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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第五章拓編前半
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「京都」3

「京都」3


拓と姜。

二人、お互いの境遇と見解を語り合う。

そこで拓は驚きの独白を。

拓は<英雄>と人類の未来について、冷静に予想していた。

***




 ふと、拓は三本目の煙草に手を伸ばしたとき、ようやく用件を切り出した。



「朝鮮人難民の事だけど」

「…………」


「いる。西京極の団地で難民村を作っている……らしい。詳しくはまだ分かっていないけど、場所は分かったよ」

「ここから遠いのか?」

「大体5kmくらい。車かバイクが必要なら掛け合うけど?」

「そのくらいなら歩くか自転車で行く。どうせ急がん」


 自転車はどこにでも転がっている。燃料も食わないし、往復10kmなら自転車でもいい。


「もし、市内で誰か日本人に何者か聞かれたら、<東京の調達班第八班関係者>と答えたらいいよ。嘘じゃないよ、俺や優美が所属している班だから。<京都>の人間には確認できないし」


「パスポートが必要かと思って冷や冷やしたよ。銃は持っていていいんだな?」

「韓国人を見て殺すなよ?」


 珍しく拓が上手くない冗談を言った。姜はクスリともせず黙って煙草を噛む。


「武器を持った日本人を目の前にして殺していないんだ。非武装の韓国人を殺してまわる趣味はない。私は正規の軍人だ」


「俺が知る限り、日本に悪い人間はいないよ。だから銃はAL以外に使うことはないさ」

「私だって弁えているよ」


 そういうと、姜は哀しそうな顔をした。



「ここは平和だ」


 姜は談話室で団欒する老人たちを流し目で見た。


 老人たちの会話は、今日はどの野菜が採れたとか、どこで鯉を集めたか、夜カラオケ大会でもしよう、とか、ごく日常的なもので、誰も命の危険や生活の不安を口にはしていない。


 こんな光景は、これまで中国大陸では見られなかった。


 広州でも香港でも、人々は集まり色々喋っていたが、明日の食事やALの事、そして妬みや嫉み、他人への悪意、いつ襲われるかどうか分からない不安と貞操の危機。いい事は何一つなく、街も汚く、気の休まるときはなかった。だが、ここはそんな危険は何一つない。平和そのものだ。


 姜は愛国心の強い軍人だ。だが盲目的ではない。


 自国の国民がこの災害に遭って、これほど平和に過ごせることができるかと思うと、できない、と思う。国民性か統率者の技量か、それは判断がつかないが、とにかく現時点で日本が平和であるということは認めざるを得ない。


 姜は、煙を吐き出すと、少し俯いた。


「考えてみた」

「?」

「核戦争の事だ。正直に言うが……ありえると思う」

「……責めないよ……仕方がないさ。こんな世界だ」


「だったら……私たちはどうすればいいんだ?」


「俺に答えは出せないよ」


「…………」


 拓は煙草を置き、お茶を啜った。



「俺も、似たようなものさ」


「お前が? お前は祖国がこうしてあるじゃないか。しかも平和で、いいところだ。私は日本語が上手いだろ? 実は2年ほど日本に諜報員として潜入していたことがある。確かに日本も崩壊したが、変わらず平和だ。ここは日本であることは変わらないし、ここは何年後もこのまま残れるだろう」


 相手が拓だからか……珍しく姜は饒舌だった。

 拓は黙ってお茶を飲む。



「10年後には……どうなっているか分からない」

「10年後?」

「日本は他所より恵まれているのは事実だと思う。だからレンちゃんを連れてこようと思ったし、アンタも来てくれればいいと思った。今はなんとかなっているけど、10年もすれば、ガソリンが無くなる。新潟に小さな油田があって少しは生産しているけど、ガソリンが減れば車を使う機会は減るし、農業も大変になる。今も食料はギリギリの自給だけど、人は増えないから……年々自給率は下がっていく」


「…………」


「1万ちょっと。だけど食糧生産に従事しているのは半分。新しく子供が一気に増える事もないから、人口も減っていく。医者も、祐次が帰ってこないのなら、まともな医者は一人しかいないんだ。その人が死ねば、インフルエンザが流行しただけで人口は激減する。それに医者が一人だと出産も育児も命がけだよ」


 医者がいなくなれば、ちょっとしたことも致命的になるし、出産も死の危険が伴う。若者たちの中にカップルもいるが、皆子供を作ることは慎重だ。こんな崩壊世界で子供を育てるのは大変だし、子供に幸せな人生があるとは思えない。それに学校もない。


 江戸時代の平均寿命は40歳前後。ここまで下がるだろう。江戸時代には一応医者がいて、子供を平均五人前後産んで、これだ。


「…………」


「恐竜が絶滅したのと同じなんだ。隕石が落ちて、氷河期になり、恐竜は死滅した。だけど一瞬で全てが死んだわけじゃない。環境の激変に耐えられず、何十年、何百年とかかって絶滅した」

「人間も?」

「10数年もすれば、文明は近世まで戻る。その時人口は半分。それで食い止められなかったら、中世まで戻って、人口はさらに半分を維持するのに精一杯。ALがいないなら、文明の再興は可能だけど、この世界にはあの侵略者がいる。ALと戦いながら、文明を維持することは、よほど何かドラスティックなことがないと難しい」


「ドラスティック?」


「うん。例えば……人類を救う叡智を持った<英雄>が現れて、一気に人類を救う……とかね」

「それをお前は信じて米国に行くのか?」

「うん」


 拓は、お茶を置き、煙草の箱を掴んだ。



「似ているだろ? 自分の祖国を復興させるのも、人類の英雄を探しに行くのも。希望を持つ誰かがやらなきゃいけない」


「誰か一人の英雄が、この悲惨な世界を全て救えると思うのか?」

「分からない」


 拓は煙草を噛んで虚空を見た。




 しばらく……考えていた。



 姜がそっとライターで火を差し出したとき、初めてそれに気付いたように笑い、煙草に火をつけた。



「ここだけの話だけど」

「ああ」


「<英雄>は、実在するんだ」


「…………」


「少し……その意味が分かってきたんだ。同じクエストを多数の人間が受けている。そして、祐次とJOLJUはどうやらそれを見つけた。だから、あいつは帰らない」


 祐次とJOLJUの行動力があれば、太平洋くらい渡って日本に帰る事は出来る。篤志たちをルートは逆だが日本に帰らせたのだ。


 だが祐次は帰るという決断を選ばなかった。

 米国でやるべき仕事があるからだ。


 そして、どうやら祐次とJOLJUが<英雄>を見つけたような気がしたのは、あの米国人の少女、エダの手紙を読んでからだ。


 あの少女は日本語が達者だ。日本語は難しく、ここ一年二年で覚えたものとは思えない。そう考えれば、安全を求めるのであれば、尚の事、祐次はあの少女を連れて日本に帰ってきてもよさそうなものだ。現に篤志や杏奈には安全を考え、地球を半周させてまで日本を目指させた。だがそれでも祐次は帰らない道を選んだ。距離的には変わらない。大西洋と太平洋、二大海洋が難関だが、大西洋を渡る技術と経験があるのだから太平洋横断も無理ではない。が、帰らない。



 あの少女は「米国に希望がある」という旨のことを書いていた。


 その時、拓は<英雄>が実在することを確信した。


 その瞬間……まるで手がかりのなかった数式の方程式が解けたかのように……拓の中で<BJ>の謎かけが一部すんなり解けた。



 英雄は、実在する。


 本当に<ラマル・トエルム>は、いる。


 そして、拓たちの力を必要としている。そこで何があるのかは分からないが、それが人類を救うためになるのであれば、行くだけだ。



 このことを口に出したのは、今回が初めてだ。時宗にも伝えていない。


 時宗はいい。いずれ伝える。


 だが他の仲間たちには、今は言わない。無謀な旅だから、変に期待をさせたくないし、危険な旅に付き合わせたくはない。


 姜はいい。彼女はついてこない事が確定している。



「だから姜も、希望を捨てる事はないよ」


 拓は、静かに紫煙を吐いた。



「京都」3でした。



拓、なんか<英雄>に気づく!!


そして拓も語る人類衰退の未来。

第四章で祐次がベンジャミンに語っていた内容とほぼ同じです。

ということで、明言はしていませんが、以前拓と祐次はこの議題で雑談しあったことがあった、ということです。裏話でいうとこの討論会?に他に参加したまは時宗と啓吾と東京にすむこういうことが好きな歴史専行の大学生がいました。これがキッカケで祐次が医学生として甘えていられないということになって、医者馬鹿になって覚醒飛躍?したという裏設定があったりします。まともな医者が一人育てば生存率がグンとアガリ、誰かに教えられるようになればもう少し伸びますから。この事はしずれ本編でふれるかと思いますが、他の大人たちは知らない話です。


次回はちょっと展開が変わります。

ついにユイナと拓たちの対面が迫る!


これからも「AL」をよろしくお願いします。


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