「魔法と科学と作戦と」
「魔法と科学と作戦と」
JOLJUが語る<魔法>の話!
実は文明の分岐点。
魔法の鍵はエダ!?
そしてついに作戦準備が整った!
第六章エダ編ラスト!
***
しかし、これはこれで興味深い話だ。
歴史好きの拓が聞けばきっと食いついたに違いない。
「魔法って何でなくなっちゃうの?」とエダ。
「科学と両立できないから。ええっとね。人類は魔法がある限りどこかで科学文明の壁にぶち当たって科学進化が停滞するの。そこで科学を選ぶと、自然に第六、第七感は衰えて失われちゃう。魔法を選ぶと文明進化が停滞するの。基本魔法じゃあ宇宙には行けないし適応できないし。パラは魔法があった時代が長くあって一時期魔法のほうが進化したけど科学が追い付いてきて、それで科学が勝ってね。パラリアンは300年前に一大転機があって、宇宙進出のとき人類が宇宙用に適応したことで自然に魔法は失われたの。でも本能の中から完全に消えるわけじゃないから、たまに隔世遺伝でちょこっと才能がある人間が出たりもするし。同じことが地球人にもいえるけど、地球人の場合失ってから2000年だから大したことは出来ないJO」
「面白いね」
「オイラ人類じゃないし完全科学側の生命体だから、第六感とかないの。代わりになる能力はあるけどオイラの場合は魔法というよりトコトン科学が進んだ代用だJO」
「まぁ科学も魔法も極めればどっちも変わらないというしな」
それはSFやファンタジー世界などの世界での常識だ。だが突き詰めればそうなのだろう。
「ALは、その第六感で敵味方の判断をしているのか?」
「厳密には違うけど、人類の能力で一番近い説明をすると、そういう能力もある、というのが正しいかもしんない」
「ク・プリに第六感はあるのか?」
「ない」
答えたのはリーだ。
「宇宙にはそういうものがある種族はあるが、JOLJUの言うとおり高度な科学と両立させている文明種族は少ない。パラリアンは銀河連合内でも上位の科学技術文明だ。しかもパラリアンの第六感と順応しなければならないとすれば、確かに連枝種族である地球人以外に適応できる存在はいないかもしれん」
「それが……あたし……?」
エダは首を傾げた。自分ではそんな実感はない。
祐次はなんとなく分かる気がする。エダには特別なカリスマ……魅力があり、人の心を自然と癒す。これはエダの持つ類稀な美貌と博愛からだが、それだけではない気がする。ただ美人で優しいだけでこれだけ多くの人間を魅了することはない。このエダの魅力が第六感の名残りのようなものからきているとすれば、エダにはその方面の才能が本能としてある、という話は信じられる。
エリスも300年前に失われた技術を専門の装置のない中研究と調査だ。容易ではない。
だからまだ一日はかかるそうだ。
「俺は暇だな」
祐次は護衛役だ。今日船内のALは駆逐して船内は安全になった。周囲のALも駆逐した。一日二日は安全だ。
「この近くに集落はあるか? 物資でも漁りに行く」
「一番近くの集落は20km先だ。10軒しかないし、もう獲り尽くして毛布一枚もない」
「鹿でも狩ってくるか」
雀の涙でも食材は確保したほうがいい。鹿や豚ならば群れで徘徊していればまとめて手に入る。人類が減って逆に増えたのは野生動物だ。ただし野生動物もただ徘徊してはおらず見つからなければ一日無駄になるし、ALに遭遇すれば危険だ。それがあるから衰弱し弾薬の乏しいセントタウンの住人たちも大規模に狩りに出ることは出来なかった。
だがその点祐次は経験もあるし田舎に出没するALなど敵ではない。リーのスノーモービルがあるし、20km圏内であれば何かあっても無線を聞いてすぐに戻ってこられる。
こうして祐次の行動も決まった。
後は全員、やるべきことをするだけだ。
***
それぞれの作業が終わったのは三日後だった。
NY共同体との連絡もド・ドルトオ経由で取れた。ド・ドルトオたちがク・プリであることは知られるとまずいから、最初に通信を繋げた後はド・ドルトオたちのほうで中継して、ゲ・エイル船の無線とNY共同体本部の無線を繋げ、ベンジャミンとのコンタクトに成功した。
ベンジャミンは祐次たちの無事を喜んだが、同時に新たに提案された避難作戦を聞いて言葉を失った。ベンジャミンに言わせれば、相変わらず無茶苦茶な作戦を思いつく、と文句を言いたいところだ。だが実行者が祐次とJOLJUとリーの特別な三人だと知り、作戦を了解し、NY側でも受け入れ態勢と空港の準備を請け負ってくれた。
それらが一段落した後、彼らは一旦セントタウンに戻り、今度は二日かけて米軍基地でC130輸送機の改良を行った。
そこまでは順調に進んだ。とはいえこっちは計算上の計画でテストもなく一発本番だ。
そしてそこからセントタウンの住民たちの避難の本格準備が始まった。
生活必需品はNYで揃える。その程度の余裕はNYにある。
最低限の私物と残っている食料。そして武器弾薬。ガソリンは万が一引火する危険があるから持って行かない。だから途中異変が起きて墜落したり不時着すれば、無事で済んだとしても生存率はかなり低い。
JOLJUとエリスが最新鋭の戦艦のコンピューターでシミュレートして計算して出した成功確率は62%。<パーツパル>の天候予想システムで最も悪天候の時を選んで飛ぶが、予想よりさらに天候が酷ければさらに成功率は下がる。
悪天候の雪の日に飛ぶ。雪が自然の防音装置だ。雪も水分でALの活動は弱まり多くはゼリー状態になる。さらに雲の中を飛ぶのだから終始乱気流に晒される。だがその乱気流のおかげで雲の中でALに取り付かれる危険は減る。これしか飛行機でいく方法はないのだ。
それでも飛行可能時間は精々3時間。エダの<オルパル>は合計約9分しかない。乱気流が酷く航路がズレたり着陸に手間取れば、その時はALの襲撃を受けて墜落する。
正直住人130人の命を賭けるには気が進まない作戦だが、このままここに残っていたら生存率は5%以下だ。
「大丈夫……かな?」
エダも不安は拭えない。
だが祐次は動じていなかった。
「あのNYの大侵攻のときに比べたらマシだ」
あの大侵攻のとき……祐次とエダの生存確率は20%ほどだっただろう。それでも二人は生き残った。
希望を捨てなければなんとかなる。自分たちならば。
それに……祐次は思う。
エダがいるのならば、きっとなんとかなる。
この少女は、何か特別な幸運を持っている。
だから「エダには第六感があって<オルパル>との順応も出来た」という話もすんなり納得できたし、このセントタウンの住民たちもエダの明るい姿を見て避難に決意することが出来たと思っている。
今回は祐次の力ではない。エダの存在の力だ。
そしてもう一つ、今回の鍵は……。
「ヤバくなったらJOLJUがなんとかするだろう。暢気でルーズだが、無責任な奴じゃないし無鉄砲な奴でもない」
「うん!」
それに今回はク・プリのリーダーであるニ・ソンベ……リーと、銀河連合の最新鋭戦艦を持つエリスも同行している。作戦成功の有無は彼らにとってそれほど大きな価値はないかもしれないが、どうやらエダと祐次の存在に関しては軽視していない。住人は助けなくても自分たちだけは反則技を使って助けてくれる可能性はある。そういう保障はないしそういう展開を望んではいないが、その計算だけは秘かにあった。
どうやら自分たち二人は、他の地球人とは違う立場になってしまった。
祐次たちは予定よりも早くNYに戻ることになりそうだ。
無事辿り着けるかどうか……それはまだ分からないが。
悔しいことに……今回、祐次の力で出来ることは、そうないのだ。
再び、困難で大きな作戦が動き出そうとしていた。
「魔法と科学と作戦と」でした。
ということで第六章エダ編終わりです。
なんか中途半端な……という気もしますが……実はこっそり予告すると、今度の作戦実行はある事件の発端となってすぐに別の事件と連続していくので、長くなるので第七章に移動させました。元々第六章のメインは拓編のほうです。
今回ちょこっと魔法の話がありました。
魔法といってもファンタジーみたいな魔法があるわけではなく、実は魔法もJOLJUくらいの超生命体の知識でいうと科学分野で、科学との相性の話が鍵です。ちなみに惑星パラにはガッツリ魔法がありました。(「マドリード戦記」参照)そのパラの未来人であるエリスが魔法の知識がないのは、パラ人は科学を選び魔法能力が消失したからです。ただ、隔世遺伝で能力と才能が先祖返りしているロザミアは、実は魔法が使えます。ただ、これは余談ですが、惑星パラの魔法って実は一種の召喚魔法(だから<シャーマン>と呼ばれている)で、幻獣がいない別宇宙では魔法らしい魔法は発動しません。もう幻獣どころか惑星パラがないので。
今度の作戦の成功率は60%!
この結果は第七章で!
次回、拓編後半!
誘拐されたユイナ事件! 拓たちの活躍は!?
これからも「AL」をよろしくお願いします。




