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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第五章拓編後半
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「報告」2

「報告」2



拓は伊崎に英雄探しの話を告げる。

最初は信じかねる伊崎。やんわりと拓たちの旅を諌める。

だが拓の決意は変わらない。


そして篤志はあんなを連れて病院の前島を訪ねる。

杏奈の診察。

その後話題は祐次の話に。前島は祐次の医学の腕に驚嘆する。

***



 いや、皮肉とはいえない。


 実戦での戦闘力やALとの対処は拓や時宗、祐次たちのほうが優れている。

 矢崎も大下も班長だったが、現場に出る事は少なく、現場では第八班は拓が事実上のリーダーだったし、祐次と時宗は独断で二人(とJOLJU)で勝手に行動することが多かった。想定以上の実戦になれば、拓たちのほうが優秀で連携も上手い。なんとか生き残った矢崎はともかく、大下はALを甘くみてしまったのだろう。



「だから拓、時宗。俺はお前たちの行動を責めない。むしろお前たちが死ななくて良かった。やっぱりお前たちは優秀だよ」


「それでも、何人も友や仲間を失いました」



「ところで……俺が聞きたいのは、それよりも」伊崎は一口コーヒーを啜った。「祐次と<英雄>とやらと、お前たちまで米国に行くという話……どういう事か、詳しく教えてくれ」

「祐次?」


「篤志君はドイツで祐次に助けられたと言ったな? なら、あいつも篤志君と一緒に日本に帰れたんじゃないのか? そうせず米国に向かった。それでお前と時宗は米国に行くというのだろう? <英雄>を見つけたら何が起こるんだ? しかも、あいつは米国に辿り着いたのに、こっちに帰る気配はないんだろう?」


「俺にもそこは分かっていません。実際祐次と会えたわけではないですし。でも、何かあるとは思っています。JOLJUも存在を知っているようですし……それどころか、明言はしていませんがどうやら祐次たちはもう<英雄>に出会っているような気がします」


「伊崎さんも信じてンの?」


「お前たちの話だけなら信じなかったが……同じような事を三人が言っている。面子が面子だから、ちょっと無視できなくてな」

「三人?」


「ユイナ姫と、サ・ジリニと、レ・ギレタルだ。ああ、祐次とJOLJUを入れれば五人だな。それにお前たちもときたモンだ」



 確かにその面子は強力だ。まず与太話を信じそうにない異星人にも詳しい祐次と、完全異星人のJOLJU、ク・プリアンの二人。そして不思議な能力を持つという<京都>の姫だ。これに拓と時宗まで、とくれば、異星人と日本で重要で有能な人間たちは皆その存在を信じている事になる。この悲惨な世界に絶望した人間の戯言とは思えない。


 ただ伊崎が不思議に思ったのは、他の残っていたク・プリアンたちは、<英雄>の事や米国の事は何も知らないということだ。外国に行った者だけが知っている新しい情報なのだ。



 拓と時宗は顔を見合わせ、少し考えた。



 拓たちだって、ただ人伝で聞いた噂……とかであれば、こんなに信じたりはしない。


 だが、<英雄と会えば人類に希望が生まれる>と言ったのは、<BJ>……異星人の神なのだ。しかもその<神>は、どうやら全ての元凶であるAL側の神で、<BJ>といがみ合っている一応<神>のJOLJUもいると言っている。さらにわざわざ引き受けた時宗と祐次は神から特別な才能を賦与された。だから信じるに足る、と拓は思っている。



 その事は伊崎にも説明した。伊崎も否定はできなかったが、信じかねている様子だった。伊崎は拓たちと違ってJOLJUとはそこまで仲良くなく、実は<神>で凄い超生命体だとは知らない。拓たちだってアレが宇宙最高レベルの<神>だと知ったのは最近だ。それを伊崎に説明しても混乱するだけだ。



 ただ、これだけは伊崎も理解した。



「どうやらお前たちは、俺たちの知らない世界に足を踏み入れた……みたいだな。この世界の秘密、か」

「かもしれないです」

「だけどな」


 そういうと伊崎は少し温くなったコーヒーを飲み干した。


「日本政府は日本人のための組織だ。米国は俺たちの管轄じゃない。手助けはできないぞ?」

「ええ、分かっています。これは俺たちだけの事情ですから」


 拓も温くなったコーヒーを飲み干した。


 伊崎はどうやら味方になってくれそうだが、立場がある。協力者とまでは、難しそうだ。



「構いません。自力で行きます」

「それより、ユイナ姫から話は聞いているか?」


 伊崎は話題を変えた。

 拓はそれが何か分かった。



「ALの襲撃……ですか?」

「その話もしよう」


 今の伊崎にとって、そっちのほうが、より現実的な脅威だ。


 ただ……これを進言しているのが、偵察班などではなく<京都>のユイナ姫だけだということが、引っかかる点ではあったが。そして、その件に関しては、拓たちもよく分かっていないのだ。




***





 浩生会ミズキ病院は、練馬区の江古田にある小規模の総合病院で、第二級救急指定病院だ。


 この近くには他に練馬総合病院や総合東京病院といった救急搬送可能な大病院があるが、そちらは緊急用で普段は使われていない。


 何せ正規の医者は前島晋介、ただ一人しかいないのだ。大きな総合病院は広すぎて使い勝手が悪く管理も行き届かないし、設備維持の燃費も馬鹿にならない。それに患者もそれほど多いわけではない。


 病院には、前島の他に手伝いをする民間人の助手が10人ほどいる。元看護師と介護師が一人ずつはいるが、他は全くの素人だ。もっとも、世界が崩壊してから、医学を学びたいといって助手を務めている20代の男女の若者が三人いる。


 こういう状況だったから、元々優秀な医学生だった祐次は特別で、助手ではなく独立した外科医師として以前はこの病院に診察室を持っていた。そのため前島との関係も深く、ある意味師弟といえる。

 もっとも、祐次は優秀な生徒だったが、素直な生徒ではなかった。基本独学で勉強して上達していった奴で、どうしてもわからない事だけ聞きにくる程度の師弟関係だ。同僚に近い。



 篤志たちが杏奈を連れて病院を訪れたのは、午前11時過ぎだ。

 前日に結核患者だ、と事前に告げたので、この日病院の助手たちは感染予防のためマスクとフェイスシールド、手袋をしっかりした状態で待っていた。そして杏奈の問診やレンドンを撮っている間に、篤志と優美は前島と面会し、そこで祐次の作成したカルテと治療経過報告書と紹介状を手渡した。


 前島は40代の小柄な中年で、髪は半分白髪で短く、ごく普通の私服に白衣を着ている。メガネをかけ、ちょっと気難しそうな男だった。



「あの若造……ドイツに何しにいったんだ? この忙しいのに。その上勝手に米国に行きやがって」


 前島はブツブツと文句を言いながら祐次の残したカルテと報告書を読んでいた。

 読むうちに、彼の表情が見る見る間に険しくなり、篤志たちは不安を覚えた。


「どうかしましたか? 前島先生」

「黒部の若造がやったのか? これを」

「はい」

「本当かよ……」


 前島は食い入るように、カルテを隅から隅まで何度も見直す。その時間が、なんと5分も続いた。



「本当にあいつか?」


 5分後……ようやく前島が悪態をつくように呟くと、カルテを置いた。


「あのガキ、ふざけやがって」

「祐次さんの処置は間違いなんですか?」

「腹が立つぜ」


 篤志と優美は、その言葉に思わず顔を見合わせる。

 だが、前島が次に言った言葉は、不安とは別だった。



「完璧だ。俺より手際がいい」

「……よかった……」


 篤志は微笑む。


「これなら後は投薬でゆっくり養生するだけだ。月に一度結核菌の有無の検査は必要だが、入院はいらんよ。どうせ介護する人間もいねぇからな」

「ありがとうございます。ほっとしました」


 篤志も優美も胸を撫で下ろした。だが前島は不機嫌のままだ。そしてそれは杏奈の症状ではなく、別の理由からだ。



「どうなってンだ!? あいつ外科医モドキだぞ? 本当はまだ医者とは名乗れない卵だぜ!? 結核患者なんか診察したことがねぇーだろ!? 何でこんなに完璧に処置ができる? 誰に習った?」


 前島の不快感というか不信感はその事だった。いくら祐次が優秀な成績だったとはいえ、医師国家試験を受ける前の医学4年生が実際に患者を診られる筈がなく、専門外の結核の処置法薬学はないはずだ。


 前島は元々大学病院で糖尿内科の専門だったが、糖尿医であるだけに他の疾患にも詳しく、薬学も得意なほうだった。その前島から見ても祐次の処置は完璧で文句のつけようがない。専門医と変わらない処置だ。


 これは医者でなければ、この異常さは理解できない。医者は万能ではない。専門が違えばまるで手が出ない分野も多い。しかも祐次の専門は外科で内科ではない。外科は技術職で内科は知識職だ。祐次は結核患者の治療などしたことがないはずだ。


 しかし篤志の話では、祐次はドイツでは内科だけでなく通常出産も帝王切開もやったし、銃創手術もしたし、白内障の手術までやったという。それを聞いたとき、前島は感心を通り越して驚倒しそうになった。



「確かにあいつは医学生の割には外科の腕はよかったし度胸もあった。頭も切れるし勤勉で知識はあった。ああいう天才肌の医学生は大学で五年に一人……千人に一人くらいはいたもんだが、それにしたって医者は経験してナンボだぜ!? そもそも二ヶ月前消えたあいつがどうして11ヶ月前のドイツにいるんだ?」


「色々あって、一年ほどタイムスリップした、と聞いています」


「いくら天才でも10年は修行しねぇと、ここまでなれねぇーよ。医学舐めるな」

「現代のブラックジャックね」


 思わず優美は零した。そう表現する以外ない。



 いうかどうか迷ったが、優美は自分たちが異星人の神<BJ>に助けられた事。そして祐次はその時、医学スキルを貰って超人になったらしいという事を伝えたが、常識人である前島は到底信じられない様子だった。技術を得たって経験が得られるわけではない。それでも現実として祐次の医術の腕を確認した以上、前島も信じざるを得ない。



「外科なら分かるぜ。外科ってのは、いったら切って、繋げて、縫う技術だ。知識より技術者で実戦の数だ。才能がモノを言うし場数こなせば上手くもなる。縫合は元々内科の俺より上手かったがな。あいつが天才なのは認めてやるが、内科や他の分野までかよ。内科や薬学は暗記すりゃあいいってもんじゃねぇ。患者には個人差があるんだ。それを経験と実戦を繰り返して体で覚えるもんだ。それをあっさりと超えやがる。信じられん話だぜ」


「…………」


 篤志と、そして優美はなんとなく祐次が診断の処置をビデオに撮った理由が分かった気がした。カルテを見せても信じてもらえなければ、ビデオで実際の診察しているところをみせて前島に納得してもらえ、という意図もあったのだ。

 祐次も医者だ。

 いかに自分の医術のレベルが常識外なのかは、自分が一番分かっていたのだろう。



「報告」2でした。


今回、鍵は拓のほうも篤志のほうもある意味祐次ですね。


どうやら英雄を見つけ、英雄がいることを拓に確信させた祐次。

そして英雄がいる、といっている面子の強力さ。

伊崎としては拓たちも貴重だし失いたくないので遠まわしに反対していますが、協力はしてくれるようです。


そして今回後半は篤志メインの話。

というより今回は祐次メインの話。

祐次は元々は前島の同僚で日本の医師でした。本編であったとおり医師国家試験を合格していないので正しくは祐次は今も医者ではなく闇医者というか医学生なのですが、もはや今では世界一の万能医者。祐次の場合医学スキルをもらったというより、元からある才能が開花したので半分スキル半分元々の才能です。

しかし拓編なのに今回はどっちも祐次の話題でした。

次回は篤志の秘密です。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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