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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第五章エダ編前半
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「さよならアリシア」

「さよならアリシア」



アリシア、旅立つ。


だが彼女のことを、皆は忘れない。


そして一つ、JOLJUは決意する。

***



 11月7日 午後17時20分。



 アリシアは、最後の夕陽を見つめていた。



 もう、やることは全てやった。そして、やりたいことも全てやった。



 最後の夕陽も見られた。この後、最後の星空を見て、それが終わりだ。



 病院には、入院患者のほかは、アリシアの死を見届けるベンジャミンとガブス、マギー、リチャード、ミショーン、デズリーとミレイン。そしてエダと祐次だけだ。アリシアが特別に選んだメンバーだ。


 晩御飯は、全員が集まって食べた。


 マギーが用意した牛肉の骨付きロースト。焼きたてのドライフルーツ入りパンケーキ。フライドポテト。ミネストロール。サラダ。そしてエダの焼いたレモンソースのチーズパイだ。これが最後の晩餐だ。



 誰も、もう悲しんだりせず、ALの話も避難の話もせず、くだらない昔話や仲間たちの馬鹿話などをして盛り上がった。



 食事後、アリシアはシャワーを浴びて、最後の服に着替えた。



 アリシアが選んだ服……死装束は、州警察官の制服だった。最後に警官として人生の終わりを選ぶ……それがアリシアらしかった。



 そして一時間ほど、皆で星空を眺め……病室に戻った。



 ここで、アリシアはデズリーとミレインに、別れを言った。



「デズリー、ミレイン。生きるんだよ? 死んじゃ駄目」

「姐さん」

「アリシア」

「アンタたち若いし、こんな時代で大変だけど、いい大人がいっぱい入る。アンタたちは色んな大人たちから色々学んで、いい大人になって。絶対お酒やドラッグに手は出さないで。約束ね」

「分かってるさ」

「OK」



「よし! 二人はここまで。さ、帰って」

「でも!」

「待てよ。最後までいるぜ!」

「アンタたちに、死ぬ私を見せたくないの」


「でも!」

「デズリー!」


 ミレインがデズリーの腕を掴んだ。ミレインには、アリシアの気持ちが分かった。


 まだ、デズリーもミレインも子供で、親しい人間の遺体を見ることに精神が耐えられない。二人の心を壊したくない。


 それに、アリシアは、二人には笑顔を残したい。この、今の笑顔を。


 親心と、女心だ。ミレインには分かった。



「これからは、ベンやドクターから色々学んで、いい大人になるんだよ?」


 去っていく二人に、アリシアはそう声をかけた。デズリーは俯いたまま手だけを上げ、ミレインは無言で振り返って頷き「頑張る!」と笑って、去っていった。



 次にアリシアは<リーダーズ>の仲間であるガブス、マギーに別れを言った。

 感謝を短く。そして町の皆の未来を託した。


 二人は「大丈夫」「任せろ」とアリシアに約束し、去っていった。



 残ったのは……ベンジャミンとリチャード。そしてエダと祐次だ。


 リチャードと祐次は職業柄立ち会う。二人は仕事だ。


 だから、アリシアが心から自分の最期を看取って欲しいと願ったのは、長年の相棒だったベンジャミンと、知り合って間もないが、心の底から大好きになったエダだけだった。



 午後8時。



 アリシアは警察の制服のまま、ベッドに横たわった。


 点滴が一つだけ用意されている。そこには薬ではなく、麻薬を主成分に祐次とリチャードが相談して調合した安楽死用の無痛の劇薬が入っている。念のため、通常致死量の3倍は強く、確実に死ぬ。


 リチャードが、黙ってアリシアの左の静脈に針を刺した。

 そして点滴のスイッチをアリシアの手に握らせた。



「このボタンを押せば、すぐに眠くなる。1分か2分でね。そして……そのまま苦しむことなく、3分後……眠るように楽になれる」


「そっか。ありがと」


 ベッドの両脇では、エダとベンがアリシアの手を握っている。その脈が止まるまで、ずっと。


 アリシアの目の前には、祐次が立っていた。



「アリシア。無力な俺を許してくれ」

「ドクターに治せないのなら、誰がやっても無理だった。でしょ?」

「それでも、俺はアンタに謝る。本当はふん縛ってでも治療をして助けたかった。だがそれは俺の自己満足で、アンタの尊厳が一番だ。俺は一生アンタを忘れない」


「ドクター。じゃあ、あたしの最後のお願い、聞いてもらえる?」

「なんだ?」

「町の皆も、守って。分かっている。いつか貴方はどこかに行ってしまう。自分のためではなく、人類のために。応援しているわ。でも、良かったら……このNYにいる間だけは、私の代わりをしてくれると嬉しいんだけど?」

「代わり?」

「No2のリーダーの役を、貴方に譲りたい」

「…………」


 祐次はベンジャミンを見た。ベンジャミンは無言で頷き、了承した。


「分かった。引き受ける」


 それを聞いたアリシアは嬉しそうに破顔した。


 すごく、嬉しそうな、見事な笑顔だった。


 この瞬間、祐次はNY共同体のNo2のリーダーとなった。

 これで、本当に、もう思い残す事はなくなった。



「今更遅いけど、これからは<ユージ>って呼ぶわね」

「ああ」

「貴方は生きて、ユージ。貴方こそ、英雄よ?」

「…………」



「エダ」


 最後に、アリシアはエダの手を強く握った。


「貴方は子供だけど、最高の友達だった。そして最高の女の子。変わらず、いつまでも貴方は素敵な貴方のまま、皆の<希望>になって」

「はい」

「ありがと。大好きよ」

「あたしも大好きです。アリシアさんのこと、忘れません」

「うん」


 エダとの話も、終わった。

 全員が、沈黙した。



 もう、全て終わった。



「アリガトね。皆。気が利いた言葉が出ないけど……皆と会えて良かった。私が皆の事大好きだったってこと、忘れないでね」


 そういうと、アリシアは躊躇することなく、無造作に点滴のボタンを押した。

 薬が、管を下ってアリシアの体内に流れ始めた。


 あまりに自然であっけらかんとした動作に、全員が一瞬言葉を忘れた。



「おやすみ」


 そういうと……アリシアは、皆に最後の別れを言った。そして満足そうに微笑みを浮かべ、目を閉じた。



 これが、アリシアの最期の言葉だ。


 皆、無言で見守る。

 三分後……アリシアは眠った。



 そして五分後……手を握っていたエダとベンジャミンが、同時に顔を上げた。

 アリシアの手から、鼓動と力が完全に抜けた。



「アリシアさん!!」

「アリシア!!」


 エダとベンジャミンが同時に叫ぶ。

 だが、アリシアは、もう答えることはなかった。



 リチャードは黙って腕時計で時間を確認した。


 祐次がそっとアリシアの脈を確認し、全てが終わった事を確認した。



「…………」


 もう……アリシアの魂は、新たな天の国に、旅立った。


 祐次は医者として、必要な宣言をしようとしたが、声が出なかった。

 そこはリチャードのほうが年配で、大人だ。何人も見送ってきた。

 無表情でアリシアの瞳の瞳孔を確認し、脈を確認し、そして、大きなため息をついた。



「アリシアは、安らかに天国に行った」


「うわあぁぁぁ!!!」


 その瞬間、エダは命の炎が消えたアリシアの抱きつき、号泣した。

 ベンジャミンも、目頭を押さえ、肩を震わせ、嗚咽した。

 祐次は黙ってエダの後ろに立ち、そっとエダを抱きしめた。

 リチャードは、殊更表情を殺し、アリシアの腕に付けられた点滴を片付けると、「30分後、アリシアを運ぶから」と言って、部屋を出て行った。


 アリシアの遺体は、夜に自警団の部下たちが埋葬することになっている。自分たちの隊長を自分たちの手で葬りたい、という彼らの希望だ。



 これで、本当にアリシアとはお別れだ。




 アリシア=ポー。NYイサカ出身。大学に行きながら警察試験を受け合格。大学卒業後NY州州警察パトロール課に就職し、オフの日に世界の崩壊に遭った。そしてその後NY共同体でリーダー格を務め、多くの人間に愛されたが、末期ガンにより尊厳死を選択。



 11月7日、永眠した。




 NY共同体にとって、大きな損失だった。

 最大の困難を前にして。




 彼らの過酷な運命は、今から始まる。



 


***





 病院の屋上。


 JOLJUは一人、悲しそうな顔で空を見ていた。



 JOLJUには、誰かが死ぬところを見送る事は、辛くて出来なかった。



 自分の無力さを痛感してしまうから。



 こんな運命を作り出した事を、恨みそうだから。



 人が死ぬのは、何人も見てきた。



 いつだって、辛かった。



 人間が好きだから。大好きだから。




「何が神様だJO。そんなもの、何の価値もないJO」



 無力さが嫌になる。

 人間たちの無力と、JOLJUの無力は違う。


 JOLJUが無力なのは、世界の均衡と、この世界全体を守るためと、人類全てを守るために、無力でなければならないからだ。


 JOLJUが本当に全てを無視して全責任を取るのであれば、地球人は誰一人死ななくてもすむのだ。それをしても、JOLJUを罰する存在はこの宇宙にはいない。


 だが、それは短絡的で、何の解決にもならず、逆に人類全体の文明と価値が低下する。


 地球人だけでなく、もう一つの人類の事も。

 だから、出来ない。未来を潰してはいけない。


 神が介入してはいけない。介入していいのは、<ただのJOLJU>だけだ。




「オイラとロザミィの違いは、ここなんだな……ロザミィは、強い子になったJO」


 より多くのものを守るためには、無力でいなければならない。


 それが神をさらに超越した超生命体であるLV2の、JOLJUの宿命だ。


 その力は、巨大すぎるため、捨てざるをえない。だから捨てた。


 だが、JOLJUはLV3や4と違い、本当はもっと独善的で自由で、そして神と呼ばれるには相応しくないほど感情豊かな奴だ。




「なんで神様になんかなっちゃったんだか」



 しかしそれは口にしても仕方がない。人間が今更類人猿に戻れないように、JOLJUも今更ただの生命体には戻れない。


 だから、前に進む。

 今の自分にやれることを。



 そして……覚悟した。



 他の神たちが何と言おうが……もう自分は、今の自分にできる事はなんでもしよう。その責任をとるくらい、何てことはない。



「だよね。オイラはオイラのままが一番だよね? アーガス」



 600年前の、大親友の名前を口にした。


 その男は、とっくにこの世を去り、幾星霜の刻が流れた。


 だが、思えばJOLJUは今、600年ぶりに<JOLJU>に戻っている。神ではない、ただのJOLJUに。心から大好きになった親友が出来たのも、600年ぶりだ。



「オイラ、やるJO」



 JOLJUは、そう決意した。




 空を見上げた。



 雨雲が広がり、霧雨が降っていたが、雲の隙間から月が見えていた。



 その月……いや、宇宙に向かって、そうJOLJUは無言で自分の決意を固めた。




「さよならアリシア」でした。



ついにアリシア、死者の世界へ。


メイン・レギュラー、トビィ君に続いて二人目の死亡です。奇しくもエダ編でどっちもエダにとって大切な友人でした。


実はアリシア死亡はプロットからの決定事項。トビィ君と同じ元々死ぬ運命にあったキャラです。

トビィ君と違う点は、その死が突然ではなくかなり前から予期されていた余命何日系だったところですね。

彼女の死で、エダと祐次は哀しみを背負いますが、また一つ成長します。

何より覚醒?するJOLJU。

物語としては大きな転機でした。


実は拓編でもそのうち誰かは死にますが、拓は比較的大人なので仲間の死で成長というより死は事件であり悲劇なだけで、拓自身の成長や変化はなかったりします。その分拓たちのほうが唐突に仲間が死ぬかもしれないです。逆にエダ編の死者は大体エダにとっての成長の何かになっています。


さて。


実はここでエダ編前半終わり……ではなく、このあとちょっと短いですが次のエピソードがすぐに来ます。


アリシアを失ったエダが進む先は?

ついにエダが宇宙世界に一歩踏み出します。


これからも「AL」をよろしくお願いします。


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