「宇宙戦争6」
「宇宙戦争6」
ついに始まった地球侵攻。
しかし同時に起きたアクシデント。
それによって発動する<星の子計画>とは?
それはロザミアたちの侵略の理由。
だがJOLJUの願う運命ではなかった。
二人の間に亀裂が走る。
***
JOLJUは頭を抱えた。
そして、予想したとおり……JOLJUの横に<FUJ>と<UFJ>が現れた。
『これで我々の計画は実行できます。JOLJU』
『もはや邪魔する異星人もいません。それに24万のテラリアン(地球人)の数は我々の目的には最適の人数です。これでテラリアンの生態や社会、民度、各地域の人種の知力差を知ることができます』
『<AL>は貴方の手から我々の手に移ります。了解下さい』
JOLJUは大きなため息をついた。
こうなることは、分かっていた。
JOLJUが反対していた、当初予定したパラの地球侵攻プランの一案に乗ってしまった。そしてこの案件は<宇宙の神>の手から離れ、<パラの神>である<FUJ>と<UFJ>に権限が移り、口出しできない。JOLJUが秘密にしていたリミッターのコードを口にしたことで、<FUJ>と<UFJ>はコードを知った。もう<AL>はこの二人の管轄だ。二人のことだ、もうJOLJUの知らない設定コードに変えただろう。
嵌められた、といえばそうだし、利用された、といえばそうなる。
ただ、そうだとはいえない点もある。利用されたJOLJUは、こういう展開になることが分かっていた上で選んだ行動だった。騙されたわけではないし、<FUJ>と<UFJ>もJOLJUを騙したつもりはない。規定路線だ。
JOLJUは困りきった顔で振り返った。
そこにいたのはロザミアだ。
「ロザミィ。やっぱり別の新しい道を考えようだJO。侵略なんてよくないし、オイラたちがテラリアンの命運を勝手に決めるのはルール違反で間違っているJO。平和的な解決方法を一緒に考えようだJO?」
「JOLJU。それはできない。テラ(地球)には侵略に来たの。その事は<BJ>とも話し合って合意したでしょ? パラの復興のため、他に手はないわ」
「ロザミィ! ……パラは滅んだ。パラは忘れようだJO。テラリアンはパラの連枝種族で同じ人類だJO? 他の異星人と違って、身内だと思って接するべきだJO」
「それが出来るかどうか、調査が必要でしょ? 混乱させずにやるには、今の状況を利用するしかない。……当初の予定通りに」
ロザミアも気分がいいわけではない。
だが、元々侵略に来たのだ。
そしてその覚悟をして、テラ星系にやってきた。
これは規定路線。そこに戻っただけだ。
「オイラは反対だJO!」
『では話し合いましょう、JOLJU。四人で』
『<BJ>の意見も伺います』
「<BJ>の意見は聞くの?」
『<BJ>はLV3です。テラに対する監督権はないですが、貴方と違って銀河系内に対する問題干渉権は持っていますし、パラの守護神です。その定義でいえば、<BJ>は貴方と違ってパラの存亡に関わる本件に口を出す権利はあります。ただし<BJ>の第一任務はパラの復興にあるはずです』
「…………」
JOLJUは苦虫を噛み潰したような嫌な顔をして黙る。
難しい話だ。<神>としての存在が高度であればあるほど介入はできない。幼児の喧嘩に大人が介入するようなものだ。JOLJUにいたっては幼児の喧嘩に神が介入するに等しい。
それでいけばこの二人の神は精々10代といったところで、神のJOLJUや大人の<BJ>ほど「大人気なくはない」……。
ただし、JOLJUは幼児の喧嘩に、<AL>という超科学兵器を投げ込んでしまった。
『お任せください』
「…………」
こうなることは分かっていた。
だが、JOLJUが力を使わなければ、侵略どころかテラリアンは全滅していたし、地球も崩壊していたかもしれない。
そう……。
<AL>を投入する、と決めた時……こうなることは全部分かっていた。
<FUJ>と<UFJ>が戦争に介入してこなかったのも、JOLJUにこれらの決定を下させるためだ。
狡猾かもしれないが、この二人の神にすれば目的のためにはJOLJUにその決定を下させる必要があった。そしてJOLJUの手からは離れた。
ここまでは、ある意味想定内だった。
が、想定外のことが起きていた。
それはすぐに判明した。
***
それを報告したのは、<UFJ>だった。
『想定外の悪い情報があります』
<UFJ>はJOLJUではなく、ロザミアのほうを向いて言った。
『<ヴィスカバル>のエレ・デッキが破壊されて、一部の装置が緊急解除で開放されました。凡そ12人です』
「なんですって!?」
「JO!?」
ロザミアとJOLJUの声が重なった。
このエレ・デッキこそ、パラがひたすら隠していた重要な命運を握る場所だ。
「コールド・スリープから12人の子供が解放されていたの!? あの戦闘の最中に!?」
「お前たち管理してたんじゃなかったのかだJO!? 何してンのお前ら!」
『150人いるうちのたった12人です。そのうち8人は我々がすでに保護しております』
『ですが4人がク・プリに連れ去られました』
「何で止めなかったの!?」
ロザミアの顔色が変わった。これは想定外の大アクシデントだ。
だが<FUJ>と<UFJ>は冷然としていた。
『生存のための適応エノラは投与してあります。これは好機かつ我々にとって良い運命であると判断しました。これで我々の調査を進行する事が出来ます。テラリアンとパラレイトが共存できるか、実験する必要があります』
「待ったJO! それはさすがにお前たちのやりすぎだJO! オイラと<BJ>とロザミィの許可が必要だJO!!」
『ロザミア様は戦闘中で、貴方は今<ただのJOLJU>です。これはパラリアンの命運がかかった事で我々の<パラの神>の判断の範疇です。連れ去ったク・プリが地球に無事降り立ったところは確認しました。適合調査の実行は自分たちの判断です。それともロザミア様で適合調査をさせるつもりですか? ロザミア様は適合いたしません。貴方のおかげで』
「無茶苦茶だJO! お前らは惑星パラの<神>だJO!! パラ人を利用するなんてルール違反だJO!」
『JOLJU。パラを復興させることに関しては貴方も同意したはずです。そのためのALであり、<星の子>の計画です。エノラによってパラの記憶は抹消してテラリアンへの順応が始まっているはずですから、もう<ヴィスカバル>のスキャンで捕らえる事は難しく、転送で救出する事は叶いません。これも運命です』
パラリアンとテラリアン(地球人)は連枝種族で、ほとんど同じDNAを持ち、ほとんど同じ外見を持っている。エノラでテラリアンに順応してしまえばスキャンでは捕らえられない。
『貴方が力を使えば見つけられるでしょう。その時は一番上位の責任者としてパラを含めテラリアン、ク・プリ、ゲ・エイル、銀河連合、全ての対応と責任を負って下さい。ですが、それはパラの復興を妨げ、テラの文明進化の停止を意味し、問題を複雑化させるだけになると進言いたします。他はともかくテラリアンはこの状況を打破できるだけの能力も見識もありません』
『銀河連合はロザミア様を糾弾しますが、よろしいですか?』
「お前ら、一々人の嫌なこというJO! わざとやってるだろ!」
『これが運命で、計画です』
話し合いは平行線だ。どう言い合いしてもお互い妥協が生まれるとは思えない。
それにJOLJUが圧倒的不利だ。そもそもこういう展開になるということはあらかじめ予期していたにも拘らず、許可をした。
<FUJ>と<UFJ>の言うとおり、ここまでくれば<運命>というしかない。
これを阻止するためにはJOLJUが神の力を使って全責任を負うしかなかったが、それはロザミアとパラとテラリアンのために出来なかった。結局こうなるのが運命だった。
「ちょっと待って。<FUJ>、<UFJ>。<星の子>については私も反対よ。計画と目的の一部は分かるけど、本人の承諾はない。こんなアクシデントから始める計画ではなかったし、この事態を放置するのは駄目」
『しかしロザミア様。他のパラリアンの意見を聞くわけにはいきません。皆子供です。志願者がいるとは思えませんし、能力で選べば実験の公平さが出ません。テラリアンを拉致する計画も一考しましたが、まだ宇宙世界を知られるには早く双方の歴史に悪影響を与えます』
「私がただのパラリアンの生き残りなら納得したけど、私はフィルニストの王女なの。その使命……国民を守る責務があるわ。例えもうフィルニスト帝国が消滅していたとしても」
『お気持ちは尊重いたしますが、計画上の問題と御身の安全を考えると賛成しかねます。すでにエノラが順応してテラリアンと区別がつきません。24万分の4でパラでの記憶がない以上、見つかる確率はかなり低い』
「テラリアン調査を貴方たち自身はしない。他にパラリアンもいない。それならば私がやるしかない。そのついでに<星の子>は探す。私もテラの文明を知らないと」
『そこまで仰るのであれば、その判断は尊重いたします』
これも奇妙な話だが、パラの決定権は<神>より人間であるロザミアのほうが優先度は高い。高い進化をしている存在ほど、現実の文明での発言権は反比例して逆になる。だから一番進化している神のJOLJUが、立場が偉すぎて実際は一番発言権がない。
何よりロザミアはパラリアンの統一国家フィルニスト帝国の王女で、パラの最高政治決定者だ。ただのパラの生き残りではない。
JOLJUは操縦をホログラムと交代し、席を離れた。
「なんか食べて寝る! もう勝手にするがいいJO!!」
そう言って不貞腐れたJOLJUは一人、メインブリッジから去っていった。
それをロザミアは複雑な表情で見送った。
ロザミアはJOLJUの意見に同調しなかったが、JOLJUの気持ちはよく分かっていた。
<FUJ>と<UFJ>には人格がなく、人間らしい感情もなく、辛さや思いやりや優しさはない。JOLJUがこの運命を選ばざるを得なかったのは、誰よりも優しく誰よりも平和が好きだからだ。そして強すぎる自分の力を嫌っていて、<ただのJOLJU>として生きる事を好んでいる。それがJOLJUの個性で愛嬌だ。今回はそれが裏目になった。
本当は辛いだろう。
ロザミアはJOLJUに育てられた。親子も同然だ。
JOLJUがいかに愛すべき人格を持っていて、いかに優しいか、誰よりも知っている。ロザミアだけに優しいのでない。基本的に全宇宙の生命体全部に対して優しいのだ。
しかし声はかけられなかった。かけたところで、JOLJU自身の辛さが増えるだけだ。結局JOLJUの苦悩の半分はロザミア個人にあるのだから。
そして……ロザミアにも課せられた使命がある。
それは、ギリギリ最後までJOLJUが反対していた使命で、ロザミア自身が理解して説得して、ようやく渋々納得したばかりの事だ。
今のJOLJUに、かける言葉はなかった。
これが、二人の長い親子喧嘩の始まりになるとは、ロザミアも思ってもいなかった。
「宇宙戦争6」でした。
今回が、ある意味この「宇宙戦争編」のクライマックスです。
地球侵攻の決定と<星の子計画>とは!?
鍵は、地球に落ちてしまった4人の子供!
これが「AL」シリーズ全体の壮大な伏線の一つです。解明まで長い道のりがありますが、これが判明するとき、ロザミアたちの侵略の本当の意味が分かります。
注目点は、JOLJUは基本反対しているということ。
JOLJUは感情豊かで感情で行動しますが、根は理論的なので、例え面白くないことでも理屈として正しい場合は感情ではなく理論性を選びます。おもいっきり不満ですが。これが人格を持たない、完全理論派の二人の神と、意見が衝突してしまう理由であり、ロザミアとの意見の衝突にもなります。
ロザミアもつらいんです。
しかし本編でも言っていた通り、彼女はパラ人であると同時に王女であり、パラの復興と生き残っているパラ人のため尽力しなければいけないという立場と責任があります。
多分、パラが健全で普通の生活を体験していれば、ロザミアもここまで責任感を背負わず、<ただのロザミア>でいられたかもしれません。しかし不幸なことにロザミアはパラ滅亡の中生まれ、しかも寄りにもよって建国の英雄の<神帝の能力>を引き継いでしまっているため、皇族としての誇りが誰よりも強いのです。そうしたのはJOLJUなので、JOLJUはそれを責められません。もっとも能力を与えたのはパラ復興のためではなくロザミア個人が生き残るための手段だったので、JOLJUとしては余計に哀しいわけですが。
次回は顛末。
そして本編の冒頭にあった、無責任な神たちによる討論の結果です。
結果として、これでJOLJUは地球人側につくことになります。
色々むつかしい話ばかりだった「宇宙戦争編」も次回ラストです。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




