「人類と魔法と」
「人類と魔法と」
宇宙船内に入った一同。
それぞれの作業に入る。
リーは祐次の強さに驚愕。
そしてその夜。
JOLJUが語る人類とパラリアンの秘密とは。
***
墜落していたゲ・エイルの宇宙用戦闘機戦闘機<バエン・テハト>の中は、NYで墜落していたゲ・エイルの船とよく似ていて、あまり部屋はなく広いブリッジがあり、周囲の壁には特有の装飾が施されている。これがゲ・エイルの船の特徴らしい。
祐次とリーが中にいたALを完全に退治したので、船内は無人だ。
「話には聞いていたが化け物だな」
リーは感心……というより半ば呆れた顔で祐次を見る。
二人が中に入ったとき、艦内はALで充満していた。祐次は右手にヴァトス、左手にステアーAUGを持ち、全く臆することなく瞬く間に駆逐していった。リーは祐次の援護で戦ったが、7割は祐次が倒してしまった。しかも無傷だ。接近戦だと祐次の強さはより際立つ。
ヴァトスを持っている事も驚きだ。
元々はゲ・エイルの武器だが、ゲ・エイルでも特別に選ばれた名誉と実力を兼ね揃えた勇者にしか持つことが許されていない特殊武器だ。リーたちではどんなに改造しても持つ事ができないし、できたとしてもこれほど使いこなす事はできない。だが祐次はゲ・エイルも凌駕するほど使いこなしている。
リーには見覚えはあった。確か5年ほど前NYで遭遇したゲ・エイル・リーダーが持っていたものだ。
そのゲ・エイルが何かの理由で死に、持ち主がなくなったヴァトスをJOLJUが地球人用……祐次用にカスタムしたのだろう。普通のヴァトスではALを何度も斬れないから、この点もJOLJUがカスタムしたに違いない。
だが一番驚くべき事は、それを難なく祐次が使いこなしていることだ。射撃能力と白兵戦は地球人である祐次のほうが間違いなく上だ。ク・プリは誰も敵わないだろう。
リーはエノラで戦闘力を強化してゲ・エイルに劣らないが、祐次には及ばない。
もしかしたらゲ・エイル最強の<ミドレクト・エアラ>より強いかもしれない。
常識では考えられない。ゲ・エイルは白兵戦に特化した種族で、地球人より遥かに身体能力は高い。それを凌駕するということは、もしかしたら現在この惑星にいる戦士で最も強い人間なのかもしれない。
「良かった。船としては動かないケド思ったより壊れてないJO。やっぱ宇宙船だから頑丈だJO」
JOLJUだけはこの船も珍しくない。
ぐるっと船内を一巡して、すぐにコントロールデッキを触り始めた。
エリスやリーも勝手は分かるようで、すぐに操縦デッキのほうに向かっていった。
「リー。私は勝手に行動記録の調査をする。そのついでにエダ君と<オルパル>と意識感知装置の順応のテストはしよう。そっちはどうする?」
「通信機を調べる。調査とは何だ? エリス」
リーも大体分かるようだ。
「ゲ・エイルがこの星系に何をしにきたのか、今何をしているか、だ。銀河連合として調べたい」
「ゲ・エイルは宇宙海賊文明なんだろ?」と祐次。
「だからってやたらめったら戦争しまくる権利があるわけではない」
宇宙では種族や文明が違えば正義も違う。元々他種を侵略する文明が正義としているゲ・エイルにとって戦争は悪ではない。
その点銀河連合も権利を認め、法の範囲内の侵略行為は容認している。しかし度が過ぎたり規定以上の違法な侵略行為があった場合は厳しく対処される。ゲ・エイルも銀河連合に所属する文明でその事は知っているはずだ。
「我々ク・プリの立場から証言すれば、いきなりやってきて問答無用で戦争を仕掛けてきた」
「それが気になる。このあたりはかなり銀河の端で銀河連合にとっては辺境地区で本来ゲ・エイルの活動域じゃない」
「お前の母国のとばっちりを受けたと俺は見ているんだが?」
リーは多少事情を知っている。
お前……つまりエリスたちパラリアンだ。
「その可能性が一番高いな。何せパラの艦隊が主力となってここ近年150年の間に三度ほどゲ・エイルの違法侵略軍を撃退している。パラの生き残りが辺境に行ったと知ってその仕返しをしにきたといったところだろう。私怨による復讐ならば違法行為だ。しかしそれでゲ・エイルを責めるにも証拠はいる」
「巻き込まれた我々はいい迷惑だ」
「それは俺たち地球人の台詞だ」
二人の会話を聞いていた祐次は面白くなさそうに近くにあった椅子に腰掛けた。
宇宙船の中に入ってALを駆逐してしまえば、とりあえず祐次の仕事はない。
しかし何かのテストのためエダは残らなければならないし、一応JOLJUが働いているのは祐次の指示に従って、ということでリーとエリスの指示には応じないということだし、地球人の代表としてこの場を離れるわけにもいかない。
もっともやることはなく、ただ見ているだけだが。
***
その作業は夕方まで続いた。
エリスは転送で<パーツパル>に戻り、祐次たちとリーはトレーラーハウスでこの地で宿泊する。大体5日分の食料は持ってきている。
北米北部の真冬だ。夜は氷点下15℃以下に下がるから、とても外で過ごすなんてことはできない。
トレーラーハウスは前日にJOLJUとリーがカスタムを済ませていて、高性能発電機と空調、さらにコンロ兼ストーブのアウトドア用木炭ストーブも設置してある。
狭いが、三人と一匹が寝起きするには十分だ。
晩御飯はそのストーブでエダがカレーライスを作った。リーは初めてカレーライスを食べたが、最初はちょっと妙な顔をしたが「問題ない」とペロリと食べた。
「後どのくらいかかるんだ?」
祐次は食後のブランデーを舐めながらJOLJUとリーを見た。リーとエダは紅茶、JOLJUはホットココアを飲んでいる。ク・プリは酒を飲めるが酔えないから好まない。
ちなみにJOLJUは酒も飲めるし大量に飲めば少し酔っ払うが、本人はアルコールより甘いソフトドリンクが好きだ。今夜は寒いからココアである。
「必要な部品は今日外して取っちゃったから、明日は改良だJO。後、明日ド・ドルトオさんに通信を送る予定だJO」
「それは俺とJOLJUだな」
ク・プリ同士の連絡だから、当然リーが担当する。
「あたしのテストはまたやるみたいだよ。詳しいことはエリスさんしか分からないみたい」
「<オルパル>は元々パラの物なんだろ?」と祐次はJOLJUのほうを見て言う。
「まーね。でもエリスも詳しくは知らないモノなんだけどね。アレ、地球の言葉だとロスト・オーパーツになるのかしらん?」
「何それ?」とエダ。
「<オルパル>の原型になったものはパラでも200年以上前になくなったの。エリスの世代にはとっくに使わなくなってるロスト・テクノロジーだJO」
「お前がやれば早いンじゃないのか?」
「あー……できなかないけど……オイラ<シャーマニル>の才能はないんだJO」
「<シャーマニル>?」とエダ。
「科学的にいうと人類特有の第六感と第七感の特殊順応能力? 簡単に地球の言葉でいうと一番分かりやすい言葉は魔法かしらん?」
「パラリアンって魔法があったの!?」
「んー……昔はね。オイラの分析だと地球人も昔は使えた人間がいたはずだJO。連枝種族だし。ああ、でもね。パラリアンはワリと最近魔法能力を失ったの。とはいえ300年ほど前だけど。だからエリスや今のパラリアンの世代に魔法使いはいないし知識もないJO。地球人は2000年くらい前に失ったみたい」
JOLJUにとって300年前は最近らしい。歳でいえば約600歳だが、体感的には3000年以上生きている。
祐次はなんとなく分かる気がする。2000年前といえば丁度キリスト、仏陀、モハマドなど大宗教の教祖が生まれた時代だし、それ以前は神話の英雄が混在していた時代で神や魔女の伝承がある。現代人が考える魔法はないかもしれないが、何かそういう神秘的な力が存在していたのかもしれない。
「人類と魔法と」でした。
宇宙船のほうはそんなに目新しい話はありません。
この連中にとっては、異星人の船も珍しくない、ただのジャンクです。
今度の話の鍵は後半の<魔法>の話。
人類は魔法が使えた!?
しかも完全理系の神様JOLJUが保証しています。
まぁ……とはいえウチの世界観でいえば当然の話です。何せ前作になる惑星パラの戦記モノ「蒼の伝説」と「マドリード戦記」では主人公は特殊な魔法使い、ハイ・シャーマン(ちなみに日本語化させているので、パラ語だと<ファレ・シャマルニ>で、ないとは思いますが「AL」で表記する場合は後者使用)やシャーマンマスターがいて魔法使っていますし。
しかし、SFだと思ったら魔法話?
しかもエダが何か関係する?
このあたりが後半シリーズの鍵です。
次回が第六章エダ編のラスト。まとめのような話です。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




