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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第五章エダ編前半
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「アリシアの葬式」

「アリシアの葬式」



ついに始まったアリシアの生前葬式。

だが、これが終わった後、彼女は本当に旅立つ。

最期の別れに、大勢の人間が集まる。

それを笑顔で見送るアリシア。


そして、エダとアリシアの別れ。

エダは静かに歌い始める……これまでの想いをのせて。

***





 11月7日 NY セントラルパーク。



 朝から小雨が降っていたが、昼過ぎに上がり、太陽が顔を出した。だが、夕方には、また天気は崩れそうだ。


 もし地球に神がいるとしたら、これは神様がくれたちょっとしたささやかな奇跡かもしれない。


 神が、アリシアに見せた最後の太陽だ。



 アリシアの生前葬は、午後1時から開かれた。



 多くの仲間が葬られた墓地の一角に、大きな墓穴が掘られ、その前には立派な棺おけが置かれている。墓石はないが、石が詰まれ、手作りの木の十字架が刺さっていた。


 普通の葬儀と違うのは、その墓に入る本人が笑顔を浮かべ、その墓の前で椅子に座っている事だ。


 NY共同体の<リーダーズ>。自警団のほぼ全員。そして各エリアのリーダー格や世話になった人間、アリシアを慕う住人たち、約300人が集まった。

 皆、一輪ずつ、手に花を持っている。

 むろん、エダと祐次とJOLJUも参列している。


 まずベンジャミンが代表して、スピーチをした。



 今回の生前葬の主意。アリシアへの感謝。アリシアの選んだ運命への理解。そして別れの言葉と、哀悼と代表者の弔辞。

 その言葉に、アリシアは拍手を送り、皆も拍手を送った。

 そして、順番にアリシアに花を手渡していった。


 最初がベンジャミンだ。


「最高の相棒へ」

「ええ。最高だったわ」


 二人は握手を交わした。


 その後はガブス、マギー、リチャードと続き、自警団の部下たち、そして住民たちと続いた。

 エダは、それを楽しそうに微笑みながら見ていた。


「アリシアさん、愛されてるんだね」

「ああ」


 エダはなんだか心の奥が温かくなっていくのを感じる。

 悲しいけど、こんなに愛された人と友達になれて、本当に良かったと思う。


 そして、アリシアは最後の人間に選んだのは、エダだった。それがアリシアの希望だ。


 住人たちの多くは、花を渡し、一言告げ、多くは帰って行ったが、一部は葬儀の終了まで立ち会うつもりのようだ。


 やがて誰かがギターを持ち出して、『アメージング・グレース』を弾き始め、やがて多くの人間が歌い始めた。米国の葬儀のときの定番鎮魂歌だ。


 その合唱の中……アリシアにとって意外な人物が姿を見せた。


 メリッサ=オックス……Bandit(バンデッド)の女ボスで、ベンジャミンやアリシアにとって、因縁の相手だ。


 メリッサは昨日治療のため病院に現れた。そこでアリシアの話を聞き、帰らずに残ったのだ。


 そんな彼女も、手に一輪の花を握っていた。


 メリッサは、無感動にアリシアに花を手渡した。


「私のほうが先にくたばると思っていたけどね」


「私は天国。アンタは地獄」


 そういうアリシアの顔は、言葉とは裏腹に微笑んでいた。


「アンタらがこれまでと違って善良に生きるのなら、神様に言って天国行きのチケット頼んでみるけど?」

「覚えとくよ」


「知っているだろうけど、AL……エイリアンのすごい大群が迫っている。逃げるプランはあるの?」

「海に逃げるさ」


「ロングアイランド湾とジャマイカ湾は私たちがいるから、そこ以外ね。あんたらを見たら容赦なく撃つから」


「最後まで物騒な女」


「完全武装放棄で二度とNYに近づかないのなら、私たちの避難計画に入れてあげてもいいけど?」

「そうだね。アンタの最後の好意だし、考えておくよ」

「命は大切なものよ?」

「心配してンの?」

「<命を奪うな>って意味よ」


「今日だけは、言わせておいてやるよ」


 メリッサは笑うと、そのまま背を向けて立ち去っていった。

 横で話を聞いていたベンジャミンは面白くなさそうな顔をしていたが、口は出さなかった。


 そして……エダと祐次の番になった。祐次が先だ。


 祐次は短く一言……「じゃあ、元気でな」と言って握手した。



 エダは……。


 エダは花をアリシアの手に握らせると、その手を握りしめた。


「ありがとう、アリシアさん。知りあえて、すごく嬉しかった」

「私もよ。エダ」

「泣いたら……駄目ですよね?」

「そうね。エダは笑顔が一番チャーミングだもの。いつまでも笑顔でいて。それが皆にとって一番の希望だから」

「はい」


 そういうとアリシアは優しくエダを抱擁した。

 そして、エダにしか聞こえない声で囁いた。


「ドクターと幸せになってね。いつかはちゃんと好きだって伝えないと駄目よ? 男って、女が思っているより鈍感で女心なんか分かっちゃいないんだから」

「……はい……!」

「エダ。大好きよ」

「あたしも、大好き」


 二人は最後に強く抱きしめあい、そして離れた。


 その時、エダはまだ残っていた皆に向かって声を上げた。




「すみません! 聞いてください!」

「?」


「アリシアのために、あたしは歌を贈りたいんです。皆さんも聞いてください!」


 サプライズの展開だ。

 皆エダに注目する。噂の<天使>の少女がどんな歌を歌うのか、興味がある。


 実はこの企みは、前日エダは祐次にも相談して賛同を得ていた。

 祐次はそっとギターを借りて、準備を整えた。

 そして、二人は目で合図しあうと、祐次はゆっくりと曲を弾きはじめた。




「ありがとうの、一言を。貴方に、伝えたい……」



 エダは日本語で歌い始めた。



「誰もが、気付かぬうちに、何かを失っている。フッと気付けば貴方はいない。想い出だけを、残して」


 エダが歌いだしたのは、日本の歌……KOKIAの『ありがとう』だった。

 皆歌詞は分からないが、エダの可愛い美声と上手い歌声に聞き惚れる。



「もしも、もう一度……貴方に会えるなら。たった、一言……伝えたい。<ありがとう>。ありがとう」


 一番が終わり、皆が拍手を送る。


 だが祐次の伴奏は終わらず、まだ続いている。

 そしてサプライズはこれからだ。



「Before anyone else realized it, we've already lost something

You're long gone when it comes to my senses, leaving with only reminiscence

In the crowded time, as though it's the dolls losing their word

And alley cats in the street corner,

I feel like hearing their voiceless shouts


If once more I could see you

I'd tell you a single word: Thank you, I Love you thank you」


エダは英語で歌いだした。本来英語の歌詞ではない歌で、完璧なバイリンガルのエダだから出来る事だ。

今度は皆歌詞の意味が分かり、思わず息を呑んだ。


「Sometimes even when we hurt each other, I still want to touch you」


そして最後に


「ありがとう……ありが……とう……」と、日本語で言ったとき、ついに泣き出した。


 エダは溜まらず泣く、それを祐次がそっと支え、抱きしめた。

「ブラボー! 最高!」

 アリシアは笑顔で手を叩いた。その瞳から大粒の涙が零れる。

 周りの仲間たちも、拍手を送り、中には涙を拭いながら口笛を吹いたり歓声を上げたり、我らが<天使>の最高の贈り物に、感謝と感激と共感の気持ちを表した。

「やっぱり、あの子は俺たちの<天使>だな」

 椅子の横で、ベンジャミンが苦笑しながらアリシアに囁いた。

 アリシアは笑った。

「<人類の希望>よ。だから大事にしてね? これからも、ずっと」

「約束する」

「よろしく」

「なぁ……俺たち、一度くらい寝てみてもよかったかな?」

「かもね。でも、多分相性悪そう」

「いうぜ」

 そういうと二人はそっと手を握った。

 こうして、アリシアの葬式は、終わった。

 段々と、空には雨雲が広がり始めていた。

 もうじき、雨が降り出すだろう。



「アリシアの葬式」でした。



第五章エダ編前半のクライマックスは今回です。

エダ、KOKIAを歌う!

なんとびっくり! 英語版も!

英語版……実は正式翻訳版とは少し違います。つまりエダが翻訳したものです。

さりげに前日に相談を受けて即興で弾ける祐次もすごい技術ですが。多分楽譜はないのでJOLJUのスマホに入っていた原曲を耳コピーで覚えて暗記していきなり演奏、という凄いことをしていて、実は祐次は音楽でも飯が食えるほどなんです。まぁ有名な曲なので以前楽譜を見たことがあったのかもしれないけど。


ちょこっと出てきたメリッサがいい味です。

彼女たちもアリシアの死で変わるのか、変わらないのか。


さて、次回……ついに運命の刻限!

アリシア、旅立つ!


これからも「AL」をよろしくお願いします。



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