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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第六章拓編前半
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「姫君」1

「姫君」1


東京八王子。

拓たちはALに囲まれるが、不思議なことが。

ユイナの存在によって、ALは襲ってこない。

これが<姫>の能力!?

彼女は予言するALの中規模侵攻は本当にあるのか!?


***




 5月1日 午後1時27分 八王子


 中央線八王子駅前。


 このあたりの駅前は多摩地域でも大きな繁華街があり、沢山の商業ビルや大型店舗、無数の飲食店や商店が犇いている。とはいえ、駅前を少し離れると住宅街が広がり、西に行けば自然豊かな山間部に入る。東京都内だが、丁度地方の大都市と様相は似ている。


 この街も、人は住んでいない。

 いるのは、無数のALだけだ。


 大群……ではないが、それでも駅周辺には凡そ600。日本の東京近郊で遭遇する群れとしてはやや多い数だ。



「すげぇ……」

 時宗はゆっくりとベネリM3を下げる。

「こっちもです」

 篤志もHKG36Cをゆっくりと下ろした。

「これ、何かのマジック?」

 優美はM16A2を構えたまま、顔を上げ周りを見回した。

「こんなの初めてだね」

 啓吾はHKMP5A5を握り、周りを見ている。


「見えていない……わけじゃないよな? これが……君の力?」


 拓も構えていたHK416Dを少し下げつつ、後ろの車に乗っている少女のほうを見た。


 拓たちが乗ってきたSUVの後部座席の近くに、小柄で無表情の少女が立っていた。


 徳川ユイナ。


 <京都>の<姫>だ。



 ALに取り囲まれた直後だ。拓たちが戦闘態勢を整えて外を飛び出した後、彼女は何でもない事のように外に出ると、何かを囁いた。


 その瞬間、包囲していたALの動きがピタリと止まったのだ。


 動きが止まって5分経過している。だが、ALは全く動かない。



「私たちが攻撃しなければ、ALは襲ってきません。そのうち去っていくと思います」


 怯えるでもなく、ユイナはごく普通に周りを見渡しながら、前方で彼女を警護している現在第八班のリーダーである拓に告げた。



「そうみたいだね。信じられないけど」


 ユイナと一緒にいればALには襲われない……<京都>で徳川真二郎や彼女の護衛役である大庭ゆかりからその話は聞いていたが、実際に目にするまで、拓たちも信じてはいなかった。だが、その言葉は事実だった。


 10分後……<姫>の言葉通りALは本当に去っていった。


 彼女の命令で去ったというより、興味を失い散っていった……ような感じだ。


 まるで元から誰もいなかったかのような反応だった。ただ、彼女だけでなく周囲にいた拓たちの関心も消えていた。こんな反応は、これまで沢山のALと戦闘をしてきたが初めてのことだ。



 拓たちは全員顔を見合わせた。


 驚かなかったのはユイナと<京都>大庭ゆかりだけだった。大庭はSUVの中で一応9ミリ拳銃を構えて見守っていたが、京都からユイナの護衛兼世話役で付いて来ている彼女はユイナの力を信じ、危険はないことを確信していた。


 ALの姿が完全に消えたのを確認すると、拓たちはユイナの元に集まった。



「今のがALの侵攻?」

「にしては数が少ないだろ?」

「500から600……ですね」

「うーん……多いケド、侵攻って感じじゃないわね。あれ、通常徘徊じゃない?」


 1000くらいの数は、第一期の状態でしょっちゅう徘徊している。それが人と遭遇すると戦闘モードに切り替わる。この程度の群れは倒しても散らして逃げても大勢に影響はない。第一期のALは倒してもすぐには凶暴化しないし、怒涛の如く押し寄せてきたりもしないから、人類の戦闘力でも対応可能だ。



「あのくらいなら全滅させてもよかったけどな。動きが止まっているなら楽だぜ?」

「戦闘はしないに限る。限がないし」


 時宗の提案を拓は受容れた。弾が惜しいし、無駄に戦闘を起こして怪我でもしたら馬鹿馬鹿しい。ALは一度倒して消せたとしてもそのうち復活する。


 そういうと拓は時間を確認した。今、午後2時16分だ。



「まだ多摩方面からの侵攻はないとは言い切れないし、時間もあるし、偵察がてら調達にでも行こうか。ええっと……八王子市中心街は大分漁られているけど、町田方面の住宅地はまだ残っているみたいだ。八王子は広いし。何でもいいから食料とガソリンをメインに持ち帰ろう」


 拓の手には、日本政府の配っている首都圏の地図がある。


 そこには各調達班の活動記録が記載されている。


 元々東京都は1000万以上、首都圏にすれば2000万の人間が住んでいた東京都市圏だ。全て調達で回収できているわけではない。最初に大型店や商店や倉庫から回収するから、個人店や個人の住宅は比較的残っている。食料や保存食や生活雑貨は一般家庭にも置いてある。量は少なくても地道に集めれば数になるし十分貴重だ。それを地道に集めるのも調達班の仕事だ。


 八王子周辺は元々ALが比較的出現する地域だったので、都内の中では比較的物資が残っている。



「五時に練馬に帰るとしてまだ2時間くらいはある。どこか未回収の団地にでもいって、そこで調達しよう。住宅地は時間食うし団地のほうが効率的だ。この駅前なら配送用のトラックくらい手に入る。俺がトラックを手に入れるから、時宗と啓吾はハイエース、優美と篤志はSUVで移動だ」


 ここには二台で来た。トヨタのSUVとハイエースだ。班の人数にもよるが、何か起きたときのため大型車二台以上で活動する、必要が生じれば現地で車は調達する、というのが調達班の基本ルールだ。


 本格的に調達をするのならば、この二台だけでは積載量が足りない。


 調達班といっても、出かければ危険に遭遇するし貴重なガソリンや弾薬は消耗する。調査がメインの任務でも、できるだけ調達して帰ることが効率的だ。物資を持って帰れば日当プラス収入になる。



「おめぇー、一人でトラックなんとかできんの?」と時宗。


 拓は苦笑すると上着のポケットからスマホを取り出して見せた。


「これがあるから大丈夫」


 拓のスマホはただのスマホではない。JOLJUが入れた<一発バッテリー充電機能>がある。放置されている車の多くは動かないが、原因は故障やガス欠ではなくバッテリー切れだ。スマートキータイプのものではなく普通の鍵タイプであれば、バッテリーさえ最初に充電すれば高い確率で動く。ガソリンがなければ他の車から抜いて入れればいい。手動の給油ポンプは外出の絶対必需品のひとつで必ず車に載せてある。どうせこの近辺と練馬まで帰る分のガソリンがあれば足りる。残った分はストックとして売れる。


 時宗たちも、拓のプランに賛成した。


 ただ時間が惜しいということで、拓だけではなく啓吾もトラックの調達を手伝うためついていった。啓吾は車両関係の扱いが得意だ。


 五分後、拓は宅配トラックを手に入れ、仲間たちと合流し、三台で南に向かった。


 時折ALはいたが、まだ第一期でそれほど凶暴でもなく、必要最低限の排除で大きな戦闘が起きる事はなかった。


 一応拓は何枚か八王子駅周辺の写真を撮った。何かの役に立つかもしれない。



 その後、拓たちは八王子南郊の住宅地で小さな団地を見つけたので、ユイナと大庭の護衛として啓吾を残し、拓たちは二人一組で、片っ端から物資漁りを始めた。鍵が掛かっていても、ピッキング機は持ってきているし最悪銃撃で鍵穴を破壊するから問題ない。


 結果、米や調味料、小麦粉、菓子、保存食、生活用品など色々を配送トラック半分ほど集める事ができた。こういう食料でも集めておけば皆の役に立つ。


 ちなみに拓たちは政府の調達班で、見つけた食料の半分は政府に、半分は個人のものになる。個人の取り分は個人でもっていてもいいし、換金してもいい。


 今日のように個人宅の食料メインだと、大体3000ポイントくらい。一人ずつに分ければ500ポイント。大型店や食糧倉庫などのボーナスに当たらなければ大体こんなものだ。これに加えて職員は一度の任務で日当が1000ポイント出る。尚、労働できない人間にも生活費として一日100ポイントは自動的に支給される。



「家族用の団地だな。菓子や保存食が多い!」


 最後の荷物をダンボールにつめて持ってきた時宗と優美は、二人揃って行儀悪く板チョコを齧りながら戻ってきた。


「お前ら……盗み食いするなよ」

 それを見て呆れる拓。お菓子は贅沢品でポイントも高いのだ。



「役得」と時宗。


「子供がいる家が連続であったの。お菓子とジュースが沢山手に入った! で、オヤツたーいむ!」


 優美は板チョコの最後の一つを満足そうに平らげた。


 こういうところも調達班の役得だ。その分危険も大きいが。だから生存者たち全員が調達チームを組んでいるわけではない。



「こっちは米とかパスタとかレトルトとか調味料とか電池とか懐中電灯とかライターだ」


 電池やライターは安いが重要な調達物資だ。


「コーヒーやお茶や砂糖もありましたよ。やっぱり日本ですね。数はそんなにないですけど、缶詰はいいものばかりですよ」

「適当に半分選んで、分けて車に積んでくれ」


 半分は調達班としてのノルマ。半分は自分たちのものにできる。内容は調達者が勝手に決めていい。

 ノルマは帰還後量に関係なく日当でポイントが出る。自分の分を自分たちで溜め込むかポイントで売るかは自由だ。

 今回は輸送用に起動させた配送トラックも換金する。動くようにした車も売れる。


 拓は車から油性ラッカーを取り出し、時宗と優美にも渡した。


 調達し終えた家のドアにはスプレーで<×>をつける。そうすれば他の調達班が来ても無駄足にならない。


 三人がマーキングしている間に、篤志が荷物を選別してトラックに積み終え、その中から板チョコを二枚、缶ジュースを二つ手にとって、SUVで待っていたユイナと大庭に手渡し、にこやかに何か談笑していた。


 拓たち三人はマーキングしながら、それを見て苦笑した。



「ガキのくせに女の扱い上手いな、あいつ」と時宗。

「アンタよりはね。美少年だし笑顔も可愛いし、真面目で礼儀正しくて優しいし」と優美。

「お前ショタ好きだった?」

「蹴飛ばすわよ? 私は年上のほうが好み! 青臭い馬鹿はパース! でも篤志君ならいいかも。後三年したら時宗より断然いい男になっているわ」

「篤志は優秀だよ。未成年扱いはしなくていい」と拓。



 篤志が優秀なのは拓たちもよく分かっている。調達班は基本16歳以上だが、伊崎に進言して特別に第八班に加入させた。実はレンも入っている。今日彼女は杏奈に付き添っていてここには来ていない。今は拓がリーダーの班だし、基本10から15人のチーム編成だから人数的には問題ない。


 拓たちの仕事は、調達ではない。


 ユイナの言う、『ALの中規模侵攻』の偵察だ。


 調査を始めて三日になるが、今のところ手がかりはない。



「姫君」1でした。



第六章本編スタート!

第六章は拓編がメインです。

鍵はユイナちゃん! 

ALに襲われない謎の体質と、予知能力の真相は!?

拓が米国に旅立つ用意も進んでいきます。

そして予期せぬ大事件も。


ということで最初は拓たちの日常から。東京に戻って活動を始めつつ、渡米計画を進める拓。

どんな事件が待っているかはお楽しみに!


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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