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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第六章拓編前半
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「捜査」2

「捜査」2



緊張する日本政府。

警戒と捜査を命じる伊崎。

拓は伊崎に呼ばれて、昨夜の証拠物について報告する。

外国人武装勢力の可能性。

だとすれば姜も関係が?

そして事件はこれで終わるのか?

***




 5月3日 午前10時07分


 練馬区役所で、臨時会議が行われた。


 昨夜の調達第二班襲撃の件についてだ。


 調達、武装、警備、戦闘の各班のリーダーが集められ、伊崎が事件について説明した。


 何者かに襲われたことは明確で、しかも相手は銃で武装し、さらに殺害した二人の銃を奪っていった。


 通常、調達班は一人150発から200発ほど銃弾を持ち歩いている。



「現場ではライフルの薬莢と拳銃の薬莢が発見された。目的は分からないが、銃だけが目的だとは思えない」


 銃だけが欲しいのならば、もっと効率的な方法がある。

 殺す必要はないし、第二班全員から奪うほうが効率的だし、それは可能だった。

 銃があるなら牽制して捨てさせてもいいし人質を取って奪ってもいい。

 しかしそうせず交渉も接触もせず襲撃し、第二班の半分の逃走を許している。


 第二班が集めた物資が目的でもなさそうだ。逃げ帰った第二班の証言によれば、その日は偵察メインで調達した物資はガソリンとわずかな食料で、そっちは手付かずだった。



「捜査は警備班と戦闘班が行う。調達班は当分遠距離の活動は控えるように。防弾チョッキは必ず着てくれ」



 こうして会議は解散した。


 それぞれの班長が去っていく中、拓だけは複雑な表情で残っていた。

 伊崎がやってきた。

 拓は立ち上がった。


 2人、黙って歩き出すと、近くにある別の小さな会議室に入った。


 話がある、と伊崎が事前に拓に伝えていたのだ。


 やがて政府の女性職員がコーヒーを運んできて、去っていった。


 最初に口を開いたのは伊崎だった。



「まだ世界の崩壊や日本臨時政府の存在を知らず、勝手に行動しているサバイバーがやった……という可能性はある。世界じゃあそういうアウトローが沢山いるんだろ?」

「らしいですね。こんなに秩序が残っているのは日本くらいらしいです。中国でも欧州でも米国でも」


 欧州は篤志、米国はJOLJUと祐次、中国はレンから聞いたし拓たちも見てきた。


 世界の状況は、きっと伊崎が思っているより悪い。拓はそれを知っている。



「中国かロシアの暴徒が渡海して入ってきた可能性もありますよ」

「どうしてそう思う? 拓」


 拓は一口コーヒーを啜ってから、ポケットから一つの薬莢を取り出した。

 ライフルの薬莢だ。



「7.62×39弾。刻印なしのミリタリー用です。銃砲店や日本の警察署では手に入りませんし銃も手に入りません」

「AK47か?」


 伊崎もコーヒーを飲む。


 日本は世界屈指の厳しい銃規制を布いている国だ。AK47は世界でもっとも流通している自動小銃だが日本にはほとんどない。ハンティング用としてカスタムされたものがごく少量輸入されているくらいでメジャーではない。


 伊崎たちが無事日本臨時政府を立ち上げられたのは、世界崩壊初期に、真っ先に米軍基地と自衛隊機地と警察署、そして民間の銃砲店を押さえ、ほとんどの銃を彼らが押さえたからだ。銃砲店のリストは警察で登録されていたので、手を打つのは簡単だった。


 残っているとすれば個人所持のライフルや散弾銃、後は不法所持の拳銃くらいだが、こっちはよほど運がよくないかぎり見つからないし、量もない。


 銃がなければ、暴徒や強盗も怖くはない。


 今の日本政府のほうが武装していて犯罪抑止力は高い。以前の日本と違って職員は最低でも拳銃は持っている。



「とはいえ、まだ全国じゃない。四国や九州、東北や北海道はまだ完全とはいえないが……どっちにしてもAK47は落ちてないな」


「警察署なら精々38口径ですし、銃砲店ならもっと別の口径のライフルかショットガンが精々です。しかも装弾数は2発+1。俺は警官じゃないので正確なことはいえませんが、襲撃したのは三人以上で、20発は撃っています」


 日本で認められている猟銃の装弾数はライフルでも散弾銃でも2+1と決まっている。改造パーツを組み込めば増えるが、パーツは違法品で銃砲店には置いていない。



「日本人の悪党の可能性は低い、か」

「日本人同士ならいきなり撃ったりしません。病院の第二班の生存者から聞いた話だと、大宮あたりで不審車を見つけて、尾行したら赤羽に辿り着いた。話をしようとしたら突然どこからか銃撃を受けたらしいです。待ち伏せされた」


「どっちにしろ……政府案件だな」



 無知な生存者が無法世界になったことをいいことに好き勝手している、ということであれば、まだ情状の余地はある。政府があるとは知らない不幸な事故だ。だがこれが外国勢力の悪党ということであれば武力で排除するしかない。



「お前はどう思う? サバイバーの可能性はないか?」


 拓は沖縄、九州、西日本、東海……と見てきた。そんな気配はどこにもなかった。


 西日本は<京都>が仕切っていて、彼らは大陸に近い分その手の警戒や調査だけはしっかりしていた。



「ここだけの話ですが、俺の勘では、それはないですね」


「目覚めたばかりで混乱している可能性は?」


「ないです。もう新しく目覚める人間はいません。ああ、これは二ヶ月くらい前JOLJUが言っていたんです。『<ハビリス>の時空跳躍現象は半年前が最後で、今後はもうない』って。以前は話半分でしたが、今は信じています。あいつ、ああ見えて現在地球にいる異星人の<神>の中で一番階級が上らしいですから」



『<ハビリス>が暴走して人類のほとんどが消滅した。ただ運よく<ハビリス>に順応できた人間だけが生き残ったが、時空連続帯に飲み込まれてそれぞれ時間を跳躍した。だから目覚める時間がバラバラ』


……と、以前JOLJUが教えてくれたことがあった。そして現に拓たちは二度目の<ハビリス>の暴走に巻き込まれ、場所と時間を跳躍した。拓は時間差がほとんどなかったが、時宗や優美や啓吾は若干ズレたし、祐次は一年前に飛ばされた。図らずもJOLJUの話は立証された。その後JOLJUが本当はすごい<神>だと分かったから、話は嘘ではないだろう。これならば誰も崩壊した瞬間を見ていなかったり目覚めた時期に差があるのも納得できる。



 ただ伊崎は初耳で、その話を聞いて固まった。



「本当か、その話」

「ええ。まぁ……一応口止めされていたのと……俺たちも信じかねていたので言いませんでした。すみません」



 あの時は……二ヶ月前だが……仲の良い漁業班の護衛任務をした時、大漁記念に握り寿司をいっぱい作ってもらえたので、豪勢に寿司パーティーをした。そして寿司に感激したJOLJUが、つい口を滑らせたのを祐次が聞き逃さなかった。

 後日祐次はJOLJUに再確認した後、拓と時宗にだけは話した。

 知っているのはこの3人だけだ。この時は3人ともJOLJUの事を単なる旅行者の野良エイリアンとしか思っていなかったから真面目に信じてはいなかった。


 今は信じている。特別な<神>の発言だ。


 だから、もう新しい人間が目覚めることは無い。



「…………」


 事件も衝撃だが、今の話も伊崎にとっては衝撃だ。言葉が出ない。

 拓はコーヒーを飲んだ。



「人類のことはもう過去の話です。それより、俺の班はどうします?」

「?」

「この状況でユイナ姫を連れてALの群れ探しはできません」

「そりゃあそうだ」

「俺の第八班は基本調達班です。どうします?」


 伊崎はちょっと黙ってコーヒーを飲み干した。


 調達班は戦闘もするが純粋な戦闘班ではない。だが拓は優秀だし、外国のことを知っている数少ない人間だ。特に関係のありそうな中国から戻ってきた。それにどうやら拓には<刑事>の才能もありそうだ。冷静で状況分析も的確だし、よく観察している。


 伊崎は決した。



「お前たちなりに何か分かることがあれば調べていい。ただし分かったことは必ず俺に報告すること、都内から出ないこと。基本捜査は大人の班がやる。お前たちの任務じゃないが、日当は出す」

「分かりました」


 そう答え、拓もコーヒーを飲み干した。



「お前たちは渡米の用意もあるだろ? 無茶はするなよ?」

「ええ。分かっています」


 拓も分は弁えている。それに伊崎たちの能力も信頼している。事件は拓たちには関係がない。そういう表情で拓は頷いた。



 が……。

 拓には嫌な予感があった。


 第二班襲撃事件は、拓と無関係ではないかもしれない。しかし確証もなく余計な問題にしたくなかったので、拓は黙っていた。


 伊崎と別れた拓は区役所を出た。ここまでは歩いてきた。自宅までせいぜい1kmで、車を使うほどの距離ではない。


 歩きながら、ポケットから一発の弾丸を取り出した。



 7.62×39弾だ。



 昨夜現場で拾った空薬莢と、材質も色も同じだ。


 どちらも無刻印のミリタリー用で、見る限り同じ種類だ。


 弾というものは微妙に材質が違って、メーカーが違えば薬莢の色や雷管の色が違う。

 しかしこれは同じものに見える。



「…………」


 伊崎には言わなかったが、日本でAK47を持っている者が二人いる。


 一人は拓たちだ。


 香港で手に入れたAK47で、拓たち用に一丁残してある。今は時宗の家にあり誰も持ち出していない。AK47は日本以外では手に入りやすい銃だから渡米用に置いてある。


 そして、全く同じものを姜が持っている。


 だけではなく、同じ弾薬を使うSKSセミオートライフルも持っている。つまり最低でも二丁持ち、弾は500発持っている。


 だが姜の仕業とは思えない。


 彼女はこの世界の現状を知っているし、日本では政府が機能していることも知っている。出会った頃はともかく、今は日本人に敵対心は持っていないし、日本政府と戦う理由がない。身を守るのに十分な銃も持っているから銃を目的に襲ったとも考えられない。


 ただ……事件で使用された銃と弾を持っているのも事実だ。

 そして日本海側を回り、朝鮮難民が辿り着いていないか調べるといっていた。



 大陸の悪党の可能性。



 韓国からの難民は銃を持っていないが、北朝鮮やロシアの難民であればAK47やSKSライフルは持っているかもしれない。共産圏では手に入りやすい銃だ。


 そう考えれば筋は通る。


 姜と出会い、彼女から弾や銃の提供を受けたか、奪ったか。


 それで筋は通るが、納得できない。


 しかしあの姜が、あっさり渡すか?

 単純な戦闘力は拓たちより上だ。

 フル装備の姜が日本人の調達班に遅れを取るとは思えない。



 それに難民たちだとして、日本政府の調達班を襲うメリットは何だ?



 人口は少ないとはいえ、日本政府は機能している。予備戦力も入れれば戦闘員は1500人を超えるし武器も十分ある。



 日本は武器がない、というのは一般人のことで、今の臨時日本政府は各方面からかき集めた武装があるし、弾丸も作っている。1000人を越す兵士がいるならまだ戦力になるが、そんな武装集団が知られず存在できるはずがない。食料が足りないし、そんな大人数の難民がいれば政府がとっくに把握している。



 なら何者だ?



 姜に会えればそのあたり少しは解明できる。少なくとも彼女が容疑者から外れていて欲しい。友情もある。だがそれ以上に敵に回せば厄介な相手で、拓だけの裁量ではどうにもならない。姜ならば真っ暗な夜の街の中でも狙撃はできる。



 だが動機が分からない。



「何が狙いだ?」



 何かきな臭い陰謀の匂いがした。



 だが、その匂いの元が何かまでは、拓にも分からなかった。


 狙いが分からなければ正確な対処も出来ない。



 しかし、何かよからぬ陰謀が近くまで迫ってきている。


 それは確かだと思う。



 ただの殺人……強盗事件だとは思えなかった。



 そして……事実これはただの殺人事件ではなかった。


「捜査」2でした。



今回は完全に拓と伊崎だけの回です。


<ハビリス>が人類を消滅させた、というのは第六章冒頭の宇宙戦争編であった通りです。時間経過がバラバラなのは<ハビリス>が時間跳躍空間でもあるからです。このあたりはなんとなくそういうもの、くらいの理解でいいです。本題ではないので詳しく解説はないです。


拓の危惧……それは姜!

事件を起こしたのは彼女か、それとも彼女の関係者か、もしくは彼女も襲われたのか。

エダ編を読んでいると、こういう話はよくありそうだと思えるのですが、平和な拓編の日本でこの事件は大事件です。まず銃が落ちてないですし。

当然、もともと銃を持っている人間に容疑が向けられる。

しかし拓は姜の性格を知っています。倫理観はしっかりした女性です。

ということで、拓も思案の中にあります。

事件はここで終わらなかった!


ですが次回はちょっと外れて……ある意味本編ルートのレ・ギレタル話。時宗たちが彼女に会いに行き、いろいろ話を聞きます。こっちは渡米計画につながります。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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