「仲直り、そして宝物」
「仲直り、そして宝物」
作戦完了!
皆で祝うパーティーが始まる!
そこで、ついにエダは祐次と対面!
二人の間の亀裂は!?
そしてエダに託された一つの宝物とは。
***
午後14時30分
セントラル・パーク。
公園の一角では、ささやかなバーベキューパーティーが開かれていた。
今回『ロングアイランド殲滅作戦』成功の宴で、遅い昼食パーティーだ。
そこに今回の功労者である祐次と、我らのリーダー、ベンジャミンが姿を現したとき、皆はビールを片手に掲げ喝采を上げた。
「さぁさぁ腹ペコさんたち! 特製のビーフステーキと豚スペアリブを沢山用意しているから、食べて頂戴!」
食料担当のマギー=セドリーンが、手を叩いて皆に声をかける。
沢山の肉がところ狭しと並び、美味しそうな匂いを放っていた。
「こりゃあ旨そうだ」
白衣姿のリチャードは、焼きあがったステーキやローストビーフの塊を眺めて微笑んだ。今日はざっと300人前の肉類が焼かれている。他に焼き野菜やシチューなども作られ、飲み物のコーナーも作られている。このために女性陣のボランティア30人が借り出されていた。参加者たちとボランティアたちの腹を充分に満たしてくれるだろう。
「アンタ、今回働いてないでしょ? リチャード」
マギーが太った体を揺らして笑う。
リチャードは苦笑した。リチャードもちゃんと作戦要員だ。負傷者が出たときの医療救護対応班だ。奇跡的に誰も負傷者が出ず出番がなかっただけだ。
「ちゃんと待機していたんだ。怪我人が出なかったのは幸運さ」
「そうだね」
そういうとリチャードは嬉しそうにコーストビーフを齧った。
「…………」
リチャードの横に、エダはいた。
エダも特別に呼ばれてきた。元々リチャードは救護班の人員名簿にエダも入れて、けが人が出たら無線で呼ばれてリチャードを手伝うことになっていた。ズブの素人のボランティアよりエダは遥かに有能だからだ。
エダは穏やかな表情を浮かべ、楽しそうに騒ぐ大人たちを見ていた。皆十代の若者のようにはしゃいでいた。
誰も死ななかったのは嬉しい。良かった。
ベンと祐次は、アリシア他仲間たちの歓待の輪に揉まれている。
祐次の無事な姿を見て、飛びつきたくなる衝動が込み上がる。
だけど、それは駄目だ。その前にやらなければならないことがある。
……一歩が出ない。怖い……けど……。
だけど、この一歩を踏み出さなければ終わりだ。その勇気がなければ、傍にいる資格なんてない。
エダは大きく深呼吸して、ゆっくりと歩き出した。
そして、盛り上がる仲間たちの輪に、そっと近寄った。
周りの大人たちもエダに気付き、黙った。アリシアが空気を察し、周りの大人たちをそっと下がらせた。
祐次もエダに気付いた。相変わらず、愛想笑い一つ浮かべない。足元にJOLJUもいた。
エダは祐次の前に行った。
「ごめんなさい」
「…………」
「色々ひどいこと言って祐次を傷つけた。あたしが馬鹿だった。ごめんなさい」
エダは背筋を伸ばし、日本人のように深く頭を下げた。謝罪は日本語だった。英語で「I am Sorry」というだけでは心が篭らないと思った。
自然……皆が、注目した。
「馬鹿だな」
祐次は日本語で呟いた。
「俺たちは家族だろ? 怒っていない」
「…………」
エダは顔を上げた。
「おにぎり、旨かった。ありがとう」
「祐次」
エダは込み上げてきた涙を拭った。祐次は苦笑した。
思わず祐次に抱きつこうとした時……そっとアリシアがエダの手を掴んだ。
「ハイハイ。披露宴じゃないから、感動のハグは二人だけのときにやってね♪ ごめんね、エダ。今日はドクターとベンの活躍を祝うのが先!」
「は……はい!」
言われて耳まで真っ赤になるエダ。それを見てアリシアは微笑んだ。この微笑ましい光景に皆が拍手を送り、笑い声を上げ、勝手に祝福する。我らの天使の憂鬱が晴れた!
エダは恥ずかしさのあまり動転して気付かなかったが、アリシアはベンとJOLJUから聞かされて知っていた。祐次が左太ももとわき腹に大怪我を負っていることを。
アリシアが止めたのは野暮ではない。もしエダが抱きつけば、傷に気付く。エダは、今度はこの傷に動揺するだろうし、周りも衝撃を受ける。本人が必要以上騒がれたくないし騒ぐほどのこともない、と言ったので、祐次の怪我を知っているのはベンとアリシアとJOLJUだけだ。
「じゃあ、パーティーの前に一言! ヨロシク、ベン!」
アリシアがベンの肩を叩く。
ベンはビールの缶を片手に持ち、苦笑しながら皆の真ん中まで歩いた。
「ご馳走が目の前にあるから、手短にやろう。俺も空腹だ」
皆、笑みを浮かべながら黙った。
「まずは、成功を祝いたい! 皆、ご苦労だった!! 今回の作戦は大成功だ。結果もだが、何より誰も死ななかった。素晴らしい事だ! これも皆の力を結集した結果だ! 俺たちは勝った!」
その言葉に、皆が喝采を上げる。
その後、ベンはそれぞれの働きを皆の前で褒め、労った。
「最後に……一番の功労者はクロベとアリシアだ。この二人の働きは抜群だった。二人が居なければ今回の作戦は間違いなく失敗だった。優秀なリーダーと、優秀な日本の戦士……いや、ドクターに乾杯しよう」
そういって、ベンはビールを高く掲げた。皆、手にした酒やジュースを高く掲げる。
「我らが英雄に、乾杯!」
「乾杯!」
皆、声を揃え合唱し、声を上げながら飲み干す。
宴会の始まりだ。
ベンジャミンの演説は終わり、今からは無礼講のパーティーだ。ステーキを食べ、焼いた芋やトウモロコシを齧り、和気藹々と酒を飲み干す。昼酒だが、今日は特別だ。
皆大いに食べ、大いに飲む。そして歌を歌い、何度もグラスをぶつけて笑いあった。
JOLJUは両手一杯にステーキやバーベキューを山盛りにしてもらい、嬉しそうに食べている。JOLJUも今日の功労者の一人で、すっかり皆の人気者になっている。
それをエダと祐次は並んで見ていた。二人共ジュースだ。
「祐次は飲まないの? お酒」
「ああ。この後まだ病院やることがあるからな」
「アリシアの治療?」
「それもある」
まさか自分の傷を処置しなおす……とは言えない。酒を飲めば血は止まりづらくなるし、アルコールに強いとはいえ手元が怪しくなる。それに止血もだが、皮下に血溜まりができて圧迫している。切開して抜かなければ傷の治りが悪い。他にも色々投薬が必要だし、ちょっと輸血もする。この程度は一人でこっそりできる。エダには処置が終わったら報せよう。
「なーに? 若いのに食べないの? ホラホラ、エイリアン君みたいに沢山食べな♪」
と、現れたのはアリシアだった。手の紙皿にはステーキ串と分厚くカットされたローストビーフが乗っていた。
「食べますよ! ね、祐次?」
エダは笑顔で受け取った。その笑顔を見てアリシアは微笑んだ。
……やっぱり、貴方はそうやって微笑んでいないと駄目よ、エダ……。
この二人の関係が元に戻ったことが、アリシアには何より嬉しい。
「一本までだぞ? 酒は」
祐次はドクターである立場を忘れない。
だがアリシアは「んふふ♪」と笑うと、祐次の見ている前で手に持っていたビールを一気に飲み干した。
「あー! 美味し! 気持ちいい!」
そういうと空になった缶を足元に置き、仲間から白ワインのはいった紙コップを受け取った。祐次が物凄く渋い顔で睨むが、アリシアは微笑んでいる。
「人生最後のパーティーよ。今日は見逃して。ね、ドクター」
アリシアはウインクして無邪気に笑った。
そう……もうアリシアが外出することはない。
祐次だけは分かっている。もうアリシアには回復のための治療はない。今日の一日のため、その一線は超えた。
「アリシアさん?」
その時、エダはアリシアの異常な顔色の悪さに気付いた。
「アリシアさん、疲れていませんか?」
「そりゃあ疲れているけど、後一時間くらいは大丈夫よ。ちょっと……うん、大丈夫」
今は自分の体調なんてどうでもいい。この仲間たちの幸せな光景を目に焼き付けたい。
その気持ちはエダと祐次にも伝わり、二人は口を出すのを止めた。
アリシアは無理せず、ワインをちびちびと舐めるように飲みながら、仲間たちを見ていた。
そして紙コップのワインを飲み終わったとき……アリシアは突然自分が身につけていたGALCOのショルダーホルスターを外し、手に持った。
それを、エダの目の前に差し出した。
「え?」
「これ、エダにあげる」
「ええっ!?」
「私の唯一の宝物。ホルスターの長さは調整できるから、ドクターに聞いて」
「でも、これ!」
「私の形見」
「…………」
「もう、私には必要ないから」
「アリシアさん」
エダは受け取った。使い込まれたホルスターとM1911・ツインポートカスタムは、長い間アリシアの相棒として共に戦ってきた彼女の分身のようなものだ。
「仲直り、そして宝物」でした。
ようやく主人公、エダ登場です。
一応祐次とJOLJUも主人公枠ですが、「AL」のメインはエダと拓です。
今回の和解劇はエダにとっては一番の事件でした。まぁ周りは誰も心配していまくせんでしたが。そこはやはり相手の祐次がかなりしっかりした大人だし、なんだかんだいってフェミニストですし。
エダはやはり笑顔が一番!
そして実は一番重要なのは、アリシアの銃をエダが引き継いだこと。
そう、アリシアの1911カスタムは、実はアリシア・カスタムではなくエダ・カスタムになるため生まれたカスタムでした。なのでかなり趣味満載のヒーローズ・アイテム仕様になっていたわけです。そして実はこの銃、「黒い天使」で自宅の自室に飾っていることがそろそろ「黒い天使」側で露見するところだったので、公開が間に合ってよかったです。
次回四章最終回!!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




