表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第六章拓編前半
259/394

「交渉」2

「交渉」2


時宗を呼び止め意味ありげな話をするレ・ギレタル。

やはり<ラマル・トエルム>とク・プリは共同している?

それでは自分たちの役割は?


そして留守を守るレン。

そこに現れたのは姜だった。


***




 今後のスケジュールを打ち合わせして、時宗たちが立ち去ろうとしたときだ。

 レ・ギレタルが時宗を呼び止めた。



「君と拓が米国に行くのだったな」

「予定ではな」


 時宗はもう一度レ・ギレタルの顔を見た。

 彼女は何か複雑な笑みを浮かべていた。


「あまりはっきりとしたことは言えないがね」

「ふむ?」

「君たちの旅が無事成功することを、私たちク・プリアンは心から願っている」

「あんがと」


「一つだけ。無事米国につくことができれば、ク・プリアンを探しなさい。力になってくれるでしょう」


「米国にはそんなにク・プリがいるのか?」


「もう随分減って多くはないがね。実は我々の母艦は米国の東中部にある。墜落後も1ハデナ……約2年ほどは地上で起動していた。実は私もその頃は北米にいたのだよ」


「初耳だぜ」


「言っていなかったからね。その時、ク・プリアンは34人ほどいて、このテラからの脱出を試みていた。だが船の損傷は激しく、他の異星人やALの妨害もあり、中々進まなかったし、紛争もあって仲間も失った。それでも飛べるところまでは直っていたと思う。色々部品が足りず、私は部品回収のためヨーロッパに飛んで、そこでALに襲われて墜落した。その時私は仲間と3人で出かけたが、2人は死んだよ」


「アンタも苦労したんだな」


「ヨーロッパにク・プリアンはいなかったし、異星人の存在は地球人を動揺させるだけだから、私は地球人に化けて静かに暮らしていた。JOLJUと出会うまでは孤独だったよ」



「…………」



「昔話をしたいわけではない。いいか時宗。君たちが<ラマル・トエルム>と出会えば、必然的に我々ク・プリアンの生存者と深く関係することになる。そしてもしかしたらまた私と再会することになる」


「は?」



 何を言っているのか時宗たちには分からない。


 だがレ・ギレタルは嘘を言っているわけではなかった。



「先日JOLJUが教えてくれた。まだいくつか問題が残っているが、母艦が通常宇宙空間航行可能レベルまで修理が完了しているそうだ。準備が整えば、我々も米国のク・プリアンと合流する。ああ、母艦の転送装置を使うのです。我々は乗員なので船の機能が回復すれば地球上どこにいても転送で集まれる」


「さすが宇宙人、簡単に転送なんてできるのな。つーか、それで俺たち一気に米国まで連れて行ってくれりゃあいいのに」


「地球人に使うためにはDNA解析と登録が必要だし、それはルール違反だからできない。ルールというより、<ラマル・トエルム>を君たちが自力で見つけることと、我々ク・プリアンが地球を脱出するのは、別のミッションですから。それが<神>の意志です。もっとも……我々の転送技術は宇宙文明内では高いほうではないのも理由ですけど」


「JOLJUはいいのかよ? あれ? 篤志は一回テレポートしたんじゃなかったか?」


「登録して設定したのはギレタルではなくJOLJUでしたから」と篤志。


「JOLJUは何をしてもいいのです。ルール違反にはならない。それにあの時は私の乗っていた船がありましたがもう船がない。アレも一応<神>ですが色々制約があるようですから、そこまで傍若無人にルール違反はしないでしょう」


「神って何でもできるから神じゃねぇーの?」


「LV6と5の神はそうですね。我々通常生命体にとって一般的に<神>といえばこの階級になります。それ以上はむしろ制約のほうが多いのです。力がありすぎて何でもありだからこそ高い神ほど文明社会に対して自制するのです。JOLJUが<ただのJOLJU>でいるのはそれが理由です」


「面倒くせぇーなー」



 レ・ギレタルは苦笑した。内心では同感だが、宇宙世界のルールはルールだ。



「出発が決まったら、また訪ねてきてください。その時米国のク・プリの情報を伝えます。君たちにとってもいい情報です。<ラマル・トエルム>はク・プリアンと行動を共にしているようですから。地球人とク・プリアンのため共同活動していると思う」


「…………」


「だから私も君たちにも協力を惜しまないということです」


 そういうとレ・ギレタルは微笑んだ。


 どうやら時宗や拓の知らない秘密が、米国にはあるらしい。



 ますます謎は深まるばかりだ。





***





 中野 江古田(えごた) 午後1時26分



 時宗の自宅……いや、今ではここは第八班の拠点。


 レンは台所でさっきまで杏奈と楽しんでいた軽食の後片付けをしていた。


 基本日本では午前10時頃に朝昼兼用の食事が一度、午後6時ごろに夕食の二回の1日二食で、この二回は学校で配給の定食が買える。しかし個人的に余裕がある人間は大体昼過ぎに軽く軽食を食べる。自分で用意をしてもいいし、食堂は開いていないが購買部で買うこともできる。


 レンは別にお腹がすいていたわけではないが、この家で療養している杏奈は前島の指示で一日三食採るよう言いつけられている。結核の治療には栄養と休息をとり体力をつけるのが一番の治療法だ。杏奈はあまり料理が出来ないから、世話をするのはレンの仕事だ。


 台所に隣接してあるリビングからは、オーディオデッキから音楽が流れていた。一人家事をするのも寂しいし、杏奈は午睡の時間で、今は自室で寝ているので、レンは音楽でも聞いて暇を潰していた。元この家にいた住人(祐次)は色々音楽が好きだったらしく、音楽CDは色んなジャンルが山積みであった。半分は洋楽で半分は日本の歌謡曲、一部がアニソン(これはJOLJUの趣味)だ。洋楽はよく分からないので、日本留学時代聞いたことがあった初音ミクのメドレーを聞いていた。初音ミクは中国でも若者の間で大人気でよく知っている。


 レンは、楽しそうだった。


 彼女の仕事は皆の家事と杏奈の世話。そして時に調達班の仕事を手伝う。一応危険が大きいエリアの調達や偵察のときは留守番だが、それでもちゃんと彼女にも役割があり、今の境遇に満足している。


 自分の居場所は確かにここにあり、自分はここでは他の皆と何も変わらない、普通の人間だ。

洗い物が終わりタオルで手を抜いたとき、ふと自分の腕に刻まれた雑なタトゥーが目に入った。


 <香港>で入れられたタトゥーだ。


 組織で飼われた愛玩用の愛人の証。男たちに体を捧げる以外の価値しか認められなかった存在。


 その境遇から救い出したのは矢崎だったが、けして彼は愛してくれたわけではなかった。彼はレンを中国語の通訳と、自分の慰めのための道具としてしか扱ってくれなかった。だけではなく食料を得るためカラダを売らされることもあった。現にあっさり捨てられた。



 それしか非力な自分は生きる方法はない……と諦めていた。


 だがこの一ヶ月で、人生が変わった。


 拓たちは、レンを同等の友人、一人の女の子として扱い、差別もしないし、けしてカラダを求めたりしない。


 ちゃんと普通の仕事を任せてくれて、同じ飯を食べ、一緒に遊び、自由な時間もくれるしポイントや調達した物も平等に分けてくれる。レンが欲しいものをいえばちゃんと見つけて持ってきてくれる。そこに対価は発生しない。仲間だからだ。



 過去も聞かない。拓と時宗はレンの過去を知っているが、一度としてその事を口にしないし、本当に普通の女の子として扱ってくれる。だから優美や啓吾や篤志や杏奈はレンの過去を知らない。そして今外国である日本に避難してきたが、日本人たちも彼女を外国人として蔑視せず平等に扱ってくれる。政府は金であるポイントも篤志たちと同額くれた。



 ここでなら……自分は普通の女の子として、新しい人生をやり直せる。



 一度は諦め、絶望しかなかった人生だったのに。



 レンは洗い物を終え、お湯を沸かしてコーヒーを入れた。インスタントだが、砂糖がたっぷり使える。甘いコーヒーを飲むと気持ちも安らぐ。



 一息ついたレンは、ふと思った。



 今は拓と時宗たちが色々守ってくれている。


 しかし、拓と時宗は、一ヶ月ほどすればまた旅に出る。


 優美と篤志と啓吾は残るらしいが、拓たちはいなくなる。


 それを思うと寂しいし、不安も感じる。



 いや……不安なのは、もっと別の理由もあるからなのかも……。



「キミに伝えたいことが……キミに伝えたい音が……」



 つい、レンは今流れている初音ミクの『Tell Your World』のフレーズを口にした。


 ただ、そんな勇気は自分にはなさそうだ。




 その時だった。


 突然、甲高いベルの音が家中に響いた。

 非常用の警報装置だ。


 レンは顔を上げ、ズボンのポケットに入れていた小型リボルバーに手を伸ばした。


 これはこの家の防犯システムで、庭や塀に赤外線探知装置が設置してあり不法侵入者が敷地内に入り込めば警告としてなるようセッティングされている。むろんこのことはレンも聞かされている。


 侵入者は人とは限らない。ALがふらりと現れ、侵入することもある。いや、むしろALのほうが可能性は高い。この家は政府職員の自宅だと政府に届け出ているし居住者がいる目印の旗も立てているから日本人は不法侵入したりはしない。それにこの崩壊した世界で、防犯装置を起動させている一般家庭があるとは誰も思わない。



 ……AL……!?



 ALはどれだけ厳重に警戒していても突然出現する。それは中国だろうが日本だろうが同じだ。

 レンは銃を握り、非常ベルを消してからリビングのカーテンを開き窓から庭を見た。



「えっ」



 思わずレンは顔を上げると、ゆっくりと窓を開けた。

 そこにいたのはALではなかった。



「姜」

「レンか。久しぶりだな」


 姜だった。


 焦るでも隠れるわけでもなく、彼女は普通に庭に立っていた。

 10日ぶりだろうか。


 姜は家を眺めている。



「いい家だ。良かったな、レン。落ちつけたか?」

「姜は今東京に着いたの?」

「そんなところだ」

「そこは玄関じゃない。玄関は右側」

「入っていいのか?」

「ここ時宗の家。だけじゃない、皆の家。姜が来たのなら、ここは姜の家」

「拓や時宗は今いるのか?」

「二人と篤志は出掛けている。拓と優美と啓吾の家は別。今は私と杏奈だけ。どうぞ入って」

「…………」


 姜は黙って玄関のほうに回った。それを見てレンは玄関の鍵を開けに向かった。向かいながら、鍵がかかっているから庭から入ろうとしたのだろうか?


 玄関にいけばいいのに……と思った。




「交渉」2でした。


前半は時宗とレ・ギレタルの渡米編。

後半がレンと姜の再会編です。

まぁク・プリと<ラマル・トエルム>が何をしているかは、これから判明します。それも拓編ではなく多分エダ編で。


さて、レンのところに現れた姜!

実は捜索対象になっている姜ですが、拓はここにいないしレンはそのことは知りません。もちろん姜も拓や時宗がいないことを確認して接触してきたと思われます。


姜の狙いは何なのか?

彼女は敵か味方か?


次回もレンと姜の話です。

そしてさらに驚きの大事件が発生します!

で……拓編前半は終了です。一旦エダ編(六章は前後編ではなくエダ編は一度だけ)になります。


よく考えれば、拓……主人公だけど……もう登場しませんね……拓編後半まで(笑

まぁ拓編は群像劇ですし。


ということで次回拓編前半ラスト! そして驚愕の大事件!

これからも「AL」をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ