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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第六章エダ編
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「呉越同舟」

「呉越同舟」



残る問題は宇宙船からの調達。

鍵はいうまでもなくJOLJU。

しかしこいつの利用は実は違法だと分かった。

だが本人は全然気にしていない。

祐次、JOLJU、リー、エリスの共同作戦!

***



 

「しかし無線は届かないでしょう?」


 中継基地が停まったこの崩壊世界では、どんな高性能無線機を使っても精々20kmが限界だ。天気がよく開けた場所であれば40kmほどまで伸びるが運だ。


 連絡にヘリコプターも使えない。NYまで往復するほどの燃料がないし、操縦できるのはJOLJUしかいないし、ヘリコプターの秘密部品を使うからなくなると困る。このセントタウンまでヘリコプターで来たが、もう二度と乗りたくないと思うほど揺れた。どんなに詰めても二人しか乗らないからヘリコプターで行き来することは無理だ。それに墜落されては作戦が根本から崩れる。ALは大都市圏のほうがはるかに多く見つかる危険も大きい。


 しかしそっちの対策もすでに考えてある。



「それは俺とリーでなんとかする。一週間ほどで出発の予定だ。その間に住民たちを納得させて、避難の準備を。後は輸送機を動かせるようにしてくれ。軍基地が近くにあってC130輸送機があると聞いた。燃料はNYの片道分あればいい。航空燃料はガソリンと違って車には使えないから基地に残っているだろう」

「分かった。そのくらいは我々でなんとかしよう」


 その後住人たちの健康診断の手配、持って行く物資の相談などしてから、リーはバーンとステラとエリックのほうを見て「ちょっと席を外してくれるか?」と提案した。


 彼らは「ごゆっくり」と言って家を出る。

 ここからの相談は宇宙科学に関することだ。

 会話も念のため日本語に切り替えた。




「ベンジャミンとの連絡方法は? JOLJUの通信機器か?」


「オイラのスマホの無線機の有効射程は一番調子がいい時で500km。宇宙通信回線の受信機能なら40万kmあたりまで拾うけど」

「そんなに!? ということは……月あたりまで?」と驚くエダ。

「だJO。でも、それ宇宙用の受信範囲なの。宇宙用は指向性で真上の宇宙はいいけど地球上だと真ん丸くて電離圏もあるから距離はぐっと短くなるJO。スマホサイズだもん。あと地上だとその時の<ハビリス>の濃度にもよって変わるから、駄目なときは100kmくらいになっちゃう」


 この地球の科学では有り得ない有効範囲があったから、大西洋でエダたちの無線を傍受できた。JOLJUの無線は一度周波数を捕まえれば後は安定する。だがあれは海上で電波が届きやすかったという好条件もあった。今は悪天候もありそこまで期待できないし、そもそも500kmではNYまでは届かない。


 しかしこの話はすでに祐次と事前に打ち合わせ済みだ。



「ベンジャミンには無理だが、ド・ドルトオのところには宇宙通信機があった。アンタなら通信周波数の設定が出来るだろ?」


 ク・プリ同士の通信ならばルール違反ではない。


「それでJOLJUの通信機で通信を?」

「いや。ゲ・エイルの船の通信機をJOLJUが利用する。戦闘機でも宇宙船なら宇宙用通信機器がある」


「多分壊れている」

「だからJOLJUとアンタが直すんだ。<デダブ>だろ?」

「簡単に言う」

「JOLJUと一緒なら出来るだろう。JOLJUは多分出来ると言っている」

「本当に簡単に言う」


 色々ルール違反だらけだし、本来JOLJUに出来ないことなどないから、そりゃあ本人に聞けばそう答えるだろう。実際は祐次が考えるより困難なのだが、ゲ・エイルの船が予想より壊れていなければなんとかなる気がした。


「他にエノラ順応の意識通信機器とか重力制御版とかを取り外すらしい」

「…………」


 やるのはJOLJUとリー……あとはエリスがルールギリギリまで手伝う。本来銀河連合は関われない作戦だが、そこはJOLJUが上手く誤魔化す算段があるらしい。


「人手もエネルギーも道具も満足にないJO。二日はかかるJO」


 こればかりは祐次たちは役に立たない。使える人手はリーとエリスだけだ。


「エダ君と意識通信機の共鳴実験に半日かな?」

「エダもいかないとまずいか?」

「<オルパル>に適応して起動できるのは彼女だけなんだろ?」

「まぁ……ここに置いていくのもな」


 セントタウンの連中がエダに危害を加えるとは思わないが、安全だとは思えない。半日くらいならばステラたちに預けてもいいが、数日となるとどうしても他の住人たちと接触する。ここの現状に心を痛めるような優しい娘だし、いきなり誰も知らない場所で暮らすのは大変だし、心無い住民たちが嫉妬して何かしら嫌がらせをするかもしれない。


 祐次も雰囲気で察した。ここの住人たちにとってエダは綺麗で眩しすぎる。ただでさえ目立つ少女だ。

 羨望は時に嫉妬と悪意に変わる。


 祐次はその点図太いし、<医者>という特別な肩書きもあり特別扱いされても誰も嫉妬はしないが、エダが特別扱いされているのを見れば嫉妬は生まれる。

 人間は皆善良で純粋なわけではない。しかもエダは特別目立つ美少女だ。美貌で特別扱いを受けているという邪推を受けるのは本人にとって辛いはずだ。


 それにエダだけではない。変に接触していざこざが起きて感情的になられると困る。


 大丈夫だと思いたいが、米国は災害が起きると黙って避難所で大人しくするのではなく暴動略奪をしてしまう国民性だ。エダを人質にして立場の向上や待遇の交渉くらいはやりかねない。彼らにとっては、今はそれくらい非常時だ。



「キャンプカー……もしくはトレーラーハウスがあれば借りられるか? なきゃ最悪4WDの大型車と寝袋と冬用のテントだな」


「トレーラーハウスに住んでいる奴がいる。それを借りよう。それでいいか?」


「十分だ。JOLJUが雪道走行用にカスタムする」


「中々オイラ多忙だJO~」

「そりゃあ今回はお前が鍵だからな」


「クロベ。君に期待するのは俺たちの護衛だ。この辺りはALが少ないとはいえ、ゲ・エイル船周囲はALが多いし、中にはALが充満している。作業するためには全滅させないとできん。君の強さも重要な要素だ」


「ああ。心配するな」


 先月の大侵攻を乗り越えた祐次だ。地方にいるALの群れは精々500規模で、そのくらいならば一人で蹴散らせる。銃も持ってきているし銃弾も5000発は持っている。



「ところで一応聞くだけだが」

 祐次は話を変えた。

「宇宙のルール的には、今回の作戦はどれくらいアウトなんだ?」

「そうだな。立場による。お前たち地球人の立場で言えばややグレーだが違法にはならない。勝手に墜落している宇宙船を勝手に自力で利用するという話だし、地球人はそもそも未発達文明で銀河連合の支配下にないから、銀河連合のルールで裁かれることはない」


「未開の中世人だからな」


「我々ク・プリとしてはいくつかルール違反だが……我々も現在遭難中で生存のための緊急避難権はある。最終的にこの作戦がク・プリの地球脱出に繋がることであれば注意くらいで済む。エリス=ルーシェも同意しているから問題にはならない」


「あの男は銀河連合の監視官も兼ねるのか?」


「そこが難しいところだ。エリスは銀河連合に所属しているが元々パラリアンで、このテラ星系にはパラリアンだけで来ている。ということは半分銀河連合半分パラリアンだ。言うまでもないがこの地球を侵略し、我々と戦争を起こしたのはパラリアンだ」


「味方とは思っていないのか?」


「今は敵ではないが、敵になる可能性はある。パラリアンはク・プリにとって純然たる敵だ。パラがやっていることは完全に銀河連合のルール違反だが、JOLJUと<BJ>が届けを出しているようだから介入はできない。もしパラリアンの侵略に正当性を認めたら敵になる。あの男の立場が一番難しく一番読めない。厄介なことにJOLJUや他の神たちを別にすれば一番科学力と戦闘力を持っている」


「…………」


「あいつが乗ってきた戦艦一隻で、我々も地球人も1カリスで全滅させられる。AL以外はな」


「1カリス?」と祐次。

「ク・プリの単位。約50日かしら?」とJOLJUが翻訳する。


「お前は気にしなくていい。問題になるのは俺たちが無事テラ星系を脱出して救助された後のことで、問われるのは俺だ。お前たちのことはどうせJOLJUが庇うだろうから地球に何か起きることはない」


 だが、そのJOLJUもやり過ぎればこの星系のどこかにいる<BJ>や他の神と対立することになる。JOLJUははっきり地球人陣営に味方しているから人類は<神>を相手にすることになる。だからJOLJUは自分を制御している。



 JOLJUは、いわばワイルドカードでありジョーカーだ。



 問題は、このジョーカーを切り札ではなく頻繁に使わざるを得ないという点だ。


 使う間はゲームに勝てる。


 だがそう何度もジョーカーを使えばゲーム自体が成立しなくなり、もうゲームではなくなる。ゲームが成立しなくなった時、敵の<神>は問答無用で地球を滅ぼす。


 他の地球人はこのゲームの存在を知らないが、祐次はゲーム盤の存在を知り、その上に乗り、JOLJUというジョーカーを使う立場にある。祐次だけが唯一JOLJUを使える人間で、リーやエリスたちにはジョーカー・カードは使えない。


「エリスの対応はお前たちのほうがいい。俺だと変な方向に事態が流れる危険がある」


 リーは地球で活動して地球人を助けているが、ク・プリアンだ。その最優先事項はク・プリの救助でALの地球侵略を防ぐことではない。地球人と共存できるのは敵が共通だからだ。



「<呉越同舟>という奴だな」


 リーが日本の諺でそういうと、祐次は苦笑した。


「なんだ?」とリー。

「ク・プリはその言葉が好きだな。レ・ギレタルが同じ諺を言っていた」


 それを聞いてリーも苦笑し、後は黙ってソファーに座った。


 地球人とク・プリ。どこまで同じ舟に乗っていられるかは、二人にも分からない。



 だが、当分は同じ舟で進むことになりそうだ。


「呉越同舟」でした。


言葉だけでなく諺まで熟知して使える異星人たち。

ちなみにレ・ギレタルが「呉越同舟だな」とつぶやいていたのは三章冒頭のボートの中で祐次はいませんが、あのシーン以外でも口にしていたという設定です。彼女のお気に入りセリフだったわけですね。

さて。

改造自体はこれだけVIPが集まっていますし。

30世紀(JOLJU)、24世紀エリス、20世紀リーの技術者と科学文明で15世紀(地球)の木造船を作る、ようなものです。

問題はJOLJUがワイルドカードという事。


実は人類に味方する、といいつつJOLJUが言う事を聞く地球人は祐次、エダ、そして拓の三人だけで、あとの地球人の命令やお願いは聞いてないんです。JOLJUに頼み事ができる地球人は後々もこの三人だけ。あとは地球人ではないですがロザミア。なのでJOLJUはリーやエリスたちにとっては意外に制御未知数の存在です。結構今後エダ編だけでなく拓編でもJOLJUは鍵になっていきます。まぁ、今回のリマスターでこいつは主人公の末席にあがりましたしね。


次回、宇宙船編!

そんなに長くないです。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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