「準備」1
「準備」1
一通り手続きを終えた拓たち。
これから旅立つための準備に取り掛かる。
そのためにはお金……ポインドが必要だ。
そこで時宗は秘蔵の銃を売り払う事を決める。
***
東京 4月26日
拓たちが東京に戻って、四日が経過した。
「お前たちのことは考えておく。しばらくゆっくりしたらいい。帰ったばかりだしな」
拓も時宗も優美も啓吾も、元の班は消滅した。そして拓と時宗は所属の離脱を申し出ている。伊崎は離脱については今は保留とし4人は休暇という事で処理したので、一応まだ政府所属だ。
篤志と杏奈、レン、そしてここにはいないが姜の登録は25日に済ませた。全員時宗の家を住所として届け、それぞれポイントカードが発行された。
特にすることがないので、優美と啓吾も集まり、全員時宗の家でミーティングである。
「全員で45万ポイントか。ちょっと少ないかな?」
皆のポイントカードの額を計算して、拓は腕を組んだ。
篤志たちは生存者の初期ポイントだけ。紛失した優美も再発行してもらったが、1万P。拓のポイントカードは姜に渡したのでなくなったので同じく再発行。啓吾は3万ちょっとだから、この45万はほとんど時宗と祐次が貯めたポイントだ。個人として考えたら一財産あるのだが、米国への旅と残る篤志たちの事を考えるとできるだけ残してやりたい。篤志たちは10代の未成年で、東京の暮らしにも慣れておらず杏奈やレンは政府の仕事で稼ぐ事は出来ない。
「銃と弾だけはたっぷりあるからいいが、燃料と食料だ」
今度は東シナ海ではなく世界で一番大きい太平洋。30日分は必要だ。途中寄港できる場所はハワイくらいしかないが、ちゃんとハワイにつけるかどうか分からない。南に下がる分下手したら遠回りになる。
<アビゲイル号>には、まだ6日分ほどの食料が置いてある。
しかし今度は拓と時宗だけで、料理ができるというほどの腕前はない。できるだけ嵩張らず簡単に調理できるものを用意したい。ゴミも邪魔だから、インスタント麺やレトルト食品がメインで缶詰ばかりだと場所を取る。
「仕方ない。準備費確保のために銃と弾の一部は政府に売ろう」
それが拓の出した結論だった。
むろん拓が独占するのではなく、優美や啓吾、篤志たちにも均等に……ではないが分ける。
均等にしなくても問題はない。最終的に余った拓と時宗のポイントは、全員に均等に山分けするからだ。
「いいの?」と優美。
「数十丁以上も持っていても仕方がないしな。それにあれが一番ポイントになるし」
銃弾は8万発。銃は拳銃や自動小銃、ショットガン、SMGなど沖縄でたっぷり手に入れた。元々沖縄に寄ったのは自分たちのためというより、日本のためだ。自動小銃やライフルやショットガンは自分たち用に1、2丁ずつあればいい。
「持てるだけ持っていくほうがいいんじゃないの? 銃は」
優美が心配そうに言う。銃や銃弾は、日本だけでなく世界中で使えるもので、この崩壊世界ではどこでも通貨代わりになるし、どれだけあっても困るものではない。今では黄金より価値がある。
「米国に辿り着ければ、銃問題は大分改善するから、いいよ」
米国は銃社会だ。銃砲店でなくても個人の家を慎重に探せば銃は出てくる。だから必要最低限で構わない。
「あ。拓、お前リボルバーがいるよな?」
時宗が思い出し拓を見た。日本は襲来時期を除けばそれほどALの群れは多くなく凶暴でもない。そして38口径は政府が生産し職員は配給される。拓のベレッタM9は返却しないといけないかもしれないから、銃は必要だ。予備のベレッタはあるが船の倉庫だ。
それにサバイバルの旅をするのならばリボルバーも一丁あったほうがいい。オートマチックはマガジンが必要だがリボルバーは弾だけで使える。
「じゃあまずそっち片付けるか? 皆も銃を選べるし、余った銃はこの際売ればいいだろう」
「お前が前に言っていた武器庫?」
「どこにあんの?」
「この家の秘密地下室!」
時宗はニヤリと笑い、指で下を差した。そういえば、そんなことを時宗は言っていた。
「驚くなよ?」
「…………」
という事になった。
***
時宗の自宅には地下がある。元は音楽関係の個人宅で、地下は収録スタジオになっていた。時宗 (と祐次)は、このスタジオを物資の倉庫として使っていて、どこで集めたのか、缶詰やらジュースやら酒やらの食料や水に服、医薬品、ガソリン、家電などがたっぷり入っていた。ここの食料だけでも五人が三ヶ月くらい生活するくらいは貯まっている。
そして収録スタジオの横にある小さな倉庫があり、こちらは鍵がかかっている上に、さらに大きなダイヤル式の南京錠が二つもついていた。
しかも、この倉庫の前にはダンボールを積まれていてぱっと見分からないようカモフラージュされていた。
「良かった。盗まれてねぇーな」
「厳重だな」
ダンボールを退け、ダイヤル鍵を開ける時宗。後ろでは、拓や篤志たち全員が見ていた。
「上は俺の誕生日。下は祐次の誕生日。それで開くぜ」
「知らないよ、お前らの誕生日」
「俺は10月16日。祐次は7月8日」
そういうと時宗は鍵を外し、ドアを開けた。
「うわぁ……」
「すごい」
「ナニこれ。どうやったの?」
「ここ日本ですよね?」
中を見た拓たちは思わず目を見開いた。感動するより驚愕である。
そこは大体4畳ほどの部屋で、片側の壁際に棚があった。その棚の上に、拳銃がズラリと並んでいる。そして自動小銃やショットガン、ライフルが大体20丁ほど束になって置かれているし、弾薬が入ったダンボールが三つ置かれていた。他にホルスターやボウガン、ナイフ、ダイナマイト、防弾ベスト、ミリタリーベストが積まれている。
完璧な武器庫だ。まるで映画に出てくる秘密基地のようだ。
だが、この数はどうだ。
「凄い。米国みたい」
啓吾は中に入り並んでいる銃を見てため息をついた。
ここが米国なら、ここまで驚かない。しかしここは日本だ。
「種類が色々ある。どこで手に入れたんだ、お前?」
拓は棚に並べられた拳銃を見ながら呟く。オートマチックが6割、リボルバーが4割だが、色んな種類がある。欧米の一流品からアジア製のコピー品まで色々だ。警察拳銃の38口径リボルバーや米軍の9ミリ以外にも沢山ある。
崩壊後、銃は必需品となったが、日本で入手できる場所は警察か自衛隊か米軍しかなく、種類も限られている。そして警察や自衛隊や軍関係は、政府がいち早く押さえて管理してしまったから、普通の調達班が行っても個人では集められない。
「俺たちの目のつけどころ。あるところにはあるんだよ、銃は」
時宗は自信満々に笑った。
そういえば、時宗と祐次はどこからかコルト・パイソンやDE44といった、日本ではまず転がっていない拳銃を手に入れて使っていた。むろん密輸ではないから、どこからか国内で手に入れてきたのだ。
以前も不思議に思い、どこで手に入れたのか聞いたことがある。だがその時は「企業秘密」といって教えてくれなかった。
しかし今回は教えてくれるらしい。
「各国大使館と在日米軍の兵士の自宅だ」
「自宅?」
「厚木や横須賀があンだろ? 米軍。基地に行って兵士の家を調べるワケよ。あいつら、元々銃マニアが多いから、こそっと持ち込んでいる奴もいるのよ。で、そういう奴らは大体サークルなりグループなり作っているから、仲間の住所調べて、行く。結構隠し持っているモンだぜ?」
在日米軍兵士の数は多い。彼らは正規の航空便ではなく軍輸送機で来日する場合も多い。むろん荷物検査はあるし持ちこみも基地の外への持ち出しも禁止ということになっているが、そこは同類の仲間同士……裏道はいくらでもあるのだろう。使ったり日本人に売ったりしなければバレることはない。祐次は英語が得意で英文が読めたから、探し出すのは意外に簡単だった。それで一流の拳銃は手に入れた。
自動小銃やSMGは大使館の隠しロッカーから拝借してきたものだ。
大使館の中で公式に武装しているのは米国とイスラエルだけだが、どの大使館も諜報員や武装警備員がいて、非常時のときのために銃を隠している。大使館内は日本国法が適用されないから、そっちの持ち込みは合法だ。
「準備」1でした。
あるところにはある銃の話。
しかし時宗と祐次は崩壊世界向きですね。
こういう知恵をどこで知ったのか。
ちなみにポイントは物価のちがいはありますが、大体×3倍\だと考えると近いです。食堂なんかはライフラインなので安いし家具や家電は勝手に入手できるので一ヶ月3000Pくらいで生活だけはできます。電気水道下水道代はなしです。家賃もないです。美食品やお菓子、贅沢食が高いのはNYと同じですね。
次回は拓たちも新しい銃を選ぶ!
ぼちぼち東京基本生活編も終わりです。
拓編で事件が起きてハードになるのは後半スタートの第六章からです。
しかし重要エピソードがこの後待っています。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




