「エダの決断」
「エダの決断」
ミレイン人質事件!
それを知ったエダは協力を申し出る!
そして遅れて戻ってきた祐次も事件を知ったが、すでにエダとデズリーの姿はなかった。
***
12月2日 NY 自治体基地 午後12時24分
祐次とエダ専用のテントが一つある。
臨時病院の代わりであり、祐次とエダの待機所として用意されたものだ。
中に入った祐次は、エダの生活用品の入ったバッグが残されているのを見つけたが、銃と衣服の入った貴重品用のリュックはなかった。
避難したのではない。急な用事が出来て、飛び出していったのだろう。
……この緊急事態に、どこに行った……!?
だがエダは賢く、ちゃんと判断できる娘だ。
「エダなら……」
祐次もエダの聡明さは分かっている。
あのエダが、無鉄砲に何もせず飛び出していくはずがない。
その時、祐次は部屋の真ん中にある未記入のカルテに、何か文字が書き込まれているのを見つけた。
エダの字だ。そして日本語だ。
内容は簡潔だった。
『緊急。ミレインが人質で危険。山賊と交渉。他言禁止。無線ダメ。デズリーの家』
「くそ!」
これで全て分かった。
山賊とはBanditの事だ。無線傍受されていて、他の人間に報せる事はできなかった。時間もなく、今ここは避難のため大人たちは多忙でどうにもできないし、この状況下で、この事を知れば人が動き避難が遅れる。
エダは気付かれない最低限の連絡方法として、日本語でメモを残したのだ。これならば祐次とJOLJUだけは分かる。他の人間が知れば大騒ぎになると判断したのだ。エダは緊急事態に遭遇しても、冷静さは失っていない。
「デズリー……そうか、デズリーの家か! そういう事か」
デズリーたちの隠れ家は、サウスブロンクスに近いスパニシュ・ハーレムにあると聞いたことがある。対岸のサウスブロンクスの銃声は、Banditたちのもので、連中がALと戦闘している音だったのだろう。あの連中はまだNYにいる!
祐次は部屋に置いてあったフル装備の銃が入った大型バッグと医療セットの詰まった大型リュックを背負うと、すぐに飛び出した。
***
時間は20分ほど遡る。
顔面蒼白なデズリーが飛び込んできてミレインの拉致を知らされたエダは、息が止まるほどの衝撃を受けた。
そしてミレインが、どれだけ危険にあるかエダには分かった。エダも一ヶ月ほど前連中に誘拐された。連中がいかに粗暴で暴力的で、女子にとってどれだけ嫌悪すべき存在であるかは、よく知っている。
デズリーがエダを頼ったのは、エダは銃を持っているからだ。
食料と銃と酒、それが連中の要求だ。
だがエダはともかく、共同体の仲間は正規の戦闘員ではない未成年のデズリーには銃も食料も渡してくれない。
が、エダは祐次の相棒で特別だ。武器集積所から銃を持っていっても、誰も咎めない。祐次の使いだと思うだろう。
「分かった。力になるよ、デズリー」
エダは頷く。
「共同体の武器庫から取ってくるのは拙い。バレたら怒られるし皆に知られると大騒ぎになるから。だけど、銃も武器も、なんとかできるよ」
「本当かい!?」
「うん。あたしの責任で」
集積所にある銃も食糧もNY共同体の所有物で、これを持ち出せば他の人間に迷惑がかかるし、他の人間を加担させることになる。余計な対立の原因になり、それは拙い。
だが、エダたち個人のものは別だ。
交渉するのはエダで、NY共同体ではない。
「車は運転できる? デズリー? 調達できる?」
「ああ! 免許はないけどできるぜ!! 任せろ!」
車ならば何台もここに集まっている。非常時でどの車にも鍵は差しっぱなしだ。そのうちの一台を盗むくらいは容易だ。
「行こう! 早く!」
「どこに?」
「あたしの家!」
そういうとエダは銃と着替えの入ったリュックを背負う。
「車であたしの家に来て! あたしは食料と銃を用意しておくから!」
急ぐ。
エダはそれだけいうと飛び出そうとして……立ち止まり、テーブルの上にあった未記入のカルテに祐次へのメモを残し、出て行った。
デズリーもすぐに飛び出した。車は銃や食料ほど厳重には管理されていないし、この非常事態だ。多少周りの目を盗むくらいでなんとか持ち出せた。
エダは足が早い。そしてこのリバーパークはハーレムの北西側だ。とはいえ自宅までは5ブロックほど離れている。
エダが3ブロックほど走ったところで、軽自動車を手に入れたデズリーが合流し、エダを拾ってエダの自宅に向かった。
避難中、ALやBanditたちが侵入するかもしれない、ということで、各家々は厳重に鍵がかかっている。
自宅の鍵は、玄関横の植木鉢の下に隠してある。
エダは自宅の鍵を開け、デズリーを招き入れた。
「キッチンに缶詰や保存食があるから、ダンボール箱に入れて! ダンボールは玄関横にあるから! リビングに祐次のお酒があるから何本か持っていって! あと階段下の小さな倉庫にも食料がある! あたしは銃を持ってくる! 沢山あるから!」
「そんなにあんの?」
「うん。祐次とJOLJUがしっかりしているから」
祐次はいつ旅に出るか分からない。それに冬が近いということと、避難計画があるということで、かなり多めに入手してストックしていた。三人が一ヶ月は十分食べていける保存食がある。それに加えて大体二週間分くらいの肉や野菜、加工食もある。
そして、銃もだ。
祐次は今NY共同体のNo2として頻繁に外で活動していた。それに元々ガンマニアだ。そして医師として働いて金はある。旅に出るときのために、銃器をこっそりベンジャミンから購入し、自室に隠していることをエダは知っている。
これならば負担するのは祐次……自分たちだ。共同体に迷惑はかけない。
こんなことで祐次は怒ったりはしない。きっと理解してくれる。
……勝手をしてゴメンね……祐次……。
エダは祐次の部屋から、M4カービンのカスタム1丁、M725一丁、ショットガン2丁、オートマチック拳銃4丁を選び、それぞれの弾、合わせて500発ほどを大型バッグに入れて持って降りてきた。エダにはこれ以上は重くて持てない。これでも全部ではなく、まだ2/3は残っている。
それを見たデズリーのほうが驚く。
「そんなに持ってンの!? あのドクター」
「まだあるから、持っていっても大丈夫! 怒られないよ」
「本当特別扱いだな」
拳銃の携帯やショットガン、セミオートライフルの所持は認められているが、持っていても各人一丁ずつで、フルオートの銃はNY共同体から借りなければいけない決まりだ。弾も個人で持っている数は50発ほどに制限されていて、それ以上は<リーダーズ>か、順ずるエリア・リーダーの許可がいる。だが祐次たちははるかに多く、ルールを完全に超越している。立場も違うし、元々客分でそのあたりは他の人間より自由だ。
エダは、自分用に用意されたステアーTHPもバッグのほうに加えた。相手は二人と聞いた。これだけあれば文句は言われないだろう。
「もしあたしたちが戻らなくて、必要になったら、勝手に持っていっていいから!」
「お、おう!」
エダと祐次は避難せず別ルートで去るかもしれない、という話はデズリーにもしてある。
「アリガトよ、エダ。俺は行くから、エダは戻るんだ。危ねぇーから」
「……うん……」
エダは頷いたが、考えた。
相手はBanditたちだ。凶暴で凶悪な大人たちで、約束を守る保障はない。デズリーが生きて帰れる可能性は低い。
だが……エダは考えた。
……あの事件から一ヶ月……まだ一ヶ月……。
……祐次の事は警戒している。というより……恐怖している……祐次に知られることを恐れている?
……なら……!
エダは顔を上げた。
「デズリー! あたしも行く!」
「そりゃ駄目だ! 危険すぎる! エダまで捕まったら――」
「逆だよ! あたしが行けば、デズリーもミレインも無事帰れるよ!」
「え!?」
「もちろん、あたしも無事に帰れる。うん、きっと上手くいく!」
エダは微笑んだ。
「あたしには、強いヒーローがついているんだもの」
そう……エダには確信があった。
連中はエダには手を出さない。
祐次が怖いからだ。
一ヶ月前、連中は祐次に手も足も出ず制圧された。祐次の強さと恐ろしさは骨身に染みて知ったはずだ。ああいう連中ほど強い人間に対する警戒感は強い。その事は祐次も言っていた。「あの馬鹿たちは俺やお前に手を出す事はない。死にたくはないだろうからな」と安全を保障していた。
それに連中のボスであるメリッサが、祐次とエダには一目置いている。三度の通院、そしてエダは看護師としてその世話もした。少なくともメリッサは、もうエダと祐次に敵意はなく、むしろ今ではエダと祐次には好意を持っている。Banditたちをメリッサは完全に掌握している。連中をメリッサとスティーブが完全に独裁で仕切っている。エダを拉致したり殺したりすれば、メリッサが許さないだろう。
何せメリッサはまだ出産という命に関わる重大イベントが待っている。
自分と赤ん坊のためにも、絶対に祐次とエダを敵に回したくはないはずだ。
当然配下たちにも厳命しているだろう。この崩壊世界では、優秀な医者と看護師助手ほど貴重なものはない。
「エダの決断」でした。
このギリギリの時に起きたミレインの誘拐事件!
そしてエダの決断!
後に作中でも同じ表現をしますが、エダは子猫でも獅子の子猫! そこらの野良猫と違います!
子猫は変わりないですが、親の戦闘力が天と地ほど違います。相手もそれを知っているからこそ出来るエダの決断!
しかしこれで避難はどうなるのか!?
もうマンハッタンにはエダと祐次とデズリーとミレインしかいません。
展開急を告げる!
ということでクライマックス編はこれから。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




