「キセキ、そして」五章エピローグEND
「キセキ、そして」
脱出に成功したエダと祐次とJOLJU。
エダは見つけた。
それは……間違いのない<愛>。
こうしてNYを去り、舞台は全米へ!
そしてそれを見守るロザミアの影……!
五章、完結!
***
「ありがとう、JOLJU!」
エダはJOLJUの頭を撫でた。本当は抱きつきたいくらいだが、操縦中だからそれは止めておいた。
今回は、全てJOLJUの手柄だ。
JOLJUは満足そうに「二人が助かってよかったJO! 今回はオイラも苦労したJO~! 今夜は美味しいものが食べたいJO!」
JOLJUも今回は食事もそこそこにぶっ通しの大活躍だ。
「山小屋についたら、ご飯作るね!」
「カレーライス」
ぼそっと祐次が言う。祐次がカレーを食べたいというときは、よほど空腹で、ガッツリと食べたいときだ。よほど疲れているのだろう。
それを聞いてエダは苦笑した。
エダはハウルを食べたから空腹感はないが、今は三人で一緒に美味しいものが食べたい。
「祐次はその前に手当てだよ! 沢山怪我しているんだから!」
山小屋には食料も医薬品も銃もストックしてある。
命は助かったが、全身傷だらけで、今も血は止まっていない。
ただ本人は、平然としている。
「痛いのは嫌だな。腕18針と8針と5針。右手も10針と8針。肩は15針……俺は一体何針縫うんだ? もうそろそろ合計100針越えそうだ」
他人が聞けば悪いジョークだと言って笑うに違いない。今の段階で十分痛々しい姿ではないか。それに医者が治療を痛がってどうするのか。
聞いたエダは思わず苦笑した。
この様子だと、大丈夫そうだ。
「日本の頃から入れると、ぼちぼち120針だと思うJO?」
「たはは……なんか、すごいね」
「これじゃあまるでツギハギだ」
祐次は面白くなさそうに座席に身を沈め、目を瞑った。この狭い機内では応急処置も出来ないし医薬品もない。どうせ移動時間は一時間ちょっとだ。そこまで重傷ではないから、一時間後処置しても死ぬことはない。第一、今の祐次の体力では自分の処置を正確にするのは難しそうだ。
しかし、これからは時間はたっぷりある。
静かで平和な日々だ。
「あたしとJOLJUでちゃんと縫うからね! 今度は麻酔もするから痛くないから」
「他に医者はどこかにいないのか?」
下らない愚痴をこぼす祐次。しかしジョークを口にするくらいには元気を取り戻していた。
「あたしで我慢してね!」
自分で縫いたいが、利き腕の右腕の傷は自分では縫いづらい。肩も後ろのほうは自分では無理だ。色々考えて祐次は面白くなさそうにそっぽを向いた。肩はそこまで深くなく、傷さえ塞がればいいから、縫い方が酷くてもいいからエダかJOLJUでもいい。
「お前も栄養剤と輸血だぞ? 内出血も抜くからな」
エダの腹部の傷は治ったが、流れた血は体内にも広がっている。ほっておいても吸収されるが、痣や跡になるかもしれないし、そこが腐って感染症になるかもしれないから、処置はしたほうがいい。それを聞いたエダは「ちょっとヤだね」と苦笑した。もっともこのくらい祐次であれば10分でやってのける。
しかしエダもすぐに動けないとなると、やるのはJOLJUしかいないではないか。
「じゃあ祐次の治療はオイラやろうか?」
「断る。お前はカレー係。というか肩以外は自分で縫うわ」
それまで休ませろ……と、言葉にはしなかったが、祐次はそういうと目を閉じた。
エダはそんな祐次を見て、微笑んだ。
怪我よりも……こうして助かった事が嬉しい。
そして……今日、思った。
自分と祐次には、特別な絆がある。
あたしたちは、運命共同体で、掛替えのない相棒なのだ、と。
そして……。
……愛している……と。
家族じゃない。
この愛は、異性として……本気の愛だ
それが解った。祐次の気持ちは関係なく、誰よりも愛している。
そして祐次も、自分を……。
「JOLJU……あたしも少し休むね」
「うん。あー……音楽かけていい?」
「音楽あるの?」
「スマホに音楽プレーヤーがあるJO。だって、二人が寝ちゃったら、オイラ暇だもん! おしゃべりしてたいけど、二人共疲れてるみたいだし。運転の時はやっぱり音楽だJO! エダも観るならアニメとかドラマの動画も入ってるJO?」
「音楽でいいよ。あたしも疲れているし」
「じゃあ音楽~」
相変わらず賑やかな事が好きな楽天的で、すごく俗的な<神>……超生命体だ。そして若者顔負けにスマホを使いこなしているのがちょっと可笑しかった。よく考えれば異星人なのに。
「何があるの? アニメソング?」
「アニソンは作業中聞いてたから、今度は日本の有名青春歌謡曲ヒットメドレー!」
相変わらず、ポップカルチャー大好きな奇妙なエイリアンだ。誰の影響か、日本の曲が好きだ。
そういうと、JOLJUはスマホの音楽プレーヤーを再生させた。
最初に流れてきたのは、『GReeeeNの「キセキ」』だった。
それを聞いて、エダは苦笑した。むろん日本育ちのエダは知っている有名な曲だ。
「明日、今日よりも好きになれる。溢れる想いが止まらない。今も、こんなに好きでいるのに、言葉にできない」
気付けば、エダは合わせて歌っていた。
まるで、自分たちの事のように思えた。
愛しているけど、言葉にはできない。でも、言葉になんかしなくたって、自分たちは見えない強い絆で結ばれている。
「二人寄り添って歩いて、永久の愛を形にして、いつまでも君の横で、笑っていたくて。アリガトウや Ah 愛しているじゃあまだ、足りないけど、せめて言わせて<幸せです>と」
うん、そうだ。
この出会いは、大きな世界の中で起きた小さな出来事の一つ。
うまくいかない日だって、二人(と一匹)で寄り添って歩いて。二人歩いてきた距離が<奇跡>。
だけど、自分たち二人のめぐり合いは<奇跡>の連続で、これからもずっと二人傍にいて、アリガトウと言い合って……きっとこんなひどい世界の中でも、<幸せ>なんだ!
でも自分たちは旅の途中。
だけどいつまでも横で笑いあって、きっと傍にいる、いとしい人。
ちなみに曲の二番から、JOLJUが気持ちよく音痴を発揮して歌いだしたので、エダは楽しそうに微笑んで聞く側に回り、そしていつのまにか目を閉じていた。
「何十年、何百年、何千年、時を越えよう。……君を愛している」
エダは小さく口ずさみ、微笑みながら浅い眠りについた。
こうして……エダたちの、二ヵ月半のNYの滞在は終わった。
英雄は、見つからなかった。
だが、エダは<愛>を見つけた……と思う。
二人は知らなかった。
自分たちこそが、NYの人々にとって、英雄となっていることを。
人類の、希望になっていることを。
その彼らは、NYを、この日、去っていった。
***
遠ざかっていくヘリコプター。
彼女……ロザミアは、静かにそれを見つめながら、地球で初めてできた友人が作った<おにぎり>を齧っていた。
「貴方は、試練を乗り越えた」
ロザミアは静かにおにぎりを食べている。
その周囲には、何百、何千のALが取り巻いていたが、まるで人形のようにピクリとも動かない。そしてロザミアも、ALたちのことなど眼中にはない。
「貴方が<星の子>だったらよかったんだけど……違う。だとすれば、この世界のどこかに<星の子>がいる」
JOLJUの担当は<ラマル・トエルム>。
そしてロザミアの担当は<星の子>だ。
だが、今回ロザミアは知った。
それとは別の運命が、静かに動き始めたことを。
それは、地球人とパラ人が邂逅する、もう一つの巨大な運命。
「エダ。これで貴方は、こっちの世界の人間になるわね」
地球人の中から、こっちに来る人間が出るとは思わなかった。
しかし、エダと祐次は、こっち側に来るだろう。
それが二人の運命だ。
二人の意志で決まった事ではないが、世界の運命が二人を選んだ。
あの二人の脱出を監視していたのは、ロザミアだけではない。
他のモノたちも、これで動き出すだろう。
そして<ラマル・トエルム>も。
それが、運命なのだ。
運命は、動き出していた。
「キセキ、そして」でした!
五章完結!!
そして「AL第一部」の前半、完結!
エダと祐次とJOLJU、今度は全米が舞台に! そしてこれまではサバイバルパニックだったジャンルがエダ編に関しては宇宙SF編に突入します!
ついに本格的にロザミアが動き出します!
この世界の謎編についに突入です!
ちなみに拓たちは変わらずサバイバルパニック編+冒険編です。
歌で終わるのは第一章のラストと同じ終わり方ですね。
面子は同じだし、新天地にいくのも同じですが、違いは人間関係とエダの成長。
第一章の頃はまだいってしまえばエダはお客さん。ただ助けてもらっただけの関係。
ですが第五章では……家族であり口には出しませんがほぼ恋人です。
エダも子供から少女に成長しました。
第一章では窮地で絶望したエダが、第五章では最後まで絶望しませんでした。
そう、このシリーズはエダが主人公で、エダの成長物語です。
さて、後半部スタートとなる第六章!
実は最初は外伝から入ります。
なんとJOLJUメインの宇宙戦争編です!
地球崩壊前に起きた宇宙戦争! そして地球崩壊の謎が明らかに!
これから始まる宇宙SF編の序章です。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




