「予想外次々と」
「予想外次々と」
ロザミアの介入で動きを封じられてしまったJOLJU。
もう悩む時間もない。
どっちにしても予定の時間には間に合わない。
そしてデズリーを襲った悪党共!
まさかこの状況下で強盗!?
***
ロザミアが去ってからしばらく……JOLJUは空に浮かびながら腕を組み考えていた。
「ロザミィが近くにいる……となると……無茶ができないJO」
最終手段は壊れていようがエネルギーがなかろうが、こっそりJOLJUの能力で強引に祐次とエダだけは転送させる手だった。これは完全に反則でJOLJU自身封印していることだが、背に腹は変えられない。
どうせ祐次たちには分からないしバレなきゃいいや、と思っていたが、しかしロザミアが監視しているとなると、その手は使えない。今度こそ本気で怒られる。
ロザミアは家族といっていい関係なだけに、あまりロザミアに怒られたくはないし、本気で怒らせればロザミアだけでなく他の二人の神も本気で人類を敵として動き出す可能性が高い。
ロザミアだけならまだ説得できるが、あの二人の神が耳を貸すはずがない。素直にJOLJUに文句をいってくれるのならばいいが、代わりに人類を罰する手を取られたら困る。
残る手は二つ。
なんとか知恵を絞ってこの船を今から突貫で直すか、別プランを取るか、だ。
どっちを選んでも成功率は落ち、時間もかかる。もう同時進行はできない。
「どうしよう」
このことは祐次には言えなかった。まだどうなるか決まっていないし、できれば祐次とロザミアを対立させたくない。
相棒と家族の争いなど見たくない。
「ホント……どうしよう……」
本気で頭を悩ませるJOLJUだった。
***
午前11時09分
「何やってンだよ、ミレインは!」
デズリーは悪態を吐きながら、自分たちの隠れ家に帰って来た。
ここはデズリーたち6人の少年少女が雑居する家で、マンハッタンだが川の近くのスパニッシュ・ハーレム地区で、ヤンキースタジアムが近くに見えるに小さなアパートメントのビルを改造して住んでいる。一階は皆の溜り場兼キッチンで、上の階が各々の居住用の部屋と倉庫だ。
と……自宅に入ったデズリーは、異様な気配を感じた。
……荒らされている……?
元々きちっと整理整頓されている家ではなく、家というより隠れ家といたほうが相応しいところだが、それにしては荒れている気がする。ここ数日、デズリーはコロンビア大学で寝泊りしていて帰っていなかったが、どこか雰囲気が違う。
それにデズリーとミレイン以外は、すでに三日前避難してここにはいないはずだ。
ALではない。ALは家を荒らしたりしない。
NY共同体のリーダー格は、ここがデズリーたちの棲家だと知っている。だから仲間が荒らすとは思えないし、仲間内の略奪は自治体が禁止している。
デズリーは懐のホルスターに入っているM1911を抜くと、親指をハンマーにかけて、中に進んだ。
リビングに入った……その瞬間だ。
デズリーは、突然横から強烈なタックルを受け、吹っ飛ぶ。
と同時に、何者かがデズリーの体に圧し掛かった。
「何だテメェ!?」
デズリーが右手に持ったM1911を構えるより早く、銃口が目の前に突きつけられた。
テカテカの、趣味の悪いパール・グリップ付きのニッケルメッキのベレッタM92Fだ。
そして、その時初めて、自分を押し倒した相手の顔が見えた。
髭面の20代後半の男で、汚い革ジャンと薄汚れた顔には見覚えがあった。
「シーザー=マメット!」
「よう、キッド! 元気していたかよ!」
シーザー=マメット。Banditの一員で、Banditの連中と多少取引があるデズリーにとって顔見知りだ。
だが仲がいいわけではなく、こいつらはBanditの中でも姑息で粗暴で人望もない男だ。
「何しにきやがった!? 何だよ、この銃は!?」
「テメェたちガキはさっさと避難したと思ってよ。留守のところ、ちょっと食料でも拝借していこうと思ったんだが……なんだお前。全然食い物ねぇーじゃねぇーか? 菓子やソーダくらいしかねぇーぜ?」
「強盗しにきたのか!?」
「結果的に、そうなっちまったな」
「俺らがそんな沢山物資持っているはずねぇーだろ! ガキだぜ!?」
「よく言うぜ」
その時だ。奥の部屋から、大きな黒人の男と、両手と口を塞がれたミレインが現れた。
「食い物がないんなら、しゃーねぇーな。あのガキと色々楽しんで、ズラからせてもらうぜ」
「お前たちの化物ドクターが、俺たちの貴重な女を奪っていきやがったからな! 俺たちも飢えてたまんねぇーんだよ! 贅沢はいわねぇ、16歳なら青いが十分楽しめるぜ!」
黒人のチャド=ストーキーが下品な笑みを浮かべながらミレインに頬ずりする。ミレインは悲鳴を上げるが、口が塞がれていて言葉にならない。
「待てよ! 分かったよ!! 食い物用意すりゃあいいんだろ!?」
「できんのか?」
「それでミレインを開放しろよ!? 手も出すんじゃねえーぞ!」
「最低一週間分の食い物と酒。そして銃だ。最低でもダンボール一箱分は欲しいぜ。一時間で用意しろ!」
「分かった」
シーザーはニヤリと笑うとデズリーから離れた。が、銃口は依然向けられたままだ。
デズリーは悔しそうに立ち上がり、二人を睨みつける。
他に人が隠れている気配はない。どうやら、Bandit全体の作戦ではなく、この二人の独断のようだ。
シーザーは懐から無線機を取り出した。
無線機の電源は入りっぱなしで、ベンジャミン他共同体の無線のやりとりが全て聞こえてくる。
「無線の全チャンネルをオンにしている。ベンジャミンや他の連中に報せたら、ミレインを犯して川に捨てる。特にあの化物ドクターには一言も言うな」
「キッド。お前、調達得意だろ? アテにしているぜ?」
「分かったよ。だけど、絶対ミレインに手ぇ出すンじゃねぇーぞ!? その時はベンにもドクターにも言うからな! そうしたらお前ら皆殺しだ!」
「これはいつもの取引だ。心配すんな。穏便にいこうぜ、穏便にな」
「ざけんじゃねぇーってーの」
デズリーは吐き捨てると、M1911をホルスターに戻し、出口に向かって駆け出した。
まさかこんな事件が待っているとは思わなかった。
このALの大襲来の中……別の厄介な事件が発生した。
しかし……デズリーに、全く勝算はなかった。
銃も食料も、今は厳重に管理され、保管されているし、購買部も閉まっている。デズリーの立場ですぐにどうこうなるものではない。
目の前が眩みそうだ。どうやったらこの窮地を逃れられるか全く分からない。
だが、何とかやるしかなかった。
「予想外次々と」でした。
今回は前半がJOLJUメインの話のまとめ。
ロザミアが近くにいるのでJOLJUの反則はバレるので使えなくなったということです。
そもそもJOLJUは簡単に直しているように見えますが、元々の持ち主であるク・プリ星人たちが自力では何年もどうにもならないのを数日で直してしまっている事自体、知力と機械いじりに関しては得意というのは伊達ではない。
さて、どうするJOLJU!
そして後半はデズリーを襲った災難。
まさかこのタイミングでミレインが人質になり強盗に遭う!?
避難の最終便出発まで一時間を切っています。
事件次々発生!
ついにエダが動く!?
こうしてノンストップのクライマックス編始まります。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




