「嵐の前兆」
「嵐の前兆」
マンハッタン爆発!
エダの無事を祈り絶叫するデズリー!
そして
暗躍するロザミア。
***
「何を始めたんだ!?」
避難先の無人島の浜辺で、デズリーとミレインはマンハッタンの爆発を見た。
無人島からマンハッタンまで5kmほど。詳細は分からないが、8回の爆発と爆煙はここからでも見る事ができた。
ALは爆弾を使わない。
もうマンハッタンに人はいない。
とすれば、やったのは一人しかいない。
「ドクターはまだ生きてるんだ!」
「エダも助かったかな?」
「ドクターが間に合ったンなら……すぐに手当てしたら……もしかしたら……!」
「でも重傷だよ?」
腹を貫かれたのだ。普通なら助からない。
だが、祐次がスーパー・ドクターであることが、か細いながらも希望だった。
あのドクターならば、死んでさえいなければ、なんとか助けたかもしれない。そしてあの化物のように強い男ならば、重傷のエダを抱いて逃げる事くらいはできるかもしれない。
祐次はあの地獄からの脱出を決めた。動き出すため爆発を起こした。
エダも、生きているかもしれない。
「祈ろうよ、デズリー。私たちに出来ることは、それしかないんだから」
「くそ! ……俺にもっと力があったらよぉ!! くそ!!」
デズリーは悔しそうに地団駄を踏む。
そんなデズリーを、普段のミレインならからかうところだが、今日はそんな気分にならなかった。
今自分が生きているのはエダのおかげだ。あの娘の命が無事であることだけがミレインの願いだ。
だが、どうにもならない。
例え自警団全員を動員しても、祐次とエダを助けられる保障はないし、逆に自分たちが死ぬだけでなく、この避難所がバレたら共同体全員に危険が及ぶ。
ベンジャミンも、そう判断した。
手も足も出せないのだ。
「祈ろう、デズリー。あの二人は特別だから」
「…………」
「あの二人は……私たちの英雄なんだからサ」
「ああ。そうだ」
デズリーはもう一度マンハッタンのほうを見つめた。
「また、会えるよな? エダ。絶対会えるよな!!」
デズリーは絶叫した。
周りの住民たちも、黙ってマンハッタンを見つめた。
言葉にはしないが……その気持ちは全員、同じだった。
だが、彼らにできる事は、祈ることだけしかない。
***
エダと祐次が屋上に去ってからしばらく……。
雑貨屋の奥の廊下の空気が歪んだかと思うと、風がふわりと起きた。
そして……何もない空間から、女の姿が浮かび上がった。
現れたのは、蒼い髪をした、異風な服装をした若い女だった。
ロザミアだった。
「……無茶する娘……」
ロザミアは、いた。
実はエダがここに運び込まれた直後……転送でここに来ていた。
<オルパル>で、エダの状態は監視していたのだ。生命の危機を知り、やってきた。
むろん理由は一つ。エダを助けるためだ。ロザミアの科学力があれば、死なない限りどんな大怪我でも回復させられる。
だから寄ってきたALを退けさせた。ALを操作することが出来るのは、神を除けば全宇宙でロザミアしかいない。
が、祐次が飛び込んできたのを知り、すぐに身を引いた。
<完全視覚遮蔽装置>と<非認識化>を作動させて、完璧に気配を消し、見守った。これを使えばゲ・エイル星人だろうが姿は見えない。気付くとしたらJOLJUだけだ。
もし祐次が治せなければ、その時はエダを連れて行くつもりだった。死にさえしなければ、どれだけ重傷でもパラの科学があれば治すことができる。
だが予想に反し、祐次はク・プリ星人の細胞再生装置を持っていて、それを使った。それを見て、エダの命が助かる事は分かった。
後は様子を見ていた。
JOLJUと通信をしているのも見た。
「あの男が……JOLJUの相棒の地球人……か」
祐次と会ったのは初めてだ。
成程……色々興味深い男だった。
あんなに力強いオーラを持つ地球人を見たのも初めてだ。
エダは強く美しいオーラを持っていた。だが祐次のオーラは別物だ。大きくて強く荒々しくて刺々しく熱い。そのくせに、どこか宇宙の深遠の闇のような、凍てつくような冷たさもある。
「さすがJOLJUが見つけた二人だけはあるわね」
ただ……ロザミアは思った。
エダとは仲良くなれる。仲良くなりたいと思った。
だが、祐次と仲良くなれるかどうかは分からない。興味は持ったが、どうも気に食わないというか、反りが合わないというか、楽しい話が出来そうな気がしなかった。
「<神帝>もあんな感じだったのかしら? JOLJUはああいう男と気が合うのね。あいつ、英雄肌の男が好きだものね」
まぁ……あいつは誰に対しても友好的で友達になる奴だが。
それでも多少好みがあることをロザミアだけは知っている。
JOLJUは、男は凡人より聡明な人間や英雄肌の人間が好きなのだ。というより英雄肌の人間でなければ、本当は相当賢いJOLJUと付き合えない。
ただ、今回分かった。
JOLJUは地球人全員を無責任、無差別に助けているわけではない。どうやらあの二人は特別で、他の地球人に対しては、親切だし色々やるが、ルールの範囲内だ。今のところ公然とルール違反をしているのは、あの二人のためだけに限られているようだ。
もっともあの馬鹿の事だ。いつ箍が外れて大暴走するか分からない奴だ。家族としては頭が痛い。
「これに<ラマル・トエルム>……か。その前に、あの二人が無事ここから生きて逃れられるかどうか……そこが問題だと思うけど」
ロザミアはそういうと、ゆっくりと歩き出した。
外はALだらけだが、ALたちはロザミアの存在に全く反応せず、黙って道を開けていく。ロザミアも、徘徊するALたちを特に気にはしない。
ロザミアは考え事をしながら歩いた。
「エダ。貴方の試練よ。生き延びてみせて。やっぱり、私は手を貨さない事にする。これを生き残る事ができれば……貴方は私たちの世界に入る資格があると認めさせられるわ」
ロザミアは微笑む。
地球人を、一線を越えてこの世界の秘密に接触させる。
ルール違反なのだが、ロザミア自身、<オルパル>を渡したり、宇宙世界の話をしたり、こうしてエダを見守りに来ている時点で、すでにルールを冒して彼女も暴走を始めているのだが、その事に自分では気付いていなかった。もっともJOLJU同様、彼女がルールを破ったところで叱る存在はいないのだが。
「大体が無茶なのよ。JOLJUは」
ロザミアはそう呟いたが、小首を傾げ、苦笑した。
常識的には無茶だが、全宇宙でJOLJUにだけは<無茶>という言葉が存在しないことをロザミアだけは知っている。何せロザミアが今こうして生きているのも、JOLJUの<無茶>の結果だ。
「<ラマル・トエルム>の登場……か」
ありえるのか……?
この世界……地球の秘密の謎に辿り着くことが出来て、人類を救うことができる地球人。ク・プリやゲ・エイルたちですら理解できていない事を、科学未発達の地球人が、答えに辿りつけるのか。
それはロザミアですら、分からなかった。
そこまで地球人には詳しくない。
ロザミアは全て知っているが、それは彼女が<侵略者>であり、全ての元凶であり、黒幕だからだ。
地球人の<ラマル・トエルム>は、辿り着くらしい。
それでどうなるかはロザミアにも分からない。
知っているのは、<BJ>とJOLJUしかいない。
この二人の神の真意は、ロザミアにも全ては分かっていない。
「嵐の前兆」でした。
今回エダも祐次も出てきません。
メインはロザミアです。
そう、エダが倒れてALが入ってきたとき、ロザミアが来ていたんです。
まさに飛び出す直前祐次が来たので出て行かなかったわけです。
こう考えると、元々どうやってもエダは死ぬ運命にはなかったわけですね。というか祐次、JOLJU、ロザミア……超反則級の保護者が何人もついているエダ(笑
デズリーの願いは届くのか!
デズリーも半分くらいエダに惚れてますね。年下なのと祐次の存在がいるので控えていますが。……本当はエダは魔性の少女なのかもしれない……。
さて、ロザミアの暗躍も確認!
ですがロザミアはAL側の存在で助けてはくれません。
これからは正にエダと祐次二人だけの戦い!
これからも「AL」を宜しくお願いします。




