頷いた。



「姜。アンタは危険だぞ」

「お前もな」


「俺が姐御で、拓が姫様?」


「前行くのと後ろ行くの、どっちがいい?」


「姐御と後ろついていくわ」



 決まった。



「お前たちといると毎日がスリルだ」



 姜は長嘆した。

 こんな無茶苦茶な連中は姜も会った事がない。

 軍にいてもこんな愉快で無茶なことはさせないだろう。拓たちの事をよく知らなければ、こんな馬鹿な作戦に賛同しなかっただろう。





***




 四人が路上に出た。


 先頭がユイナ。その横に拓が続き、その後ろには両手を頭の上に組んだ姜。そしてその後ろで姜の頭にサイレンサー付きのベレッタM9を突きつけた時宗が続く。


 ぱっと見れば、日本人たちがユイナを奪還し、姜を人質にしているように見える。


 そしてALが辺り一帯に充満している。仮に<朝鮮勇士同盟>の連中が見つけても、この状況下で即襲撃する可能性は低い。歴戦の軍人か特殊部隊にいた経歴のもつプロがあれば別だが、この状態を制圧できる作戦がすぐに出ない限り手は出せない。



 それでいい。



 ようは数百m、連中の動きと思考を封じればいい。200mも離れれば襲撃しても意味がない。



 ALは拓たちを発見した時は一斉に反応し戦闘態勢を取ったが、ユイナが前に出ると動きを止めた。ALたちから見る見る間に戦闘意欲が消えていく。



 ユイナがゆっくり歩き出すと、ALたちはまるで避けるように前から退いていく。もうALたちは全くユイナに興味を示さない。



 以前八王子駅前でこの光景を一度見たが、こうして巨大な群れにまで効果があることは驚きだ。



 ユイナの言葉は嘘ではなかった。



 まるで「モーゼ」の海渡りだ。



 ユイナを先頭に、拓たちも後を付いて行く。



 先頭は危険がある。試しに拓がユイナの前を行こうとすると、僅かにALが反応した。彼女の姿が見えている事が重要なのか、彼女が見ている事が重要なのか分からないが、今はユイナを先頭にするしかない。




「<トルザ・テカ・ドラ>……<トルザ・テカ・ドラ>」



 ユイナが奇妙な言葉を呟いている事に拓は気づいた。



「それは?」

「おまじないです。<悪魔は来るな>いう意味です」

「ロシア語でもないよね?」


「ですね。……私もどこで聞いたのか分からないんです。ただ記憶には残っていて……ただ私が歩くよりこれを口にしているほうが効果はあるみたいですので」


「…………」


「もしかしたらALたちの言語なのかも」

「ALは喋れないはずだけど」



 拓も少し気になった。



『ALは生物ではなく生物型兵器で使役している存在がいる』ということを、以前祐次かJOLJUが言っていたような気がする。祐次はJOLJUかク・プリから聞いたのだろう。もしかしたらこの言葉はその種族の言語なのかもしれない。



 もしくは神……<BJ>たちの言葉か。


 しかしどうしてユイナがそれを知っているのか。JOLJUなら知っていそうだが、ユイナとJOLJUが会ったのは前回京都で召還した時が初めてのはずだ。



「拓さん?」

「いや、ごめん。そのまま続けてくれ。ゆっくり行こう」

「はい」


 四人はゆっくりと進んでいく。


 50mほど進んだ時、背後で何か物音がした。



「気づかれたぞ。今ハングル語が聞こえた」



 姜がそっと囁くように告げる。拓も時宗も人の声までは聞き取れなかったが、彼女は軍人で耳はいいし母国語だから判別できる。


 まだキャンバス近くだ。自動小銃やライフルなら射程距離に入る。



「やるか」



 拓はそっと顔を後ろに向けて呟く。



「何をよ?」

「悪あがき」

「任せる」


「全員吃驚するな。声を上げず振り返るな」

「何をする気だ、拓」

「巨大な花火さ」



 やるなら連中が仕掛ける前だ。今が絶好の好機だ。



 拓はそっとスマホを取り出すと、無線機を立ち上げて周波数を操作し、最後にボタンを押した。


 次の瞬間だ。


 巨大な爆発が発生した。


 文学部とモノレールの施設二箇所で爆発が起きたのだ。しかも爆発は一度ではなく、五発連続で続いた。



 この巨大な爆発で、周りにいたALは一斉に反応し、同時に人の悲鳴も聞こえた。何人かは巻き込まれたのだろう。



 これは拓たちがここに潜入したとき仕掛けた陽動のためのプラスチック爆弾だ。むろん日本政府の装備から持ってきたもので、すでに信管もセットされていて、無線信号を送れば着火するよう元々セッティングされたものを使った。これは各班の班長だけが知っている事で、拓も今回の作戦を伊崎に報告したとき教えてもらい、早速利用することにした。



 対人用でもあるし、AL陽動用でもある。



 花火作戦同様、何か起こればALは簡単に反応する。人の悲鳴が聞こえたから、ALも人間の存在を知ったはずだ。間違いなく一旦はそっちに向かう。



 これで拓たちの周囲のALも半分以下に減った。



「なんだコレ! お前、やりすぎじゃね?」と時宗。

「お前は何でも破壊するんだな!」

 姜も小声だが鋭く叫ぶ。



 そういえば香港でもガス爆発で店を吹っ飛ばした。



 困ったときは何か爆破する、というのは確か麗美が言っていた事で、その習慣が拓にはついてしまっているようだ。



「俺が爆弾の専門家に見えるか?」



 拓は振り返らず平然と答えるが、内心予想以上の爆発で吃驚している。が、仕掛けた本人が驚いていては皆が動揺するので冷静を繕っている。



「今がチャンスだ。少し急ごう」

「はい」


 ユイナも冷静だ。ユイナも周りを注視しながら少し歩の速度を上げた。

 歩きながら、拓は伊崎に無線を繋げた。


 むろんこの爆発は伊崎たちも確認している。


 あれが爆発した以上、拓たちが無事ユイナを救出し、脱出を始めたことは察していた。事前に凡その作戦は伊崎には伝えていたし、麗美が洞察するだろう。


 案の定伊崎は凡そ拓たちの状況を理解していた。



『脱出成功だな。どのくらいでこっちに来る?』


「後200mほどで裏門です。その先はどうなっています?」


『こっちもALだらけだが、今の爆発で構内に流れていっている。それでも周囲に2000はいるぞ?』


「ユイナちゃんの<AL避け>は確かです。今彼女と移動していますが襲われません」


『こっちはまだ民家だ。裏門からは少し離れているな。車に乗る事は出来そうだが、迎えにいくのは無理だ。門周辺はかなりいる。門の近くにお前たちの車は置いてあるが』


 しかし伊崎たちも取り囲まれているのならば彼らが脱出できない。ALはいつまで待っても去ってくれるわけではない。優美や啓吾たちもいるし放ってはおけない。


「民家の場所は知っています。俺たちがそっちに向かいますから合流して脱出しましょう。でも、車に乗るまでは安全かもしれませんが、乗ってしまうとユイナちゃんの影響力がどこまで保てるか」



 車は二台になる。8人乗りの大型SUV二台だから全員なんとか乗るが、一台にはユイナは乗らない。動きだせばユイナの乗っていないほうの車はALの襲撃に遭う可能性が高い。



「伊崎さんの車に麗美さん、宮本さん、大庭さん、ユイナさんを乗せて先行して下さい。俺たちは迎撃しながらついていきます」


『大丈夫か?』


「完全武装していますし、俺たちは前の大侵攻作戦もやりました。蹴散らしながら逃げる事には慣れていますよ」



 伊崎とユイナは日本政府にとって重要人物だ。そして宮本と大庭の二人は元自衛隊だが戦闘に特化しているわけではないし、頭脳だけは貴重だが戦闘力を持たない麗美もいる。拓たちは調達班だが戦闘経験が豊富でALにも慣れている。戦闘をするのならば拓たちのほうが適任だし、何か異変が起きたとしても伊崎たちさえ練馬に辿り着けばいい。最悪拓たちは練馬に向かわず囮となって別方向に向かう事もできる。


 伊崎は数秒沈黙して考えたが、結局拓の案を採用した。

 今回の作戦主導は伊崎ではなく拓だ。



『無茶はするなよ』


「分かっています」


 拓はスマホの懐に戻した。


 むろん会話はすべて時宗や姜たちにも聞こえている。



「何が無茶しねぇーだよ。無茶しかしてねぇーじゃねぇーか」

「全くだ。自殺願望があるのか?」

「それはお前たちには言われたくない」


 拓は悪態をつくと煙草を取ろうとして懐を弄った。

 が、すぐに自分の煙草は燃やしてなくなったことを思い出した。



「使え」


 姜は頭の上で組んでいた手を下ろすと、懐から煙草とライターを取り出し拓に差し出した。

 拓は苦笑しながら受け取り、煙草を咥えた。



 軽く一服目の紫煙を吐いたときだ。



「言いませんでした? 私あまり煙草は好きではないって」



 ユイナがクスクスと笑いながら言った。この一言に拓は無言。



「冗談ですよ。どうぞ」

「簡便してくれよ。姫様の冗談、笑えねぇー」



 時宗も忍び笑いをすると自分も煙草を噛み火をつけると煙草とライターを姜に手渡した。姜も無言で煙草を吸い始めた。



 煙草が吸えるのは、山場を越えた……ということだ。それだけ気持ちが落ち着き、作戦成功が見えてきた。



 しかしユイナがこんな普通の女の子みたいに笑いながら冗談をいうのは初めてだ。



 特別な存在に祭り上げられ、その役目を忠実にこなしているが、この娘も本来は普通の14歳の少女なのだ。 



 救出作戦は成功し、姜も取り戻した。



 すべて上手くいった。



 だが……これですべてが終わったわけではなかった。


「混乱」2でした。



ということでユイナも救出です!

<AL避け>の力はすごい!


と……ここで気づいた人はちゃんと全編目を通している方!

ユイナが言っていた<トルザ・テカ・ドラ>。これ、エダが<AL避け>になるとロザミアに教えてもらった言葉と同じです。

つまりJOLJUが「米国でも前例があるJO」と言っていたのはエダのこと。


しかしここにミステリーが!


エダにはユイナほど第六感の特別な能力はありません。エダは<オルパル>を使っています。

ついでにロザミアはユイナのことは知らない様子。

そして当然ユイナはエダもロザミアも知りません。


これが実はエダ編のほうの伏線だったりします。


拓編はエダ編の半年先の話で、エダ編は拓編時間軸だと過去です。


つまり……エダ編で何か起きる?


こういう両シリーズにまたがるキャラは、今のところ拓とJOLJUとユイナだけ。

JOLJUは何か知っていそうですが……まぁあいつ、知らないことは実はないんですけど。


ということで無事脱出! そして救出も成功!


と……思いきや……?

次回急展開!!

テロリストたちの逆襲! そして……拓編、ついに誰かが死ぬ!?


実はここからが第六章拓編の山場で、ここまではいわば前座だった!

戦争編最終決戦!


これからも「AL」をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ