「殲滅作戦・結」2
「殲滅作戦・結」2
作戦の最後が迫る。
ふとベンジャミンは祐次に尋ねる。
「英雄とやらを信じるのか」と。
その答えは、意外なものだった。
そしてついに爆破!
***
その時、ふとベンジャミンはある事を思った。
この若造の旅の目的だ。
英雄と呼ばれる東洋人を探している。
だが、そんな人間はいるのか?
この男のほうが余程化物で英雄ではないか。
「何故だ」
「は?」
丁度包帯を縛り終え、ベンジャミンは離れた。
「何で英雄とやらを探す? そんな英雄がいるなんて、聞いた事がない。お前はいると信じているのか? それとも、口実か?」
「俺は……どこかに英雄はいる、と信じている」
「俺はもう8年目だが、聞いたことないぜ? 顔も名前も分からないのだろう?」
「ああ、分からん。だが……異星人の<神>が言ったんだ。『英雄を見つけろ』、『彼と会えば人類に希望が見つかる』と」
「東洋人といったな?」
「らしい」
「生存者に東洋人はほとんどいない。異星人に騙されたんじゃないのか?」
「違うと思う」
祐次は自分のバッグから、ペットボトルの水を二本取り出し、一本をベンジャミンに投げた。手を洗わせるためだ。祐次も自分の手を洗う。
「JOLJUも……多分あいつは英雄の存在は知っている。あいつ、『いない』と否定しないんだ。あいつも特別なエイリアンで、ああ見えてIQ3000以上で色々知っている奴だ。もし存在しないなら、あいつは『いない。無駄』と言う筈だ。それに……アンタたちには黙っていたが、このNYには最低二種類の知能と文明を持った異星人が隠れ住んでいる。どうやら連中も、英雄本人は知らないが、心当たりはあるらしい」
「地球人の英雄……か?」
「地球人にとって味方になる英雄、だな」
「それをお前は本気で信じている?」
「信じているというより、信じたい……のかもな」
そういうと祐次は苦笑した。
「今人類は全地球上で約12万人だ。元77億が12万なら、生存率は約0.0014。このままだと地球文明は後5年で消滅する。その時は一つのパン、1ガロンのガソリンを巡って人間同士で殺しあう」
「…………」
「出生率はかなり低い。青年や壮年はALと戦って死ぬ。教育する人間もいない。何より致命的なのは医者がいない。俺が知る限り、日本と欧州、そしてこの北米に来たが、まともな万能の医者は俺くらいだ。ピエールやリチャードは歳だからな。俺はエダに医術を教えていくが、それが実るのは5年後だ。伝染病かALの大襲来、どっちかがやってくれば人類にとって致命的なダメージになる」
今はまだ辛うじて物資が残っていて、探せば出てくる。だが12万人全員が生産者ではなく、ガソリンは有限で、ALの危険があるこの世界では大規模農業は出来ず、輸送も出来ない。自給率は恐らく40%を切る。
これが続けば……状況的に悪化する未来しかないが……やがて自給率はほぼゼロになる。
「……お前……」
祐次の意外な学識に、ベンジャミンは言葉を失う。
まずガソリンがなくなる。ガソリンも永遠にあるわけではない。石油の採れる場所は限られているし、石油からガソリンを精製する施設はほとんど動いていない。今あるガソリンも劣化し、そのうち使えなくなる。今では他国に輸送する事は不可能で油田のない地域は生存圏にならなくなる。そして次に銃弾が尽きる。銃弾が尽きれば、人類はALに抵抗する術を失い、一気に減少するだろう。最後に薬が無くなる。薬を作れるのは科学者で医者ではない。抗生物質を使い切れば、大きな怪我やインフルエンザが致命的になる。祐次は医者として高いスキルを持っているか、あくまで現場の医者で公衆衛生学は専門外だ。ペニシリンの製造方法は知らない。
そうなると千単位の集落は維持できない。百単位がせいぜいだ。百では文明の維持は出来ない。最新の科学技術や知識は失われていき、緩やかに文明は退化していって最終的には中世あたりになってしまうだろう。そして人類は滅ぼされる。
祐次の計算では、後5年だ。実はこの話はJOLJUも同意している。
人類の未来は暗い。
「だから、仮に1%でも希望があるなら、賭けたい。1%なんて馬鹿みたいな確率かもしれないが、それでも0.0014%から考えれば千倍だ。賭ける価値はある」
「それが希望か?」
「俺の未来はいい。医者と決まっている。5年後も変わらず医者だろう。だが……エダは違う。あいつには無限の未来と希望があってほしい。それが、理由かな?」
「お前」
思わぬ話にベンジャミンは沈黙した。
祐次がここまで考えているとは思わなかった。
だが夢物語だとは思えない。祐次が語る未来図は、ベンジャミンも考えた事がある未来図だ。そうならないよう共同体を運営し、できるだけ努力はしてきた。
しかし現実は冷酷だ。恐らく、このままでは祐次の危惧どおりの未来になるだろう。
「これが全部終わったら、協力してやる。偵察隊を中部とフォート・レオナッド・ウッドに派遣しよう。中部には100単位の小さな集落がいくつもあって紹介できる。それで何か分かるかもしれん」
「そうか。助かる」
「色々手伝ってもらったお返しだ。それに……断言できないし確証はないが、気になることを思い出した。一人、面白い男がいる。生きているかどうかは知らんが」
「…………」
……それはもしかしてニ・ソンベのことか……? ベンジャミンも知っているのか。
「無事生きて帰った、その時な」
祐次はそう答えるとタクティカル・ベストとDEのホルスターを身につけた。
二人が飛び出す予定時刻まで後15分だ。
皆の脱出の目処がつけば、最後は祐次とベンの脱出だ。
***
アリシアたち指揮所のチームも、ついに脱出を始めた。
そして12時28分……マークたちが無事地上に上がったとの連絡が入った。
爆破スイッチはアリシアが握っている。
予定では12時35分が爆破時間だ。
ALは徘徊しているが、連中はセントラル駅に向かっている。建物の中を走り、裏通りを移動すれば最小限の戦闘ですむ。
すでにガブスたち北側の防衛班も、セントラルパークまで撤退した。ここにはバリケードも武器庫もあり強固だ。
ALの小さな群れは、セントラルパークまでやってくるのもいたが、その程度ならば殲滅できる。
ついにアリシアたちもセントラルパークに辿り着いた。
マークとグレン、JOLJUもセントラルパークに姿を見せた。
「作戦成功だJO!」
「おつかれ! 最終段階ね!」
これで残るのは祐次とベンジャミンだけだ。
12時33分。
その時だ。アリシアが携帯している無線機が鳴った。
相手は祐次だった。
『今から出る。こっちは南下して強行突破する。俺たちが成功しようがしまいが、爆破は任せた』
「2分後よ!? 今から脱出するの!?」
『バイクで突きっきるだけだ! 爆発はデカいから気をつけろ!!』
無線は切れた。
と同時に、凄まじい銃声が街に木霊した。
これが、今日最後の激戦だ。
銃声は、あっという間に遠ざかっていく。
……これなら大丈夫だ……!
12時35分。
アリシアは全員その場に伏せるよう命じると、用意していた起爆スイッチを押した。
その30秒後……街は巨大な光に包まれた。
そして、蒼白い爆発と、巨大な地震と、強烈な衝撃波がNYを駆け抜けた。
「殲滅作戦・結」2でした。
今回はちょっとリアルなお話でした。
そう、社会が止まり人がこれほど減ると、人類の文明は一気に衰退するんです。
ガソリンは精製されたもので劣化します。工場が動かないと弾丸は作られません。同じく薬も作られません。大人は忙しく子供もデズリーのようにサバイバルに特化していけば勉強しないのでがくりょくが低下します。
祐次がエダと篤志に医学を伝授しているのは、祐次なりに人類の将来を考えてのことなわけです。
ちなみにこの崩壊世界の未来論……祐次の独創ではなく、似た話をいずれ拓もします。つまり拓と祐次たちは以前この話題で討論したことがあるということです。
そしてついに爆破!
作戦の成否は!
ついにクライマックス終盤!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




