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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
プロローグ
2/392

「崩壊の中の光」

予想外の行動を取る異星人サ・ジリニ。

だが事態はさらに予想外に発展する。

そして祐次は謎の生命体であり友であるJOLJUと合流することができたが……。

ALの襲撃は終わりではなかった。

そしてサ・ジリニは、本当の敵を認識する。

 怒涛のような、鉄砲水のような、津波のような……。

 それは瞬く間に17人の日本人と、一人の男を飲み込み、ほとんど無慈悲に打ち砕いた。

 あの狂暴で残忍な異星人<AL>の強さは知っているつもりだった。しかし連中の脅威は人間たちの想像をはるかに超えたものだった。


「くそっ!!」


 拓は無我夢中で扉を閉じた。すぐに何かが激しく打ち付けられる音が聞こえる。これは人間を抹殺するためだけの存在<AL>が多数扉にぶつかってくる音だ。


 拓は流れる汗を拭った。その時、両腕が血で染まっていることに気づいた。拓の血ではない、仲間の血だ。全身を無残に切り刻まれ絶命した人間だった仲間の。


 この扉に駆け込むことができたのは何人だっただろう? 拓も戦うのに夢中でよく確認していない。だが一番肝心の<お客さん>はいたと思う。だが後は誰がいただろうか?


 振り返って確認することが、怖かった。

 だが、振り返った。

 目に入った人影は4つ。


 右手にコルト・パイソンを握り、顔面蒼白で、荒く息をしている時宗がいる。

 小刻みに震えながら、ALに抉られた右腕の傷口を縛っている優美がいる。

 足に傷を負い座り込んでいる関 啓吾がいる。

 拓を含め三人は長物を失った。時宗だけはショットガンを床に転がしているが弾は残り少ない。


「……くそ……」


 悪夢のようだ。少なくとも3人の仲間が切り刻まれたのを見た。他の仲間も押し寄せてきたALに飲み込まれて見失った。生死は分からないが、正直絶望的だと思う。事実、銃声は他所から聞こえてはこない。


 そして大きなフード付きのパーカーを目深く被る長身の人影が一つ。

 この人影が<お客さん>だ。この男をこの宇宙船の指令室に連れてくることが拓たち第八班の任務であり、そのための血路を開きALを牽制し宇宙船内の安全を確保するのが第六班の任務だった。その計画は、成功した。確かに拓たちは<お客さん>を目的地に連れてくる事には成功した。しかしそれ以外は失敗だ。宇宙船内に巣食っていたALは想定していたより遥かに多く、組織的な作戦など行うゆとりなどなく、中に侵入した仲間はほとんど四散し玉砕した。生存は絶望的だ。拓たちが<お客さん>を連れてこの宇宙船の中央にある指令室に辿り着けたのは計算ではなく我武者羅な行動が生んだ奇跡でしかない。


「この様子だと、戻るのは無理みたいね」

 優美は吐き捨てた。彼女もライフルを失い、武器は5連発のリボルバーしかない。これであの雲霞の如く溢れるALの中突っ込んで脱出するなど不可能だ。


「問題ない」そう言ったのはフードの男だ。男は静かにパーカーのフードを脱ぎ素顔を現わした。人のように見えるが、肌が青みかかっていて、顔には刺繍のような模様が刻まれている。髪は黒いが髪質は人間のものではなく獣のように強い。


 間違いない、異星人だ。そして彼はALと違い、この船を製造し操縦することができる、高い科学と文明を持った異星人だ。もっともそんな彼らもALを前に敗北し、地球人たちと立場は変わらない。


「<フォーファード>のセットを始めよう。よろしいな? 地球人の諸君」

「ああ」

 拓は頷く。それがこの異星人、ク・プリアン星人のサ・ジリニとの約束だ。


 拓はミリタリーベストのポーチの中から装填済みのベレッタ用の15連発マガジンと自動小銃の装填済みマガジンを取り出した。それを見ていた時宗も、拓の足元に357マグナム弾と12ゲージのショットガンの弾を投げた。優美もポケットから38口径を取り出し投げる。拓はそれをまとめると、サ・ジリニに手渡した。


「数は作れるだけ作ってくれ。1万でも2万でも10万でも、あるだけ欲しい。転送場所は」そういうと拓はスマホを取り出し、さっき撮った横浜スタジアムの写真を表示し、拡大させた。スタジアムの奥に小さく赤い倉庫群……横浜赤レンガ倉庫が見える。そこを指差した。


「ここだ。ここに頼む」

「了解した」


 拓たち地球人はこの異星人サ・ジリニを護衛してこの指令室に届ける。その代わりにサ・ジリニは船にある分子組立装置<フォーファード>で銃弾を大量に作り上げる。日本で銃弾は容易に作れないし手に入りづらいが、絶対必要な物資だ。警察署や自衛隊、米軍基地を捜索しても必ず手に入るものではなく、生存日本人たちの悩みの種だった。それを一挙に解決させる方法が今回の作戦だ。


「分析する。時間をくれたまえ」

 弾を受け取り、それを何やら台の上置きスキャンを始める。もう拓たちには何をやっているのか分からないから待つしかない。


 その時だ。時宗の腰のホルダーにあるトランシーバーが鳴った。相手は一人しかいない。


「なんだよ! お前! 生きてンのか祐次!!」

『残念だが生きているぞ』

「祐次が生きているのか!? どこにいるんだ!?」

 拓も声を上げると時宗に駆け寄った。負傷している優美と啓吾に喜色が浮かぶ。祐次が生きていれば治療が受けられる。


 15分ほど前……祐次は負傷した仲間を救うためと、拓たちを先に行かせるため身を挺して下の階に残った。その直後ALの渦に巻き込まれ生存は絶望的……と、皆が思っていた。


 だが、祐次の状況はけして楽観できるものではなかった。

 幸い大きな怪我は負っていないが、武器は愛用のDE44とバックアップの38口径リボルバーしか残っていない。祐次は自動小銃にSMGと、今回のメンバーの中では一番いい武装を持っていたし弾も多く持っていたのだが、100を超えるALに殺到されてあっという間に使い切ってしまった。しかも撃退することもできず、混乱の中祐次だけがなんとかどこかの部屋に逃げ込み難を脱した……という事だった。場所も正確な場所は分からない。何せ窓のない初めて来た異星人の宇宙船の船内の中だ。今いるのは小さな倉庫のような部屋で、ALはいないが、ここがどこかさっぱり分からなない。そしてALの気配はそこらじゅうから感じる。


『銃声がさっきから止んでいる。どうも絶望的だな。多分そっちとは8フロアーくらいは離れていそうだ。それ以前にここがどこか分からん』

「なんとかこっちに来てくれ。優美と啓吾が負傷している。命に別状はなさそうだが、傷は浅くない」


 二人の怪我人も心配だし、残り少ない味方だ。しかし8フロアーは遠いし、船内の膨大なALの数を考えれば武装が足りなすぎる。いくら祐次でも突破してここに来るのは不可能だ。


『なんとかそっちを目指す』

 そういうと祐次は一旦無線を切った。


「あいつは不死身だな」と時宗は笑う。それを聞き拓も苦笑した。祐次の生存は今日一番いいニュースだが、祐次一人しか生き残っていない現実は残酷だ。第六班もほぼ全滅だ。



「悪いが一人、手伝ってもらえるかね? 私一人では操作が大変だ」

 サ・ジリニが拓と時宗の二人の顔を見て言った。二人は負傷していない。


「俺、男の世話する趣味ねーし」

「分かった、俺が手伝う。時宗、お前優美と啓吾の手当て、頼むな」


 確認しあうまでもない。拓は救急医療具を持っていないが時宗は持っている。相棒が医者の祐次だから持たされているのだ。そして治療の手伝いもするから慣れている。


 拓がサ・ジリニの後ろに立った。


「何をしたらいい?」

「全て指示する。言う通り動いてくれればいい。簡単なことだ」

 サ・ジリニは慣れた手つきで卓を叩き始める。


 1分もしないうちに、部屋の明かりが点り、壁に設置してあるパネルやモニターも発光を始めた。言語が違うので拓たちにはどうなっているのかさっぱり分からない。


「上々だ。まだこの船は生きている」

 サ・ジリニは船を起動させようとしている。拓は言われるままモニターを確認したり、点灯するカーソルを叩いたり、ボタンを押したりしてその補助をしている。


 やがて、床が揺れ始めた。やがて振動は不規則で不安定な動きから、徐々に一定のリズムに整いつつあった。車のエンジンがかかるのに似ているが、それよりもはるかに揺れも振動も大きい。


 ふと……拓はある疑問が脳裏を過り、表情から笑みを消した。



 ……分子組立装置<フォーファード>を使うのに、船を起動させる必要はあるのか……?



 分子組立装置なんて地球には存在しない超科学機械で、その使い方は知らないが、あいつはこんな手間をかけていたのか? もっと簡単に操作していたんじゃないのか?


 と……拓は元々この話……「分子組立装置<フォーファード>で弾を増産したらいい」と気軽に言っていたのを思い出し、俄かにサ・ジリニに対して警戒を強めた。





***




 一方……黒部 祐次は狭い船室の中にいた。元は何の部屋か分からないが、広さは10畳ほどで広くない。出入口は一つで、ドアがあるだけだ。このドアの向こうにはALが群れている。


 船が動き出そうとしていることは、祐次にも分かった。エネルギーは船内全体に広がり、今いる部屋も明かりが灯る。


 が、予期せぬ事が起きた。


 ドアが通路にいたALに反応して開いたのだ。

 本来自動ドアなのだ。

 半開きだったところを見つけて逃げ込み、手動でドアを閉めて難を逃れたのだ。廃墟状態であればそれで良かったが、船が起動すれば当然自動ドアは通常通り反応する。鍵の類もあるだろうが地球人の祐次が分かるはずがない。


 ドアが開いたとき……正面にALがいた。

 ALが気付いたのと、祐次がDE44を構えたのは同時だった。

 問答無用でその頭部を吹っ飛ばす。ALは弾け飛んだ。

 しかしこれで周囲にいたALたちが不届きな地球人の存在に気付いた。その数は凡そ30。さらに範囲を広げれば100は越える。ALは一体一体はさほど怖くない。だが集団となって襲い掛かってくると凄まじい破壊力を持つ。

 祐次は近くにいる4体を一先ず先制で撃ち殺すと、ドアに手をかけた。最終的な解決にはならないが、今生き残るにはこのドアを閉ざす以外手がない。


 その時だった。


 群がるALたちの足元に、見知った……今回の遠征の発端になった異星人の姿を見つけた。そいつは上手にALを避けながら真っすぐ祐次のいる部屋に向かって駆けている。


 祐次は舌打ちすると、そいつがこっちに来る時間を稼ぐため、さらに2体のALの頭を吹っ飛ばした。ここで弾が切れた。だがそいつもなんとか部屋の中に飛び込んだ。


「ドアロック!!」


 祐次は叫んだ。そいつが知っているかどうか分からないが。しかし幸いそいつは知っていたらしく、飛び上がって壁の中に埋もれていたコントロールパネルをバンバンと叩いた。それでドアが閉まり、鍵がかかった。


 命を拾った。


 祐次はその場に座り込む。


 それより問題はこの異星人……いや奇妙人か? いやいや、そもそもこいつは<人>なのか?


「もー……どしてオイラを置いて出かけるンだJO? ようやく見つけたJO」

「お前、いなかっただろ! どこに行っていたんだ!?」

「釣りにいってたんだJO。ごめんごめんだJO」

「何しにきたんだ、JOLJU」

「そりゃあ祐次のサポートだJO。オイラたちマブダチだJO!」


 そいつ……JOLJUという名をもつこいつは間違いなく異星人である。


 身長は50cmほどしかない。服はなく全身真っ白で、頭が大きく手足は短くほとんど二頭身の犬ともカバとも思えるファンシーで愛嬌たっぷりな友好的な地球外生命体だ。間違いなく地球生まれの生物ではないし、自分自身「宇宙旅行者」だと名乗っている。故郷の星は銀河の反対側にあるらしい。人懐っこく間抜け顔でぼけっとして呑気な奴だが知力は高いらしく、色々他の宇宙人についても知っているし、ややブロークンだがちゃんと日本語を喋る。そしてどういう偶然かたまたま祐次と出会い、以後仲良くなった。


 元々分子組立装置<フォーファード>の事を祐次たちに教えたのは、このJOLJUである。もっとも、発端は祐次なのだが。


 祐次は色々物資を調達する調達班の第八班所属だが、ほとんどが時宗とコンビで行動している。二人は米国大使館で普通日本では手に入らないDE44やコルト・パイソン357マグナムを手に入れた。大使のコレクションだったのだろう。警察拳銃と同じ38口径も撃てるパイソンは問題ないが日本では全く流通していない44マグナムなど使えない。が、ある日出会ったJOLJUが「なんとかできるJO」と請け負い、どこからか200発ほど手に入れてきた。それが減ると、また200発調達してきた。どうやったか聞いたところ、JOLJUは墜落したUFOの中にある分子組立装置<フォーファード>で量産してきた、という。それが出来るのなら自動小銃やライフルなどもっと重要な弾丸を数多く……それが今回の遠征のキッカケだ。


 保護していた異星人サ・ジリニの宇宙船が横浜にあると判明し、彼の分子組立装置<フォーファード>を借りる作戦となった。

 JOLJUを連れてこなかったのは、サ・ジリニがJOLJUを嫌がっていたからだ。理由は分からない。


「200発だけじゃあどうにもならんからな」

「だってオイラ、一度にそんなに持てないし」

「この船の分子組立装置を利用していたのか?」

「そだJO。こっそりとだけど。だってオイラの船じゃないし。よそのお宅にお邪魔するみたいで悪い気がするし、無断使用だし」

「自分の船にはないのか?」

「だってオイラ自分の宇宙船持ってないJO。オイラ、ヒッチハイカーみたいなもんだし。地球までは乗っけてもらってきたし」


 こいつと話していると宇宙がすごく身近な気になる。それはこのJOLJUという生命体がそれくらい自由に宇宙を旅して遊んでいるからだろう。ちなみにJOLJUに同種族はいないらしい。JOLJU本人が「オイラは全宇宙で一人」と言っている。


「しかし、ここに来てどうするんだ? 出れないんだぞ?」

「うーん……ちょっと狭いけどなんとかなるかも」


 JOLJUはク・プリアン星人製の宇宙船に詳しいようだ。

 JOLJUは飛び上がって天井に張り付いた。すると小さな扉が開いた。エアダクトかダストボックスのようだ。


「ここから食堂までレッツラゴーだJO!」

「食堂に行ってどうする? 拓やトキたちは指令室にいるんだぞ?」

「食堂にも分子組立装置<フォーファード>があるJO。そこでとりあえず弾を作ればいいんじゃなかろーかだJO」


 ここで悩んでいても仕方がない。JOLJUはこの船に詳しいのなら今は従うしか法がない。


 JOLJUが見つけた狭い通路はエアダクト兼脱出用非常路らしい。身長186cmの祐次でもなんとかしゃがめば進むことができた。元々ク・プリアン星人は地球人より若干背が高い。脱出用非常路の中まではALも侵入していなかった。


「食堂は遠いのか? なんで食堂に分子組立装置<フォーファード>があるんだ?」

「だって料理作るの<フォーファード>だJO? いちいち材料用意して調理してたら素材がいくらあっても足りないJO。だから食堂にあるんだJO」

「指令室にはないのか?」

「あるけど、指令室にあるのは飲み物とか軽食が出るくらいの簡易版だけのはずだJO。基本大きな分子組立装置は倉庫とか整備室にあるはずだJO。だって指令室にあっても使わないJO」


「待て。本当か?」


 それが本当なら……どうしてサ・ジリニは指令室を目指した? 倉庫や整備室は、確か船の中心の底部にあり、ここに来るよりもっと近かった。だがサ・ジリニはスルーした。知らなかったはずがない。


 そしてJOLJUはこの船の分子組立装置<フォーファード>を使うのに、船を起動させるような大掛かりなことはしなかった。



 ……もしかしてサ・ジリニがJOLJUの同行を嫌がったのは、意味があったか……!



 JOLJUはこの船を知っている。



「俺たちを利用したのか!?」


 だが一体サ・ジリニは何を考えている!? このUFOを動かして地球から逃れる気か? 船内には大量のALがいるがこれを無力化できるのか!?


 サ・ジリニは一人だが、彼らク・プリアン星人は他にも地球にいるはずだ。この宇宙船はどう見ても一人乗りではないし、仲間がいるような事を言っていた。その仲間を救出するのが目的か?


「待て。地球全土に散らばっていたんじゃなかったか? ク・プリの生存者は」

「確かそうだJO」


 どちらにせよ利用された事は間違いない。だが今それを責めても解決にならない。今やるべき判断は、いかにしてここから生きて帰るかという事だ。


「食堂まで遠いのか? お前だけが急いで行けば何分だ?」

「オイラだけなら3分くらいかしら?」

「弾は何分でできる?」

「祐次の44マグナムならデーター登録してるからすぐだJO」

「とりあえず200発作って持ってきてくれ! 急げ!」


 どう転ぶにせよ武器はいる。自動小銃やSMGは捨ててきたからDE44の弾を増やしてもらうしかない。


「合点だJO~」


 JOLJUは「OK!」と親指を立てて元気よくポーズを決めると、トテトテッと走っていった。祐次はJOLJUの進んでいった方向に向かって進みながらトランシーバーを掴んだ。だが妨害電波が出ているのか反応しない。使っているのは単純な短波無線だから強い電波か何かで簡単に影響を受けるのだろう。



 サ・ジリニを止めるか!? 


 だが今ここから指令室までどうやって行ったらいいか分からない。第一そこに行くまでALの群れを潜り抜けなければならない。とても行けそうになかった。


「まだJOLJUについていったほうがマシか」


 そう思って這って進もうとした時だ。不意に体が浮かび上がったかと思うと船体の揺れが激しくなった。だけではない。動力源の音がジェット機の発信音のような音に変わった。


 船体が、浮かび上がり始めたのだ。


 めり込んでいた瓦礫が見えない力で弾け飛び、激しく砕けていく。


 推進力は何か分からない。ジェット機やロケットのように凄まじい推進力で飛ぼうとしているのではないようだ。それでも体にGが掛かる。

 祐次は外を見たかったが、この非常用通路の中ではどうにもならない。


 ついに船体はゆっくりと地上から離れた。




***




 離陸した瞬間を、拓は指令室の中にある外部モニターで見た。

 船体が浮かび上がった時、あまり感情の表に出さないサ・ジリニの顔に喜びの笑みが浮かび上がった。

 拓たちは違う。

 どうやら話が違う事は全員気付いている。だからといって動揺したり混乱したり恐慌したりするような気の弱い人間はいない。


 優美と啓吾は不安げにモニターを見上げ、時宗は敵愾心丸出しでサ・ジリニを睨み、拓は殊更感情を表情に出さず冷静に周りのモニターや計器など観察している。


 ついに宇宙船は地上を離れ、100mほどの高さまで浮かび上がった。

 船はさらに上昇していく。


「サ・ジリニ」

 拓は言った。そしてそっとサ・ジリニの背後に立った。

「銃弾はどうなった? ちゃんとできたのか?」

「君たちの命は保証される。心配しなくていい」

「どういう意味だ?」

「このまま大気圏を脱出する。宇宙に出たら、この指令室にフォース・フィールドを張り、全ての出入口の扉を開放する。船内のALは空気と共に全て宇宙に放り出される。それで我々の安全は確保できる」


「ちょっとまてトカゲ野郎!! まだ船内には俺たちの仲間が生き残っているかもしれねぇーんだぞ!!」

 時宗が立ち上がって吠える。仲間たちが全滅したと決まっていないし、少なくとも祐次だけはまだ生きている。だがサ・ジリニの策に従えば見殺しになるのでないか。


 だがサ・ジリニは時宗を一瞥しただけで答えなかった。答えるまでもないだろう、と目が語っている。どうせもう生きてはいまい……と。


「一人生きている! 見殺しにはできない!」

「問題ない。クロベだろう? あの男は心配いらない。友達が助けるだろう」

「ふざけんな! 大体どこにいくつもりだ! トカゲ野郎!」

「それは大気圏を出てから教える。あのALも宇宙空間には生きていまい」

「何様のつもりだテメェっ!!」


 拳を振り上げ殴り掛かる時宗を拓は体で止めた。そして「今は怒るな」と囁き抑え込む。ここでサ・ジリニを殴っても何の解決にもならないし、自分たちの命がそれで助かるわけでもない。


 その時だ。


 突然船体は横になったかと思うと、激震が襲う。そしてモニターが激しく点滅を起こし、火花が散る。そして恐らくク・プリアン星人の言語で警告か警報が鳴り始めた。


 サ・ジリニは何か叫びながら必死に操作しているが、警告のような声とアラームのような音は大きくなるばかりだ。地球の言葉ではないから何を言っているのか分からないが、今の状況は悪く危険が迫っている事は拓たちにもわかる。



「堕ちるのか!? サ・ジリニ!!」



「そんなはずはない。全て機能している! しかし原因不明の力で船が正常に動かない」


 拓は周囲のモニターに目を走らせる。そのうちの一つが外部カメラのようで、横浜市街と東京湾が映っていた。今上空1000mくらいだろうか。


 拓はさっきまでサ・ジリニの指示で動いた。どれがモニター表示か目星をつけコントロールパネルを触った。いくつか触るうち、カメラが切り替わっていく。やがて奇妙な映像を見つけた。


 蜂が群がっている。それも膨大な数の蜂だ。全員、最初はそれが何か分からなかった。


 最初に理解したのは優美だった。その瞬間、優美は悲鳴を上げ床に蹲る。そして次に啓吾もその正体を知り、奇声を零す。

 拓と時宗、そしてサ・ジリニの三人が理解したのは同時だった。


「ALか!?」


 そう。それは膨大な数のALがこの宇宙船に群がっているのだ。連中は飛んでいた。


「有り得ない。フォース・エネルギー・バリアーを張っている! 張り付けるはずがない! 不可能だ!」


 だが現実にALはとりついている。侵入するのもいれば、体当たりして体を破裂させ船体を溶かし破壊するのもいる。奴らの体液は正体不明の強力な酸で、車ですら溶かす。奴らは移動するものには体当たりを仕掛け、自らの体を潰す事で破壊する。それは車や飛行機、ヘリコプターに対して行われたが、宇宙船も例外ではないらしい。


「早く大気圏を抜けろ! 大気がなくなればALだって飛べない! 宇宙船ならそのくらい簡単だろう!」

 拓にもALが飛行している原理は分からないが、科学的に考えて無重力化で推進力を得る能力があるとは思えない。もうこの危機から逃れるには地球から脱する以外方法はない。


 だが、サ・ジリニは……焦る様子も恐怖する様子もなく、ただ驚きだけが表情に浮かんでいた。その顔は何か重要な事実を知った顔だ。



「ナカムラ。一つ聞きたい」

「なんだ?」と答える拓。


 サ・ジリニの問いは、拓たちが全く想像していないものだった。


「この地球には、階級3もしくは階級4に属する神は存在するかね?」

「は? 何言ってンだテメェ」

「どういう意味だ、サ・ジリニ?」

「言葉の通りだ。地球には神がいて、我ら異星人を敵視していたり何かしらテラリアン人類を加護していたりするのかな?」


 何を言っているのか、と拓と時宗は顔を見合わせる。だがサ・ジリニは真面目だ。

 こうなると真面目な性格な拓は、その言葉の真意が気になる。元々が教師志望だ。


「地球には沢山の文明がある。その文明の数だけ神はいるよ」

「そういう神話や文明の神は階級5に分類される。私の星にもそれはある。それではなく、現実に存在し、介入し、そして超然とした生命体はいるか?」

「いない……と思うが、何故だ?」


 その後の言葉を、拓たちは永遠に忘れなかった。


「我々の敵は<神>だ」


「…………」


「じき我々は<神>の鉄槌を受けるだろう。<神>の前では、我々ク・プリアン星人も地球人テラリアンも赤子同然だ。そしてあのALは<神>の軍団だ。それが今ようやく分かった」

「地球の神と関係があるのか?」

「地球に神がいないのであれば、庇護は受けられないという事だ。敵の<神>に対抗する手段はない」


 船体がこれまででもっとも激しく揺れた。全員が放り出され舞い上がった。

 と同時に、宇宙船は真っ白な光に包まれた。そして極彩色の巨大な光の爆発となった。


 その爆発は、横浜の街の半分を飲み込み、天高くまで伸びた。小さな太陽の出現を思わせるその爆発は、東は千葉、西は山梨でも観測することができた。もっとも、それを見て騒ぐ人類はほとんどいなかったが。そしてその後凄まじい衝撃波が関東全域を襲った。それに驚く人類もほとんどいなかったが。


「我々にも、希望はある」


 それが、サ・ジリニが最後に言った台詞。

 拓は爆発に飲み込まれる直前、そう聞いた気がした。


 そしてその後、意識は途絶えた……。

プロローグ2でした。



今回の話が今後のストーリーの大軸となる話です。


<神>が出てきました。

<神>とは何なのか?

むろん異星人が地球の神に言及することはないし、自分たちの神のそう呼ぶ事もありません。

「AL」では<神>が出てきます。

世間一般的な<神>とは違う、SF的な意味での神様です。この作品はファンタジーではないので。

まぁネタバレというか、この爆発で全員死亡……というわけではありません。これが旅の始まりになります。

サ・ジリニのク・プリアン星人についても今後詳しい説明が出てきます。

ということで今回プロローグは謎を投げかけるだけになっています。今後の展開を楽しみにしていてください。


これからも「AL」を宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雰囲気、世界観、展開、全て最高 できれば紙で読みたいところ 読ませていただきましたー! [一言] 企画参加ありがとうございます
2020/10/03 13:10 退会済み
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