「放浪」1
「放浪」1
第二章スタート。
意識を取り戻した拓。そこは横浜ではなく中国だった。
そして<BJ>と名乗る異星の神。
<ラマル・トエルム>に会え、と提案される拓。
拓の決断は……?
***
「…………」
気がついた。
周りは山と田んぼ、そして竹林だ。
拓は周囲を見渡す。
周りに広がる風景に見覚えはない。多分、日本ではない。
拓は起き上がり体に異常はないか確認した。怪我はしていないようだ。
その時だ。
15mほど離れた切り株に座る白い服を着た50代の男を見つけた。
彼……<BJ>の手の中には、拓のベレッタM9があった。
「興味深い武器だ」
「…………」
「火薬の爆発力で鉛の弾を飛ばす。原理は非常に原始的で音も喧しく反動も強い。投石の延長だ。しかし<AL>には有効だ。あの連中にはレーザー兵器も荷電粒子兵器もあまり通用しない。そういうエネルギーにも熱にも強い体質でね。だからといってゲ・エイル星人の愛する白兵格闘戦も有効ではない。体液が強力な酸で、粘液を纏っているし一度斬りつけただけで刃を駄目にしてしまう。まったくよく出来た存在だ。しかし、この原始的な銃はその隙間を上手に掻い潜った、文明のミッシング・リンクのような武器だ。宇宙を旅する者にとっては中途半端だが、<AL>には有効だ」
そういうと<BJ>はベレッタを拓に返した。
「私は<BJ>だ。イニシャルというわけではない。地球人ではないのでね。地球の発音だとそう呼ぶのが近い発音だから、そう呼んでくれたらいい」
「異星人か?」
「ああ、その通りだ。地球の言葉でいえば、私は<神>と呼ばれる存在だ。勿論地球の神ではない、傍迷惑なだけの存在だよ」
「<AL>たちの神か?」
「正確には違うが、似たようなものだ。さて、雑談をしに来たのではないので、用件に入っていいかね? 半分は状況の説明だがね」
拓は頷く。
「まず、ここは日本ではなく中国広東省の山間部だ。君たちは横浜でク・プリアン星人の宇宙船を起動させた。その時エンジンのエネルギーに<ハビリス>が反応し、船のエネルギーを奪い原子崩壊爆発を起こした。君たちは<ハビリス>に放り出され、時空間転移した。本来は原子崩壊して消滅するのだが、私がテレポートさせて助けた」
「君たち?」
「あの爆発時、あの船にいて生きていた人間は全員テレポートさせた。<ハビリス>というのは特殊な時空連続帯で様々な影響力を持っているが、多分説明しても理解できないだろうし適切な地球の用語もないので無視してくれたらいい。君たちは爆発によって違う時間、違う場所にテレポートで飛ばされたと理解してもらえたらいい」
「成程。だから中国なのか」
とても理解はできないが、納得するしかない。
「ここまでが、君の現状の説明だ。さて、ここからは別の話になる。聞くかね?」
どうぞ、と拓は手を振る。
「今、地球人は何人だと思う? 生き残っている数だ」
「何人だ?」
「約12万人だ。全地球上で、だよ? 正確には12万2967人……現時点でね。一時間もすれば更に減るし、ほとんど増えていない。当然だがね」
「…………」
さすがの拓も言葉を失う。2億くらいは生きているのではないか、と思ったが、ここまで少ないとは思っていなかった。
70億が12万……ざっと約0.0014%。定義でいえば全滅だ。
「さて、どうしてここまで人類が減ったのか。それは私を含めた異星の神4人の、無責任な討論から始まった。地球人類を滅ぼすか、残すかという議論だ。一人は反対、私は中立、そして残る二人は人類滅亡だ。こうして<AL>の侵略は始まった」
とんでもない話がさらりと出た。愕然となる拓。
「俺たち地球人の関係のないところで、全て<神>を名乗る連中が勝手に始めたことだっていうのか!? そんなことで70億人を殺したのか!?」
「だから言ったじゃないか、無責任な話だと。別に地球人の許可は必要ない」
「理不尽だろう!」
「そうかね? 地球人類だって鯨やイルカ、ゴリラの頭数制限を勝手に決めて管理しているが、君たちは彼らから許可は得たのかね? 取っていないだろう? コンタクトが分からないのは人類の未熟だ。私なら彼らの意見が聞ける。惑星内のことだというのなら、今回の地球も私たちからみれば一銀河系内の出来事だ。大した差ではない。私は銀河系レベルでも<神>を名乗っていいことになっているからね。君はこの……地球の日本語では<天の川銀河>だが、この広大な銀河に知的生命体がどれだけいて、何種類いるか分かるかね? そのうちの一種族が絶滅したとして、宇宙世界に影響が出るかな? 私の次元でいえばそういうことになる」
「……理屈としては、正しい」
憮然と答える拓に、<BJ>は満足そうに頷く。
「いい。ここで怒って立ち上がらない君は、冷静で理解力が高い。では次にいこう。話したとおり、一人は反対している。それはいい。問題は私の結論なのだが、今はまだ出ていなくてね。それで人類を試すことにした」
「試す?」
「大したことではない。私たち4人の神、<AL>、全てのことを知っている地球人が一人だけいる。生き残っているク・プリアン星人やゲ・エル星人が<ラマル・トエルム>と呼んでいる英雄だ。地球人たちは彼を<黒衣のサムライ>と呼んでいる」
「日本人か?」
「その男を見つけなさい。北米にいると聞いている」
「俺がその男を見つけると、何が起こるんだ?」
「人類生存の希望が生まれる」
「…………」
「何が起こるかは、説明は必要ない。会えば分かるし、<ラマル・トエルム>が人類の希望を示してくれる。とにかく見つけたまえ」
「<ラマル・トエルム>……」
「私に人類の力を見せてみたまえ。そうすれば私の気分が人類生存に傾くかもしれない。そうなれば意見は二対二になる。残り二人の神も、そうなれば自分の意見を考え直すかもしれない」
重大すぎる提案に、拓も無言になる。
……なんで、こんな提案をする……?
……70億人を抹消しておいて、いまさらこんな子供騙しな話があるのか……?
「断ったら、どうなる?」
「別に構わないよ。強制ではないからね」
とても拒否できるような話ではないが……。
この話がいかに子供騙しのクエストだとしても、この結果をこの<BJ>と名乗る神は知りたがっている。そしてその結果によって神の意見が決まり人類の生存権が決まるとなれば、やらないわけにはいかない。
「俺が選ばれた理由は?」
「この提案は君だけではない。もう何人かの地球人にしたよ。ただ君を最後にしようかと思っていたところだ。選んだ理由は三つ。1、異星人に対して最低限の知識がある。2、<AL>に対して最低限の対処方法を知っている。3、<ラマル・トエルム>と同じ日本人……だ。きっと彼と出会ったとき、私の試練の意味を理解できると思った。そういう事だ」
「…………」
「遣り遂げるかどうか、楽しみにしている。特に期限はないが、人類が完全に滅亡する前に見つけることだ」
そういうと<BJ>は立ち上がった。
すると<BJ>はズボンのポケットから、二つのものを取り出した。
一つは9ミリ弾がフル装填されたベレッタM9のマガジンが二つ入ったマグポーチ。そして拓のスマートフォンだった。弾はともかく自分のスマホが出てきた事に驚く。
<BJ>は笑みを浮かべ二つを拓の掌に乗せた。
「どちらも私からのささやかなプレゼントだ。すぐに死なれては面白くないからね」
「このスマホはどういう意味です?」
「ちょっとだけ、サービスだ。君は珍しく私の話を最後まで冷静に聞けた地球人だった。そのご褒美だ。JOLJUも使っていたから道具として使いようがあるのだろう。中に<J>と書かれたアプリがある。それは私が入れた地球にはないアプリだ。この後すぐにそれを試してみるといい。それで少しは君の助けになるだろう」
そういうと<BJ>は初めて人間らしい笑みを浮かべた。
次の瞬間、<BJ>は忽然と消えた。
「……消えた……?」
もうどこにも姿は消えた。本当に一瞬のうちに消えた。辺りを見回しても、もうどこにも姿はない。だがスマホと装填されたマガジンがある。<BJ>は間違いなく存在した。
拓はマグポーチを腰のベルトに付け、スマホを起動させた。
すると最初の画面に、太い丸文字体のアルファベットの大文字で<J>とある。これはこれまでなかったアプリだ。
「怪しいなんてもんじゃないんだが」
しかし今のやりとりを考えたら何が出てくか分かったものではないが……しかし早めに触れと言っていたのを思い出した。
ここまで来たら何が出ても驚かないな……と思い、拓はそのアイコンを叩いた。
すると若い女の人工音声がアプリの説明を始めた。
『このアプリは地球にはない特別アプリです。そのテクノロジー、詳細、システムは他言無用にお願いします』
「なんだそりゃ」
『このアプリは先方の了解を得ていない、強制システムです。召還は10秒以内に行われます。最大滞在時間は1時間となっていますが、本人の希望によって滞在時間は変動します。また、本アプリは一度使用すると一週間は使用できません。回数は10回ですが、最初の召還はカウントされません。禁則事項に触れるとアラームで警告します。ご利用は計画的に行ってください』
「召還?」
……なんだそれは……?
『初回召還を行いますか? Y/N』
考えたって分からない。
とりあえず、ボタンを押した。
何も起きない。
と思ったその時だった。
突然背後で「ゴーッ」と音が鳴ったかと思った瞬間、それは何もない空間から突然現れた。
見知った身長50センチのへちゃむくれ異星人が、瞬間移動で現れた。
「JO!?」
ゴテッ! と頭から地面に落ちた。
「JOLJU!?」
「え!? ……なんで拓がいるんだJO!? てか、ここはどこだJO!?」
召還とはこういう意味か!
呼び出されたのはJOLJUだった。
「放浪」1でした。
ということで第二章スタートです。
前半は拓が主人公の拓・アジア・ルートです。
後半はエダ・ルートが少しだけ。しばらくは拓ちんルートです。
さて、拓ちんも<BJ>との対面から話は始まります。
こうして拓も<ラマル・トエルム>を知ったわけですが、重要なのは他にもクエストを受けた人間が居ることが判明したことですね。祐次以外にもいるということです。
場所は中国広東省です。南部ですね。西に向かえば香港があります。
拓も北米を目指すからには海を渡らなければいけないわけですが、果たしてどういうルートになるのか。
そして最後に出てきたお助けアイテム化されたJOLJU!
こいつの場合強制拉致、強制送還でずっと一緒にいるわけではありません。困ったときのJOLJUです。これがずっと一緒にいる祐次との違いですね。
後、拓は横浜事件から三日しか経過していません。
なのでちょっとややこしいですが、エダ(と祐次)・ルートより時間的には半年くらい先になります。
まぁこの二つのルートがいずれ合流しますが、その時は拓ルートのタイム・ラインになりますね。それだけエダたちのほうが過酷な事件がたくさん待っているという事なのですが。
第一章と違い、こっちは拓のほかにもレギュラーキャラが出てきます。
ということで第二章始まりました!
しばらく拓の旅をお楽しみください。
ちなみに拓とBJのコンタクトシーンはHPのアニメPVの中にアニメシーンであります。
これからも「AL」をよろしくお願いします。